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予感

 ボルドが去った後、ヴェルデはオーロの部屋へと案内される。

 基本的には赤と金を基調としているが、花柄のカーテンなどもある可愛らしい部屋だった。

 ぺスカ以外の若い侍女が三人分のお茶を淹れてくれ、席に座ったのはオーロ、ぺスカ、ヴェルデの三名だけである。


「ヴェルデ、左手は平気なの?」


「ええ。何ともありませんよ」


 王女の問いにヴェルデは左手をぶらぶら動かして見せた。

 彼女にとって信じられないことに、彼の左手は本当に無傷である。


「兄上から思いがけない邪魔が入ったせいで順序がくるっってしまったけど、これはこれでありだったかもね」


 オーロはそう言って意味ありげに笑う。

  

「ええ。殿下が私兵を野党となれば、能力の審査がなされたことでしょう。それを一気に飛び越えてしまいましたね。さすがヴェルデ殿です」


「うん、何が?」


 いきなりぺスカに褒められたため、ヴェルデは困惑する。

 彼女はいったい何を言い出したのだろうという心境だった。

 そんな彼に対して彼女はにっこりと笑う。


「私やオーロ様には隠さなくてもいいのよ。傷ついた姫様の名誉を回復しながら、ご自身の能力を示す機会を作ったのでしょう? 一つの石を投げて複数の鳥を落とす手腕、感服するわ」

 

 言われてみてようやくヴェルデは、そのような見方もできることを理解する。

 私兵として認められるために改めて能力を示す必要があるなど彼は知らなかったのだから、そのような考えを思いつけるはずがない。

 ぺスカは彼のことを底知れぬ知恵を持った男だと勘違いしているから、気づかないのである。

 そしてその点では彼女だけでなくオーロも同じだった。


「そうか。そうだったのね。ただ単にわたくしのために怒ったわけではなかったのね」


 王女は怒り出すのではないかとヴェルデは不安に思ったのだが、それは杞憂に終わる。


「策士とは一つの行動でいくつもの成果をあげる者! ヴェルデこそ最強の策士なんだわ!」


 オーロは両手を重ね合わせて左のほほに当て、うっとりとした顔になった。

 彼女の様子を見てヴェルデは危険を感じる。


(手に負えないから放置しようと思ったけど、放置していたらもっと危険になる予感がする) 


 何とか修正しなければならないと思う。


「いや、そこまで予想しなかったですよ。改めて能力を示す必要があるなんて思っていなかったですから」


 彼は正直に打ち明ける。

 幻滅されてしまう危険もあったが、期待が過剰にふくらみすぎるよりもよっぽどいい。


(そしてその方が王女たちのためにもなるはずだ)


 と考えたのだった。


「ヴェルデ……」


 彼の意見を聞いたオーロは真顔になってじっと彼を見つめる。


(分かってくれたか)


 と彼は期待する。


「なるほど。【能ある獣は戦いの時にしか爪や牙は見せない】というものね」


 オーロの反応は彼の予想の斜め上だった。


(どうしてそうなる!?)


 ヴェルデは訳が分からない。

 「何を言っているのか分からない」という言葉は、自分にではなくオーロに向けられるべきだと感じた。


「そういうことでしたか!」


 ぺスカはポンと手を打って声をあげる。

 今までの経験的にヴェルデは嫌な予感しかしなかった。


「ヴェルデ殿は必要な時以外、爪や牙を隠しておきたいのですね! 無理に騒ぐものではなかったわ。ごめんなさい」


 彼女はぺこりと頭を下げて彼に謝罪する。

 

「いや……」


 ヴェルデは何と返せばいいのか、途方に暮れてしまった。

 「分かってくれればいい」と言うのが一番ダメな気がする。

 しかし、ひとまず彼の能力を誇張して賛美する展開をなくせる可能性が高そうでもあった。


「分かってくれたらいいんだ。俺はあまり騒がれたくないんだ」


 仕方なく彼が言うと、オーロとぺスカはこくこくとうなずく。


「これからは慎みましょう」


「そうですね、オーロ様」


 彼女たちだけ言い合い、他の侍女たちに何も言わないのにも気になったのだが、彼としてはさらに気になることがある。


(何だか取り返しのつかないところに踏み込んでしまった予感がする……気のせいだといいんだが)


 と祈るように思った。


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