助言?
本日3回目の更新
(失敗したかな)
とヴェルデは思う。
王女に雇われれば給金をしっかりもらえると考えたのだ。
ところが、周囲が敵だらけとなると、危険が増大してしまう。
(それはまあいいとして、問題は殺されてしまったら給金が出なくなるんじゃないか? それどころか責任を取らされるんじゃないか?)
彼の中で不安がこみあげてくる。
雇い主が死んでしまったら給金が出なくなるのは仕方ないものの、お前のせいだと言われるのはたまらない。
「どうしたの? 怖気づいたの?」
ぺスカが不思議そうな顔をする。
彼女から見れば、この程度のことで動じるような軟弱な男ではないはずだったからだ。
「いや、オーロ様に何かあったらどうしようかと思って」
「……意外と責任感があるのね? 頼もしいわ」
彼の言葉をオーロが勘違いする。
「ご慧眼、恐れ入りました」
ぺスカに至っては感動すらしていた。
気まぐれで拾われたはずの庶民が達人並みの豪傑で、しかも知恵も持っていて、おまけに責任感あふれるとなると、ほとんど奇跡だろう。
(ううん?)
ヴェルデは何か変だなと思ったものの、口は動かさなかった。
下手なことを言わない方がいい気がしたからである。
「天におわす神々のご加護ね。わが誕生神のアプリーレ様かしら。それとも武芸の神コラッジョ様かしら?」
「あるいはその二柱同時かもしれません。それほどの幸運だと存じます」
オーロの問いにぺスカが熱を込めて答えた。
どうやら二人の少女は恐ろしく期待しているらしい。
ヴェルデはそう感じ取り、気まずく思った。
(俺ってそんな大した奴じゃないのにな……)
早めに訂正しておいた方がいいのではないかと迷う。
しかし、今の彼には余裕がない。
どうせ給金をもらえるならば、多い方がありがたかった。
それに別に彼が意図して彼女たちを騙したわけではない。
彼女たちが勘違いしただけである。
指摘しないのは果たして罪になるのだろうか。
(相手が善良な村人だったら、頑張って誤解をとくところなんだけど……)
相手は金持ちの王女様である。
臣民が汗水たらして稼ぐ一か月分の給金は、彼女にとっては小遣いの一日分にすぎないか、それ以下に違いない。
そう思えば何もそこまで律儀にならなくてもいいのではないか、という気がしてくる。
(ただまあ責任を重くされても嫌だし、一応は言っておくか)
と彼は思い発言した。
「あまり期待しないでくださいね。俺だって失敗くらいします」
当たり障りのない言い方を選んだつもりである。
これが有効だったらいいなと淡い期待がこもっていた。
「そうね。どんな豪傑が味方になったからと言って、油断してはいけないわよね」
「御意。太陽が天高く登った時こそ、試練はやってくると申します。さすがヴェルデ殿ですね。私たちの心の隙を正確に見抜いていたようです」
オーロとぺスカはハッとし、感銘を受けたようにうんうんとうなずく。
二人の少女の間にはヴェルデに対する敬意すらうかがえた。
(……あれっ?)
何をどう解釈したら、そのような答えにたどり着くのだろうか。
彼は本気で頭を抱えたくなった。
「そこまで深い意味があったわけでは……」
「ええ。分かっているわ」
オーロはにっこり笑い、彼の言葉をさえぎる。
(おっ、分かってくれたか)
ヴェルデは単純に期待した。
「あなたはちょっと助言しただけなのよね。わたくしたちだけの胸に収めておくから」
「いや、違います」
何を言っているのだ、この子はと彼は戦慄する。
「ここにはペスカしかいないから、大丈夫よ?」
「ええ。私の口の堅さは信用してちょうだい」
ペスカは胸を張って笑顔を作ったが、ヴェルデは少しも安心できない。
(どうしてそんな解釈が生まれるんだ? 誰か教えてくれ)
彼は叫びたくなるのを必死にこらえるはめになった。




