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ラストウィザード 最後の魔法使い  作者: 松井アキ
第1章 魔法が消えた世界
4/8

アルジミア王国王都アルターナ

朝、まだ陽も昇らない時間帯にバイクへ跨り王都へと出発する。

バイク下に取り付けてある風のラクリマの発光が緑色に光り神秘的にも感じる。

王都へは、この間行った街よりもだいぶ離れていて早朝に家を出発しても着くのは昼頃だと言う。




王都は第一層の開門口から第十層の【最上の地】と呼ばれる十段階の地形で成り立っている。


第一層の開門口は合計20の道で繋がっており、それぞれの道から王都へ入るにはいくつもの検問を通り抜けなくてはならない。

第一層から第五層までを商業地。

第六層から第八層までを住民地。

第九層が貴族や王宮の役人達が住むと言われる上格地。

そして、第十層が王族が住む【最上の地】と呼ばれている。


王都の特徴と言えば【世界樹】と呼ばれる巨大な樹木があったそうな。

今は枯れてしまってはいるがその昔、大気中の魔力が集まるいわば魔法の樹と呼ばれパワースポットとして有名だったらしい。

王都の大気中の魔力が極限まで薄れた事により枯れしまったようだ。





バイクで走る事、何時間経っただろうか。

途中の休憩も挟んだとは言え、王都へ着く頃には既に陽も昇りきっていた。

風に吹かれ、ここへくる道中にいくつかラクリマを使った乗物や、空を飛んでいる機械も見たが、昨日街で見た数よりやっぱり多く感じた。


やはり、王都はデカい。

だが、高い建物が建て並んでいるかと思えば自然が多く、発展途上国と言うには信じ難い外観をしている。






「さぁ着いたわよ、ご苦労様。」

「いえいえ、そちらこそご苦労様です。」

シズクはラクリマ搭載専用の駐車倉庫を借り、手続きをする。

ラクリマってのは高価らしいが、七つも付いるのを盗まれたらそりゃ大変だ。



……何かのお祭りだろうか?

王都開門口がある第一層は、乗り物が多く交通量や様々な種族が往来している。

なにやら人の行き来がやたら多く感じる。

様々なところで【龍神祭】という文字を目にするが、これのせいだろうか。

飾り付けやお供え物を準備する人、慌ただしささえも肌で感じるほどだ。

こんなところで迷子にでもなってしまったらどうする事も出来ないだろう。





「さて、行くわよ。」

いつも作業時に着ているオーバオールでなく、今日は王都だからかそれなりのオシャレをしてきたらしい。ちなみに自分はいつも通りの服装だった。

「あそこに大きな樹木が見えるでしょ?あそこが第五層の中心街よ。」

と、指を差し目線を誘導する。



「―――!?」



それを見た瞬間、頭に映像がフラッシュバックする。

なんだ?枯れて本来の姿ではないが、たしかに憶えてるぞ。

【世界樹】と言ったか。




「ん、どうかした?難しい顔して」

「あ、いや。その、あの樹木っていつから枯れてた?」

「んー、生まれた時には既に枯れてたしなぁ。」



シズクが生まれる前から枯れてるとしたら、

直接関係はないのかもしれない

いや、だとしたらなぜ枯れてない世界樹を知ってる?

何かしら関係があるのか?

目の前まで行ったら分かるか?

いや、直接触れて見た方がーーー




「おーい」と目の前で手を振られ我に帰る。

「あ、ごめん。」

「何か思い出した?」

「いや……」

「中心街には行く予定だから、その時にまた時間をあげるわ。だ、か、ら、今は付き合う事!」


そう言って手を引っ張り、第一層商店街へと足を運んで行く。






世界樹に関してはなんとも言えないわだかまりはあるが、今考えていてもどうしようなく記憶を早く戻したい理由もない。

少しずつ戻していければいいと思っていた。



「これこれ!」

嬉しそうに買い物をするあたり、やっぱり女の子なんだなぁと後ろで荷物を持ちながらそんな事を思う。

しかし、第一層で買った物や第二層で買った物に関しては正直ただのガラクタにしか見えない。

ただ、彼女の手にかかればこれらの部品も意味を成してくるのだろう。




「おい、てめぇ!どこに目つけてやがる!」

「ヒィッ!す、すいません!決してわざとではなくですね、」

「わざとだったら騎士様はいらねぇんだよ!!」




やれやれ、すぐ近くで騒ぎが始まった。

巨漢の一つ目の男、黒色の体。オークの一種だろうか。

それとひょろ長い店主のようだ。


王都みたいな大きい場所にはこういう厄介事はつきものだ。

そんなものに巻き込まれてたら体がいくつあっても足りやしない、取り敢えず見ない振りでもしておこう。

だが、あの店主も可哀想だ。

誰がどう見ても当てつけじゃないかと思う。





「ああいうの嫌いなのよね。」

と、戻ってきたシズク。

あー、……なんとなく展開が読めてしまった。





「ちょっとそこのゴキブブ!」

まず、それは悪口なのだろうか。

「ご、ゴキブブだとぉ!?」

悪口だったらしい。

―――後で聞いた話では通称Gさんと呼ばれる気持ち悪い生物の名だそうな。




「もうちょっと優しい言い方っていうの出来ないの!?」

優しい言い方?

「どちらに目をつけているのでしょう」「騎士様はいらないですよ」とかだろうか。




「そりゃそこの店主が悪いかもしれないけどね、弱い者いイジメして何が楽しいわけ!?

大体、あんたの図体がデカいのが悪いんじゃない!」

「これは生まれつきだ!」

それはごもっともである。しかし、騒ぎをさらに大きくするシズクもシズクである。

内面が弱いのにどうしてこう強く行けるのだろうか。

「いい度胸じゃねぇか、お嬢ちゃんよぉ」

指の骨をポキポキ鳴らし、近づいてくる。

見るからに相手はかなりプンプンのご様子。






「シズク行くぞ」と手を引っ張りその場を離れようとする。

「ちょ、まだ話は終わってないわよ!」

暴れるシズクを無理やり連れて第三層へと続く階段へ向かおうとするが、

「お嬢ちゃんの言う通りだ。誰が勝手に行っていいって言ったんだ?」



「邪魔だ、このゴキブブ野郎!」

「……てめぇもオレを、ナメるのかぁ!!」

頭に振り落とされた太い両腕を、シズクを抱えて避けようと足に力を入れて飛ぶ。

「え、っちょ。」

それは自分でも思いもよらぬ脚力で空を飛び、宙を舞う。





その数秒後、ズドンっ!と音を立て落下。

「いてて……」

着地に成功するわけもなく、力の加減を間違えたのか、とんでもないジャンプ力だ。

シズクに渡されていた風のラクリマが仕込んである靴のせいなのかもしれないが。

第三層まで来てしまったが、砂埃で上手い具合に姿を消せた感じになったのはこちらとしては都合いい。

さて、仕返しに来なければいいのが。



「シズク、その行動力は認める。だが、大きな街ほどああいう騒動はいくらでも起きる。

それをひとつずつ解決していくには体が幾つあっても足りないぞ」

「じゃぁ、見て見ぬ振りをしろってこと?」

ちょっと拗ねてこちらを見る。まぁ、簡単に言えばそうなのだが。

「難しいところだな。ただ、ここは王都だ。

さっきも耳にしたが、ここには騎士団もいる。

そいつらに任せても問題はない。」



「まぁ、そうね。」

「……無茶はしない。約束してくれるか?」

少し元気がない頷きをするシズクの頭をひと撫でして立ち上がり、散らばっていた買った物を拾い集める。



「そういや、勢いで三層まで来ちゃったけど二層での買い物はもう終わってたか?」

「終わってない。」

「それは申し訳事をしたな。」

「いいよ、別に。帰りに廻ればいいだけだし。」

と、まだ少し拗ねてる様子だ。―――話題を変えるか。



「今日のご予定は?」

「そうね。今日は中心街まで一通り買い物してから、どこかでご飯食べて、

第六層にある宿屋でチェックインよ。」

そう。今回の王都へは遠征は三泊四日での買い出しになっている。

ラクリマなんかも買ってなにやら改造目的らしいが、今回の目玉はどうやら三日目にあるらしい。



「それではお嬢様、お買い物の続きをいたしましょうか。」

と、ご機嫌を取るため座り込むシズクに手を差し伸べる。

「……ありがと。」








―――それから何時間経っただろうか。

第四層での買い物も済み、陽もとうに暮れ始めようとしている。

その頃にはシズクの機嫌もすっかり直り、希少のラクリマを見つけると子供の様にはしゃいでいたりもした。




「いい買い物が出来たわ!やっぱりお祭りってだけでいつもより収穫が良かったわね……」

「それはなによりだ。」

「でも、ダメね。

やっぱり人工ラクリマが大きく出回っているせいで天然モノをあまり見つける事ができなかったわ。」




【人工ラクリマ】というのは、天然ラクリマの魔力性質を分離し数を増やす事と、

微小に存在する大気中の魔力を吸収し、強制的に結晶化させてしまう事を言うみたいだ。

昔は、大気中の魔力を摂取する生き物を捕獲し作っていたらしいが、

絶滅危惧種に認定されそれを行えなくなり、その生物の原理を研究し、

今は少しだけなら機械で摂取可能になったらしい。




何かを成す為には多少なりの犠牲はつきものだ。

安い人工ラクリマのおかげで助かっている者は多いだろう。

一概にそれが悪いとは言えないものだ。



「荷物持つの大変そうだから、先にチェックインしてからどこか食べに行きましょう!」

「あぁ。」

なにやらご機嫌である。

このままなにも起きなければいいのだが……。




「やっと見つけたぜぇぇ!!」

んー。気のせいか?後ろの方で誰かが叫んでいる気がする。

そして、その言葉の矛先がこちらに向いている。様な気がする。




「シズク、後ろ振り向くなよ。」

「え?」

その言葉に振り向くシズク。

「ああぁっ!さっきのゴキブブ野郎!!」

「振り向くなと言ったはずなんだが……。」



「さっきはよくもやってくれたなぁ。」

……何かした覚えはないので、他人の空似かと。

「アキと約束したからもう構ってあげないんだからねー!」

ベーッと舌を出すシズク。完全に挑発である。



「ったく、ちょっと持ってろ。」

買い物袋をシズクに預け、軽く体を伸ばす。

「え、アキ、大丈夫なの?」

「しらん。」




「さっきはどういう機械を使ったが知らねぇが、馬鹿にした事を後悔させてやる!

そして、お前らの荷物は全部俺様が頂いていく!」

なぜそうなる?



「どっちが痛い目見るか、だな。」

自分も相手も実力がはっきりしていない以上、無難にやり過ごす事が一番いいのだが。

図体がデカいわりに攻撃速度は充分あるように見える。

さて、ホントにどっちが痛い目見るか分からないな……。




「行くぜぇ!!」

突っ走ってくる巨漢。

凄みさせ感じる。

「……(考えろ、まずは上に飛んで回避してから、、、)



「そこまでだ!!」


その時、大きな剣を突き刺し巨漢の男との間に割って入る正装した年半ばの男。



「私は近衛騎士団、第三番隊団長マルク・レッドだ!」

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