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第85話 吟味 起こしてくれりゃあいいものを

 お日様が、今日一日はりきって仕事するぞとばかりにまぶしい光を放つ中、僕らはメイプル館をチェックアウトした。

これから傭兵ギルドへ赴き、長めの依頼を受注するのにしばらくは戻れないからである。

荷物を持っての移動となるが、たっぷり眠れたし朝食も終えたので体力的には万全の態勢でありながら、朝一番から若干気持ちが折れかかっていた。


 それというのも、朝食後覚醒してきたエイジに昨夜のラムシェさんとキリウスさんとの事を話したら、たっぷりと説教されてしまったのだ。

だって、急だったしキリウスさんとは初めて会ったしで、頭はたらかなかったんだよな。

僕とエイジとの魂話かいわはおおよそこんな感じだった。


◇◇◇◇◇◇


【・・という会話を交わしたんだ】

【それだけか?】

【うん、それだけ】

【かー、何やってんだアル、それじゃ何にも解決して無いだろう】

【解決って?】

【ガマスイであの連中が襲ってきた理由だよ】

【あっ・・】

【団長のキリウスが知らなかったって事は、あの連中の独断か別の奴の命令であり、少なくとも団全体の意思ではないってのはわかった。

でも、理由がわからなきゃまた同じことが起こるかもしれない。

確かに、結果的に怪我は無かったけど、次以降はどうなるかわからないんだ。

うやむやにしていい問題じゃないはずだろうに】

【・・ごめん】

【それに、せっかくのチャンスだったのに『風雅』が最下層へ到達してるのかも聞けて無いんだろう?】

【・・うん】

【『風雅』があの依頼受注してるかどうかは聞いたか?】

【・・聞いて無い】

【キリウスがアルの事見てたってのは、どうしてだかは聞いたか?】

【・・ううん】

【で、こちらがなんであの依頼受けないかとか、どこまで到達してるかとかは話したと?】

【・・うん】

【交渉の場じゃなかったにしろ、こちらの情報は渡して向こうからは何にも得られないなんて、パーティーを率いる者として情けないぞ】

【うん・・ごめん】

【情報は武器だ、知らなければどうにもならない事はあっても、知ってて困る事なんて無いぞ】

【・・でもさ、事情を知っちゃったばっかりに、かえって手が出せないって事もあるんじゃないかな?】

【そんな特殊な事例を引き合いに出されてもな、物事を判断するのに情報が無くて困る事よりもあって困る事の方が多いって事はないだろう?】

【それはそうだけどさ・・】

【済んでしまった事はしょうがないとはいえ、今後の教訓にするんだな】

【うん】

【次があるかはわからないが、もし会うようなら少なくとも襲ってきた理由だけは聞いておけよ】

【わかった】


◇◇◇◇◇◇


 このやり取りで、僕はすっかり意気消沈し暗い気持ちになってしまったのだ。

自業自得だからしょうがないんだけどさ、でも朝一番からってのは堪えるな。

なんとか気持ちを盛り上げていきたいと、到着した傭兵ギルドの扉を開けて中へ。


内部は未だに結構な数の傭兵が居て賑わいをみせている、その割には依頼が貼りだされている掲示板の前は空いているけど。

やっぱり他のパーティーはあの依頼狙いなんだろうか。

女性陣には打ち合わせテーブルの確保に行ってもらい、僕とセルとで依頼の掲示板を見渡し吟味していた。


等級が高めで普段受けられないような一週間から十日くらいの日数で、出来ればよそ様の命がかかってないようなのがいいなー。

・・なんか妙に同じような依頼が多いような、ざっと見渡して四つか五つくらいあるぞ。

依頼主は商人ギルドや大手の商会で、そのどれもが魔核鉱石の買い付けと運搬の依頼だ。


セルも他に目ぼしいものを見つけられなかったらしく、じゃあという事でとりあえずこの手のやつを一枚持って受付に詳細を尋ねに行く事に。

手に取ったのは、商人ギルドが依頼主で期間は十日以内、魔核鉱石の大金貨100枚分の買い付けとその運搬だ。

受注可能な等級は6級以上、僕が5級なので問題無く受けられる。


「すいません、まだ検討中なんですがこの依頼について色々教えていただけませんか?」

「はい、どのような事でしょうか?」


僕とセルは受付にいる女性に話しかけ、手に持った依頼書を見せた。

同じような買い付けと運搬の依頼を複数受注して問題無いかや、この依頼での注意点などの話を聞かせて欲しいと申し出る。

受付の女性は少々お待ちくださいと奥へ引っ込み、すぐに男性の職員を伴って戻ってきた。


「詳しい話はわたくしから説明申し上げます」


この男性職員の案内で、カウンター内部のつい立で仕切られたテーブル席へ通された。


「あの、そもそもなんでこの手の依頼がこんなに多いんでしょうか?」

「皆さんもご承知かと思いますが、例の国からのダンジョン最下層への依頼が原因なのです。

数多くの傭兵の皆様がここ王都オューへいらしたので、宿や食事処などが非常に混雑しています。

中でも武器や防具を扱う店、またメンテナンスや新規の依頼などが引きも切らない鍛冶屋や工房が大変忙しい状況が続いています。

そこで材料不足と並んで深刻なのが、魔核鉱石の備蓄量なのです。

ご存知のように魔核鉱石は灯りをともすばかりでなく、炉に薪などよりも長時間高熱を発生させる原料ともなっています。

鍛冶屋や工房のこの所の受注量の多さと稼働時間の長さにより、著しく魔核鉱石が減少しこのままでは早晩底をつく勢いなのです」


まあわかる話だ、昨夜もお風呂入れなかったし今日もここ混んでるし。


「ここオューではダンジョンからは魔核鉱石があまり取れないので、そのほとんどを他の都市から仕入れて賄っております。

通常の仕入れだけではとても足りないので、各所から臨時でこの手の依頼が数多く出されています。

ところが、この時期に日数のかかる依頼をやってその間にあの国からの依頼が達成されたらと、どうも傭兵の皆さんがけん制し合っているようで中々この手の依頼を受けてもらえないのです。

其のために、同じような依頼がいくつも受注されずに掲示板に残るという事態になってしまいました」


なるほどね、儲け話に乗り遅れないようにここを離れたくないって訳だ。

良くわからないけど、実際に依頼を受注する以外にも何か儲ける手があるって事なのかな。

この手の依頼が多く残っている背景はわかった、後は注意点はどんなだろうか。


「これ、可能であれば複数同時に受けてもいいんですよね?」

「はい、勿論です、但し当然失敗した場合ペナルティが発生しますのでお気を付け下さい」

「えーっと、失敗する主な要因とペナルティの内容を教えていただけますか?」

「はい、買い付けと運搬に関しての依頼で多い失敗は、預かった仕入れのお金の使いこみ及び積載量の見込み違いによる遅延です。

大金を預かると気持ちが大きくなり、仕入れで値切ればなんとかなると使い込んでしまい、結局どうにもならず既定の量の買い付けが出来ないケースがあります。

悪質な場合、預かった金額をそのまま持ち逃げする者もいますが、各都市への出入りの際に身分証明書をチェックする事が恒常的に行われていますので、逃げおおせた事例はこれまでありません。

また、複数の依頼を受けた際に多いのが遅延です。

仕入れ先が同じ都市の場合、同時に受注する事が多いですがその際に、ものによっては馬車が通常の速度を出せる積載量を越えてしまう事があるようです。

これにより、決められた期間内に到着する事が出来ず、失敗と認定されるケースがあります。

今回の魔核鉱石は、依頼が一件だけならばそれほどの重量にはならないと思いますが、複数となると受注する件数にもよりますが、馬車に結構な負担を与える事もありえますのでご注意ください」


ふーん、お金は使い込みしそうなの居ないから問題ないだろうけど、積載量についてはどのくらいになるか予め試算しておいた方が良さそうだ。


「依頼失敗のベナルティは、一律報酬金額の半額を罰金として支払ってもらい、かつ付与される予定のポイントの半分を現状からマイナスするというものになります。

これはどんな内容の依頼であっても、失敗した場合等しく課せられる罰則となります。

それ以外に、損失の度合いによって追加で金銭の支払いやポイントのマイナスが発生します。

悪質な場合、登録抹消や犯罪者として警ら隊への引き渡しも行われることがあります」


・・結構厳しいな、まあ罰則は厳しくしないと抑止力になりえないしな、このくらいはしょうが無いのかな。

一通りの説明を聞き終え、仲間と相談してきますと告げて女性陣が待つ打ち合わせスペースへ移動。

合流して今聞いた事を三人に教えて、さてどうするかの話し合いをはじめた。


「受けるのは確定として、何件請け負うかとどこで調達してくるかだな」

「どうせやるんなら出来るだけ多くよね、いっそ全部受けちゃえば?」

「それなんだがな、そうなると仕入れが出来るかが微妙だと思うんだ」

「? どういう意味?」

「つまり、一件分ならともかく全部を受注するとなると、一つの街で仕入れるには量が多すぎると思われる。

そうなると、二つ以上の街を回らなければならなくなり、結果期限に間に合わなくなる可能性があるんだ」

「そっかー、うーん、ねっ期限ってどのくらいなの?」

「えーっと、短いので一週間長いのでも十日間ってとこだな」


セルとシャルの兄妹の会話を聞いていて、ふと疑問が浮かんだ。

よく依頼で大手の商会の商隊の護衛があるけど、何で今回は仕入れと運搬の全部が傭兵任せなんだろうか。

商人が仕入れに行くのに傭兵が護衛をするってのが一般的だと思うんだけど。


【ねえエイジ、何で商会は自分達で仕入れに行かないで傭兵に行かすのかな?】

【本当のところは商会に聞いてみないとわからないが、おそらくはこういうことだと思う。

商会は無駄を嫌う、だから一度ひとたび商隊が動くとなったらこちらの商品を向こうに運んで捌く。

同様に、今度は向こうで商品を仕入れて空になった馬車に積み、またそれらが高く売れる土地へと移動する。

馬車が空になる事が無い様に、常に現地で仕入れた商品を積んで動く。

しかし、今回はそれをやっていると時間的に間に合わない、だから速度重視で依頼を出してるんじゃないかと思う。

難しい取引でも無いだろうし、わざわざ商会の者が付いて行かなくともいいという判断なんだろう】

【ふーん】


あんまりエイジと長話してると、ぼーっとしてるみたいに思われるみたいだから、皆と居る時はほどほどにしとかないとな。


「一週間と仮定すると、それで往復できる大きな街はどこがありますかね?」

「ヨルグと後は・・、カーの王都のキーパくらいかな」

「行ったことのあるヨルグはともかくとして、キーパは行ったことが無いからちょっと怖いですね」

「ああ、一応ここから三日程度とはいわれているけど、初めてだけに何かあってへたに遅れてペナルティくらってもまずいしな」


アリーも話に加わり、段々と具体的になってきた。


【今回の依頼みたいに、期限だけ指定されてて仕入れ先が自由って普通なのかな?】

【品物が特定の地域の特産品じゃなければ、結構あるみたいだな】


僕が呑気にエイジと魂話している間に、話は最後のつめに差し掛かっていた。


「じゃあ、場所はヨルグって事で後は何件受けるかだが」

「一週間あれば往復できるでしょうけど、出来たらもう少し余裕が欲しいわよね」

「アル、各依頼の期限はどんなもんだ?」

「ちょっと待って」


掲示板の前に移動して確認、席に戻って皆に告げる。


「一週間が二つで十日間が三つだね」

「じゃあここは安全に十日間のだけにしとくか?」

「賛成」

「異議なし」

「いいんじゃないですかね」

「ん」


と全員一致で決定した。

それぞれの依頼主は商人ギルドとアーミトン商会とスェスエル商会。

これらを受注するという事で、窓口に依頼書を持って行き手続きを行う。


時間がもったいないので、そのまま傭兵ギルドを後にして馬車屋で馬車を調達し各依頼主の元へ。

まずは、馬車屋から一番近い商人ギルドへ向かう事になった。

中央の四辻を東側に折れてすぐ、ダンジョンへ行くのに何度も通り過ぎたところにある。


 商人ギルドってこれまで縁が無かったけど、一体どういう所なのだろうか。


【エイジ、商人ギルドってどんなとこ?】

【どんなって、国の出先機関の一つで商取引に関する諸々を行ってるとこだ】

【諸々って?】

【大きな商店だろうが屋台だろうが、その場所で商売する場合必ず商人ギルドに申し出て加入しなければならない。

つまりは、営業権を与えるってことだ。

当然、問題があれば認められないし、一旦開業しても申請時の取り扱い品目に無い品を扱ったり、ご禁制の品に手を出したりすれば罰せられる。

その取締りの為に、査察なんかも行っている。

それだけじゃなく、商売が円滑に進むように一度に大量の注文があって在庫が足りないような場合、同業他社から一時的に補てんしてもらえるように仲介したりといった互助会的な側面もある】

【今回の買い付けの依頼は、その業務の中に当てはまってない気がするんだけどどういう意味なの?】

【大手の商会はともかく、小さなところが各々で依頼を出してたら件数が多くなりすぎてしまう。

報酬も少額で引き受け手も中々見つからないだろう。

そこで、商人ギルドでまとめて発注して後で分配する、そうすれば傭兵ギルドも依頼数が抑えられて煩雑さが減る。

受注する傭兵も、何十件も回って受注して終わった時にまた何十件も回って報告する何てことしないで済む。

商人ギルドが間に入る事によって、互いに助かるって訳だ】

【なるほどねー】


・・ってあれ? だったら。


【あのさエイジ、全部のお店が加入してるんだったらさ、小さなお店だけじゃ無く大きなお店の分も全部まとめて発注すればいいんじゃないの?】

【その辺はその辺で色々あるんだよ、そうだな、全部回ったら改めて教えるよ】

【わかった】


 そんな魂話をしていると、目的地である商人ギルドへ到着した。

所定の位置に馬車を停めて、全員で行っても仕方ないので三か所あるし、後学の為にそれぞれを交代で受け持つことにする。

一番最初という事で、まずはリーダーの僕とアーセの二人、で臨むつもりがなぜかというか当然の顔でアリーが付いてきてしまった。


 さて、初めての商人ギルドはどんなもんかな。


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