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教え?

 当然のことながら「誰が王女の皿に毒をもったか」と大騒ぎになる。

 嫌疑のかけられた料理人、ついで給仕たちは泣きながら懸命に否定した。

 そうしないと極刑は確実なのだから自然なことである。

 公爵と公爵夫人は半狂乱になっていた。

 彼らの場合は縁起の可能性も否定はできない。

 オーロはその後食事に手を付けず、ぺスカは彼女のそばに控えながら周囲をにらみつけ、ヴェルデは平気で食事を続けていた。

 自分に出されたものに異常はないからと、唖然とする周囲を無視して腹をいっぱいにする。


「な、何を考えているんだ、あの平民?」


「い、いや、王女の暗殺を何度も防いだ男だぞ。馬鹿なふりをして、おそらくすごい目的があるに違いない」


 そういう声すらあがっていた。

 ヴェルデは満腹になったことに満足し、いちいち否定しようとはしなかった。

 「王女の暗殺を何度も防いだ」という実績があれば、もしかしたら有利になるかもしれないと彼なりの打算がある。

 

「何とも豪胆な男だな」


「全くだ。毒殺される可能性があると分かっているのに」


「いや、きっと毒が入っていれば気づけるという自信があるのだろう」

 

 周囲のうわさ話は止まらない。

 

(そんなわけないだろうに)


 とヴェルデは内心思う。

 彼に毒を感知する術などあるわけがない。

 オーロが飲むはずだったスープが変だと気づいたのはたまたまである。

 

(あれっと思ったら毒が入っていましたとか訳が分からんな)


 それが彼の正直なところだ。

 いったいどうしてこのような展開になったのかさっぱり分からない。

 今の彼が思っているのは「食べても怒られないなら、今のうちにメシを食べてしまおう」ということだけだ。


(こんな美味いメシ、食べたことがない。貴族っていいもの食べているんだなー)


 彼は内心感動していて、いつもよりも食べる速度が上がっている。

 そのせいで周囲は「命知らず」「無謀に近い勇気」と思われる結果が生まれていた。

 腹がいっぱいになったところで彼はオーロに話しかける。


「どうです、オーロ様も食べませんか?」


 全ての食べ物に毒が入っているわけではないのだから、と彼は考えたのだった。


「うん?」


 言われた王女は一瞬きょとんとする。

 そして次の瞬間合点がいったと笑う。


「そう。わたくしに負けるな、戦えと励ますためにあれだけ勢いよく食べていたの」


「何と!」


 オーロの言葉にぺスカが目をみはる。


「ヴェルデ殿は強くて頭が切れるだけではなく、義侠心にあふれた御仁なのですね。私も教えられた気がいたします」


「わたくしもよ」


 少女たちはいい笑顔で微笑みをかわす。


「いや、いったい何を言っているのですか」


 ヴェルデはたまりかねて抗議する。

 これ以上勘違いをこじらせられたくないと、さすがに思ったのだ。

 そんな彼に対してオーロは優しく笑いかける。


「大丈夫よ。最後まで言わなくても」


 そう言われた彼はホッとした。


(ようやく分かってくれたのか)


 これで過剰評価も終わりだと安心したのは、ほんの短い時間だった。


「無言の教えをいちいち言葉にするのは、無粋なのよね?」


 「違う、そうじゃない」とヴェルデは悶絶したくなる。

  

「なるほど。言葉にしてはいけないこともあるということなのですね。勉強になります」


 ぺスカは笑顔で感心した。


(だから違うよ!?)


 ヴェルデは絶叫しそうになったが、とっさに口が動かなかった。

 さらに勘違いを重ねてしまったらどうしようという不安がかすめたせいである。

 これ以上ひどくなるともう自分の手には負えない。

 そう思うと何も言わないほうが正しい気がする。


(いや、すでに手に負えていないんじゃないのか……?)


 彼はふと考えた。

 彼は金がないと言ったし、ここらには迷ってやってきたと説明したはずだ。

 それなのにも関わらずこのような誤解をされてしまっている。

 何が何だか分からないというのが正直なところだ。

 とりあえず何も思いつかなかったことにする。


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