対決
白いドレスに着替えたオーロとぺスカをともない、一行はリーヴォリに指定された通り練兵場を目指していた。
「貶められたオーロ様の仇をとるため、のようです」
とぺスカはオーロに事情を説明したのである。
「兄上に向かってあなたは誰と言うとは……ヴェルデってば豪胆にもほどがあるわ」
王女は困惑しながらもどことなくうれしそうだった。
ヴェルデが自分をかばって戦ってくれるというのは、主人としては喜びである。
ユーティたちは「そうだったのか」と理解しつつも、やはり恐怖は残っていた。
彼女たちはヴェルデの実力を知らず、彼がひどい目に遭うのではないかと思わざるを得ない。
オーロとぺスカがどうして冷静なのか、少しも理解できなかった。
練兵場に行くと大勢の兵士たちにリヴォーリたちがいる。
「ボルド様」
ユーティが畏敬の念がこもったつぶやきを漏らす。
彼女の視線の先にいるのは、筋骨たくましい大男だった。
銀の髪を短く切りそろえていて、鉄の鎧を着ている三十歳前後と思われる容姿をしている。
「ボルド?」
ヴェルデが聞き返すと、ぺスカが代わりに答えた。
「わが国最大の豪傑よ。まさか彼がいるとはね」
今まで楽観的だった彼女の表情が、険しいものへと変わっている。
彼のことを信じて疑ってこなかったはずの彼女がそのような反応を見せるとは、ボルドという男がそれだけ強いということだろう。
「ほう。この男がそうですかな?」
ボルドは青い目に好奇心の光を輝かせて、ヴェルデのことを見る。
「そうだ。目にものを見せてやってくれ」
「俺はボルド。よろしくな」
リーヴォリと違い、ボルドは快活な笑みを向けてきた。
「ヴェルデだ。よろしく」
ヴェルデがそう応じると、彼は武器を手に取る。
柄頭に鋼鉄製の大きな星球がついたモーニングスターと呼ばれる武器だ。
ボルドがそれを目にも止まらぬ速さで振るう。
「さて。俺の武器はこの通りだ。ちゃんとしたものを選ばないと大けがするぜ?」
彼は木刀しか持っていないヴェルデに対して警告を発したのだ。
「そうよね。何か武器を借りなさい」
さすがのオーロもそのような助言をする。
「別に大丈夫ですよ」
ヴェルデは平然と言い放ち、ボルドを硬直させた。
「おいおい。さすがに舐めすぎじゃないか? それとも何も知らないのか? こいつをぶつけたら、人間の頭を砕くくらい簡単なんだぞ」
さしものボルドも若干の怒気を込めて言う。
「試してみよう」
ヴェルデはそう言って無造作に間合いを詰める。
「後悔するなよ!」
ボルドは叫ぶと同時に右のモーニングスターで攻撃をした。
頭ではなく肩を狙ったのは、まだ自制心が生きていたからだろう。
それでも肩を砕くのは十分すぎる威力だった。
ヴェルデは面倒くさそうに左手でその攻撃を払う。
「……はい?」
「えっ?」
一瞬何が起こったのか、彼以外の人間には分からなかった。
反応が遅れたボルドの喉元に木刀を素早く突き付けて宣言する。
「はい、俺の勝ち」
あまりにも早く、そして誰もが唖然とする結果に終わった。




