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道中

 道中、何度も休み、服を着替えてぺスカが食料を調達しながら最初の夜を迎える。

 オーロ一行は無事に次の街に入り、宿をふた部屋とることができた。

 もちろん、ヴェルデとオーロ・ぺスカという組み合わせである。


「足が痛い……」


「部屋でマッサージいたしますね」


 顔をしかめるオーロに向かって、ぺスカはいたわるように声をかけた。


(けっこう根性があるお姫様なんだな)


 とヴェルデは感心する。

 オーロが弱音を吐いたのは今が初めてで、移動中は文句を一つも言わなかった。

 食べ物のおそらく普段のものよりも粗末だったはずだが、やはり王女は何も言わない。

 おかげで何とか宿がある街までたどりつくことができたと言える。

 彼女を見て王侯貴族を見直す気にはならないが、「王侯貴族だって個々の差がある」という認識を抱くきっかけになりそうだった。

 

(明日は早いんだっけ)


 だからさっさと寝ようとヴェルデは思う。

 提案したのはやはりオーロである。

 「自分のせいで遅れがちだから」と言い出したのだ。

 ぺスカは心配そうだったが、反対はしなかった。


(根性ある奴は嫌いじゃない)


 たぶん最後まではもたないだろう。

 それでも頑張れるところまで頑張ってみてもいいと彼は思った。

 彼がそのように思っていたころ、隣室ではぺスカがオーロにある提案をしている。


「ヴェルデに報酬を払ったほうがいいと言うのね」


「はい。考えてみれば命を二回も救われた分、まだ払っておりません。早いほうがよいと存じます」


「そうね。彼ほどの人物なら、いくらでも仕官先はあるのでしょうし。報酬の出し惜しみをしていると思われたら、逃げられちゃうかも」


 オーロは自分たちにとって恐ろしい展開を口にした。

 ヴェルデが明日の飯にも困る身など、彼女たちはまったく信じていない。

 自分たちに負い目を感じさせないための方便だろうと勘違いしている。

 

「ぺスカ、いくら持っているの?」

 

 金銭の管理など王族がやることではない。

 従者にやらせる行為の一つである。

 その分、ぺスカがきちんとやらねばならなかった。


「大銀貨が五十枚。銀貨が五十枚。銅貨を百枚ですね」


「じゃあ大銀貨を五枚ほど払っておきなさい」


「かしこまりました」


 オーロの指示に彼女はうなずく。

 大銀貨五枚でも少ないくらいだが、道中の持ち合わせは多いほうがよいのもたしかだ。

 ヴェルデならば事情は汲んでくれることは心配いらない。

 ある意味では気が楽である。


(問題はオーロ様の体がもつかね……)


 オーロは深層の姫君という性格ではないが、体を鍛える生活と無縁だったのも事実だ。

 徒歩での移動にあと何日耐えられるだろうか。

 

(ヴェルデ殿も当然計算しているだろうけど、一度相談しなければ)


 と彼女は思う。

 できればオーロに知られないようにしてだ。

 王女は根性があるし、自分が足手まといになりたくはないという性格の持ち主である。

 次の日の朝、主人より先に起きたぺスカはヴェルデの部屋を訪ねた。


「起きてるよ」


 ヴェルデは当然のごとく返事をし、彼女が中に入ってみると瞑想をしているところだった。


(こんな時にも鍛錬か……こんな時だからこそ、いつも通りというわけか。頼もしい御仁ね)


 ぺスカは感心する。


「何かあった?」


 ヴェルデは不思議そうな顔をするが、彼女は「思いつくことが多すぎて逆に分からないのかな」と考えた。

 まさか彼が本当に何も分かっていないなど、夢にも思わない。


「報酬よ。当面の分で申し訳ないけれど、大銀貨五枚を受け取ってください」


「大銀貨五枚……」


 ヴェルデは目を丸くして報酬を受け取る。


(大銀貨って、たしか一枚で銀貨五十枚分だったっけ?)


 大銀貨一枚で騎士の報酬の五十倍になる計算だ。

 それが五枚となると破格の金額としか言うしかない。


(俺、一瞬で大金持ちになったんだなあ!)


 彼は腰を抜かさないのが不思議なほどの衝撃を受ける。

 黙っている彼に対して、ぺスカは申し訳なさそうに言う。


「この程度しか払えなくてごめんなさい。今は事態が事態なので、残りの報酬は後払いということでどうかご容赦を」


「いやいやいや」


 ヴェルデは焦る。

 まるで自分が金の亡者であるかのような扱いは、非常に不本意だった。

 

「きちんと払うと約束するので、どうかよい知恵をお借りできないでしょうか?」


「……うん?」


 どう弁明しようかと考えていたところにぺスカに言われて、彼は一瞬硬直する。


「今のままではオーロ様の体に不安があるので。ヴェルデ殿なら、きっとよいアイデアをお持ちになるはず」

 

 ぺスカにすがるような視線を向けられてしまい、彼は困ってしまった。 


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