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二話


俺は二階にある自分の部屋に荷物を置き、その後リビングのソファーに座る。

テレビを付け、適当な番組を垂れ流しにする。そうしていると母さんがキッチンから話しかけてくる。


「ルナティック。今日はシチューよ。あなた好きでしょ?」

「そうだね。母さん」


母さんのシチューはプロのシェフと張れるくらい旨い。口に入れた瞬間に広がる濃厚かつ繊細な味。飲み込むと口の中は驚くほどさっぱりしており、次の一口を欲するがあまり、唾液が満ちる。ここまで旨いと逆に怖くなってしまうほどだった。というか、シチューだけでなく料理全般が旨い。


「そういえば、今日は遅かったね。学校で何かあったの?」


母さんは料理をしながら続けて話しかけてくる。


「あぁ、いや特に何もないよ。友達と遊んでたんだ」

「あらそう。…リナちゃん?」


母さんは軽く微笑みつつ話す。少し焦りを感じた俺は顔をキッチンに向ける。


「いや、なんでそうなんだよ」

「ふふふ」

「ったく」


顔をテレビに戻す。母さんはリナが俺に好意を寄せてることは知っている。そして、たぶん俺がリナに向ける気持ちと考えも理解していると思う。母さんは縛られることのない、言わば自由人だ。


父さんと結婚するとなった時も、Classによる親の反対や周りの反対、ましてや「マザー」の反対ですら跳ね除け、結婚に至ったという。跳ね除けるために行った行為はかなりあれなもので、父さんに対する「愛」についてを反対する者に対して、理解されるまで三日三晩永遠と語り続けたという。「マザー」相手にはどうやったかは誰も知らないが、どういうわけかある日突然許可が下りたという。ただ、そのリスクとして母さんのClassは父さんと同じになり、生活は前より不自由になってしまった。


そんな母さんは俺がしたいことに対しては肯定し、応援してくれる。このことに関しては感謝してもしきれないし、自分の生きる上での価値観といったものはこの人から生まれたとも言える。


「ご飯出来たわよルナティック。運ぶの手伝って」

「あぁ、今行くよ」


俺はテレビを消し、キッチンに向かう。そこには出来立てのシチューにいくつかのパンが置いてあった。

それをテーブルまで数回にわけて持っていく。俺と母さんは席に着き、手を合わせ、声をそろえる。


「「いただきます」」


そして食事を始める。味の感想や身近に起きた出来事、今後のことなど、適当に世間話を交えたもので特別珍しいものでもない、一般的な食事であった。気の休まるひと時で、また今日一日のまとめともいえる行事でもあった。


「「ごちそうさまでした」」


俺と母さんは食事に使った食器をキッチンに運びいれる。俺はその後風呂に入り、自分の部屋に戻る。


「ふぅ」


部屋にある椅子に腰かける。部屋はこれと言って珍しいものではなく、机やベッド、タンスなど一般的にあ家具が添えられているだけであった。


俺は机の前の椅子に座る。そして机の一番下の引き出しからあるものを取り出す。

それはかなり色あせており、デザインからして現代とはかけ離れた旧式の物と見て取れた。


「今日もやるか…」


机の上に置かれたそれを開き電源を付ける。カリカリと音を鳴らし、黒い画面には何らかの言語が表示される。数秒ののち、黒い画面は青い画面に変わり、左上には一つのファイルが表示された。


「いまだにこんなものが存在するなんて、信じられないよなぁ…」


昔、文化そのものが短い間に大きく変わり、今の文化が始まる前に存在したとされる物の総称、Antique(アンティーク)。Antequeが存在したのは本当にあったかが未だ不明な旧世紀。その情報はマザーの監視下の元、公開が禁止されているもので誰一人として旧世紀について知っている者はいない。ただ、たまにAntequeがどこからか見つかることがある。だがそれは政府に金銭等で交換される一種の金券であり、Anteque Hunterと呼ばれる職業が存在するほど、それは価値がある。


Antequeの性能は現代の代物に比べ、かなり劣っているためほとんどの人はそれを無価値と考え、またマザーによる制約でAntequeは所有してはならないことになっている。そのため、世には出回ることはほぼ無いため、ある意味で幻の遺物と化している。


俺の目の前にあるこれはAntequeのノートパソコン。ただの鉛筆でさえもAntequeとされる中で、機械系のAntequeはかなり高価な物で。また所有していることがバレれば重い罰を受けることとなる。


そもそもなぜこんな代物を持っているのか。それは俺にもわからない。ある日、机の上に置いてあったのだ。いろんな思想もめぐり、すぐに手放そうとしたが、手放す前にどうせならと電源を付けたのが間違いだった。そこには一つのファイルが表示されていた。そしてそのファイルの名前には『ルナティック:コード』と。


自分の名前が記されたそのファイルに興味を惹かれ、俺はそのファイルを開き、中にある一つのデータを開く。そこにはあるプログラムが長々と永遠に綴られていた。それは何の言語で書かれているか、何についてのプログラムなのかは全く分からなかったが、俺はその日からそれの解読をすることを日課にした。内心、バレたら…などと考えることもあったが、それよりもこれが何なのかを知りたいという好奇心と普段の勉強では満足できないこともあり、ある意味高難易度のこの問題を解いた時には…などと心躍らせるため、今の今まで夜になると解読に励んでいた。


「とりあえず昨日わかったこともあったし、もう一度まとめておくか」


ファイルの中にある一つのデータには『まとめ』と記されたものがある。それを開くと、膨大な文章が綴られていた。一つ一つの言語列に対して、それぞれどのような意味合いを持つかといったものが書かれている。俺はそこに新たに言葉を加え、添削し、と時間をかけてまとめを書き直す。そしていくつかのことがわかるようになってきた。


「うん…。やっぱりこのプログラムはあるAIを起動させるためのものなのか。そして、そのAIの目的は制御…。たぶん、旧世代の機械による工場の生産ラインを整えるためのものだったのか。まだこれだけの情報じゃ断定はできないし、それに…」


俺はプログラムを下にスクロールしざっと見渡す。


「それにそれぞれの機能、制御にあたる部分には必ずそれをさらに抑え、制御するプログラムが付加されている。それほどまでにこのAIは危なっかしいものだったのか…」


詰まるところを言うと、停止コードと言うのが正しいのか。そのもの自体の機能を停止させるためのコードが必ずといっていいほど、様々な所に散布されていた。


作業にひと段落着いた頃には、既に26時を迎えていた。まとめたものを保存し、電源を落としそれを机の一番下の棚に入れた。そして充電を行うためにジャックをパソコンの横についている接続部に入れる。ちなみにこの充電器は自家製のもので、適当なジャンク品を集め、充電器となりえる廃棄物のAntequeを修理し、そして使えるまでにしたものであった。


「明日も学校だしな…」


俺は部屋の電気を消し、ベットに潜り込む。部屋は月明かりで少し照らされていた。



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