プロローグ
夏の甲子園予選決勝、青南高校1点リードで迎えた9回ウラ。
この回を抑えれば夢にまで見た甲子園へのキップが手に入る。
しかし
「ボール!フォアボール!」
青南高校エース伊賀良昇祐は2アウト満塁、一打出ればサヨナラ負けのピンチを作ってしまう。
「まあ次の打者は7番だ。ミスさえ無けりゃどうにかなんだろ……」
そう考えながら、相手打者と対峙する。
まさに絶体絶命、そう形容するしかないピンチだが昇祐は変化球を中心に投げ込み、1ボール2ストライクと試合終了まであと一歩のところまで漕ぎ着ける。
キャッチャーが出したサインと彼の考えは全く同じ。
「最後は外角低めのストレート!」
ここまでほとんどの球が変化球。恐らく打者には、渾身のストレートにタイミングを合わせるほどの技量は無いはずだ。
高校生活3年間の思いを込め、全力で腕を振り渾身のストレートを投げ込む。
「キィン!」
白球と金属バットがぶつかり合う音と共に、鋭い打球が飛ぶ。
渾身の球を投げ込み、マウンドに不安定な姿勢で立つ昇祐も元へ。
「やべえ……間に合わねえ……!」
すぐに打球を避けようとするが、防ぐ手も避ける首も間に合わない。
もちろん、覚悟を決めることすら間に合わない。
「ゴッ!」
頭蓋骨と打球がぶつかり合う音と共に、昇祐の意識は暗転する。