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謎は解けた

「さて、今夜だけど……もう何もないと思う?」


 オーロが声を低めて二人の従者に問いかける。


「何もないと思います。さらった者が第一陣、部屋に忍び込んでいた者が第二陣。さすがにもう敵の手駒は残っていないかと存じます」


 ペスカは常識的な回答をした。


「そうかしら?」


「はい。第二の者は手練れでしたが、最初に第一陣はわたくしがおそばに控えてさえいれば撃退できた程度の者たちです」


 彼女の話を聞いているうちに、ヴェルデは分からなくなる。


「えっと、二人同時にさらわれたわけではないのかな?」


 彼が質問すると、ペスカは悔しそうに唇をかむ。


「ええ。今日は別の侍女が同部屋で眠る番だったから。異変を察知して駆けつけたまではよかったけど……」


 語尾を濁したのはおそらくオーロにナイフを突きつけられ、身動きが取れなくなってしまったのだろう。

 たぶんヴェルデだって同じ立場ならば同じことをする。

 さらうくらいだから殺すはずはないのだろうが、多少痛めつけるくらいならばやってもよい。

 忠誠心の塊らしいペスカにとっては絶大な効果を発揮しただろう。


「しかし、オーロ様? 敵に対して心当たりは?」


 ヴェルデは質問せざるを得ない。

 せめて誰が黒幕なのかは知っておきたいところだった。

 敵の戦力が分かるならばもっとよいのだが、それは高望みだろう。


「ありすぎるわね」


 オーロはため息をつく。

 ペスカが続いて口を開いた。


「ヴェルデ殿には説明した方がいいでしょうね」


 彼女はそう言って彼をじっと見つめる。


「オーロ様は兄君と弟君がいらっしゃいます。そして全員が王位継承権を持っていらっしゃいます。つまり、オーロ様に何かあれば競争相手が減るということなのよ」


「……何ともまあ」


 吟遊詩人が唄う物語とやらではありふれている話だ。

 ヴェルデも二、三回聞いた覚えがある。

 辺境の田舎育ちではそれくらいが限度だった。

 

「わたくしは一応公爵家と婚約しているのだけど、その家と対立派閥にしてみれば面白くないでしょうね。わたくしが嫁げば当然その家の力が強化されるから」


 オーロは肩をすくめながらさらにとんでもない情報を明かす。


「公爵って確か、貴族の中でも一番上ですよね?」


 ヴェルデは父から昔少し聞いた覚えがある話を必死に思い出そうとする。


「ええ。王家の親せきで、親せき同士の婚姻ということになるかしら」


 オーロの答えに対して、彼はわいた疑問を返す。


「そんな家と対立できるってことは、相当な家なんじゃ?」


「ええ、そうよ」


 きっぱりと言い切られても彼は少しもうれしくない。


「婚約者の家に守ってもらえばいいのでは?」


 彼としては必死に知恵を絞って、どうにか名案らしきものをひねり出す。


「それがこの家なのよね」


 肩をすくめて放たれたオーロの返答に、彼はめまいを起こしそうになる。

 

「本気でオーロ様を守る気があるとは思えないのですが……」


「だからペスカが言ったでしょう? 信頼できそうなのはあなたくらいって」


 という王女の言葉はとどめだった。


(あれってそういう意味だったのか!)


 謎は解けたとヴェルデは思う。

 ペスカが言ったのは「この家の中では」という意味ではない。

 「この国の中では」という意味だったのだ。


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