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宮殿

 宮殿の庭は白い石畳できれいに舗装されて、等間隔に木々が植えられている。

 中央には噴水もあって涼しげな印象もあった。

 門から宮殿の入り口までが村一つ丸ごと入るのではないかと思えるほど広い。

 肝心の建物は白と金色で統一されていて実に豪華だ。

 ヴェルデにしてみればもう笑うしかないような壮大な世界である。

 

「こっちよ」


 オーロが入ったのは向かって左側の建物というか棟だ。

 庭園に人がいるのは、おそらく管理をするのが役目の人であろう。

 ヴェルデはあまりきょろきょろしないように、強く自分に言い聞かせる必要があった。

 彼らが中に入ると、黒い服を着た女性たちがいっせいに出迎え、オーロに対して頭を下げる。


「オーロ殿下、お帰りなさいませ」


「ご苦労」


 彼女たちに対して王女は偉そうに一言声をかけただけだ。


(呼びに行った人いないはずなのに、どうやって分かったんだろうなあ)


 ヴェルデにしてみれば不思議でしかない。

 

「殿下、こちらの男性は?」


 年かさの侍女が彼を見ながらたずねてくる。


「スカウトしてきたわたくしの兵士です。適当な部屋と衣装を与えなさい」


「かしこまりました」


 侍女は感情を表に出さずに答え、彼に目を向けた。


「貴殿のお名前は?」


「あ、ヴェルデです」


 礼儀のなっていない彼の反応に侍女の眉がぴくりと動く。

 他の侍女たちと違って顔をしかめたりはしなかった。

 

「分かりました。ヴェルデ殿、こちらへどうぞ」


「うん。いいのかな?」

 

 ヴェルデがぺスカにたずねる。

 彼女は彼の耳元に唇を近づけてささやく。


「不安に思うのはもっともだけれど、ここは従ってちょうだい。後で合流してくれたらいいので」


「了解」


 彼は美人の顔が間近になるという現象にドキドキしながら答える。

 年かさの侍女以外にも数人が彼の周りを囲うようにしてついてきた。

 宮殿の天井は高く、赤と金の二種類の豪華な内装がヴェルデの胸に強い印象を与える。

 彼が案内されたのは二階の一室だった。


「今日よりこの部屋をお使いくださいませ」

 

「ああ、あん」


 そう返事をしたものの、「一人だと絶対迷うな」とヴェルデは思った。

 そして彼は侍女たちに手伝われて服を着替えさせられる。

 部屋の中は赤色で統一されているが、カーテンは青、燭台は金が用いられていた。

 とてもではないが一人の兵士が住むような部屋だとは思えない。

 ヴェルデが侍女の手で着せられたのは、白い上等なシャツに青い襟付きの上着、黒色のパンツだった。

 靴も上等な黒い革靴へと履き替えさせてもらう。

 

(高いのかな、やっぱり)


 ヴェルデはぼんやりとそのようなことを考えた。

  

「オーロ様の部屋に行きたいんだけど」


 彼が言うと、年かさの侍女が答える。


「お召替えの時間がございます。しばらくお待ちくださいませ」


 どうやらここで待っていろと彼女は言いたいらしい。

 そのことは理解できたものの、ヴェルデとしては引き下がりたくなかった。

 豪華な一室で知らない顔に囲まれたまま待っているというのは、彼にとって避けたい事態である。


「ドアの前で待っているさ。だから案内してほしい」


 彼にそう言われた侍女たちは、困った顔をしたもののもう止めようとはしなかった。

 

(王女の私兵って、もしかしてこの人たちより立場が上なのかな?)


 とヴェルデは思う。

 実際はどういう扱いをすべきなのか知らされていないため、侍女たちも分からないだけだった。


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