表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/156

第93話 単独 街よりも独りってのが

「まだ先方が着いて無いんで待機中って訳だ」

「っていうと、ここからオューまでって事ですか?」

「そっ、正確には結婚式や式典なんかが全部終わって、またここまでの帰りも含めてだけどな」


 公衆浴場の入り口が見える酒場で、『雪華』副団長のレイベルさんと僕とセルの三人で杯を酌み交わしていた。

とはいえ、もっぱらしゃべるのはレイベルさんで僕とセルは聞き役だけど。

辺りもすっかり暗くなり、通りよりも食事処兼酒場といった飲食店に多くのヒトが流れている。


「いちいち国境越えんのは面倒だからな、自国内だったらなんもねえだろっつーことで、あたしらは向こうからしたら他国にあたるここからって依頼になってんだ」

「到着予定はいつなんですか?」

「問題なければ明後日ってとこだろうな」


 近日予定の一大イベント、ミガ国第一王子のリント・グラシーズ=ミガとイァイ国第六王女のユーコミン・ホースロウ=イァイとの結婚式がミガ国の王都オューで行われるのだ。

『雪華』の皆さんは、その主役の一人である第六王女とそこに参列するイァイ国の王族の護衛任務を引き受けているとの事、厳密にはその内の女性のみの。

その場には、すでに崩御した第六王女の父親である前国王に代わり、イァイ国の現国王レンドルト・ホースロウ=イァイも出席する。


「ずいぶん長期の依頼なんですね」

「あー、まあ期間は確かにな、でもイァイの王族全員揃ってだから、護衛もわんさかいるんでどっちかってーと楽な方さ」

「全員って・・、王族の結婚式って毎回そんななんですか?」

「どうだろうな? あたしも詳しくは知らないが、全員っつても今のイァイは国に直系の王族は三人だけだかんな」

「三人?」

「そっ、結婚する第六王女とその母親の前王妃と国王さ」

「えーっと、結婚するのは王様の娘じゃ無くて妹さんって事ですか?」

「ああ、ミガの国王とイァイの国王は同い年なんだが、関係性はえらいややこしいんだよな」


 なんでもイァイの国王が皇太子時代にミガに留学した際に、当時やっぱり皇太子だった現国王と交流を深めたんだそうだ。

同い年だった事もあり意気投合して仲良くなり、その後その妹さんをイァイの現国王が妻として迎えたらしい。

そこまでは普通なんだが、今回の婚姻によってかなり複雑になる。


結婚するのはミガの現国王の息子である皇太子と、イァイの前国王の娘であり現国王の歳の離れた末の妹にあたる第六王女。

なにがなんだかわからないが、この婚姻によってミガの王家とイァイの王家がより一層結びつきを強固にするって事らしい。

イァイにとっては唯一国境を接しているミガは、最も信を得たい国だろうから関係が深まるのはありがたいんだろう。


「そうするとその間お城に入れるんですか? いいなー」

「無い無い、城ん中はそれこそ鉄壁の構えだかんな、あたしらは道中だけさ。

オューに着いたら一旦依頼は終了、帰る時に改めてこのドゥノーエルまでの護衛ってわけさ。

「じゃあ、オューでは何日かお休みって事ですか?」

「ああ、色々催し物もあるらしいかんな、せいぜい楽しむとするよ」


催し物か・・、御前試合以外に何があるんだろう?

あれっ? もしかして順調にオューに戻ってセルが工房に頼んでるのが完成してたら、僕らそのままダンジョンか。

シャルがむくれそうだなー、僕らもお休みにして見物しようかなー。


「お前らはなんでこんなとこにいんだ?」


ガマスイで別れた時は、僕らはオューへ行くとこだったからまあそう思うか。

依頼を受けてヨルグへ行く途中で、向こうで商品を仕入れてオューへ戻る予定である事を説明する。

レイベルさんは、ニカっと男前な笑顔で返してくれた。


「んじゃ、オューでまた会えるな、こりゃあ団長だんちょも喜ぶぜきっと」

「パルフィーナさんは、その、相変わらずみたいですね」

「ああ、もう貰った手紙読んではにやにやしてたり、今度会ったらこうしようああしようって、マリが振り回されて大変そうにしてんよ。

その割にゃあ、実際会うとあの通り何にもしゃべれなくなっちまうんだからなー」

「そういえば、他の団員の方々はどうしたんですか?」

「ん? 居るよ、ただ今はばらけてんから宿別だけどな」


 なんでも、三人一組で別々の宿屋に泊ってるそうだ。

依頼自体は王族が着いてからだけど、怪しい奴がいないかすでに警戒しているらしい。

念の為に、ヨルグにも一組行ってるとの事。


この辺は僕らが護衛をやったこと無いからわからないけど、長年培った手順というかやり方があるんだろうな。

団長と副団長は別々の方がよさそうだけど、そう思って聞いてみるとそれはそれで問題あるらしい。

ある程度の権限があると独断専行しがちなので、必ず指示を仰ぐようにするということでこの形になっているんだそうだ。


例えば襲撃者を見つけたり不審者を発見した場合などは、一人がパルフィーナさん達の元に連絡に走る。

その際に、一人だけが残されると例えば人質にされたり、最悪襲われて口封じされてしまう可能性がある。

その辺の事も見越して、二人が残る様に三人一組という編成にしているらしい。


「お前らはあれからずっとオューに居んのか?」

「ええ、ダンジョンと依頼と交互にって感じですよ」

「ダンジョンちゃあ国からえれえ依頼出てんな、あれにゃあかんでねえのか?」

「僕らじゃ等級低くて受けられないんで、あっ、『月光』の皆さんがやるみたいですよ」

「ほー、おもしろそうだな、あいつらもオューに居んのか、ラムシェに聞いてみるかな」

「『雪華』の皆さんは挑戦しないんですか?」

「ああ、報酬は確かに魅力的だけど不確定要素が多すぎる、興味が無い訳じゃ無いが仕事としては成立しないってのがうちらの団の見解だ」


意外だった。

好戦的な印象から副団長とはいえレイベルさんは、もっと直情径行というか感情で突っ走るタイプだと思ってたけど。

話を聞いている限りでは、渋々了承してるって訳じゃ無くやらない事に納得してるみたいだ。


「しっかし、あの依頼関係無しでダンジョンって、あそこじゃ稼げもしないだろ?

一体何の目的で潜ってんだ?」


こう言われると困る。

本当の事言う訳にはいかないしなー、確かにわざわざあそこへ行くなら何か理由が無いと変か。

誤魔化すしかないんだけど、なんて言っていいのかわからなくてエイジと軽く相談して答えた。


「訓練みたいなもんですよ、僕らパーティー組んでまだ日が浅いですしね。

何が出来て何が出来ないか、色々試してるんですよ」

「んなもん、依頼こなしてりゃ自然と身に付くんじゃねえのか?」

「確かにそれはそうですけど、依頼を受けるとなると失敗したくないですからね。

その点、ダンジョンなら何試そうと途中で切り上げようと、こちらの胸先三寸で済みますから」

「ふーん、まっやり方はそれぞれだかんな」


一応は納得してもらえたかな?


「そーいや、あれからキリウス・・っと、『風雅』の連中から何かされなかったか?」

「まあ、あったといえばありましたかね」


依頼でヒョウルの村へ行った時に団員とニアミスした事、団長のキリウスさんとラムシェさんに呼ばれて同じテーブルを囲み話をした事を話した。


「なっはっはっはっ、やっぱキリウスがこなかけてきたかー。

いやー、見たかったなー」

「やっぱって、レイベルさん理由わかるんですか?」

「んー、まあ気になるだろうなってのはな、で、どうだった?」

「どうって・・、よくわかんなかんなかったんですけど、なんだかんだでダンジョンの地図マップもらえる事になったんで助かりましたよ」

「こりゃあ、益々ラムシェに会うのが楽しみになってきたなー」


話聞いてるとラムシェさんとキリウスさんの関係って何かありそうだな、しかもレイベルさんは知ってそうだけど。

聞いても教えてくれなそうだなー。

そんなこんなで、僕らは楽しく一時間ほど飲んで話していた。


 少し公衆浴場の入り口付近が騒がしいなと思ったら、四人がお風呂から出てきた。

アーセとシャルは普通のお風呂上りって感じだけど、上機嫌のパルフィーナさんはいいとしてその背には妹のマリテュールさんが。

湯あたりでもしたのか、若干くたーっとなってるマリテュールさん。


「んったくしょうがねーなー」


言うが早いか速攻で会計を済ませたレイベルさん、僕とセルはお金を出す間もなくごちそうになる形に。


「あーあー、ほれ、これ飲めマリ」


こちらの方向に歩いてくる四人、すかさずレイベルさんが近づいてお店で貰ったお水をマリテュールさんに飲ませている。


団長だんちょ、も一度入るのはいいけどマリは解放してやれよー」

「・・・・ごめんマリ」

「いいよ、お姉ちゃんわかってるから」


力なく返答するマリテュールさん、うん、苦労がにじみ出てるな。

パルフィーナさんは名残惜しそうだったけど、妹さんの調子が悪いのは自分のせいだって自覚はあるんだろう。

本来この後食事でもという流れになりそうだったが、今日の所はとこの場で別れる事に。


 僕とセルはお酒を飲んだこともあり、これからお風呂というよりもう食べて寝たいので、そのまま二人と一緒に宿屋へ引き返した。

旅亭ウイゴウへ帰り着き部屋に戻ると、中央の床に腰をおろし膝を抱えたアリーが力なくこちらを向く。

僕らの中にアーセの姿を認めると、おもむろに立ち上がり近づくも、何かしたらまたという恐れからか僕の顔を見つめている。


ここで許してしまうとこれまでと同じになってしまう、なので何も語らずに荷物を置いて部屋を出る。

どうしていいかわからずに立ちすくむアリー、「さっ、降りてご飯食べよう」とドアから声だけかけておく。

するとアーセが不憫に思ったのか、アリーに「行こ」と手をつなぎ引っ張って部屋から一緒に出てきた。


一階で全員揃って夕食を、アリーは終始静かにしていたがアーセに手を引かれたのがうれしかったのか、そう落ち込んではいなさそうに見える。

食事の最中はとりとめの無い話をして、おだやかに過ごして再び部屋へ。

その後一旦全員僕らの部屋に集まってもらい、明日の予定を一通り話した。


明日は朝、馬車屋で馬車を借りて国境を越えてヨルグへ移動する。

向こうではアーセとアリーに商人ギルドへ行ってもらい、セルとシャルの兄妹にヘイコルト商会で魔核鉱石の買い付けをしてもらう。

僕はというと朝から一人別行動、皆のはからいによって旧交を温めるべく関係各所を回る予定だ。


お風呂に入れなかったのは痛かったが、その他は問題な、うーん、まあ問題無しって事にしておこう。

いくら考えても後は向こうの出方次第なので出たとこ勝負だ、エイジに言われてアーセが席を外している間にセルに簡単に説明しておいた。

違ってればいいなー、もしもそうだったとしたら、・・逃げちゃえばいいか、そんな事を考えつつ眠りについた。


◇◇◇◇◇◇


 まぶしい朝日が窓から差し込み、思わず目が覚めた。

ここドゥノーエルは、近くに山も無く建物も概ね低いので採光がよい。

明るくなった室内で、僕に続いてアーセとセルも目を覚ましたみたいだ。


僕らが部屋を出て下に降りると、すでにシャルとアリーがテーブルについていた。

すかさずアーセの前で膝をつくアリー、「アーちゃん、おはよ」と挨拶されてうんうんと笑顔で頷いている。

・・なんか既視感あるなこの光景。


「じゃあ悪いけど皆頼むね、お昼にリンドス亭で」


そう告げて、これから朝食を囲む四人を後にして僕は一人宿を出た。

そのまま徒歩で国境へ、朝早い時間にも拘らずというかだからこそというべきか、馬車がすでに国境通過の列を作っている。

僕はまだそれほど並んでいない、徒歩で個人が通過する検問所の方へ。


とりたてて何事も無く、無事に国境を通過して懐かしのヨルグへ到着。

そのまま足早に空腹を訴えるお腹を抱えて、リンドス亭まで進む。

皆は向こうで朝食の後馬車でこちらに来てもらうが、僕は一人徒歩でこちらに渡るのは打ち合わせ通りだ。


馬車で国境を通るのは時間がかかる、全員一緒に行動していては全部回りきるのに一日では足りない。

特にリンドス亭への挨拶や傭兵ギルドへの顔出しなどは、僕以外のメンバーは特に必要としていない。

そこで効率的に別行動でと決まったのだ、というか立案エイジで僕が提案して承認を得たんだけど。


見慣れた街並みの中、その中でも一番なじみ深いリンドス亭の入口。

勢いよくドアを開けて、「おはようございます」と開口一番元気よく挨拶した。

給仕をしているナルちゃんと目があい、「あれっ? アルさん? おはよう」とごく普通に返される。


そりゃあそうだよな、まだ旅立ってから一月ひとつきどころか二週間ほどしか経ってないんだから。

これがそれこそ一年振りとかなら、感動の再会で涙を流すとこだけど、まあ無いよな。

とりあえずは空いている席に座り、朝食をお願いした。


「いきなりでびっくりしたよ、今日はどうしたの?」


ナルちゃんが僕の座っているテーブルに腰掛けて話しかけてきた。


「依頼でね、今日中に出発しなきゃなんで早いうちにと思って朝来たんだ」

「ふーん、ねっ、今何処に居るの?」

「内緒、今度その次の場所へ移動したら、それまでどこに居たか教えるよ」

「えー、けちー、どうせお姉ちゃんには教えてるんでしょ?」

「言ってないよ、そういえば手紙も出して無いなー」

「ほー、流石愛を確かめ合ったカップルは違うねー」

「・・ナルちゃん、マルちゃんに何聞いたの?」

「やだなー何にも聞いて無いよー、もう何にもだよー」


・・今度からマルちゃんには、ナルちゃんには内緒でねって約束しないとな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ