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人助け

「困った」


 ヴェルデは途方に暮れていた。

 人に道を教わりながら何とか城塞都市ジギベルトまでたどりつく。 

 このジギベルトはギュールズ州の州都であり、地方を治める侯爵領の城がある場所でもある。


「大した都だなあ……故郷の村とは大違いだ」


 彼はポカンと間が抜けた顔をして、往来の人々を見守った。

 粗末な麻服にパンツに木刀という田舎者丸出しの彼のことを、通り過ぎる人々は迷惑そうな視線を向ける。

 鈍感な彼はそれに気づかなかったが、いつまでも突っ立っていられないと思い中を進む。

 そしてしばらくして彼は試練を味わうことになる。

 

「宿に泊まりたい? 金はあるのかね?」


 宿屋を探したところ、所持金では泊められないと断られたのだ。

 何軒あたっても結果は同じである。

 見るからに質素な格好、手入れがされていない茶髪、緑の瞳の少年は大都市の住民からすればみずほらしい異分子だった。


「親父……金が足りないじゃないか」

 

 とヴェルデは不満をこぼしたが、金銭だけの問題でもない。

 父の方は都に行くまでに特に物価が高い都市に行くと想定していなかったのだ。

 息子に金銭感覚や旅の仕方を教えていないことを失念しているあたり、似た者親子だと言える。

 

(まあひと晩くらいなら、寝なくても平気だからいいかな)


 と彼は割り切ることにした。


(ここなら夜行性の肉食獣と戦う心配はいらないんだろうし、ずっと楽だな)


 彼の父は彼を強く育てるためだと言ってかなりの無茶をしたのである。

 早くもその経験が活きることになるとは……と思っていた。

 低所得層向けらしい出店で串焼きを買って腹ごしらえをし、のんびり街を見物して回る。

 日が沈むと一気に人通りがなくなってしまった。

 大きな都市とは言え、真っ暗の中で歩く人はいないらしい。

 このような状況でひと晩中、眠りもせずに街中をうろつくと不審者と間違われるかもしれない。

 という考えはヴェルデの中にもある。

 だから目立たない手ごろな場所を探していたのだが、やはり道が分からなくなってしまった。

 

(しまった)


 懲りない彼もさすがに多少は反省する。

 仕方なく適当に歩いていると、大きな建物にたどり着いた。

 大きな門のところには篝火が焚かれていて、番兵らしき者の気配を感じる。

 どうやら偉いところが住んでいる屋敷でもあるらしい。

 賊と間違われてもつまらないと、ヴェルデは左に曲がって立ち去ろうとする。

 しばらくしたところで物音と争う声、それに若い女性の悲鳴のようなものが聞こえた。


(物取りか?)


 こんな立派な屋敷に押し入るとは何を考えているのだと、ヴェルデは呆れる。

 しかし、女性の悲鳴が聞こえた以上は素知らぬ顔もできないと駆け出す。

 目撃者がいればさぞ仰天したであろう速度で彼が駆けつけると、もがいているような小柄な影を抱えている複数の大きな影、それに馬車とそのそばにいる影があった。


(おそらく人さらいだな)


 たいまつを持った男が小柄な影の顔を明るく照らす。

 赤い髪の息を飲むほど美しい少女が、猿ぐつわをされながらも青い目で男をにらんでいる。


「間違いなくオーロ殿下だな。お手柄だぜ」


 にやけながらそう言った男はふと表情を引き締め、ヴェルデが走る方角に目を向けた。

 次の瞬間、ヴェルデの拳が彼の顎を撃ち抜いていた。

 一撃で男を気絶させた彼は、自分を敵と見なした他の男たちと向き合う。

 驚愕しているらしい二人の少女たちの顔をちらりと見て、


(この二人を助ければいいわけか)


 と判断する。

 ナイフを突き出してきた男の右手を蹴り上げ、拳で顎を撃ち抜く。

 間違って顎を砕いたりはせず、気絶させる程度まで手加減も忘れない。

 次は二人同時にかかってきたため、少し本気を出して彼らのこみかみを正確に撃ち抜く。

 残り二人となったところで少女たちが激しく暴れ、男たちの手から逃れる。


「しまった」


 少女たちに男たちが気を取られたところで、ヴェルデは拳をお見舞いして気絶させた。

 実際に見ていた少女たちでなければ信じられないような圧倒劇である。

 最後にヴェルデは少女たちの猿ぐつわを外してやった。


「大丈夫ですか?」


「危ないところをどうもありがとうございます!」


 赤髪の少女は凛とした美しい声で礼を述べる。

 これだけでも助けてよかったと単純なヴェルデは思ったほどだ。


「誰か! 誰か!」


 もう一人の茶髪の少女が大きな声を張り上げると、ようやく番兵らしき者たちが駆け寄って来る。

 

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