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ジャバウォックの騎士  作者: 生肉を揉む
17/17

17.未来



 地面を突き破り、幾重もの鎖がアズマたちを覆う。作り上げられていく鎖の繭に、ウォレスは必殺の焔を灯した右腕で殴りつけんと押し寄せた。


「ハイドラ! 力を寄こせ!」


『いくらでもやるさ。全て壊すためならなぁ!』


 振り下ろされた拳は鎖の繭に叩きつけられる。金属が無理やり捩じ切られるような、悲鳴のような音が響いた。


 拳と繭を中心に発生した衝撃波に、崩れた瓦礫や砂埃、近くに立っていた騎士団の幾人かを巻き込んで吹き飛ばす。地面も空間も波を打つ、見たこのない異常な情景に瓦礫に辛うじて捕まる騎士一人が呟く。


「これは何の戦いだ? あり得ねぇ」


 ウォレスは自分の一撃に、確かな手ごたえを感じていた。鎖の繭の頑丈さはよくよく理解していたが、それでも竜娘を装着した自分の力ならば破壊出来る。


 アズマを覆う鎖の繭に罅が生じた時、その自信は正しかったとウォレスはほくそ笑んだ。

だがその罅がひとりでに割れ始め、僅かに空いた空洞から生き物の視線を感じた時、それは間違いだったと瞬時に悟る。


 鎖の繭を突き破って現れた手に、ウォレスは右腕を強く掴まれた。

そして鎖の繭は蒼い炎となって、霧散する。ウォレスは自分の右腕を掴む者の全容が露わになった時、「何故だ」と言葉が零れた。


――――そこに居るのは、一度見た事のあるジャバウォックを装着したアズマではなかった。黒金のボディに、赤い関節部分。二本の角。そこまでは同じだが、首元に巻かれているソレをウォレスは見た事がない。


 風にはためくそれは、マフラーのように見えた。よくよく見れば、それがアズマの持ってきたタオルケットとよく似た色合いをしている事に気づく。


『物も含めて融合しただと? そんな話、俺様も聞いたことないぞ』


 頭の中に響くハイドラの声にすらウォレスは苛立った。アズマに掴まれた右腕がまるで動かない。どれだけ振り払おうとしても、泰然とアズマはウォレスの腕を掴んだまま動かなかった。


 その聞いたことのない装着とやらで、アズマが自分よりも強くなってたまるものか。


「ハイドラ! 馬力が足りていないぞ! 力を! もっと力」


 ウォレスの言葉は、顎を突き上げる衝撃によって遮られる。ウォレスは空中に投げ出されている途中で、ようやく自分がアッパーカットを食らったのだと気づいた。後れを取っていることを苦く思ったウォレスは地上に着地したと同時に、地面を蹴ってアズマとの距離を詰める。


 喉元へ突き指す手刀はあえなく交わされるが、余剰の力を借りてそのまま回し蹴りを決めた。アズマはそれを両腕で受ける。


 少しよろめくアズマに手ごたえを感じたウォレスは、更に二、三と蹴りを放つ。三発目の蹴りをアズマは掴んで受け止めると、振動の力をウォレスの足に込める。


 危険を感じたウォレスは海老反りになって、拳をアズマの顔面にへと叩きこもうとした。

それをアズマは危なくかわすが、ウォレスの足を掴む手を緩める油断へと繋がる。即座にウォレスはアズマの肩を掴んで、転回した。


 その回転の勢いで、アズマの両手の固定から完全に離脱する。アズマの上空でくるりと回るウォレスは、その空中から、執念深くアズマの後頸部へと手刀を繰り出した。


 その気配を察していたアズマはその場で倒立し、跳ね上がるような蹴りで応戦する。アズマの一撃はまともにウォレスの肩部を捉え、吹き飛ばした。


 地上に転がるウォレスの目はしかし、未だアズマの首元へと向いている。ウォレスは寝転びながら、アズマの方へ向けて手を向けた。


 瞬間、紫色の炎がアズマの足元から巻き起こる。まるで数百匹の蛇のように立ち上る焔は、アズマの身体を絞め殺そうと這い上がった。


 アズマはその蛇たちを、全身を激しく振動させる事で防ぐ。


「……ただ能力を使った所で通じないか。……どうする」


『ウォレス』


「なんだハイドラ。喋る暇があったら力を寄こせ」


『ここじゃ場所が悪い。一度体制を立て直すぞ』


「どこへ行けと言う!」


『ドゥルーマウンテンだ』


 声を荒立てるウォレスだったが、ハイドラの言葉を聞き一理あると思い始める。木々の溢れる山ならば、ハイドラの持つ焔の力を遺憾なく発揮出来るだろう。


 ウォレスは掌に火炎の球を作り出すと、アズマに向けて投げ飛ばす。アズマはそれを殴り防ぐが、生じた爆炎により視界が塞がれてしまった。


 煙と炎を振り払った時には、ウォレスの姿が居なくなっていることに気づく。


「どこに……」


「ドゥルーマウンテンだ」


 そう答えるのは、傷つく兵士の治療と弓兵の指示を担当していたダイレスである。あんなに厳かだった鎧は所々穴が開き、満遍なく焼け焦げていた。


「やつの姿を完全に追うことは難しかったが、その方向へ逃げていくのは見えた」


「そうでしたか……ありがとうございます」


「行くのか」


「はい」


「……役に立たない我々を許してくれ」


「そんなことありませんよ。騎士団のみんなのお陰で、なんとかあいつに勝てそうです。だから今は……この町を、みんなを元に戻すことだけを考えてください」


「ああ。死ぬなよ」


 ダイレスの言葉を背に受けて、アズマはドゥルーマウンテンへ向けて走り出した。



 山の中は、町で起きている事が嘘のように思えるほど静寂だった。虫や動物たちの鳴き声が木霊する。草木がざわつくのは、どこからやってきた分からない北風がその葉先を撫でるからだ。


 アズマはしかし、山の中から確かなウォレスの気配を感じていた。紛れもなくどこかに潜んでいる。場所は麓から遠く離れ、山の奥深い場所まで来ていた。


 既に陽は落ちている。暗闇の中を歩くのは困難だったが、暗闇に慣れているソニアのナビゲーションのお陰で足を滑らせるようなことはなかった。


「どこだ。ウォレス」


 その言葉に応えるように、アズマを取り巻く周囲の木々が発火し始めた。紫色の業火はあっという間に山火事と呼べるレベルまで広がる。枯れ木も生木も区別なく、乾いた灰へと変貌させられていった。


 しかしウォレスの姿は見えない。どうやら、このまま距離を離したままアズマを焼き殺すつもりのようだ。事実、アズマは自分を取り巻く炎に飲み込まれかけていた。


 火の恐ろしい所は酸素を殺すことだ。アズマは息が殆ど出来なくなっている事に当然気づいている。だがそこからどれだけ離れたところで、火はどこまでも追いかけてくるだろう。ウォレスは、アズマを逃げ場のない煉獄に誘い込んだのだ。


「く……そ」


 アズマは朦朧とする意識を必死に繋ぎとめて、山の中を彷徨い歩く。その姿を、ウォレスは少しだけ離れた場所にある木立の陰に隠れてみていた。


 自分の作り出した火炎に、ウォレスはダメージを受けない。アズマが自分の起こしている振動に巻き込まれない事と同義である。


 地獄の釜のような状況で、ウォレスは涼しくアズマの最期を見届けようとしていた。


「これで終わる。やっと……」


『ああ』


 いよいよアズマは、その場に崩れ落ちるようにして座り込んでしまう。


 もうアズマは戦えない。そう判断したウォレスは、アズマの元へゆっくりと近づいていく。


『おい、ウォレス? よせ、まだ生きている。近づくな』


「ふん、どうせ死に体だろう。……さぁアズマ。その醜い鎧を今、剥がしてやる。そしてお前は、俺の正義として永久に生き続けるんだ」


 鎧の中にあるウォレスの瞳は、当に正気を失っていた。


 それが鎧という凄まじい力を手にしたからなのか、それともハイドラによって注ぎ込まれた精神の毒がそうさせたのかは分からない。


 だが最初は決してそうではなかっただろう。彼にも大切な夢があり、大切な友が居た。アズマに対して執着するのは、今でもそれを大切にしているからだ。


 だからアズマの元へ寄るのは必然だったのかもしれない。形は歪んでいても、根っこにある想いはきっと、もっと純粋なものであるはずだと。


 アズマは、ウォレスがそういう男だと信じていた。だから、山に火が放たれた時からその場を動くつもりは殆どなかったのである。


 ウォレスなら……自分が弱った時にきっと姿を現すと知っていたから。


 アズマはウォレスが近づいてきたのを感じて、その両腕を振動させる。アズマはその両腕を――――地面の中に埋めていた。


 それはウォレスが自然を利用したように、アズマもまた山という自然を利用しようと考えた思いつきの作戦である。


「アズマ?」


 敗北に追い込んだと思ったアズマの様子がおかしいことに、ウォレスは気づく。だがその時にはもう遅い。


 山が震える。


 地震が起きたのかと辺りを見回すウォレスと、しゃがむアズマの元へ押し寄せるのは、凄まじい量の土砂。それもその土の質は、以前降った雨の効果も相まって、土砂としては凶悪と言えるだろう。


 想像を絶する質量の泥や、岩石が二人の鎧を飲み込んでいく。とんでもない膂力を持つ竜娘の鎧を装着していたとしても、自然が及ぼす無慈悲の前には対処のしようがなかった。


「ぬおおお!」


 泥に溺れ、飲み込まれていくウォレス。だが彼も決して諦めない。視界からいつの間にか消えたアズマを、確実にこの手で屠るために土砂へ逆らうよいに必死でもがく。


『ウォレス、上だ! 上にあがれ!』


 ハイドラの助言に従い、ウォレスは両足に力を込める。二重装着をしていた時のような飛行能力は持ち合わせてはいないが、それでも土砂の波から抜け出せるぐらいの跳躍力はあった。


 ウォレスはまるで水面から跳ね上がる魚のように、飛び上がる。その時に気づくのだ。


 四方を飲み込む土砂から逃れるためには、上へ上がるしかない。


 だがそれは、アズマも同じじゃないのか。いや、違う。


 『上へ上がる』と、アズマも思うんじゃないのか。


 逡巡の解答は、頬を抉るようなアズマの拳である。


 アズマは土砂崩れを引き起こすと、ウォレスよりも一足先に空へと上がっていた。そしてウォレスもまた上へ上がってきた時に――――拳を上から振り下ろす。


「目を、覚ませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 水面の魚を狙う水鳥のように、完全なタイミングでアズマの拳はウォレスの顔面を捉えてい

た。


 ウォレスを地面に拳ごと叩きつけてやると、土の柱が恐ろしく高い所まで上がる。ドゥルーマウンテンを遠くから見上げる者たちは、山が悲鳴を上げたと思うほどの衝撃音を聞いた。

山に静寂が帰ってくる。


 ウォレスの引き起こした火災はすっかり土砂で鎮火していた。その土砂も弱まり、小さな砂や石が転がる程度のものとなっている。


 ドゥルーマウンテンの奥深く。泥がぼごぼごと動き、そこから鋼に覆われた腕が突き出た。それを皮切りに腕の持ち主はなんとか、土の中から這い出る。


 アズマはすっかり泥だらけになった鎧を振動させて土を払った。辺りを見回すと、崩れた樹木や崩れた岩が散乱している。木々は焼け焦げているし、まるで隕石でも降ってきたような有様だ。


 土砂崩れだけじゃなく、ウォレスに決めた一撃もまたこの環境を作り出した要因の一つだと思うと、少しやりすぎたかと思わざるを得ない。


 その時、ウォレスの姿がどこにも見えないことに気付いた。


「ソニア。ウォレスの匂いは?」


『右の方』


「右だな」


 ソニアの言葉に従い、アズマはその方向へ走る。そして表情を暗くさせた。進む方向の先に道はなく、崖が広がっていた。


 ウォレスは土砂に飲み込まれ、そのまま崖から落ちてしまったのだろうか。そう思った瞬間、アズマの瞳は崖に掴まる誰かの指に気付く。


 駆けよれば、ウォレス・ランドは辛うじて崖の縁に掴まって、その身を宙にぶら下げていた。


「ウォレス! 掴まれ!」


 アズマはすぐさま駆け寄って、ウォレスの元に手を伸ばす。


「アズマ……か? 何だ、俺は生きていたのか」


 意識が混濁している。アズマに話しかけられるまで意識すら失っていたのかもしれない。


「当たり前だろう! はやく掴まれ!」


「そうか。俺は無意識に、生にしがみついていたのか」


 ウォレスは喉の奥で低く笑う。笑って、自分から手を離した。


「ならば意識的に、死を望むよ」


「ば――――ッ!」


 ウォレスの手にアズマの手が掠る。しかし掴むには至らない。叫び声をあげて、ウォレスの身体に近づこうとするアズマだがそれはソニアによって阻まれた。鎧に包むアズマの身体は、ソニアの意思により崖から離される。


 最後に見たウォレスは、鎧に包まれて表情を窺い知ることは出来なかった。だが最後の言葉だけは、昔からよく知る友人の声色だった。


「……馬鹿野郎」


 崖の傍で、アズマは鎧姿のまましゃがみ込む。孤独に咽び泣く彼を抱きしめるのは、彼が見に纏う鎧だけだった。


「ハイドラ。すまんな。俺の死に巻き込んで」


『……いいさ。生きることに執着はねぇ。ただ驚いてる』


「俺が死を選んだ事か」


『お前のことじゃなくて。独りで死ぬだろうと思ってたから……』


「そうか」


 途方もない山の高さは、二人にそんなささやかな会話をする時間を残してくれた。

鈍い音が、一度だけ響く。後はいつもの静寂だった。



***



 それから数日の時が過ぎた。

 パルコラは騒動から間もなくして、復興に忙しくなった。


「お、兄ちゃん。そいつはここに置いといてくれ」


「あ、はい」


 言われて担いでいた木材を、職人の傍に置く。それが終われば、焼けてしまった家の解体を手伝いへ行かなければ。


 アズマはその日もまた、人助けに忙しくしていた。


「しかし、まさかこんな災害じみたこをこの町が食らうことになるとはなぁ」


 しみじみと語る大工の棟梁に、アズマは苦笑いを浮かべながら同意する。


「しかし兄ちゃん、いい身体してるな。騎士団かい?」


「いえ。俺は――――」


「あ、兄ちゃん!」


 言葉を言いかけた所で、アズマをようやく見つけ出したキッシュがそれを遮る。どうにも急いでいる様子だ。


「どうした、キッシュ」


「どうしたもこうしたもないって! 兄ちゃん……宿屋のユラさんがすごく怒っているよ? 僕たまたま宿屋の前に通りかかったら……」


「小間使いにされたってわけか。あれ、俺でも有給取らなかったかな……」


「うん。だから、伝言。せっかく休みを取ったのに、いつもより忙しくしてどうするんすか、この間抜け! だって」


「……本当に伝言なんだよな」 


 「えぇ! 信じてよ!」と声を張るキッシュにアズマは笑う。しかし、ユラに見とおされていたことには驚いた。……心配してくれるのは素直にありがたいと思う。


 だがアズマは、未だ傷の癒えぬ町を見ていると居ても立ってもいられなくなる。のんびり家で休みでもしたら、むしろ疲れてしまうだろう。


「そういえば。さっき、ソニアさんも見たよ」


「ソニア? ノックの散歩にでも行ってくれたのかな」


「ううん、ノックは連れてなかった。でも……なんだろう。沢山荷物は持っていたような」


 それを聞いて、アズマは嫌な予感を覚える。余計な責任を背負い込むような奴ではないとは思うが、ふらっと居なくなりそうな危うさはあった。


「ソニアはどっちの方に行ったんだ?」


「あっちの方……えーっとほら、アズマさんが僕のことを助けてくれた」


「大通りか?」


「そっちじゃなくて、お化け屋敷の方」


「お化け屋敷……ソニアの家か!」


 アズマは大工の棟梁とキッシュに軽く別れを告げると、洋館に向けて走り出した。

 

 朝の光に照らされる屋敷がやけに輝いて見えるのは、数日前に降った雨の滴の反射によるものだろう。


 伸び放題の蔦に覆われる屋敷は先の戦闘で半壊しており、天井なんてあってないようなものだ。


 アズマは屋敷の前へ立つ。入口の扉は閉まっているが、穴が開いており中を除くことは出来た。ソニアは、洋館の中に入ってすぐにある広い階段に座り込んでいる。


 錆びついた音を立てながら扉を開けると、ソニアはアズマが訪れた事に気がついて微笑んだ。


「見つかっちゃった」


「かくれんぼでもしてたのか」


「ううん。でも……」


 ソニアの周りにはたくさんの紙が散らばっていた。白紙ではない。何かを書こうとして、上手く出来なかった残骸のようである。


「物語をね、書こうとしてるの。でも……出来ない」


「無理しなくていい」


「無理じゃない。少なくとも……『ソニア』だった頃は無理じゃなかった」


 その言葉の重さを理解して、アズマは俯く。


「アズマ。私ね、何も思い出せないの。ここが私のお家だったって事も。私が物語を書いていたってことも。おかしいですよね。だったら、私は誰なのかな」


「……ソニアだろ」


「違います。きっと、もう、違う。……私ね、もしも今日何も書けなかったら、アズマとさよならしようって思っているんです」


「なんでそんな事を言うんだ」


「私がソニアじゃないのなら、アズマの傍にいる資格があるのでしょうか。私は……アズマに、何も」


 アズマは、ソニアの隣に座る。視線は入り口の扉を見ているようで、もっと違う、どこか遠くを見つめているようだった。


「確かにソニアは物語を書く事が得意だった。でも今のソニアにそれが出来ないからって、お前がソニアじゃない証明にはならないだろう。本当に大事なことはそんなことじゃない」


「でも、私は!」


「昔のソニアを忘れちゃったのなら、今のソニアを見つければいい。……俺もさ、夢を追いかけていたけれど、駄目だったんだよ。それが悲しくて、辛かったけど……今はそうでもない。夢の先にあるものが何かを思い出したから」


「夢の先?」


「ああ。――――ソニア。お前は俺に夢を与えてくれた。だから今度は、俺がお前に夢を与える番なんだと思う。きっと時間がかかることだし、ソニアも大変な思いをすると思う。けど、どれだけ時間が経ったって俺は傍に居るから」


「……私が、アズマの知っているソニアじゃなくていいのですか?」


「どんなソニアでも、俺はお前の味方だよ」


 洋館の中に滴が落ちる。小鳥のさえずりが近くに聞こえるのは、親鳥がここに巣を作ったからだろうか。


 ボロボロの屋敷の中に、一人の少女がすすり泣く声が響く。彼女はようやく許されたらしい。誰よりも厳しく責め立てていた自分自身に。


 この子は最後に自分を許してやれた。お前もきっとそうなれたのに。


 脳裏に過る親友の顔にそう告げた後、アズマはソニアの頭を撫でてやった。竜の少女は少しだけくすぐったそうにしたあと、生まれ変わったような笑顔を浮かべた。(了)


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