王都
ヴェルデたちは何とか王都へと到着する。
道中、予想された襲撃は一度もなかった。
「きっとヴェルデの道案内がよかったのね」
「ヴェルデ殿が敵の裏をかき続けたのでしょう」
オーロとぺスカはそう言ってヴェルデのことを称える。
「それはないと思いますが」
彼にしてみれば身に覚えがない功績を褒められても困るだけだ。
「ヴェルデは無欲で謙虚ね。賢者とはかくあるものなのかしら」
オーロは感嘆の息を深々と漏らす。
ヴェルデは黙って肩をすくめた。
元来楽天的な彼はそのうち誤解は解けるだろうと考えるようになったのである。
彼の父が知れば「それはただの現実逃避だ」と呆れただろうか。
(そんなことよりもここが王都かあ!)
彼はすっかり王都に目を奪われている。
建物は粗末な木や石ではなく、風雪に耐えられそうなレンガ造りだ。
屋根も強風が吹けば飛びそうなものではなく、立派そうな材質が使われている。
それに人の数がケタ違いで、みんな血行がよく顔が輝いて見えた。
服だって村人のように汚れることを前提としたものではなく、なかなか上等で見栄えがする。
(同じ人間の住む町じゃない気がする……)
ありとあらゆる点で天と地ほども差があるのは一目瞭然で、ヴェルデは盛大にショックを受けていた。
本当に同じ生き物なのか。
同じ街というものなのだろうか。
ここにきて彼は恥ずかしささえ覚える。
人々は彼らをちらりと見たが、興味なさそうにすぐ目を逸らす。
オーロやぺスカは質素な身なりをしているし、彼女たちの顔が分かる者たちはいなかった。
「さあ行きましょう。宮殿の兵士なら私の顔を知っているから」
オーロは小声で言って二人を促す。
これまで先頭を歩いていたのはヴェルデだったが、ここにきてぺスカが前に出る。
王女が先頭に立たないのは、やはりまだ警戒をゆるめていないせいだろう。
宮殿の白い高い門の前まで行ったところで、兵士たちが槍を交差させて道を塞ぎ、誰何する。
「止まれ。何者か」
「無礼者。わたくしの顔を見忘れたか」
オーロが高慢に言うと、兵士たちはとまどいながら彼女の顔を凝視した。
そしてすぐに道を開けて背筋を伸ばして応答する。
「オーロ殿下! 失礼いたしました!」
「さあ行きましょう」
オーロは振り返って微笑む。
(おお、何かカッコイイ!)
ヴェルデは奇妙な感動を覚える。
物語に出てくるようなやりとりだと思えたのだ。
三人が通ろうとしたところで、困惑した兵士が呼び止める。
「お待ちください。そちらの女性はぺスカ殿だと思いますが、男は誰ですか?」
「わたくしが雇った兵士よ。いずれ騎士へ推挙するつもり」
「えええっ?」
兵士たちはオーロの言葉に絶叫した。
騎士とはそのように簡単になれるものではない。
それが彼らにとっての常識である。
彼らの品定めするような視線はヴェルデへと向けられた。
(何で驚くんだろう?)
そのような常識を知らない彼はきょとんとした顔で彼らを見返す。
「こんな間抜けな顔をした奴が」と兵士たちは思ったが、どうにか言葉を飲み込む。
王女が雇った私兵となれば、立場的には宮殿の門番よりも上という扱いになる。
それに下手なことを言って王女が聞きとがめれば「不敬罪」が適用されてしまう。
何も言わないのが賢明な処世術であった。
 




