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ラストウィザード 最後の魔法使い  作者: 松井アキ
第1章 魔法が消えた世界
6/8

神と英雄

昔、まだ魔法という概念が存在していた時代。

一人の青年が様々な魔法で世界を縦横無尽に駆け回っていたという。



その強さから彼は若くして様々な偉業を成し、ついにはその王国の一つの騎士団長にまで任命され、さらにその翌年には全騎士団の総団長にまで上り詰めたという。

側で見ていた者は彼の事を敬意を示し、【化物】と呼んでいた。




だが、騎士団総団長になったきっかけで彼はさらなる飛躍を成すことになる。

魔法歴1650年。親交がある国々で結成された最強騎士団による魔物狩りである。

誰もが認めた彼は、その総団長も務めた。

種族間の戦争としては三度目とされ、当時、悪魔とも呼ばれていた七つの大罪との激突ははたして彼らが勝利で終戦を迎えた。



しかし、この戦争で世界に魔物の残党が蔓延った。

責任を感じた彼は、その残党狩りも率先して務め、その功績でいつしか全世界で【救世主】と呼ばれるようになる。

だが、彼の話はまだここでは終わらなかった。






その40年後の魔法歴1690年。

世界が驚愕し恐怖したある出来事が発生する。



それはーーー世界最大王国の、その王都をたった三人の魔法使いの手によって壊滅状態にまで追い詰められた事である。

当時、その場に赴き戦った騎士団兵士の数は全部でおよそ3000強と言われているが、為す術は無くまるで赤子の手を捻られるかの如くまるで歯が立たなかった。



しかし、そこで盤上をひっくり返すかのようにあの救世主が登場した。





彼はたった一人で三人の魔法使いと対峙し、深手を負いながらもギリギリのところで撃退に成功したのであった。

この大事件がきっかけで彼は王国から、いや、世界中から

【救世主】ではく【魔法界の神】として称えられるようになった。



やがて彼は、魔法界の神としてその名を世界中に轟かせる。




その誇り高き名は

【セクルト・リュビアラスク】







「リュビアラスク……」

世界樹前の銅像に刻印される名前を指でなぞり静かに見上げる。

銅像の顔は老いてもなお強強しい顔立ちで前を向いていた。

この世界を見守るように。


「神として称えられた男……。オレと同じ名だ。

あんたならきっと、オレが何者なのかわかるのか……?」




昨晩、話を終えてからのシズクが神妙な面持ちだったので問いただしてみると、やはりこの名前について少しは知っていたようだった。

よくあるおとぎ話。だと言えば簡単だろう。

子供向けの本だったため気に留めていなかったということと、そこまで重要な事だったとは思ってもいなかった、ごめん。と小さな声で謝罪をした。

そもそも記憶がないのはシズクのせいではないのだが、責任を少なからず感じたのだろうか、シズクは別行動で図書館へ行き調べてくると意気込んでいた。




次の朝、起きる時にも花火が上がり、その音で目が覚めたくらいだった。

龍神祭初日、王都は、特に世界樹があるこの第五層はとてつもないほどの賑わいだ。

すっかり王都はお祭りムードである。

調べもので部屋に篭らせるなんて申し訳ない事をしてるなと罪悪感まで感じる。




「あとで、シズクに何かお礼しないとな……。」


「どうしたよ、あんちゃん!そんな物思いな顔して!今日からお祭りだってのに、もっと明るく楽しく行かなくちゃまだ始まったばかりだぜ!」

と、少し小さなおじさんが横で話かけてくる。

小人……いや、所謂いわゆるホビット族というのだろうか。



「アンタもセクルト信者だろ?だったらこのお祭りはトコトン楽しまなくちゃな!」

「セクルト信者……?」

「あれ違ったかい?それじゃぁ、鬼吸ききゅうのほうかい?それとも……」

「まてまてまて、一体なんの話をしてるんだ。てか、あんた誰だよ。」

「おっと、これは失礼したね。私はこの祭りでマップガイドをしているチャーリーという者だ。」

その小さな手で握手をする。



「さっき言ったセクルト信者ってのは?」

「まさにこのお方を神として信仰している人達だよ。彼の持つ力は言わば神そのものとされ、実際には神の生まれ変わりや子孫なんじゃないか、なんて噂も囁かれてる。」

「凄い人、なんだな。」と改めて銅像見上げる。

「この王都、いやアルジミア王国全土のそのほとんどがアラスク教団の信者とも言われていてね、他の国々にももちろん大勢いるくらいさ。……君は違ったみたいだけどね。」

「あー、あんまりそういうの詳しくないんだ。無宗教ってやつさ。」と目線をズラす。



「その、教団ってのは他にもあるのか?」

「代表とされる宗教は全部で四つ。無宗教でも世界の三大魔女は知ってるよな?

その魔女達を信仰する教団とさっきも言ったアラスク教団。

この中でも三大魔女の教団同士は仲が悪いとされているよ。」




そう言うとチャーリーは神の銅像の横にある、もう一体の銅像に目を向ける。

釣られて目線が行く。

それは神の銅像とは違く、顔はフードで分からず名前さえも刻まれていない。

ただ一つ刻まれているのは……。


「こいつは【この世界に光をもたらす者】って言われているんだ……。

世界を救った英雄像っても言われている。

どういう人物だったか謎だらけだけどな、オレはこっちのほうが好きなんだ。

密かにこいつの宗教を作ろうとおもってだな。」



「光をもたらす英雄……。」

神と並ぶその銅像はどこか少し笑っているかのように見えた。


「まぁ、悩み事じゃなかったなら安心したよ!」

と背中を思いっきり叩かれ「お祭りなんだ楽しめよ!」と言いながらその場を去って行ってしまった。



神と称えられた者と英雄と呼ばれた者。

この二人には何かしらの共通点があるようにも感じる。





【シズクサイド・王都図書館ラスランカ】



ここは第四層の十番地、王都の中でも大きいこの図書館は第四層から第五層まで突き抜けており書籍の数は世界で一、二を争うほどである。

そこに一人の少女が受付でなにやら騒いでいた。



「困りますお客様!今日からお祭りですが、お客様のようにご利用されている方はたくさんいますので、そのような勝手は許されないのです。」

「なんでよ!いいじゃないの少しくらい!」


前のめりになる少女を慌てて抑える。

「いくらお客様が整備士様でいようとダメなものはダメなんです!」

「私はこの国が認める整備士なのよ!?その整備士がどうしても調べたいものがあるって言ってるんだから協力するのが道理ってもんじゃない!」

「だから困りますってお客様!」



そうこうしているうちに奥から眼鏡をかけ正装した男が現れる。

「一体なんの騒ぎだ。」

「これは支配人様!」

「説明してもらおうか。」

「このお客様がどうしてもこの奥に入りたいと申し上げておりまして……。」


そこは国が所有する重要な書物が保管されている特別な者しか入れない部屋である。



「なるほど。して、貴女は?」

「私は、整備士のシズク・グランベリーよ。この中にしかない情報が知りたいの。」

資格書を見せ。


「整備士様でいられましたか。これは失礼いたしました。

ですが、いくら整備士様でもこの中に入る事は残念ながら許されていません。」

「ふっふっふ。今後この国に絶大な発展があるかもって言ってもかしら?」

「……ほぅ。詳しくお願いします。」



「直入に言うわ、魔法歴が知りたいの。詳しく載ってるのはこの中にしかないでしょ?」

「それを知って何が変わるのですか?」

「それを辿る事によって、ラクリマによる可能性が変わるわ。」

「可能性……?」

「そう、その先の可能性……魔力性質三つ目の掛け合わせよ!」




【王都世界樹広場前】





「おいおい、今年の魔闘会はあの【銀翼の刃】が出るらしいじゃねぇか!」

「マジかよ!そりゃ参加者のほとんどが辞退する訳だな。」

「あぁ、だから今年は当日受付があるほど少ないらしい。」

「一体何を考えているかわからねぇな騎士団様たちは……」




「おい!あっちで乱闘騒ぎだってよ!」

「見にいってみようぜ!」

「なんでも仲介に入ったのがあの二番隊団長ランスロットさんらしい!」

「うわぁ、こりゃ騒ぎ起こした方もついてねぇな。」




「これが世界樹かぁ。今は枯れているが昔は凄かったらしいな。」

「あぁ、もうちょっと早く生まれてたら見れたかも知れないのに。」

「数百年前までは自由に空も飛んでた時代だからなぁ。」

「今の時代はある意味便利かも知れないが昔に生まれたかったなぁ。」



「あっちでパレードがあるみたいだ、行ってみよう。」

「今年はどんなモノが出てくるか楽しみだな!」





一体何時間この世界樹の前にいたのだろうか。

触ってみるも何も感じなかったし何も視えなかった。

初めて見たあの時、頭によぎったあの映像は、枯れていなかった時の映像は一体なんだったのだろうか。

世界樹に触れる事で少しでも自分の記憶に触れられるかもと思っていたが、そう簡単にはいかないものだ。


太陽は真上に昇りお腹も空いてきた頃合だろうと、その場を移動しようと歩き出す。

すると、


「ちょっと待ちなさいそこの貴方!」

どこからか声がする。見渡すが声をかけられた感じがあるだけで周りには誰もいない。




「ここよ、ここ!」

と上を見上げる先に、箒に乗った少女が風を吹き上げ目の前に降りてくる。

「とっとっ。」と着地すると箒を抱え服をサッサと整え、

とんがり帽子を軽く上げて、彼女は自信満々にこう申し立てた。




「単刀直入に言うわ!貴方、魔法使いでしょ!」

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