条件
2回目の更新です
「朝食っていつから食べられるんです? 楽しみだなあ」
とヴェルデは腹を抑えながらたずねる。
昨日の夜は何も食べていないため、非常に空腹だった。
オーロとぺスカは困惑して互いの顔を見合わせる。
このタイミングでそのようなことを突然言い出した彼の真意を測りかねたのだ。
だが、彼のことを賢者だと誤解している少女たちは、あえて尋ねようとはしない。
「きっと自分たちには想像もつかない理由がある」
と確信したのだ。
「もうすぐだと思うわよ」
だからオーロが彼の問いにきちんと答える。
「食事の時間はだいたい決まっているから」
彼女はそう言ってぺスカに目で合図した。
ぺスカはこくりとうなずき銀色の小さな懐中時計をとり出す。
「現在は六時五十分。朝食は七時に呼ばれることが多いわ」
「へえ」
ヴェルデは生まれて初めて見る時計に意識を奪われる。
時計とは富と権力の象徴であり、所持するのは支配階級の特権のようなものだ。
もっとも、王族にとっては「従者に持たせるモノ」にすぎないのだが。
「まだ時間はあるわね。今のうちに条件の提示と簡単な説明をしておきましょう」
オーロはこの時、ようやくヴェルデに対して詳しい条件を提示していなかったことを思い出したのだ。
「騎士の報酬は毎日銀貨五枚よ」
「毎日……」
ヴェルデは目を丸くする。
(故郷じゃ二十日くらい働いてようやくそれくらいだったのに……)
騎士の給金は田舎の農民の二十倍くらいというわけか。
父の情報は本当だったのだ。
「あなたの実力からすれば安いけど、いきなり高禄は出せないのよ」
オーロは何を勘違いしたのか、とても申し訳なさそうに言う。
「それにヴェルデ殿が騎士となるには、国王陛下の承認が必要だわ。もしも認められなかったら、オーロ様の私兵という扱いになってしまうの」
ぺスカが遠慮がちに指摘する。
「……私兵と騎士じゃどう違うの?」
ヴェルデは不思議そうにたずねた。
彼女の口ぶりからすれば騎士と兵士には格差があるようだったが、彼にはそれが分からない。
「騎士になるためには叙任式に出なければなりませんし、騎士に叙任されれば一代貴族になります」
「え? 貴族に?」
それほど簡単に貴族になれるのかとヴェルデは衝撃を受ける。
そして一代かぎりとは言え、貴族をあっさり誕生させられる王女の権力すごいとも思う。
「ええ。一方で私兵はただの兵士よ。何の身分も権限もないの」
とぺスカが説明する。
「私兵はわたくしの一存で雇えるけど、騎士は父上の承認が必要なの。承認してもらえるといいのだけど」
オーロは不安そうに表情をくもらせた。
国内で味方がぺスカだけという立場では、無理もないことだとヴェルデは思う。
「まあ兵士でもいいですが」
大切なのは給金がもらえることだ。
彼はそう割り切る。
(ヴェルデ、わたくしに気を遣ってくれているのね)
とオーロは勘違いした。
何と優しい男なのだろうと感動する。




