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就寝

本日三回目の更新です

「ヴェルデは悪いけど、わたくしから離れて床で寝てくれる?」


 オーロは申し訳なさそうに言ったが、ヴェルデは当然だとうなずく。

 

(護衛なのにな)


 とちょっと思ったものの、嫁入り前の少女なのだから男にくっつかれるのはまずいのかもしれないと配慮する。

 ぺスカが彼のために用意した寝床はドアの入り口のすぐ近くだった。

 屋敷内にいる者たちを彼女が信頼していないことがはっきりと分かってしまう。

 彼の表情に気づいた彼女は、好戦的な笑みを浮かべて言った。


「外からじゃ見えないからいいのよ」


「それもそうか、そうですか」


 ヴェルデはあっさり納得する。

 言い直した彼に対してぺスカはクスッと笑った。


「別に無理に敬語を使わなくてもいいわよ。あなたはオーロ様の騎士になる予定なのだし。これからは同僚じゃない?」


「あ、まだ予定なのか」


 彼は目を丸くする。

 王女が騎士をすると言ったのだから、てっきり騎士になれたのだと思っていたのだった。

 

「当然でしょ? 騎士になるんだったら叙任式も必要になるのよ」


「そうなんだ……」


 ぺスカに言われて、ものすごく面倒くさそうだなとヴェルデは直感する。

 しかし、給金のためには我慢しなければならない。


(騎士の給金は兵士よりもいいらしいからな)


 そのためならばある程度のことに耐えようと自分に言い聞かせる。

 

「叙任式、やれたらいいけどね」


 オーロの表情は不安そうだった。

 ぺスカがそっと側によって彼女の手を握る。


「俺がいるから大丈夫ですよ」


 彼女が何か言うより先にヴェルデが声をかけた。


(これもまた護衛の務め。給金をもらうためには仕事を頑張らないとな)


 と彼は内心自画自賛する。


「え、うん」


 オーロは照れた顔で返事をした。

 

「情けない話だけど、頼りにしているわよ、ヴェルデ殿」


 ぺスカもそう言ってくる。


(きれいな女の子たちに頼りにされるって、いい気分だな)


 とヴェルデは思いながら横になる。

 下心とはちょっと方向性が違う感覚だ。

 ここで鼻の下を伸ばすときっと幻滅されるから、カッコいいところを見せたい。


(そうすれば給金がよくなるかもしれないからな!)


 給金があがれば美味いものを食べられるかもしれないし、ちょっといい剣を買えるかもしれなかった。

 期待に胸が躍るし、夢がふくらむというものである。


(……あんまり期待しすぎるのはやめておこうかな)


 突然彼は冷静になった。

 

(悪い場合も考えておけ。そうじゃないとダメージが大きすぎるって親父も言ってたもんな)


 父の教えを思い出したからである。 

 冷静になったところで最初に思ったのは「この寝床、寝心地いいな」だった。

 石同然の寝床、あるいは土や草花の上をよく知る彼にしてみれば、驚くほど素晴らしい。

 臨時で彼のために用意されたものだから、おそらくそこまでいいものではないはずだ。


(やっぱり王族っていい暮らしをしているのか。いや、この場合は貴族なのか?)


 ここは貴族の屋敷である。

 当然貴族の持ち物なのだろう。

 ヴェルデは感心しながら眠りにつく。

 敵意ある存在が接近すれば自動的に目が覚めると自信があったからだ。

 そうでなければ狼の群れに襲撃されて生き延びるなどできはしない。


「……もう寝たみたいね」


「豪胆ですね。知勇兼備の英傑は、私ごときとは格が違うようです」


 オーロとぺスカの二人は彼の寝つきのよさ、緊張感のなさに感心する。

 そして同時に心強く思えた。


「彼がいればどんな窮地だって乗り越えられるかもしれない。そんな気さえしてくるわ」


「私もです。オーロ様」


 二人は改めて天におわす神に感謝の祈りを捧げ、それから眠りについた。


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