1章1話 斬蛇剣
?『…』
?「なー、まだ?」
?『まだ。』
?「こんなん待ってたら朝になるってー」
?『ならない。』
…隣がやかましい。
俺は持っていた本から顔を上げる。
そこには退屈そうに腕を頭のところで組みながら俺を見下ろす男がいた。高身長で白、いや白銀の真っ直ぐな長い髪。
目は開かれず閉じたまま、それでもまるで見えてるようにこちらの動向に気づく。
…まぁ、それも当然、か。
白い男「なぁ、もうよくね?やろ?やろ?」
『出てもいないのに何をやる』
白い男「えー、ほら、そのへん切れば、出てくるかもだろ?」
『…』
白い男「俺との会話を諦めんなよォ」
とにかくよく喋る。待つくらいもできな…
ーーーーーーチリンッ
俺の右につけてる黒い円形の耳飾り【ヨビナ】が鳴った。
白い男「おでましかぁぁ!」
嬉しそうに笑う白い男ーー蛇は俺の右腕に擦り寄った。
『あぁ。いくか。』
向かうは耳飾り、ヨビナの反応する方向。
グチャ…バキッ……ズズッ…
広がるは赤、黒、白
溢れ出る血をすする狂ったオニ。
蛇「おぉ、随分派手に食い散らかしてるねぇ」
『…蛇』
蛇「へいへい、うまく扱ってくれや?命」
『誰に言ってる』
俺の言葉に笑を深めると蛇は姿を解く。
斬蛇剣、それがこいつの名。蛇切とも呼ばれる。神剣のうちの一つで社につく蛇を切った刀とも言われている蛇をきる刀。
だが、斬蛇剣は蛇(八岐大蛇などの蛇型のオニ)のみに特化してるわけではない。
神剣と名乗るだけあり、その切れ味はいい。浄化すら引き受けてくれるため負担も少ない。自分の相棒として選んだ1振りだ。
『さて。オニよ』
血をすすっていた鬼がこちらを向く。新たな餌に喜びを浮かべふらふらと立ち上がった。
『逝こう、俺が見送ってやる』
これが俺の仕事、鬼斬屋漢字という文化のないこの世界で、キキヤ、と聞いたところでなんの仕事かはわからない。
相談屋、と取られている俺の仕事。
俺がこの仕事をするようになった理由は、いくつかあるが、まずは世界について触れていこう。
俺が突然飛ばされて住み着くことになったこの世界について、ね。
語るのは得意ではないけれど、少しだけ付き合ってほしい。