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ラストウィザード 最後の魔法使い  作者: 松井アキ
第1章 魔法が消えた世界
8/8

一日目の夜

龍神祭一日目の夜。

シズクと第五層のとある飲み屋にて合流する。

周りが少し騒がしいが別に大丈夫だろうと席についた。



「まずは、お疲れ様だな。」と乾杯をしその日の英気を養う。

「図書館に一日中閉じ込めたみたいで悪かったな。」

「ううん、おかげで役に立つ情報手に入れられたから。あとここに向かう途中で少し見て回れたし♪」

少しご機嫌のシズクを見て安心する。



「オレが知った情報は、多少シズクも知っている事だと思うけど一応話すか?」

「うん。」と頷き料理を取り分けるシズク。


「まず、世界樹からだな。

この王都に入って初めて見た時、脳裏に過ったのは枯れていない世界樹の映像だった。

近くまで行けば分かる、触れば何か分かる、と思ったんだが結局何も分からなかった。

それとチャーリーっていうガイドマップが話して事なんだが、どうやらセクルト教っていう宗教団体があるらしい。集まっている場所が分かればそこで少しセクルトについて話しを聞けるんじゃないかなって。」

「……うん、そうだね。」

少し返答が篭った気がしたが話しを続ける。



「あとは英雄像だな。顔も名前も分からないのになぜ銅像が作られているのか、神との共通点もありそうな気がするんだ。そっちも調べ……」

「アキ!セクルト…さんについてちょっと。」

会話を断ちシズクが少し言いづらそうな顔をする。


「……」

「えっと、あんまり大きな声では言えないんだけど……」と顔を寄せ、

「実は、数百年前に家族皆殺しにされているらしいの。血はそこで完全に途絶えたらしいの。」

「え……。」

「これは王国の少数しか知らない事実みたいなんだけど、そういう本が残されてて信憑性は十分高いと思う。」

「ちょっと待て。待ってくれシズク。」

頭の中で考えていた可能性の一つが消える。

子孫という可能性がシズクの言葉で崩れた。



「少し整理、させてくれ。」と冷たい手拭きを顔に乗せ、しばらく黙り込む。

記憶を戻すのに焦っている訳でもない、すぐに知りたい訳でもない。

ただ振り出しに戻っただけだ。と自分に言い聞かせる。


シズクが言った【血はそこで完全に途絶えた】という言葉。

そして【リュビアラスク】という姓の意味。

自分の存在がまったくもって分からなくなってしまった。

リュビアラスクであり、存在してしまったいる自分。まさに今、矛盾が生じている。





「アキ、大丈夫?」と心配そうな顔で尋ねてくるシズクにそれに対し、

タオルを取り「まぁ多分」と答える。

「シズクは、セクルトについてもう調べなくてもいいと思うか?」

どんな答えを期待していたかとか、こういった事を言って欲しかったとか、そんな事はどうでもよかった。ただ、なにかしら言葉をかけて欲しくてそんな質問をした。



「それが支えになるなら、これからも二人で調べて行こ。」

シズクは微笑み、そう答えると取り分けたサラダを渡す。

「……あぁ。ありがと。」

シズクの顔を見てクスっと笑い、悩みが少し晴れた気がした。

たしかに見つけた可能性は泡となり消えていった。

だが、それらの手掛かりを追っていく事でなにかしら分かるかもしれない。

自分が誰なのかが……。






「明日の魔闘会は当日参加可能になったらしいじゃねぇか!」

「まぁ、あんだけ騒がれてたら無理もないわな。」


と、周りからやたらデカい声が耳に入る。

【魔闘会】って言葉をよく聞くなぁと、それを横目にサラダを口に運んでいると、

「あぁぁぁぁ!!!!」という叫び声とガタンという音が目の前からあがりサラダが喉につかえる。

「ゲホゲホっ。一体なんなんだよシズク!」

「あ、ごめんごめん。」と席に座る。

周りの視線が一瞬集まり散っていき、そしてまた何事もなかったかのように騒がしくなる。




「で、一体なんだったんだ?」とトマトスープを口に運びながらシズクが声を上げた理由を質問した。

「あぁ……そんなに大した事じゃないんだけど、言うの忘れてたっていうか……。」

声がだんだんフェイトアウトしていきモジモジし始めるシズク。

「はっきり言ってくれ、さっきの事はもう大丈夫だから。」

「いや、そっちのほうじゃないんだけど……。」

髪をいじり目を見たり反らしたりするシズクはさらに挙動不審な動きをし始める。



「挙動が可笑しいぞシズク……。なにかオレに関することなのか?」

「そう!実は明日の事なんだけど、言い忘れてた事があって!

その、龍神祭の一番の目玉でもある魔闘会って言うのがあって!かかか、勝手に申し込んだっていうか!一緒に申し込んだっていうか!」

目をグルグル回しながらいろんな料理をグリグリ混ぜ合わせている。

それ誰が食べるんだろうかと紫色になっていく食材を見つめながら、

「あぁ、わかった。」と軽く返事する。


「そう、わかってくれたのね!……え、わかっ軽っ!」

「まぁ、興味は少しあったからな。」

「そ、そう!でね、その魔闘会なんだけど……」

とシズクが正気に戻り話しを続けようとした時に、

「なんだいお嬢ちゃん達、明日の魔闘会に出るのかい?」

と、近くのテーブルに座っていた声がデカい二、三人のおじさん達が話しかけてくる。



「やめとけやめとけ!出るだけ無駄さ、ただの見せしめで終わるだけだ!」

「今年の魔闘会にはあの【銀翼の刃】が出場するらしいからなぁ。」

「ホント騎士団連中は何考えてるか分からねぇな!」

「ワッハハ!」と豪快に酒を飲む。





「銀翼の刃?どこかで聞いたな。」

世界樹の辺りでそんな事を噂吹いてた気がする。

「あぁ、なんか話題になってたね。」とシズクが相槌をうつ。

「おっちゃん達、銀翼の刃ってのは騎士団と何か関係あるのか?」

「そんな事も知らなかったとは、ますます魔闘会への出場は辞めといたほうがいい!」

「銀翼の刃ってのはこの王都じゃ、ちっとばっかし有名でな……」

と、酒を飲みながら続ける。


「あの若さで近衛騎士団の十番隊団長を任せられ、騎士団なら誰でも憧れるその二つ名もその時に授かったって話しだ。目を付けられた最後、奴からは決して逃げられねぇって聞くぜ。」

「そいつが今年の魔闘会に出るって話で、棄権者が続出してな。今年は異例の当日受付があるらしい。でも、誰がそんな化物と闘うんだって話だ!」

またおじさん達で飲み始める。




「ど、どうしよう……そんな奴が出るなら棄権しようかなぁ。」

先程、掻き混ぜていた料理をスプーンで口に運びながら「うぅ。」と声を出す。

「そういや、一緒にって言ってたがシズクも出場するのか?」

「うん。ちょっと優勝賞品目当てだったんだけど、棄権しようかな。」

「そうだな。シズクに何かあればボディガードのオレとしての立場がなくなる。」

「そこは適用外でいいのよ。」

「てか、シズクは銀翼の刃の事詳しくはないのか?」

「そうね。たしかに聞いた事はあるけど、王都に来たのは2年ぶりなのよ。

つまり本当につい最近、団長に着任したって事になるわね。」


「少し情報が必要な気もするが、無知で挑むのも面白い、か……。」

「え、アキは出るつもりなの?」

「当たり前だ。出るからには優勝だな。」

「じゃぁじゃぁ、優勝出来たら賞品ちょうだい!」

「もちろん。」


そんな他愛のない会話を続けたのち、店を後にする。

そして宿屋にて、シズクからアスクール消滅事件の詳しい概要を聞いたのだった。

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