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第96話 講釈 まさかとは思うけどな

賭場とばですか? 場所はわかりますけど、何のご用事ですか?」


 城塞都市ヨルグの中心部にあるヘイコルト商会、その裏手で跡取り息子のギースノさんに賭場の場所を尋ねてみた。


「一度行ってみたくて」

「まあ興味があるのはわかりますけど・・、確か此処へは魔核鉱石の買い付けでいらしたんですよね?」

「はい」

「じゃあそちらを先に済ませてはいかがでしょう?

悪い事は言いませんから、あまり他人様ひとさまのお金を持って行か無い方がいいと思いますよ。

ちなみに、その依頼はどこからのものか教えていただいてもよろしいですか?」

「ええ、えっと、オューの商人ギルドとスェスエル商会とアーミトン商会です」

「ふむふむ、なるほど・・、いや、参考になりました。

それでどの程度・・、それぞれ大金貨100ずつですか、少しお待ちください」

 

 そう言ってギースノさんは、裏手から店の中に引っ込んでいく。

今日はいいお天気だなー、そんな事思いつつ呑気にヒマつぶしてたらギースノさんが戻ってきた。

若干申し訳なさそうな感じで。


「すいませんアルくん、うちに今あるのは大金貨200枚分だけみたいなんです。

勿論すべてというならあるんですが、うちも他におろす分もあるんでお譲り出来るのはそれだけみたいです」

「そうですか・・」


そうすると・・、あっビンチャーさんのところへ行ってみるか。


「わかりました、では大金貨200枚分お願いしてもいいですか?

足りない分は余所で都合つけます」

「当てがあるんですか?」

「在庫があるかどうかはわかりませんけど、一度ホーエル商会さんの依頼を受けた時に仕入れ担当のビンチャーさんという方と知り合いになったんですよ」

「ほう?」

「前にリンドス亭で会った時も、依頼を頼みたいみたいな事おっしゃっていたんで覚えていてくれてると思うんですよ、そちらへ行ってみようと思います」

「ビンチャー氏が・・、そうですか」


◇◇◇◇◇◇


 ギースノは短い時間ながら己の思惑にふけっていた。


あのビンチャー氏が、依頼の時だけでなくわざわざリンドス亭へ出向いてまでアルくんと接触をもった。

彼は利に聡い利によってしか動かない男、その彼が自ら再び依頼を頼みに行ったという事は、アルくんを囲い込もうとした?

つまり、アルくんにはそれだけの能力と価値があると確信する何かがあったという事。


 そういえば、ゴナルコのサルギス軒で商品の運搬と売上金の回収をお願いした際、これまで一度も満額貰った事の無いあそこからしっかり回収して来たことがありましたね。

あの時はどうやったのか有耶無耶になってしまいましたが、何か特別なチカラがあるのでしょうか?

これまでは昔からの知己という事で便宜を図ってきましたが、こちらも考えを改めなければなりませんかね。


 とりあえず、今回は一度ビンチャー氏の本気度を確認してみましょうか。


「それでは、こうしてみてはいかがですかアルくん。

先にホーエル商会さんのところで買い付けしてみてください。

そちらで大金貨300枚分まかなえればよし、もしも足りないようでしたら御足労ですが再びこちらへおいでになればその分都合つけます。

そしてもし、向こうに余裕が無く買い付けが出来ない時にはうちがすべて受け持ちます。

他の取引先には待ってもらって、アルくんに大金貨300枚分の魔核鉱石をお譲りしますよ」


これで真意を測ろう。

ホーエル商会さんも今の時期それほど余裕はないはず、これで断ればアルくんには興味が無い、うちと同程度であればそれなりにかっている。

そして、もしすべてを用意するとすれば間違いない、ホーエル商会はわからないが少なくともビンチャー氏はアルくんを専属に欲していると。


◇◇◇◇◇◇


「えっ、いいんですか? わかりました。

それじゃあ、先にホーエル商会さんの方へ行ってみる事にします」


 そう告げてその場を去ろうとしたら、ギースノさんに呼び止められた。


「アルくん、賭場の場所はいいんですか?」

「・・すいません、忘れてました」

「いえいえ、別に謝ってもらうような事じゃ無いですよ。

ウチの向かい側にある、武器屋さんの脇に路地があるでしょう?

あそこを入っていくと、奥に食事処があります。

そこへ入ってカウンターの中のヒトに、『下はやってるか?』と言えば地下へ降りる階段に案内してもらえます。

そこがそういう場所になってますから、見てくるといいですよ」


へえー、地下なんてあるんだー。


「ありがとうございます、早速行ってみます」

「私はそろそろ出発しますが店の者に言づけておきます、先ほどの打ち合わせ通りになるようにしておきますから」

「何から何までありがとうございました」

「いえいえ、今後ともどうぞ御贔屓に」


 ギースノさんと別れてお店の表側に回った。

まだ来てないのかどうしようかな・・、先に賭場へ行ってみるか。

そうと決まれば、お店のヒトに二人が来たら待っててもらうように伝言してもらおう。


通りを渡って、さっきギースノさんに聞いた武器屋さんの隣の路地を奥へ。

あった、食事処って看板がある、結構大きいな。

なんかいざとなったら緊張してきた、ちょっとエイジと相談してからにしよう。


【エイジー、怖いとこじゃないよね?】

【ここまで来て何言ってんだ? 自分で来たいって言ったんだろ?】

【そうだけどさー、看板とか出て無いから何か不気味で】

【そりゃあ賭場ってのは非合法なんだから、大っぴらに看板なんか出せるわけないだろ】

【そうなの?】

【そうなの! 何の商品も取引せずに金だけやり取りするのは、金貸しと両替所以外には国は認めて無い。

当然商人ギルドに申請できないから営業権も認められてない、いわば不正が行われてもどこにも泣きつく事は出来ない治外法権ってわけだ。

それでも、娯楽の少ない国で合法とは認められていないが、そう目くじら立てて取り締まられてもいない。

よっぽどの刃傷沙汰やトラブルが起こればまだしも、通常警ら隊も見て見ぬふりで済ませてる。

商人ギルドも同じで、特に問題起きない限り査察にも入らない、そんな微妙な場所だな】


そんな場所なんだー、認められてないのに取締りされないってのは確かに微妙な感じだな。


【それで国としては問題ないの?】

【どうだろうな? 一番問題なのは賭けで身を持ち崩すつまり働いた金つっこんで全部すっちまう。

若しくは、一度大儲けして大金を手にすると働くのがばかばかしくなり働かなくなる、そうなると労働力を失う国は大きなダメージを負う。

それがあまりにもな事態になれば、大々的に取り締まる事もあるだろう。

でも、現状それほどひどくなってないから見逃されてるんだろうよ。

おそらくは、客ってよりも開催してる胴元がその辺上手くコントロールしてるんだろう。

儲け過ぎずかといって損しない様にな。

使い所はどうかと思うが、相当頭の良い奴がしきってるんだろう】

【ふぇー】


よし、せっかく来たんだエイジも居るんだし行ってみよう。

意を決してドアを開けて入ると中にはテーブルが六つあり、その他にカウンターと二階へ上がる階段がある。

その内の二つのテーブルにお客さんが座ってる、地下へ行く階段は見当たらないけど。


カウンターの中には、上背はそうでもないが肩幅が広くていかにも腕力有り余ってる的な男性が、グラスを磨きながらジロっとこちらを見てくる。

睨んでる訳じゃ無いんだけどかなりな威圧感、まだ何にもしてないのに客商売としてこの態度はどうなんだろうとか思ってしまう。

えっと、確かギースノさんに言われたのはっと。


「あの、下はその、やってますか?」


なぜか若干表情が和らいだように見えたと思ったら、すかさずカウンターの端を持ち上げて中に手招きされた。

おそるおそる入ってみると、男性の後ろの棚がスライドしてその後ろへ下に続く階段が現れる。

しかし他の客もいる中で堂々と階段見せるってことは、少なくともここに居るのは皆関係者か下でもお客さんってことか。


「ごゆっくり」


微笑みながら声をかけられた、ああなるほど、こうなってはじめてお客様って認知されるのか。

階段を下りるとドアがありそこを開けると、雑踏に居るかのような錯覚を感じる。

換気が悪いせいかむわっとした空気の中で、そこかしこでヒソヒソと話し声がする。


中にはイスなど無く、壁には五つに区切られた区画それぞれに黒板があり、そこに色々な書き込みがされている。

これがどうやら賭けの内容と、その下に書いてあるのが達成予想者リストとその配当を決める倍率らしい。

ふーんと思いつつ順番に見ていくと、真ん中の一番大きなスペースをとってるところがあのオューのダンジョンの依頼についての賭けの場だった。


僕は黒板の前にたむろってるヒト達をかき分けて、最前列で内容を確認。

やっぱりあの依頼だ、読み進めていくと候補者と思われる名前が羅列してある箇所が目に留まる。

あの名前の横にある数字が倍率ってことか・・、ん? あの横棒で区切られた下に書いてあるのは何だろう。


◎×の横に『風雅ふうが』『雪華せっか』とあり、○×の横に『天元てんげん』と書いてある。

よくわからないなどうやって見るんだろうか、こういう時はエイジに聞いてっと。

そう思って話しかけようとしたら、突然肩を叩かれた。


「よっ、初めて見る顔だな、俺はビリーっていうお前名前は?」

「アルベルトと言います、アルと呼んで下さい」

「ほー、礼儀正しいあんちゃんだな、気に入った! 分らねえことがあれば何でも聞いてみな!」


なんだろうこのおじさんは、なんかえらく軽い調子だけど着ているものは高そうだし常連っぽいから、とりあえず聞いてみようかな。


「あの、初めて来たんで見方が良くわからないんですが、あそこに書いてある◎×とか○×ってどんな意味なんですか?」

「ああ、ありゃあ不参加表示だな、あそこの横棒の下に書いてある奴らは依頼をやらねえから賭けの対象にならないってこった。

◎×ってのは確実にって意味で大体は直接確認取れた場合だな、◎が確実で×が不参加合わせて確実に不参加ってこったな。

○×ってのはおそらくはって意味で、○が絶対とは言い切れないがかなりな確度でおそらくは、で、×が不参加でおそらくは不参加だろうって意味だ」


ふーん・・、えっ? 『雪華』がやらないのはレイベルさんに聞いてたけど、『風雅』は地図マップ作った位だからてっきり参加すると思ってた。


「あの、『風雅』と『雪華』は知ってるんですが、『天元』っていうのも有名な傭兵団なんですか?」

「? 珍しいなあんちゃん、五大傭兵団の内で知らないのがあるなんて」

「そんなに有名なんですか?」

「そりゃあな、俺の知ってる限りじゃ五つの中で一番古いのが『天元』だ、それだけに一番有名なんだがな」

「それでその、なんで『天元』はやらないってわかるんですか?

さっきの説明では、◎は直接確認取れた場合ってことでしたけど、○ってのはどういう基準でつけられてるんでしょうか?」

「そいつあな、あそこにおける不文律ってか設立以来の伝統ってーか、『天元』は基本的に国や王族からの依頼は受けないんだ。

だから国からの依頼である今回は、これまでの慣習にのっとっておそらくは不参加だろうってこった」


そんな方針立ててる所があるんだー、『雪華』の皆さんとは正反対だなー。

えっと、あの上の方に書いてあるのが賭けの対象になる参加するってか候補者の皆さんって訳か。

あれ? なんだ? っととりあえず順番に聞いていこう。


「『月光げっこう』は知ってるんですが『万雷ばんらい』っていうのもやっぱり有名なとこなんですか?」

「さっき言った五大傭兵団が『風雅』『月光』『天元』『雪華』『万雷』だよあんちゃん」

「あの名前の横に書いてある数字が倍率ですよね?

それでその『月光』よりも『万雷』の方が数字が小さいって事は、『万雷』の方が達成する確率が高いって事ですよね?

その辺はどうやって決めてるんですか?」

「ここの主催者ってかまあ胴元だな、そこが独自の調査で過去の実績やらなんやらで決めてるらしいぜ。

俺の見てる限りじゃあ、客から質問はあっても文句言ってくる奴あいねえ、つまりはおおよそ妥当な数字ってこったな。

なんてーか、『月光』は強さだけなら問題無い、実際討伐系の依頼だったら本命視されることも多い。

ただな、あそこは主に護衛と討伐系の依頼は受けてもダンジョンには潜らねえ。

ダンジョンは強さがいるのは勿論だが、それ以外に罠を突破したり適切な休息をとったりってあそこならではのノウハウが必要とされる。

言い方は悪いが『月光』ってのは力押しオンリーでな、これまでもダンジョン行ってるなんて聞いたことがねえときてる。

その点『万雷』は、普段鍛えるためにちょこちょこ色んなダンジョン潜ってるって話だ。

其の辺りを考慮して、こんな感じになってんだろうよ」


凄い、本当にこのおじさん事情通っていうか物知りなんだなー。

ただ、これが真実なのかを僕が判断できないんだよなー。

んー、とりあえずエイジに聞いてみようか。


【エイジどう思う? 今の全部本当だと思う?】

【どうだろうな? でもまあいい勉強になるな、『月光』自体はわからんがリバルドなんかもろ脳筋って感じだしな】

【もろのーきん? なにそれ】

【ああえーっと、なんでもかんでも力で解決しようとする脳みそまで筋肉で出来てるようだって意味だ】

【ひどいよー、まあ当ってるっぽいけど】

【アルも大概だな、しっかし俺らはここのことまるでわからないんだ、あのおっさんの話しは為になるから色々聞いといた方がいいだろうな】

【うん】

【それに、アル、気づいてるんだろ? あれだけは聞いておかないとな】

【そうなんだよね、僕も聞こうと思ってたんだ】


それは参加者というか、倍率が書いてある名前の中に看過できない名前があるからで。


「あの、あそこに書いてあるアルベルトパーティーってご存知ですか?」


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