プロローグ
ある時、荒野に一人の人間の赤ん坊が捨てられていた。
物心着いたときからそこは戦場で、常に何かしらと戦っていた。人だった時もあればそうじゃない時もあった。
腹が減ったら自分が殺した人間の持っていた飯を食ったこともある。
そうすれば生き残れないから。
その少年はいきることに必死だった。
自分が生きていれば、他のことはどうでも良かった。
同じ人間からは化け物とまるで魔物の如く呼ばれ、魔族からは人間の分際で!と彼を見下すようなそんな存在だった。何度も何度も何度も、彼を倒すために人間と魔族から攻撃を喰らった。
それでも、彼は強かったので、そのすべてを返り討ちにした。
そこは何処かの戦場。彼の色は返り血で至るところが赤かった。
何時ものように、少年は死体の山から、使えそうな物を奪っていく。
誰から奪わなければ、生き残れない。そんな環境で彼はずっと生きてきた。
夜は一睡も出来ないことなんて日常茶飯事だった。
それでもこうして生きてこられたのは、実力や才能、生きることへの執着、その他諸々の原因がある。
それでも、生き残った彼は運が良かった。
そんな彼は名前がない。だが、後に彼と出会った人間達は少年のことをこう語る。
『最強』と。
◇ ◇ ◇
ノワール王国の王城の内部の広間に、騎士達が集まっていた。
大規模作戦の会議及び、目標の確認だ。
ここの騎士団は何時も城内で会議をし、結論を国王に報告することを義務にしている。
今回の任務は大規模な作戦になる。だから、相当に手強い魔物だろうと誰もがそう予想した。
魔王がいるが、この規模で行うのには小さすぎる。しかも、ユ勇者がまだ見つかっていない。
そんな状況で魔王は、まだ倒せない。
ならば巨大な魔物しかあるまい。
さて、今回の作戦を発表するため騎士団長が団員達の前に出る。
「みな、今回の作戦を発表する!」
凄く大柄で、腰に二つの剣を添え、背中には大剣がしまわれている。
そして、その声と共に団員達の顔が引き締まる。
これからどんなことを言われるのだろうか?一体どんな奴と戦えるのか?期待が高鳴る。
「今回の作戦は『死神』の討伐だ!」
その瞬間全員の表情に怒りや悲しみ。そして、やっとかと待ちわびたようなまるでそんな雰囲気を感じさせた。
「これまでにも、我々はかの者と戦ったが結果は全て惨敗。多くの仲間を失った。おそらくこの中にも身内を失ったものもいるだろう。しかし、遂にやつを完全に葬ることができる機会を与えてくださった!これは、王命であり、散っていった同胞達の敵討ちだ!我々は今こそ彼らの無念を晴らすと、皆に約束しよう!」
その言葉を最後に一礼した後、しばらく歓声が止まなかった。
『死神』。それは彼等にとって正体不明の存在だ。
ただ、出会えば必ず死ぬことから『死神』と言う名をついた。
実際、魔族との戦の時も『死神』に殺された同胞はかなり多い。
どれだけ待ちわびたことなのか。自分達の手でようやく念願の機会が来たのだ。その喜びは騎士団の団結力を高めるのには十分だった。
演説が終わり、作戦の決行が、明日だと言うことを告げ団長はその広間から廊下へ移動する。
「やっとか。」
誰もいない通路にてそう言葉が出ていた。
思い出すのは、あの日。団長は死神と呼ばれるモンスターと遭遇した。
若かった団長は当時の仲間と共に死神に挑んだ。
結果は返り討ちに合って、仲間はこの団長を逃すため現団長を残した全員が犠牲になった。
「やっと、お前らの元に行けるよ。」
これは、彼の覚悟の証しでもあった。死神と遭遇した場合、必ず大勢の人間が死ぬ。
だから、己のみを犠牲にしてでも、突破口を作る。そう決めていたのだ。
世代は交代するものだ。故にさっき集まった者達の中には今回の若い人間はいない。
教えるべきことを教えてきた。もう、心配はいらない。
そして、作戦当日。
それぞれの家族や友人に別れの言葉を送った。
最悪、いや確実に誰もが帰らない戦いだ。そんな戦いをしに行くのだ。
作戦は立てた。対策も立てた。後は討伐するだけ。
城壁を出て、町を出て、今いるであろうその場所にたどり着く。
「団長!この森のなかです。」
「そうか。」
前もった情報で『死神』の居場所を突き止めた騎士団の者達。
森にはいる前に団長は止まる。そして振り返り、言葉を放つ。
「この森に入れば、奴が出てくるだろう。作戦は昨日説明したな?それでは皆の健闘を祈る!行くぞぉぉ!!」
「「おおおおおおおお!!」」
森に入り、警戒をしつつ前に進む。
陣形を保ちつつ、奥へとさらにその奥へと足を踏み入れていく。
「?!」
見つけた。やっぱりこの森に潜んでいた。
あの角、あの巨体。紛れもない昔見た死神そのもの。
手でサインをだし、それぞれの配置につかせる。
配置を確認し、完了のサインが届く。
それを視て団長が頷くと、声をあげた。
「作戦!開始!!」
その声で『死神』は、人間達の方向を向く。
先に先導するのは団長だ。団長はあらかじめ団員達にこう言っていた『俺が死んでも計画は続行だ』と。
そして、その団長の大きい剣を降った攻撃が届く。
まず、一撃。それも奥義の一撃。完全にモンスターに油断をさせるために色々な細工をして放った一撃を『死神』はもろに食らう。
その後に、奴が待ち受けるのは、魔法攻撃。
団長のサインはなく、あらかじめ計画していた時間通りに放つ。
(よし、第二回攻撃が決まる)
魔法による攻撃で、辺りには何もない平野が出来ていた。
作戦は窮めて簡単なもの。
最初に奴の核となる物を破壊して、怯んだところで攻撃を放つ。『死神』の長きにわたる研究の末に核の存在を突き止めた。
ならそこを仕留めれば、後は持久戦だ。
昔なら出会っただけで、再生する、一撃をもらったら死ぬ相手、だったが、奴が残した痕跡からその生体の研究をずっとしてきた。
「よし!このまま行けぇぇえ!」
最後まで油断はできない。なので、常に一番離れた位置から彼らに防御魔法を掛ける団員達がいる。
だから、ある程度の攻撃は、受け付けない。
そして、攻撃の末に遂に死神と呼ばれる魔物は倒れた。
だが、それでも、攻撃の手を休めることはしない。
むしろ、
「みんな!ここからが本番だ!気合い入れていけ!」
『死神』は、その体の形態を変えた。
後ろにあるのは大きな黒い翼。その周りには毒を含んだ気体がそこらにある。
「みんな、出来るだけ息を吸うな!吸ってしまったものは、後退しろ!。この毒の浄化魔法を放つまであと少し。持ちこたえろ。その後はさっきと同じ手順で行く!」
団長の命令を危 聞い騎士団の面々はそれぞれの動きをする。
しかし、
「な?!」
『死神』は地面から多くの角?を生やし、騎士団の人間の体を貫いた。
遠くない位置にいた仲間の体が切り裂かれたり、貫かれる。それでも団長は気にせず死神に向かっていった。
「っと、危ない。同じ手は二度は聞かないんだよ!」
今ので何名か被害が出たが、それでも、立ち止まる暇はなく団長は『死神』に向かい、攻撃を行う。
「今だ!浄化魔法!」
『死神』が、下の魔方陣から白い光が現れ『死神』の体を包む。先ほど出た毒は消えた。それどころか『死神』の体は少し小さくなっていた。
「よし、全隊員、攻撃をしかけろ!」
その言葉に今まで待機していた別の行動をしていた隊が一斉に攻撃をしかる。
これで、終わりだ!魔力を最大まで溜めて奥義の一撃を食らわせる。
「これで最期だぁぁぁ!死神ィィィィィ!」
全てを溜めた一撃は『死神』に命中し、『死神』は絶命した。
思わず手を上に掲げてしまう。
「我々の勝利だぁぁぁ!」
「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」
こうして、王国騎士団の『死神』の討伐は終わった。
誰の提案だったのか、まず休みたいと言う声が聞こえる。
「しばらく、休んでいこう。警戒を怠るなよ!」
それに頷き、休憩と見張りをしながらその森の中で留まっていた。
しけし、絶望は、再びやって来る。
「なっ!前方にドラゴン発見!至急、退避すべ―――え?」
その瞬間、ドラゴンは消えた。地面に落ちたのだ。危機を回避した。だが疑問が残る。何故?誰が?どうやって?
その場に現れたドラゴンは確かに、いきなり地面に落ちたのだ。
その確認のために、ドラゴンが落ちたの方向へと向かう。
そこで騎士団の面々は信じられないものを見た。
ドラゴンの体に剣を突き刺し、その横で座っている少年。発見してから直ぐに落ちたドラゴンが死んでいた。
そして、それを行ったと思われるその少年は何故か頭を抱え、叫んでいた。
「失敗したぁぁぁぁぁ!」と
その言葉にさらに驚く表情を隠しきれない騎士団の人間達。当然だ。何故ならばドラゴンを一人で倒した。これがまず異常だ。
そもそも、この世界においてドラゴンとは、どんなに最弱な個体でも、人間の国ひとつ滅ぼせる存在だ。そんな化け物みたいな存在を前に一瞬でそれを葬りさる実力。それだけではない。これを殺ったのがまだ、幼い少年だと言う事実。しかも、傷の具合を見るに一撃。これに驚かない者など規律を重んじ、常識の中で生きていた騎士団のなかにはいるはずもない。
様々な人間が固まっている中で、一人動く人間がいた。騎士団長だ。
「き、君は一体何者なんだ?」
この地で発見した少年に声をかけた団長に反応して、少年がこちらを向いた。
少年はキョトンとした顔になり、その後、口を開けた。
「おじさん達、誰?」
えーーー!と此処にいた誰もが心のなかで呟いた。
それでも、少年に話しかける騎士団の団長。流石に団長なだけあってこう言うのには慣れていた。
「そうだな、おじさん達は国を守る騎士なんだよ。こう見えても私は団長でな、今、ちょっと任務の帰りでな、ドラゴンを見かけたんだ。そしたら、何やら急に落ちていくものだからね。気になってドラゴンの方向へと向かってきたら君にあったわけだ。」
「ふーん、そうなんだ。」
あからさまに興味がないかのような返事が帰ってきた。しかし、団長はあることを考えていた。
(この少年、これだけの強さだ。もしかしたら、我が国を守るために必要になるかもしれない。なにより、最近の若い連中のいい刺激にもなるだろう。仲間も数多く失った。失った分をこの子で満たすわけではないが、それでも、国のためにはこの少年の強さが必要だ)
何故そう感じたのか、団長自信にもわからなかった。だけど、それが、正解のような気がした。だから、結論を急いだ。
「なぁ、君。王国騎士団に入らないか?」
その後に起きたのは沈黙。何言ってんだ?コイツ?見たいな雰囲気を漂わせる。
それは少年も同じで、目の前のゴツイおっさんが何をいっているのか理解できない。
それでも、少年は言い返す。
「だが、断る!」
この返しについて周りはさらに驚くことになる。
だが、この返答は団長の予想どうり。だからこの少年が食いつく餌を与える。のだが、いまいちこの少年が何を欲しているのか解らないらしいな。
あれ?詰んでね?
「なら、せめて一緒に着いてきてはくれないか?我々はさっき『死神』との交戦であまり動ける人間が少ないのだ。だから、この通り、頼む!」
頭を下げる。本来騎士団の団長が頭を下げるのはあまりよろしくはない。だが、この少年を引き込まなければ危険度が増すのは事実。
他の団員はそれをわかっていたのでつき次と頭を下げる。中には膝をつき土下座をしているものまでいた。
ここまでされれば、流石に少年も受けないわけにはいかない。
少年はこう見えて、常識がある。だから、この光景がどう言うものなのか、それも理解していた。
だから、少年は条件を提示した。
「わかったよ。ただし、条件がある。」
下げていた頭を上げ「本当か?」と言葉を続けた。少年が提示した条件は。
「一生働かないで生きていけるような環境がほしい」
「は?」
いま、この少年は何て言った?全員が耳を疑った。頭に?マークがついている。
だが、その少年の態度を見るのにそれが聞き間違いではないことを理解した。
だけど、この少年が着いてくるなら、それでいい。そして、一か八かの嘘を吹き込むことにした。
「ああ、確かにそんな環境は用意できる。だが、それには学園に通ってもらう必要があるがな!」
やめて、そんな目で見ないで。ほら、少年が…
「え?そんなんでいいの?」
疑うことは無かった。心のなかでガッツポーズをした。
だけど、それも束の間。少年は口笛を鳴らし、空を見る。
そこに現れたのは....
「なっ!」
またもやドラゴンだった。だが、ただのドラゴンではない。青い、クリスタルのような透き通った色をした、巨大な、それはそれはとても巨大なドラゴンだった。
唖然とするほかない団員達。
「よしよし、ゼノア。この人達を乗っけていくからな」
なにより、少年がこのドラゴンを手懐けていた。
それにも屈せず、団長が声を掛ける。
「そう言えば、自己紹介がまだっであったな。私はノワール王国騎士団の団長。ドランだ。」
握手の手を差し出し、ドランがそうなのると、その手を握り少年の方も答えた。
「僕は、名前はない。だから、これといって、特に呼びないはないよ」
なん、だ、と。この少年、まさか、この辺境でただ一人で生きていたと言うのか?
ふと、思い出したなは自分達の家計。団長には妻がいた。だが、その二人の間に子供はいない。
だが、養子を貰うにしても、基準となる強さを持ってない子が多かった。一夫多妻が、許されているが、現在の妻以外を愛することは出来ない。
だからか、この少年を自分の息子にしようとその時、そう思ったのだ。
「なぁ、少年。私に、君の親になることを許してくれないか?」
「親ねぇ、ま、いいか。家族ごっこに付き合うくらい問題ない。で、俺の親になるからには名前をつけてくれるのだろう?」
その少年の笑顔を見たとき、わかった。この少年は、こんなに環境にいながら、"優しい"のだ。
「ああ、ありがとう。ありがとう。本当に、ありがとう。」
この少年は、きっと、気がついたのだろう。人を見ただけで、その人柄を理解できる能力が人並みではない。
最初は利用しようと、少年を連れ帰ろうとした。だが、この少年はそれに気がついていたのだ。
だから、全く違う方向に話を持っていった。
「そうだな、君の名前は、うーん、なにがいいかなあ?」
「まぁ、決まったらでいいさ。それに俺は働かないで生きていければそれでいいからな」
そのやり取りは、まるで親子のように周りには見えた。
ドラゴンに荷物を運ぶよう、少年が指示をし、騎士団の面々はドラゴンに乗って帰った。
途中で、仲間の死体も回収しておく。遺族の片に返さねばならないからな。
今回、犠牲になったのは、全部で13名。長い付き合いの者が亡くなるのはやはり、寂しい。
「あ!名前思いついた!」
「ん?どんなの?」
「ナイン!」
「却下!」
ドラゴンに乗りながら、流石にコイツは目立つので、王都の手前で、降ろしてもらい、少年は王都にたどり着いたのだった。