1章4話 やることは変わらない
2019.11.12 加筆、修正させて頂きました。
蛇の話した内容は元の世界で言う異世界転移と変わりはない。
元々、持っていた力があるゆえに、物語の転移者より、楽な程だろう。
俺の落ちた世界、メーディス。
この世界には典型的な異世界特有の魔族が存在する。
ただ、この世界は魔族との敵対はしていない。なんでも、はるか昔に賢者によって和平が結ばれたとか。
細かい事情は蛇の性格上聞かなかったようだが、比較的、平和な世界と言っても過言ではない。
その理由が、鬼、なのだという。
共通の敵がいる、それは和平を結ぶには十分な理由だったのだろう。この世界の人間に鬼という概念はない。
人が狂った場合は病気という印象もしくは、人が狂うのは精神的な弱さが原因、外的要因はない、という感じのようだ。元の世界でも鬼の存在が知られていなかったが、物語などで、語られて履いた。この世界ではそれすらもないのだ。
魔物、という理性のない獣が人を襲うため、それを恐怖の象徴として語ることはあるようだ。
鬼と魔物は根本的に違う、らしい。
魔物とは、魔核を持ち、自然界に漂う魔素や、人間の使う魔法の魔力余波が溜まり、形を作ったもの。
鬼は人の感情の余波のようなものだ。
そして、魔物が人を襲うのは魔力を感じ取っているからが多い。
子供が狙われやすいのも保有魔力が漏れているからなのだとか。
そのため、魔物が人を食うことはほとんどない。いや皆無と言っていい。
逆に鬼は人の血肉を好む。
元は、感情から派生するもののはずなのだが、鬼にとって人間とは餌であり、力を蓄えるものであり、玩具なのだ。
だからこそ、蓄えられた感情によって鬼の行動は変わる。
人を食いすぎた鬼は理性を持ちより厄介になる。理性と言っても人を食わなくなる訳では無い。俺ら、鬼斬屋から見つからないよう、派手に食い荒らすことが減るくらいだ。あと、戦闘能力が飛躍的に向上する。
すこし、話がそれたこの世界についてに戻そう。
とにかく、鬼という概念のないこの世界で、鬼の闊歩は多い。
多くの人間が食い荒らされ、人々はそれを魔物の仕業と思い込み、魔物を狩る。魔物という共通の敵を狩るために魔族や人は手を組んだ。
しかし、魔物は魔素の塊。狩ったところで空気に還り、別の魔物が生まれるだけだ。根本的な解決にならない?
鬼は残り続ける。人々は鬼を感知できない。見えたとしても普通の剣や魔法はきかない。
鬼に有効なのは霊力、霊波なのだから。
蛇は神剣、その性質ゆえに切れる刀、ほかの刀では攻撃にならない。そして霊波をもたないこちらの人々は憎しみをこじらせ、鬼に栄養を…
…なんて、悪循環な世界だろうか。よく、人々が生存している。
さて、長々と自己分析のために説明文にしたが簡潔に言うと、俺は元の世界と変わらずただ鬼を殺せばいいようだ。
何も変わらない。ただ、影の世界で殺し続ける。
…人々に霊波を使えるようにすれば解決ではないのかとも思うが、それは神にはできないらしい。神の世界は人である俺らには理解出来ぬ。それでも、俺は俺の仕事をやればいいのだろう。
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蛇「クスッまとまったかぃ?」
俺のことを黙って見ていた蛇が口角を上げる。
『そうだな、すくなくとも、やることは変わらぬ。』
蛇「クスクスクスッ違いないねェ、また俺を使ってくれやぁ?主様ァ?」
蛇は少し嬉しそうに、楽しそうに、命に近づき右肩に顎を載せるように抱きついた。
『蛇、暑苦しいぞ。それに話を聞くのに随分使った、移動せねば夜がくる。』
蛇「つれないねェ、で?どこに行くんだィ?」
『さぁ、な?道がわからぬから適当に歩くしかあるまいな。』
俺たちは草原にいたようだが近くに歩道らしきものはない。湖と草原、木で綺麗に楕円形が出来上がっているため、人の手が入っているだろうとは思うのだが…
蛇「ならまぁ、適当にそのへんの木々のあいだ通ってみるのかィ?」
『…ふむ、湖の方まで歩いてみようか。』
蛇「湖ィ?まぁ、俺は命について行くだけだしねぇ」
俺は湖の方へ歩き出す。その後から蛇が数歩遅れて着いてきた。
湖の方へ行ったのに意味は無い、何となくそっちと思っただけだ。
見た目より距離のあったその湖までの道。
たどり着いた湖は水が澄み切ってそこが見えるほどだった。
…そう、綺麗、なのだ。綺麗たど感じる。
だが、俺の本能が何か感じていた。おかしいと、違和感を告げていた。
『…』
蛇「…?命?どうし…」
チリンッ
『!!!』
大きく後ろに飛ぶ。蛇はそれに合わせて俺の前で守るように背を向けた。
今なったのはヨビナ。鬼の感知、探索に特化した道具。
右耳につく黒い円形の耳飾りだ。
左耳には白い円形の耳飾り、キキナがある。これは人の死を感知、探索に特化する。
蛇に次ぐ俺の大切な道具たちだ。
ヨビナがなったとき、俺にはどこにいるのか、何体かなどの情報も頭の中に流れる。
そう、だからこそ後ろに飛んだのだ。
湖のなか、奥底で目を光らせる鬼が1匹いることがわかったから。
『蛇。』
蛇「さっそく、だねぇ、ほぉんと、さすがすぎて笑っちまうよォ。…さぁ、使ってくれやぁ主様?」
そう話す蛇の背中に手を当てた。蛇は人の姿から刀へと変わる。
いつ見ても美しい刀。
俺の、唯一無二の愛刀。
『さて、そこにおる鬼よ、姿、表してもらおうか。』
俺は蛇を、抜く。きらりとひかる刀身は太陽の輝きを集めるよう。
その刀を俺は上から下へ、振り下ろす。自らの霊力を込めた霊波を飛ばした。
ビュッッ
バシャッ
グゥゥゥオォ!!!
大きく水を切った霊波は一直線に鬼に当たる。
今まで、攻撃を当てられたことなどないのだろう。
大きな叫び声をあげながらその姿を現した。
『…嫉悋鬼、か?』
顔を歪め。憎々しそうに俺を睨むその鬼は嫉悋鬼の特徴である真っ赤な体毛。真っ黒な化け物に目鼻口がつき、真っ赤な体毛がある、その姿は嫉悋鬼の姿に酷似していた。が、嫉悋鬼がなぜ、水中に姿を隠すのか。嫉妬に狂った感情が元。その性質のせいか、基本嫉悋鬼は人に取り付き周りを壊す。壊して、壊して、壊して、壊して、何も無くなってから、殺すのだ。絶望した顔を見ながら、その身を食らう。こう考えると嫉悋鬼にとって、人は玩具の感覚の方が強いのだろう。ただ自分の愉悦のために壊す。
しかし、この鬼は、水なかに隠れていた。
…さて、少しお話を聞かせて頂こうか。
『包我身残楔て鎖、捕らうは執身』
蛇の切っ先を鬼に向け言を読み上げる。だいぶ短略されてはいるが、この鬼は食らうて5体、読み切る必要は無さそうだ。
俺の言により、鬼の足元の水は鎖をかたどり地面と鬼を繋ぐ。
グォォアァァォオ!!!
イ、ァい、G@、イタ、いぃ!!
鎖が体に食い込み、暴れる体を強制的に抑え込む。
Aあァ、憎い、羨マ、しイ、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!
『…やはり、嫉悋鬼、か?憎我鬼(主に人を憎む心から生まれるもの。嫉悋鬼と混合することがおおい。)にも近い気もするが。混合体、か?』
あアa、ggァォァ!!!
…サ、ミシイ
寂しい、そう聞こえた時、命の目に嫉悋鬼の巨大な体の中に丸まっている人型の姿が見えた。
『!チッ、哀鬼か!嫉悋鬼と哀鬼の混合体だな。』
哀鬼。悲しみ、哀しみの感情だ。この鬼の厄介なところは感情だけではなく、魂からも成り立つ、こと。
つまりは、人なのだ。ほぼ。体のない、人。ただ、ただ死んだことを悲しみ、死んだことを受け止めたくなくて、ただ嘆き悲しむ魂。
…そのうち人の魂は摩耗する。嫉悋鬼と混合し、嫉妬が増え、
人を襲う。襲う、襲う、でも、魂が残っている、転生できない、霊が。
嫉悋鬼と哀鬼の混合体、これ単体は強い訳では無い。ただひたすら、後味の悪い、結末だ。
『…さぁ、哀鬼。もう、やめにしようか。俺が連れてってやる。』
それでもやらねばならない、俺は、これだけは代われないのだから。
最後まで見届けてみせるさ、悲しい魂を、輪廻へ届けるために。