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強い意思

翌朝、ヴェルデは他の二人よりも先に目覚める。

 特に異変はなかったようだ。

 二人分の寝息が聞こえてきて、彼は困ってしまう。


(寝顔を見たら女の子は怒るんだっけ?)


 近所のおばさんがそう言っていたと記憶している。

 緊急事態であれば言い訳もできるが、今のところそんな心配は必要なさそうだ。

 だったら下手に近づくのは止めておいた方がいいだろう。


(給金を減らされるの怖いからな)


 とヴェルデは想像しただけで恐ろしくなる。

 この時彼は、具体的な条件は何一つ提示されていないことに気づいていなかった。

 さてどうしようと思ったところで彼はヒマだから瞑想でもしようと思う。


(いい時間つぶしになるしな)


 瞑想中でも敵が接近すれば気づけるのだから問題はない。

 やがてぺスカがそっと起き出す。

 音を立てないのは見事だったが、ヴェルデは見なくても分かってしまう。

 彼女は彼が起き出して瞑想していることに気づき、一瞬息を飲む。

 声をかけて来ないのはオーロがまだ寝ているからだろう。

 彼女は彼の存在に安堵せず、自分でも周囲を警戒しているようだった。

 

(忠臣ってやつか……)


 正直ヴェルデには理解できない感覚である。

 だが、自分のためにではなく他人のために一生懸命になっているさまは素晴らしい。

 まねするつもりはないが、手助けできる範囲で手助けできればいいなと思う。  

 

「んん……」


 ほどなくしてオーロも目覚めた。

 

「おはよう、二人とも」


「おはようございます」


 あいさつを終えたところで、ぺスカはヴェルデに声をかける。


「ヴェルデ殿。すまないけど、これから着替えがあるから……」


「ああ。じゃあ外に出て待っていればいいかな」


 彼は気が利かなくてすまないと詫びて立ち上がった。

 それをオーロが制止する。


「別にかまわないわよ。こっちさえ見なければ」


「オーロ様。よろしいのですか?」


「彼と離れた時こそ、危険だと考えれば同じ部屋で着替えるくらい何でもないじゃない」

 

 年ごろの乙女としてはずいぶんと豪胆なことを彼女は言った。


「分かりました」


 ぺスカは反対しない。

 ヴェルデが近くにいる方が安全なのは確実だからだ。

 衣ずれの音が聞こえ、ヴェルデはドキドキさせられる。

 年ごろの乙女がすぐ近くで着替えているというのは、純朴な若者にとってなかなか背徳的だった。

 彼だって欲望くらいはあるが、彼女たちの信頼を裏切ってはいけないという強い意思でねじ伏せる。

 


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