8.協力
店長に誘われ、連れて行かれたのはユラも働く宿屋『ラバーノート』である。
「あれ、先輩じゃないっすか」
暇そうに店番をするユラに、アズマは軽く挨拶をした。
「え、まさか本当にここで働くことに?」
「まぁ、どうなんだろうな」
「んふふ、そうなるかもしれないわね。でも今日は別件よ」
「てんちょー……、私、先輩の喘ぎ声とか聞くの嫌ッすよ」
「何をすると思ってのよあんたは。ほら、さっさと行くわよ」
「はぁ……」
ご愁傷様です、と合掌するユラを睨むアズマは、宿屋の事務所へと向かう店長のあとを追うのだが、自然と両手は自分の尻へと向かう。
だが、事務所の奥にある備品などが敷き詰められた倉庫に着いた時、そんな心配など吹き飛んでしまうほどに驚いた。
店長が短く何かを唱えると、倉庫の床に重厚な扉が出現したのである。
しゃがみこみ、扉に片手を添える店長。すると、音も立たずに扉はスライドされて地下へと続く階段が姿を現す。
困惑をしつつ、店長のあとを追いかけて地下へと降りると、広くて暗い空間に出た。
なんだここ。アズマは妙な寒気を感じつつ、周囲を見渡すも暗過ぎて何が何だか若ならない。
「灯りをつけるわね」
部屋に光が満ちる。ちかちかと光に慣れない視界に広がるのは……武力の象徴たるそ
れである。
ランギル、ネフタリオテ、イシュガリア……そしてユエル。様々な国で生産されている多様な鎧が所狭しと飾られていた。それだけなら鎧マニアで済むこともあるだろう。
しかしそれ以上にひときわ目を引くのは、壁中に備え付けられた武器だ。壺の中には矢が収まり、木箱の中にはばらされたクロスボウ。これではまるで。
「武器庫……? でも、こんなの一般の人が取り揃えていいもんじゃありませんよ。あなたは、一体」
「ここは、パルコラ……いいえユエルのちょっとした暗部ってところかしら。そして私はそこの主」
「闇だかなんだか知りませんけど、こんなの見つかったらとんでもないことになる。あなたはテロでも起こす気なんですか」
「ふふ」
「まさか……本当に!?」
その時だ。階段を下りているであろう足音が聞こえる。よからぬ予感と、第三者の存在にアズマは身体を強張らせた。
そして暗がりの階段から姿を現した、店長と同じぐらいの大男に目を見開く。
ネイザー・ランデルマン。その男はアズマの知る限り、ユエルの軍事力たる騎士団で佐官の階級を持ち、パルコラの騎士たちを従える長でもあった。
「ジャック、珍しいな。客人かい」
「お客じゃないわ。従業員」
「なるほど。やっと君の満足のいくモデルが見つかったってわけかい。これで新型の開発も勧むといいがね」
「もちのろんよ」
驚くアズマをしり目に、男二人は長い付き合いを思わせるような気さくな会話を交わす。
「あの、何故、ネイザー、大佐が」
「知っててくれて嬉しいよ。オーベルライト君」
自分の名前を知られていることに、アズマは動揺を隠せない。
「何で、俺の名前を」
「前に何度も騎士団の試験を受けてくれたじゃないか。忘れないよ」
ネイザーの常人離れした記憶力に、息を呑む。そんなアズマの様子とは打って変わって、――――ジャックと呼ばれてた店長はニコニコした笑顔のまま話を続けた。
「丁度いいわ。あなたにから見た、この子の見解を聞かせてくれる?」
「僕かい。うーん、いいんじゃないかな」
「適当ね……」
「あの、話が見えてこないんですけど。店長は一体、何者なんです」
その問いにネイザーが答えた。
「彼は我らが騎士団の兵器開発局顧問だよ。といっても戦争は終わったから今はもっぱら……対怪人用の武装を考えてもらっている」
「対怪人用の武装……!」
「そしてアズマ君、あなたにはその武器のテストソルジャーになってもらいたいのよ」
それはある意味願ってもないことである。騎士団になれなかったアズマだが、その仕事は騎士団に対してこれ以上ないほど直接的に関われる仕事だからだ。
しかしだからこそ疑問点が浮かばずにはいられない。
「その、何故俺なんですか。それは恐らく機密事項の多い仕事です。だったら身うちの騎士にやらせた方がいいはずです。なのにわざわざ部外者の俺を」
「ジャックの悪い癖が出てね……」
「あたしはね、せっかくすんばらしい鎧と武器を作るなら完璧を目指したいのよ。モデルもあたしの理想通りのボディの誰かじゃないと嫌。ゴツ過ぎても駄目だし、細すぎるのなんて論外。その点、アズマ君はいいわ。適度に鍛えられた両手足、絹みたいに瑞々しいお肌、芸術品のような角張りをみせる骨格の妙……!」
「簡単に言うと?」
「あたしのタ・イ・プ」
「この通り、わがままな顧問でね。モデルがいないって開発が進んでなかったんだ。でも君が来てくれて助かったよ」
機密事項の絡む事に自分の好みを優先させるジャックの横暴ぶりに引きながらも、ともかく事情は理解した。
「……俺に出来ることなら」
仕事をくれる。それも憧れた騎士団に関わる仕事だ。断る理由はアズマには少しだってなかった。これで何もかもが全て上手くいく。
そう思い、「是非やらせてください」と言いかけた瞬間である。
階段をさらに慌ただしく騎士のひとりが下りてきた。特務仕様の装備をしているところからみて、ネイザーの側近であることは一目瞭然だった。
「大佐! 怪人が、また町に」
「何? どこだ」
「ケールブ橋付近です」
「結界班はどうした? 何故また町に」
「それが、外から来たわけではなさそうで。前の怪人と同じです。まるで町の中から湧き出てきたように」
それを聞き、ため息を吐いて倉庫をあとにしようとするネイザー。……を、押しのけて、アズマが階段へ走り出す。
「ちょ。アズマ君! どうしたの?」
「すみません、ジャックさん。俺行かなくちゃ」
「行くって……。怪人の元じゃないでしょうね? あなたに出来ることなんて」
「そうですね。それじゃ、行ってきます!」
ジャックとネイザー、二人の老獪な男は若人の急く様に呆気に取られていた。
先に端を発したのはネイザーの笑い声である。
「成程。彼は、騎士団には向いていないな。個人的には好きなタイプだが」
「でしょ?」
そうネイザーに合わせながらも、ジャックは別の事を思案する。それは根拠のない直感だが、可能性を調査するのに値すると判断していた。
「ジャック、僕は行くよ。いいものを開発してくれる前に町が壊れちゃ意味がないからね」
ネイザーは振り返らず、部下に怪人が出現した場所を聞きながら階段を上がっていく。
「ケールブ橋、ね」
***
走ってアズマが向かう先は、家に残してきたソニアの元だ。
怪人が町に出たというのなら、ソニアに力を借りて排除しなければならない。
それが出来るのはきっと自分だけだ。しかしそれは、ソニアからすれば迷惑極まりないことにもなるのではないだろうか。
そんな自問自答を吹き飛ばしたのは、いつの間にか、本当に気付かないぐらいいつの間にか自分の隣で並走するソニアの存在に気付いたからだ。
「アズマ。私の力が必要ですか?」
「ソニア!? お前、なんでここに?」
「アズマが必要としてくれた気がしましたから」
「そういえば、あの屋敷でもどこからともなく現れて俺を助けてくれたよな……」
自分は誰かに力を借りてばかりだ。急に、そんな考えても仕方がないことを考えてしまう。
思い返せばソニアへのプレゼントだって、ジャックからの提案と施しにすぎない。
「どうしたの? アズマ」
「いや……。ちょっと自己嫌悪にな。でも今はとりあえず、力を貸してくれるか? ソニア」
「うん。アズマが望むのなら。いくらでも。何度でも」
***
町に張りめぐらされた水路をケールブ水路という。
町民たちの生活排水の排水路として利用されているものだ。
基本的には入っても膝下程度しかない水かさの水路だが、町の中心から外れた場所にある工業地帯から排出される汚水は、生活排水のそれとは比べられない量がある関係上、水路のかさも深くなる。
その水上を渡るために、少しばかり大きな石畳の橋が作られた。それがケールブ橋である。
「くそ……」
橋の上に立ち、剣を構えるのはウォレスと数人の部下である。
「また来ます!」
部下の一人が声を上げる。その瞬間、水路の中から人間離れのソイツが勢いよく姿を現した。
両腕と腰を繋げてるのは鰭。背丈は例にもれず成人男性よりも一回り大きい。
そして顔面は分かりやすく、獰猛な淡水魚のようだった。
「怪人め!」
異形の正体を叫びながら、ウォレスは怪人の攻撃を待ち構える。
魚の怪人は勢いよく水面を飛び出した瞬間、頭部に穴の空いた突起を生やす。
そしてその先から強烈な勢いでウォレスたちに発射させた。
それをかろうじて交わすも、水圧に砕かれた橋の一部を見て肝を冷やす。
なんとか姿だけでも追うべく、怪人に視線を向けるも怪人は再び水路の中に潜りその姿を消失させた。
しかし水路の中の異形が蠢く気配だけは、紛れもなく残っている。
「隊長……あいつの攻撃、だんだん避けにくくなってきてませんか?」
橋の上という単純な戦場だ。奴も狙いをつけやすくなってきているのだろう。そう考えてウォレスは歯噛みする。
橋の上以外の場所で闘おうにも、その場所が一番ベストだとウォレスは考えていたからだ。
非常線を張ったことで、ケールブ橋付近の住民は既に避難させた。しかし水路は町中に張りめぐらされている。この場所に留めておかなければ町中が戦場になってしまうだろう。
「分かっている!」
先の戦いで怪人だと思い込んでいるアズマに圧倒されたこともあり、ウォレスは分かりやすく苛立っていた。
己の弱さに。怪人が町に現れる不条理に。
「貴様ら怪人などに、俺が、俺たち騎士がぁ!」
悪態を叫び、再度現れるであろう怪人に向けて剣を構える。
今度こそ、その姿を現したのなら攻撃を放つ前に剣をその腹に突き刺してやる。
その覚悟を決め、まさに怪人が水面から飛び上がった時だ。
ウォレスは確信する。避けられない。剣を抜くことだけに注意を払い過ぎた。
ならばせめて、剣を怪人に向けたまま死んでやる。
瞬間、何者かに殴りつぶされた。
その何者かの姿をみた時、ウォレスは先ほど以上に奥歯を噛む。
「怪人……!」
「せやあああああああああああああ!」
叫びをあげて、アズマは怪人の顔面を殴ってそのまま水路の底へと叩きつけた。
爆発が起きたかのような巨大な飛沫が天へと上がる。
水中の中で、アズマはもう一撃を怪人に叩きこもうとするが、水中だといつも以上の速度が出せず、一瞬の隙を生んでしまう。
怪人はアズマの身体を払いのけると、そのまま水中を器用に泳いでアズマから離れた。
ここで逃せば、怪人を町に放つことになる。
「させるかっ!」
アズマは去りゆく怪人の足を掴み、引きずられるようにして怪人の高速水中巡航についていく。
右手で怪人の足を掴みながら、左手で怪人を叩いてみるがどうも効果は薄いようだ。それは水中の中というハンデと、先の怪人よりも強固なボディがそうさせていた。
『アズマ、地上に上げた方がいい』
「駄目だ。もうずいぶん橋から離れてしまった。ここで地上に上げたら、町の人に被害が及ぶかもしれない」
『でもこのままだと』
アズマは怪人の勢いを殺すべく、両足を水路の底に付けた。砕けて抉れる地面は、水中に泥の埃を巻き上げる。
最初こそ怪人の勢いはまるで衰えなかったが、数秒後ごとに速度は間違いなく削れていった。
異変に気付いた怪人はアズマの方を振り返り、額に突起を作ると、アズマの肩に水圧を撃ち放つ。
「ぐっ!」
想像以上の威力に顰めつつ、なんとか怪人の足を引き寄せて背中に拳をぶち当てた。
しかし水中。威力は元の半分以下だ。
怪人は不敵に笑うような反応を見せると、ぐるりと回り正面に回り、蹴りをアズマを顔面に当てる。
このままだと負けてしまう。どうする?
怪人は再び額からの飛び道具で、アズマの動きをけん制するつもりのようだ。
「くそ、水中の中だとやっぱり勝てないのか?」
『アズマ、また飛び道具がきます」
「ああ、分かって……」
――――待て。あの突起なんで、いちいち出してるんだ。
強烈な攻撃が使えるのであれば、常に出したままにしておけばいい。なのにそうしないということは。
「弱点か」
分かれば簡単だ。だが急がなくてはならない。遠距離攻撃を仕掛けてくる時だけがチャンスだ。
アズマは全身に力を込める。そして響くのは巨大な怪物の唸り声のような、深く思い駆動音。
キーーーーーー……ン!
怪人はアズマを串刺しにするべく、額の発射口から何発もの水の槍を撃ち放つ。
それらをアズマは避さない。全身を震わせる波動のような力が、水の槍から身を守ってくれると感覚で理解していたからだ。
「ぶっ壊れろ!」
額の発射口へ進む拳は最後に撃たれた水の槍を容易く霧散させ、発射口どころか怪人の顔面ごと勢いよく殴り潰す。
千切れ飛んだ怪人の首は水流に流され、やがて塵になっていく。足を掴まれた怪人の身体も、それにならうように塵となった。
***
変身姿のまま、アズマたちはひと気の少ない水路の陰を歩く。
『アズマ。だいじょぶですか?』
「ああ。でもごめんな。実は今日、仕事が決まりそうな感じだったんだけど、すっぽかしちゃってさ」
『大丈夫ですよ。アズマが駄目なら、私が頑張ります』
「いやいや、そこまでは頼めない。いや本当に大丈夫だからな」
どこまで考えてのものだか分からないソニアの提案をアズマは焦って否定する。否定しつつも、これから先どうしようかという問題がどうしても頭を掠めて項垂れた。
「どうすっかなぁ」
「きまってるじゃない。ウチで働くのよ」
その人物はアズマの行く先に先回りをしていたようで、水路の壁にもたれるようにしてじっと見つめていた。
「店長、さん。なんでここに」
その時、アズマはまた鎧姿のまま自分を特定されてしまうようなことを言ってしまったことを後悔する。だがその後悔は無意味だ。何故なら。
「こっちに来なさいアズマ君。聞きたいことがあるの。鎧とか、怪人とか、その娘のこととかね」
既に正体がバレているからだ。それがあまりに不意だったからか、アズマは目を白黒させながら「はい」と頷くのがやっとだった。
***
「どうして、あの怪人が俺だって」
「あら、ふるまいを見れば分かるわよ。あたし一度見たいい男の立ち姿は絶対に忘れないの」
そう自分の尻を触りながら語る店長の様子に、アズマは思わず身震いする。だが自分の貞操以外にも色々と危機的状況であることを悟り、オロオロと説明をし始める。
「え、えと俺は実は今、騎士に追われてまして。でも悪いことをしたわけじゃなくて! むしろ良い事をしたはずなんですけど、なんか、間違えられちゃって」
「あらあら追いかけていた夢に、今度は追いかけられるようになっちゃったわけね。まぁその辺はおいおい聞くとして……ちょっと失礼」
そう言うと店長は、手もとの銅貨をアズマ目がけて指で弾いて飛ばす。
何気ない動作のわりには鋭い速度で迫るコインであるが、アズマにぶつかった瞬間、破裂。銅の破片は四方に飛び散っていった。
「……なるほど」
「な、なにするんです。急に!」
「あなた気づいてる? その鎧、振動してるわね。それも馬鹿げた速さで。理想の鎧に出会えたと思ってうっかり抱きしめなくて良かったわ。細切れで死ぬのはごめんだもの」
「振動。そうか」
アズマは怪人との戦いで発揮した力の随所を思い出す。あれは鎧の起こす凄まじい振動によるエネルギーが及ぼしたものだったのか。
そう納得すると同時に、恐ろしくもなる。もしもうっかり、この身体でウォレスに触れていたらと思うと背筋が冷たくなった。
しかし今は店長である。アズマはまだ、目の前の男が自分に対して何を望んでいるのかが分からない。
「あなたは、俺をどうするんです。騎士団に売り渡しますか?」
もしも頷かれたらどうする。この力を使えば「見つかった」という事実を、当事者を消すことでなかったことにすることが出来る。
だがそんなことをすれば、まるでソニアの言っていた通りのやり方だ。それは絶対に容認できない。
アズマは腹をくくることにする。人を捨てる覚悟ではなく、騎士団の連行を受け入れるという覚悟を。
「そんなことするわけないじゃない。うちの大事な新入社員様を」
そんな覚悟をしていた手前、店長の語るその言葉が信じられなくて、アズマは間抜けな顔を鎧の中で浮かべた。
「え、し、新入社員?」
「そ。店員兼、研究材料ってところかしら。その鎧、ただの鎧じゃないんでしょう」
「そ、それは」
その瞬間、アズマの鎧は蒼い炎に包まれる。その炎がアズマから剥がれると、アズマに装着されていた黒金の鎧も消えていた。そして剥がれた炎はアズマの傍で燻ぶり、炎が消滅した場所にソニアが忽然と現れる。
「うん、そう」
「な、馬鹿! なにやって!」
「前にも一回会ったわね。あなたがさっきの鎧ね」
「そうです。ジャバウォックです。でも今は、……ソニアというのです」
「ソニアちゃんね。よろしく」
「よろしくって、いやあの。だって」
事態のスピード間についていけないアズマは先ほど以上にオロオロとし始めた。
「アズマ。この人はアズマが欲しがっているものを与えてくれる人です。交渉はシンプルなうちに済む方がいいです」
「交渉って何がだよ! お前の正体晒して、鎧調べさせる上に、俺を正社員にさせて……正社員?」
「そう。あなた今無職でしょ」
「ハイ」
「仕事先を探していたんじゃなくて?」
「ハイ」
「うちで働きたくない?」
「働きたいです。え、働かせてくれるんですか?」
「そう言ってるじゃない」
状況をようやく飲み込んで、歓喜に叫びすらあげそうになるアズマだったが、それを押し留めたのはソニアの事に思考が及んだからである。
「何。もう内定が決まっている所があったりするの?」
「いや、内定は、ゼロですけど。そうじゃなくて、あの鎧は俺の力じゃなくてソニアの力なんです。その研究って、ソニアに何をするんですか、それが分からないと俺は、すみませんけど、うなずけません」
「アズマ……」
「……私の目的は、私の手で美しい鎧を作ること。そのためにアズマ君がソニアちゃんを装着したあの姿を細かく観察したいと思っている。それに多分だけど、アズマ君抜きでソニアちゃんが鎧だけの姿になるのは不可能なんじゃないかしら」
「そうです」
ソニアが頷く。
「ならやることは決まっているわ。あなたはあの鎧姿になり、私にそれを観察させて欲しい」
店長の話を信じるならば、ソニアに対してのみ何か恐ろしい研究を施されることはないようだが。アズマはソニアの反応が気になり、尋ねてみる。
結果は条件付きの快諾であった。
「その人がアズマの敵にならず、アズマを助けてくれる限りはいい」
「血の気が多いのね。分かったわ。アズマ君の力になることを約束しましょう」
「なら好きなだけ、けんきゅーすればいいと思います」
「そ、それじゃ」
「アズマ。就職おめでとうございます!」
にへらと笑うソニアの言葉に、アズマの頬もほころぶ。
「あ、でもその、如何わしいモデルとかそういうのは勘弁してくださいよ」
「あんた私をなんだと思ってるのよ」
この日、アズマ・オーベルライトは宿屋から新たな宿屋へと記録的な速さで再就職を果たしたのだった。