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第84話 対面 宣戦布告か品定めか

 星空のもと月明かりでのお散歩であれば情緒もあるところだが、実際は夜更けとはいえ明るい街灯りの中を歩いていく。

昼間の観光客や買い物客とは違い、仕事を終えた者や酔客または何らかの事由で夜を徘徊する者が絶えない王都オュー。

そんな、種類は違っても人数はそれほど昼間と変わらない街の中、アルとセルの二人はメイプル館へ歩を進めていた。


「まいったね」

「ああ、明日から遠出するかもしれないんだ、今日は入っておきたかったけどな」


 二人は公衆浴場へ女性陣と一緒に向かったものの、中に入らずに戻ってきてしまっていた。

それは、おそらくはあの依頼によってか傭兵が王都に大勢つめかけていて、あまりの混雑に入場制限がかけられ外にヒトがあふれており、入浴を断念したからだった。

実際に入れるようになるのがいつになるかよめない、遅くなるくらいなら宿で体を拭いて終わらせようと入るのをあきらめたのだ。


 勿論、一人一人に職業を聞いたわけでは無い、傭兵が多くてというのはあくまでも憶測ではあるが、完全にあてずっぽうという訳では無く一応の論拠はある。

それは混み合っているのは男性側のみであり、女性側は常と変わりが無かったのだ。

女性のみで構成されている『雪華』が特殊なんであって、傭兵はそのほとんどが男性だからである。


 こうして、女性陣は問題無かったもののアルとセルは待機列で話し合い、このままでは時間がかかり過ぎるとして入るのを断念して帰路についたのだ。

未だ賑わいを見せる街、煌々と灯る食事処に魅かれたせいもあり酒でも飲みに行くかという話も出たが、セルはそれなりに飲むもののアルはあまり得意では無いので却下。

大人しくメイプル館へ戻ったというわけであった。


◇◇◇◇◇◇


 今日は午前中に話し合いをして傭兵ギルドへ行っただけ、午後はお休みという事でお城見物や美術館と博物館へも見学に行ったり。

夕方からは、リバルドさん達『月光』の皆さんにダンジョンの情報を説明と、依頼をやったわけでもなくダンジョン探索したわけでもないのんびりとした一日だった。

にもかかわらず、最後の最後にお風呂に入れなかったのは、せっかくの休日がなんかしまらない終わりになってしまった気がする。


 お休みモードを切り替え一日をスッキリと終わらせ、明日からの英気を養い気持ちを切り替える為の入浴が果たせなかった。

これによりなにかどっと疲れを覚えてしまった、こうなったら出来るだけ早く寝て睡眠を多くする事で明日に備えよう。

そんな事を思いながらくぐったメイプル館の扉の向こうに、ラムシェさんの姿を見つけた。


 確かアーセと話してた時に後から追いかけるって言ってたと思うけど、そういえばすれ違わなかったな。

背中を向けてるのが誰かわからないけど、あのヒトとなんか話があって出られなかったってとこか。

声を掛けるべきか、それとも邪魔しない様にまっすぐ部屋に戻った方がいいのか、どちらがいいんだろう。


 こちら側を向いているラムシェさんは、視線こそ合わないものの僕らの事は見えているはず。

それでいて特に何も反応しないって事は、そっとしておいた方がいいのかな。

そう思って通り過ぎようとした時に、セルから声を掛けられた。


「アル、俺は少し飲んでいくから先に部屋に戻っててくれ」

「うん、わかったよ」


この短いやり取りの後僕がその場を去ろうとしたが、ガタッっという椅子が床を擦れる音がした。

んっと思い顔を向けると、ラムシェさんの向かいに座ってたヒトが立ち上がってこちらを見ている。

どうやら僕の顔を見ているみたいなんだけど、あのヒトどっかで・・、あっガマスイで馬に乗って諍いを鎮めたヒトだ。


あの時は、『雪華』副団長のレイベルさんが『風雅』のヒトと揉めてたはず。

って事は、あのヒトは『風雅』のえらいヒト、団長か副団長ってとこか?

でもおかしいな、僕は顔を知ってるけど向こうは僕を知ってるはずはないんだけど。


「アルくん、少しいいかしら?」


互いに顔を見合わせている僕らをみかねたのか、ラムシェさんから声がかかった。

とりあえず二人のいるテーブルに向かう、なんかえらい見られてるなー、なんなんだろう。

チラッと後ろを見ると、セルはこちらにほど近いテーブルに座りお酒を注文している。


まあおかしな事にはならないと思うけど、近くにメンバーが居てくれる事に僕は少し安心しつつテーブルへ行き、どうしようかと思いながらラムシェさんの横に並んだ。

改めて向こうの顔を見ると、かなり二枚目でもしかするとラムシェさんの恋人かなと思ったり。

ここでラムシェさんが紹介してくれた。


「アルくん、こちらは『風雅』の団長でキリウスよ。

で、キリウス、こっちが、その、むっ昔馴染みのアルくん」


紹介されて分かった、僕とラムシェさんの関係を表わすうまい言葉が無いんだなー。

親戚でも無ければ友人という間柄でも無い、知人には違いないけどもう少し近しい関係な気もする、じゃあそれをなんと呼べばいいかっていうと思いつかない。

そんな事を考えながら、僕の方が年下だろうからと思い先に挨拶をした。


「イァイ国のイセイ村出身でアルベルトと申します、ラムシェさんとは小さい頃に知り合って、以来親しくさせてもらっています」


・・なんだろう、普通に挨拶したつもりなんだけど、こちらを見る目が一層厳しくなってるような。


「『風雅』団長のキリウスという、よろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」


挨拶を交わし勧められて座ったけど、一体何の用事なんだろうか?

二人が中々口を開かないので、僕もどうしていいのかわからない。

・・しかし、いたたまれないというか身の置き所が無いというか、大体なんで僕はここに座らせられたんだろう。


セルがゆっくりと杯を傾けているのが見える、おおよそ三杯目にかかろうかと思われる。

その間、キリウスさんは何事か思案顔で押し黙り、ラムシェさんは落ち着かない様子で視線を動かしては口をつぐんでいる。

このまま沈黙が続くのも気まずいので、僕から話題をふってみた。


「そういえば、傭兵ギルドで売っている地図マップって『風雅』の皆さんの手に依るものだそうですね、すでに最下層まで踏破されてるんですか?」


とりあえず、一番気になってる事を聞いてみた。


「・・君はあの依頼を狙っているのか?」

「いえ、僕らのパーティーは3級以上の者がいないので、あれとは無関係に最下層を目指しています」

「? 無関係に? じゃあ一体何の目的で潜っているんだい?」

「・・己を鍛える為ですかね、後はそうですね・・、最下層に何があるのか興味があるからってとこです」

「ほう」


ただでさえ浴びせられていた視線が、より一層強まったように感じる。

あの依頼を無視するってのは逆に悪目立ちするのかな、かといって本当の事は言えないしなー。

そんな事を考えていたら、はじめてキリウスさんに話しかけられた。


「少し聞きたいんだが、10日ほど前ガマスイでうちの団員と何かあっただろうか?」

「ガマスイ・・、あー、お店の中で四人の人達が武器を抜いて襲い掛かってきました、その時切り取ったのがこれです」


そう告げて、あの時切り取った青い房を取り出してキリウスさんに見せる。


「そうか、・・いやそれは申し訳ない事をした、団員の不始末は私に責任がある、何か望みがあれば言ってくれ」

「いえいえ、幸い怪我も無かったですし、今後このような事が無ければそれで結構です」

「そういう訳には・・、そうだな、君はダンジョン探索をしているという事だが、現在どこまで到達してるんだ?」

「6層までは踏破済みです、7層は入口から覗いただけなので次回はそこからになる予定です」

「ならば我々が作成したダンジョン地図マップのうち、7層から9層までのものを譲ろう、それでどうだろうか?」

「どうと言われても・・、あの本当に気にしないでいただいて結構ですから」

「無礼をはたらいたのはこちらだ、謝罪の品として受け取ってくれたまえ」

「でも、そんな高価なものを・・」

「借りをつくったままではこちらの気が済まない、顔を立てると思って納めては貰えないだろうか」


そこまでしてもらうのは申し訳無いんだけど、これ以上断るとかえって角がたつかな。

チラッとセルに視線を送ると頷くのが見える。

じゃあとありがたく頂戴する事にした。


今は手元に無いという事で、キリウスさん直筆で引換の証書を書いてもらった。

これを販売を委託している傭兵ギルドの窓口に出せば、地図マップと変えてもらえるように話を通しておくという事らしい。

ただ、現在品切れ中で絶賛増産中だそうなので、次回入荷は一週間前後先になるみたいだ。


早く見て見たいけど、どっちみち僕らも次に潜るのは其のくらい先になりそうなので、その時までのお楽しみってことで。

思いがけず良いもの入手できた、もしかすると一気に最下層への道が開けたかも。

そんなこんなで、時間も遅いからかキリウスさんが席を立った。


「ラムシェ、今夜は時間をとらせて済まなかった、名残惜しいがこの辺で失礼させてもらうよ」

「ええ、おやすみなさい」

「そしてアルベルトくん、そのうち二人で酒でも飲みに行こう、その時は色々話を聞かせてくれるとありがたい」

「あっはい、それじゃその内ということで、おやすみなさい」


 颯爽とその場を後にするキリウスさん、カックイイなー、やっぱり大きな傭兵団の団長だけあるなー。

同じ団長といってもリバルドさんとは全然タイプが違う、仲悪いのって其の辺りが関係してるのかな?

さて部屋に戻るかな、その前にラムシェさんに挨拶してと。


「? あのラムシェさん? どうかしたんですか」


一言かけて部屋に戻ろうと思ってたけど、ラムシェさんに目を向けると両肘をテーブルについて両手で頭をかかえている。

どうしたんだろう? 頭痛? そういえば口数少なかったしな。

こういう時はどうしたらいいんだろうか、セルに助けを求めるのに視線を送ろうとしたら、急にラムシェさんがガバっと頭をあげた。


「ごめんねアルくん、変な事に巻き込んで」

「? いえ、良くわかりませんけど結果的にいいものもらえて、逆にありがたかったですよ」

「あのね・・、ううん、なんでもない、ありがとね」

「? はあ、こちらこそ・・、あっじゃあおやすみなさい」


ラムシェさんの何がありがとうで僕も何でこちらこそって返したのかよくわからないまま、ある程度飲んで満足したセルと一緒にその場を去った。

どことなく、後ろの方でお酒を注文している声が聞こえた気がするけど、まあ大人の女性はそんな時もあるんだろうと聞き流す。

部屋に戻りセルとさっきの状況を話し合った。


「ラムシェさんにあのテーブルに呼ばれた意味もわかんなかったし、キリウスさんも何が話したいのか全然わからなかったよ」

「俺にも全然わからんな、お世辞にも話が弾んでたとは言えんしかといって、嫌だったらわざわざアルを呼びつけることもなく追い返すくらいしそうだしな」

「そうなんだよね、うーん、キリウスさんと知り合いになれたのは悪い事じゃ無いけど、そんな理由じゃなさそうだしなー」

「まあでもタダで地図マップもらえたんだからラッキーだったな」

「うん、ホントに」


 これ以上はこの場で話しててもという事で、風呂代わりに精霊魔術で生み出した水で体を拭いて、後は寝るだけという体勢に。

そんな中はたと気づいたのは、アーセが戻っていないという事。

いくら女性陣の風呂の時間が長いといっても、出かけた時刻からいってもう戻っててもいい頃合いだ。


一人ならともかくあの二人も一緒なんだから、まさかおかしな事にはなってないとは思うけど、このままただ待つのも落ち着かない。

セルにことわって迎えに出ようとしたが、ついて来てくれた、やっぱりシャルが心配なのかな。

二人で部屋を出て、そのまま公衆浴場までいくつもりだったが、メイプル館を出る前に問題は解決をみた。


 ラムシェさんとうちの女性陣三人が、同じテーブルを囲んでどうやら酒を飲んでいるらしい。

風呂上がりだからなのかすでに酔っているのか、アーセは顔が真っ赤になっている。

アリーとシャルはそうでもなさそうだけど、意外にもラムシェさんが一番酔ってるようにみえる。


何がどうしてこうなっているのかまるでわからないけど、とりあえず安心した。

皆成人してる事だし、ここに居るならかまわないだろうと部屋に戻る事に。

すると、アーセが僕を見つけたらしくてててと駆けてきた。


「にぃ、あのね、今日お姉ちゃんと寝る」

「お姉ちゃんってラムシェさん?」

「ん」

「いいけど、ラムシェさん一人部屋じゃないか?」

「でも、寝るだけだからたぶん大丈夫」


アーセ小っちゃいしな、一人用のベッドでもまあなんとかなるか。


「一体どうしたんだ? なんで酒盛りを?」

「んー、戻ってきたらお姉ちゃんに声掛けられて、なんとなくそのまま」


なんか僕の時と同じ感じだな。


「わかった、あんまり飲みすぎないようにな」

「ん、気をつける」


会話を終えるとまたてててとテーブルに戻っていった。

僕らもこれなら心配ないだろうと部屋へ戻り、ほどなくそれぞれに就寝。

何でも無い日のはずが、結果色々あった一日だった。


 翌朝、普通に目覚めて朝食をと思い階下へ。

ほどなく、アリーとシャルも降りてきて席についた。

憤懣やる方ないといったアリーと、もう慣れたのか普通にしてるシャルが対照的で面白い。


なんでも、昨夜アーセがラムシェさんと一緒に寝るというので、アリーが散々反対してたそうな。

部屋に戻って愚痴るアリーを尻目に、飲んでた事もあってそれを子守唄代わりにシャルは眠ってしまったらしい。

いいコンビだなと思いつつ、運ばれてきた食事を口に運ぶ。


そろそろ食べ終えようかというタイミングで、アーセが降りてきた。


「アーセちゃん、大丈夫ですか? 変な事されてませんか?」

「だいじょぶ」


アリーと短く会話して、皆と挨拶を交わし席に着くアーセ。

ラムシェさん一緒じゃないのかと聞くと、どうやら頭痛でまだ部屋で寝てるらしい。

二日酔いか、まあ結構飲んでたみたいだしな、大事ないといいけど。


 さて、頬を膨らませながらもくもく食べてるアーセが食べ終えたら、皆揃って出発だ。


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