1章5話 哀鬼の終焉(後編)
続けて投稿します。よろしくお願いします。
《カイル、カイルなのか?》
男は信じられないといいたげにこちらえ近づいた。
男の部屋か、窓かはわからないが、そこに今のカイルが映し出されているだろう。
水鏡の精、彼女の力は指定された場所の映像を写したり、写した先のものにこちらの…まぁ要するに、テレビ電話やビデオ撮影、のようなことが出来るのだ。
哀鬼などは人の魂なのだが、水鏡ならそれすらも写すことができる。
〈父様、とと、さま…っ、ヒック〉
カイルは泣きながら必死になって涙を拭った。見えなくなれば消えてしまうとでも言うように。
《カイル、今どこにいるんだ!?お前がいなくなって、俺も、母さんも心配で…!》
〈父様…っごめん、なさ、グスッ僕の、せいで母様、しんじゃ、って〉
《何を言っている!お前のせいなわけあるか!》
強い言葉に肩を震わせた。
〈でも、だって…僕、が母様を、殺したんだ…〉
《…たとえ、そうだったとしても。お前は、俺のために薬草を取りに行ったんだ。母さんも、俺が動けないことを気にしてるとわかったからこそ、私が探すと。私だって冒険者だったのだから、大丈夫と。俺は、それを見送ってしまった…止められなかった、俺が悪いのだ。》
〈そんなことない!!!父様はいつも、俺らを守ってくれる、優しい父様なんだ!!!父様は悪くない!〉
《なら、ならカイルだって悪くないだろう?》
優しく笑いながら、手をこちらに伸ばす。
水鏡に手を付き、笑いかけるその顔は確かに父の顔で
カイルはたまらなくなり、水鏡に近づき父の手に手を合わせた。
決して、重ならない、水を挟んで合わせた手。
〈父様、とと、さま?〉
《どうした、俺の愛しい愛息子よ》
〈僕ね父様の息子で、よかったよ。幸せ、だった…!〉
目を見開き、もう片手を息子に向けて、水に阻まれ苦しそうな顔をする、父。
〈父様、ありがとう。愛してくれて、生きてくれて、忘れないで、いてくれて。父様。僕、先に母様のところへ行くけれどあんまり早く来たらダメだからね?〉
笑いながら、目に涙を溜め、それでも笑いながら少年は父に声をかけた。
《…!当然、だろう!たくさん、たくさんの土産話を持ってお前達に逢いに行くさ!その時は、3人で笑おうな》
同じような顔をしながら、それでも笑って息子を見た。
〈父様!僕、いってきますね!〉
《あぁ、行ってらっしゃい、カイル。俺の愛おしい、愛おしい息子。》
そういって手を離したカイルは俺の方を見た。
『…行けそうか。』
〈はい!最後に、こんなプレゼントもらって、すごく嬉しかった!ありがとう、あ〉
笑顔でお礼を言ったカイルは思い出したように首をかしげた。
〈そういえば、お兄さんの名前、知らないや〉
『…俺は、命。鬼斬屋の命だ。』
〈命さん、かぁ、うん、ありがとう、命さん。僕はあなたに救われた。〉
そう言って最高の笑顔を見せてくれた。
…俺にとっては、何よりの報酬だな。
『なによりだ。では、行こうか。』
〈うん!〉
俺は、蛇をもう一度抜刀しカイルの眉間に合わせた
『我、氷雨命の名においてかのものを輪廻へと送り届けよう
かの者の名をカイル、我導き人、ミコト。…安らかに。』
俺の言葉は力となり蛇の刀身に、そのまま、下から上へと切り上げた。
ブンッ
風が、渦となり巻き上がる。風が収まった頃にはカイルの姿はどこにもなかった。
《…あの、あなたがたは…》
カイルの最後をずっと見つめていた父親はその視線を命へと移していた。
『先程、名乗った通りだ。俺は、命。鬼斬屋という仕事をしている、旅人さ。』
とっさに自分を旅人と名乗り自己紹介をした。
《キキ、ヤ?よく、わからんが、あなた方がカイルを助けてくれたんだよな?感謝する。俺は、グレイグという。勝手とわかっているが、教えてくれないだろうか。あの子がどうなっていたのか。》
父親は深く、深く頭を下げた。
《あの子、がカイルが化け物になったと村で噂になった。そんな馬鹿なと思ったが、俺は足がなかなか治らなくてな。その足を治す薬草を積みに行くと出ていったっきり、確かにカイルはいなくなった。母さん、カイルの母、ミカルは動けない俺の事を気にして1人でカイルを探しに出かけて、ボロボロになって帰ってきたと思ったら死んで、しまった 。傷だらけだったが、最後にカイルは生きてると、助けて、くれたと。教えてくれ、頼む、あの子は、一体どうしていたのだ…》
悲痛な叫び。俺は父親へと近づき真相を話した。
カイルは、この湖で足を滑らせ死んでしまっていた事
そして死んだことをどうしても信じられなくて、父親にまだ薬草を渡せていないこと、家族を置いて先に行くこと、色々な未練から、死んだことを受け入れなかったため、鬼となりこの世に残ってしまったこと。
それが原因で別の鬼を呼びその魂を利用されたこと。
自分が人を殺した、食らったことに絶望し、罪悪感を覚えたが、ここに留まり続け、他の人を殺させないようにずっとここで抑えていたこと。
母親を襲ったこと
すべて、全て話した。
父親は信じられないようだがカイルと実際に話してる関係上嘘とも思えないようだった
『…今話したことを、嘘と思おうと真実と思おうと、其方の自由だ。俺は、少年の未練を晴らしたかっただけだからな。しかし、これだけは忘れてくれるな。』
俺はそこで言葉を切り父親の目を強く見つめた。
『其方に、生きて欲しかったのだ、カイルは。寿命以外で死ぬでないぞ。たくさんの土産話を持って行くのだろう?その命、軽々しく捨てるようならこの俺が手折りにいってやる。簡単に黄泉路へは行けなくするからな。』
《…クスッあぁ、しかと胸に刻もう。感謝するよ、鬼斬屋の青年よ。》
父親は憑き物の落ちた、安心したように笑った。
『…ではこれにてさらばだな。俺は仕事を終えた。』
《本当に、感謝する。いつか会えたならば、恩を返させてくれ》
『あぁ、是非思い出話を聞かせてくれ』
そういって水を見る。
水は手を小さく横に振り水鏡を消すとこちらへゆっくり歩いてきた。
千里眼も閉じていた目を開け、こちらへと歩いてきた。
今回は場所の指定ができなかった。わかるのはカイルの名前のみ。そのため、千里眼の名からその家族を視る力を使い、家族を特定、そして千里眼のみている景色を水鏡が受け取り、見て近くにある鏡か窓を自らの水鏡に繋ぐ、という作業をしていたというわけだ。
『すまんな、2人とも。手間をかけた。』
水鏡「何をおっしゃいますか、私はあるじ様のその優しさを何よりも好いております。」
千里眼「自分もです。主殿はお優しい。その式であることが何よりの誇りです。」
『…あまり煽てるな、背中が痒くなる。』
水鏡「ふふ、主様途中から一方的に見るだけのものを会話のできるものに変えろ、なんて言うんですもの。そんな優しいあるじ様を誇らずにいられませんわ」
『…はぁ、柄でもないことはするものでは無いようだな。』
…あの、父親のへやには家族写真があった。カイルと目の前の父親と赤毛でスラリとした女性の3人が笑顔で写っている写真が。
だから、会わせてやろうと思ったのだ。お互いに、会いたいと望んでいるのなら。
触れられはしないが、話せて見える、そんな距離で。
少し顔が赤くなった命にふわりとふたりが笑うと命の手にあった蛇が人型となった。
蛇「ちょぉっとぉ、俺抜きに楽しそうとかずるくなぁい?俺も仲間に入れとくれよォ」
『うるさいぞ、蛇。』
蛇「ひどくねぇ!?」
じゃれながら周りを見渡す。そこは、美しい草原だ。
…見た限り、芝生のようなあおあおとした草しか見つからない、草原。
『…』
蛇「…命ォ、きにしてんのかぃ?さっきのカイル少年の言葉をォ」
『…あぁ、少し、気になって、な。』
知らない旅人に教えてもらった、薬草を沢山取れる場所
湖の周りには薬草らしきものは見当たらない。
しかし自分はこの世界の薬草などわからない。今気にさても仕方の無いことなのだろう。
『蛇、行くか。ここにいても分からないようだ。』
蛇「賛成だねぇ。」
千里眼「主殿、何かございましたらまたお呼びください。主殿のためなら本望です。」
水鏡「私もです。」
『ありがとう』
そういって姿を消した千里眼と水鏡。
俺と蛇はゆっくりと湖から離れ、近くの林の中へと足を踏み入れた。
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これが俺たちの最初の物語。
この後にカメラはなかなか高価なものだってことなど色々わかったことがあるのだが…それは、次の物語で語るとしようか。