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ジャバウォックの騎士  作者: 生肉を揉む
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7.求職



 その日、騎士団たちは一部の監視の兵を除いてアズマの家を引き上げてくれた。そしてアズマは急ぎ役所へ向かう。通報した者に二言でも三言でも文句を言ってやりたかったがそのための役所ではない。

 

 仕事をとにかく、可及的速やかに見つける必要があった。

 ソニアに「助けてやる」と言った以上、無職が原因でそれが困難になってしまう情けない事態は避けたい所である。

 

 が、気持ち一つで仕事が決まれば苦労はしない。町中を掛けずり回るアズマだったが、ついに仕事らしい仕事を見つけることは出来なかった。

 

 早くもどんずまりである。ふらふらと町を歩くアズマの姿は、浮浪者のソレによく似ていた。


「……あれは」


 アズマが落ち込みで曲がった腰を戻したのは、本物の浮浪者が騎士団に連れて行かれる光景を目の当たりにしたからだ。


 この町は明らかに貧乏になっている。


 化粧漆喰の綺麗な街並みは潤っていた戦争時代の名残だ。うなるように金を産んだ鉱山も、鉱石の枯れ果てた今では土砂崩れや怪人の温床といった危険地帯にしかならない。

 

 危険は人を遠ざけ、より安定を得るために財布のひもも固くなる。


 今の時代はパルコラにとって暗黒時代と呼べるだろう。


 アズマは連れて行かれる浮浪者を見てふと思う。自分もいずれああなるのだろうか。

 そうだとして、連れて行かれる理由はあるのだろうが。


 騎士団は軍事力でもあり、治安維持の任務も与えられている。彼らの言い分からすれば、浮浪者の存在は町の治安を損なう危険因子なのだろう。


 理解出来る。間違えていない。だけど、何故だか見たくない光景だと思ってしまう。


 本当に正しいことなのだろうか。ついそう考えてしまう。


 ――――ソニアの力を借りたとはいえ、怪人を消滅させた自分の方が騎士団以上に正義を体現しているのではないか。


 その考えがつい浮かんでしまった瞬間、アズマは自己嫌悪と共に首を振った。


 それは傲慢にもほどがある。少なくとも何の能力もない自分が抱いちゃいけない考えだ。


「……過ぎたる力は身を滅ぼすって奴か」


 忘れよう。そうやってむりやり自分の考えをかき消すと共に、ソニアに対して何のお礼もしていないことを思い出した。


 仕事も見つけていないのに買い物をするのは少しばかり躊躇いがあったが、それ以上にソニアに何かしらの形でお礼をしてやりたいとアズマは思う。


 金がないなら、金がないなりに掘り出し物を探してやればいい。


 アズマは蚤の市が開催されてる町の広場へ向かった。


 雑多な木箱や、簡素なテントが集まる広場は喧騒に包まれている。

 古物商や一般家庭の人たちが商品を広げて、売買を行う蚤の市では安くていいものがたまに手に入るのだ。


 ただ、あくまでたまにである。


 アズマは期待をもって広場にやってきたわけだが、早くも眉根を寄せることになった。


 プレゼントらしいものが見つからない事に加え、そもそもソニアは何を貰ったら喜ぶのだろうかが分からない。


 うんうんと唸っていると、ふいに肩を叩かれてアズマは振り返った。


「やだ、偶然ね」


「……すみませんでした」


「なんで開口一番謝るのよ!」


 ユラの勤める宿屋の店長は、憤慨した様子で地団太を踏んだ。



「ふんふん、なるほどプレゼントねぇ。ユラちゃんへの?」


「いや違いますよ。ほら、前にお会いした時に俺の傍にいたちっこい子にです」


「あ、あの子ね」


 ユラ、あんた前途多難ね……という店長の呟きは、アズマには届かなかった。


「しかしプレゼントなら新品のモノの方がいいんじゃないかしら」


「いや、それが。その……お金がなくて。でも、今すぐに何か渡してやりたいんです」


「いい男じゃない。たまにそれで破滅する人もいるけれどね。……そうね、あの子ならこれなんてどうかしら」


 そういって店長が見つけだしたのは、一見すれば用途不明の針金である。果たしてそんなものが売れるのかといえば、これが意外と蚤の市ではスタンダードな商品だったりする。

 鉱山が近くにあった関係もあってパルコラには町工場が多く存在しており、そんな町工場で鉄同士の、細かい部分の接着などにこうした針金を溶かして利用する事が多々あるわけだ。

 あれとこれをくっつけたい。でも丁度、細かい部分を接着させる鉄が切れている。まさか大きな鉄を溶かすわけにもいかない。なら蚤の市で探して来い。といった具合である。


 しかしそれとソニアが喜ぶのとでは別問題だ。


「いや、それは流石に喜ばないんじゃ……」


「そうとも限らないわよ。これはこうしてこうすると……」


 店長は器用に針金を折り曲げ、畳み、再び伸ばすように弄っていると、気付けば見事な蝶の形をした小物へと変わった。


「すごいですね、どこでそんな技術を」


「ちょっとした雑学みたいなものよ」


 店長はドヤ顔だが、そんなドヤ顔を快く思わないのは針金を売っていた店主だ。それに気付くと店長は慌てた様子でお金を払う。


「そんな、俺払いますよ」


「いいのよ、あんたよりもお金があるから。それに……ねぇ、あんた。仕事がないのよね」


「そ、そうですが」


「前の話、覚えているかしら」


「モデル、ですか」


「そ。どう、やる気はまだないかしら」


 どうも最初から逃げ場をなくして誘うつもりだったのではないだろうか。

 そう思いつつも、渡りに船かもしれないとアズマは「少し詳しくお話を伺ってもいいですか」と

 店長に話した。


「いい返事」


 そう言って蝶の小物をアズマに手渡した。





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