表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/156

第77話 王命 その目的はおそらくは

 地下とはいえ明るさはそれなりにあるが、じめじめと湿気があるのはやはり洞窟だからか、気のせいか気温も若干高くなっているような。

ここ第5階層は、これまで壁面に『魔散石』があった為、まったく戦闘していないシャルとアーセの独壇場となる。

魔力枯渇に気を付けてもらいつつ、風の精霊魔術で魔物を一掃し道を開いてくれている。


 『ミース』は、通路を埋め尽くすほどはいないが、それでも全部で何匹いるか確認しきれないほどの数が居る。

一匹でも残すと面倒なので、根こそぎ風で吹き飛ばしてもらっているのだ。

吹き飛ばすといっても文字通りの意味では無く、実際は通路全体の大きさの筒状に進行方向へ向かい風を起こし、その中でさらに風の刃を発生させ魔物を切り裂いている。


 ヨルグのダンジョンでアーセが使った『刃旋風じんせんぷう』、それをシャルとアーセが協力して二人で放っているのだ。

アーセが大きな風を起こし、シャルがその中に無数の刃を生み出す。

こうして改めて見てると、精霊魔術の威力と汎用性の高さに羨望を覚える。


 そんな彼女たち二人の後を、僕とセルとアリーがただ歩いて付いて行く。

なんかわかってきた、さっきまでの二人はこんな気持ちだったのか。

とても暇で、何もしていないのが申し訳ない気分がしてくる。


 精霊魔術で薙ぎ払った後は、パラパラといった乾いた音が通路に響く。

切り裂かれた魔物の体から、魔核鉱石が地面に落ちる音だ。

『ミース』は一体一体が小さいので、それに比例して魔核鉱石も小さくなる。


 なるほど、こう小さくては買い取っては貰えないだろう。

本当にここは稼げないダンジョンなんだな。

そんな事を考えていたら、下へと続く階段が見えるところまでたどり着いた。


 ここで休憩をとる、僕を含めた何もしてない組三人はいいとして、シャルとアーセの状態はどうだろうか。


「二人ともどう? 厳しそうかな」

「あたしは大丈夫よ、まだまだ半日くらい持つと思うわ」

「アーセも平気、シャルちゃんと合わせてるからそんなに疲れて無い」

「あたし達息ぴったりだもんねー」

「ねー」

「くぅー、私もアーセちゃんとねーしたいです」

「まっ、まあ大丈夫そうなら良かった、次のフロアも魔物は違うけど方法は一緒で行くからね」


 時間的に、ここで夕食を済ませた後次の第6階層で、帰りを考えると今回の探索は終了ってとこかな。


「食べながらでいいんで聞いて、次の第6階層に出るのは『リアーニ』って名のやっぱり飛ぶ虫系の魔物一種類になります。

これは蜂みたいなのと思ってくれれば間違いないです、『ミース』よりもさらに小さくて素早いです。

こいつも毒を持ってて致死性の猛毒というほどではなく、体が小さいので一匹に刺されてもすぐに死ぬことはありませんが、三匹以上おそらくは五匹に刺されれば死に至ります。

数もやっぱり多いので、5層と同じでシャルとアーセに吹き飛ばしてもらう事になります。

二人とも連戦になるけど頼む、それと二人は体調がすぐれない様ならすぐ言ってください、それ如何では全滅の恐れもあるので」


 死という言葉が出たことで、これまで以上に真剣に聞いてくれている。


「わかったわ、皆の命がかかってるんだもんね、無理しないようにする」

「アーセもちゃんとする」


覚悟を持って冷静に答えてくれた、これなら任せられそうだ。


「広さは5層と変わらないから、所要時間も同じくらいだと思われる。

なので、今回は次でラストになります、最奥まで進んだら睡眠を含む長い休憩をとり、その後引き返す予定です」


皆一様に頷き質問もなさそうなので、食後しばしの休息の後出発となる。


 ここ第6階層は、さきほど皆に説明した通り広さというか長さは5層と変わらない。

エイジに聞いたところに因ると、ヨルグと違ってこのオューのダンジョンは、3層から9層までほぼ同じくらいの長さらしい。

ここも同じ10層までと仮定すると、向こうと比べてずいぶんと規模が小さい。


 探索する側としては大助かりではあるけど、なんだか拍子抜けの様な気がしないでもない。

魔物の出現も、1・2層は出ないし3・4層は少ないし、その分5層とこの6層は多いとはいえ対処は難しくないし。

各ダンジョンで難易度はかなり違うんだろうか、それともこの後とんでもないのが待ち構えてるんだろうか。


 魔物は5層とは違うといっても、小さく数が多く毒を持ってるというほぼ同じ特性を持っている。

なので上と同じで、シャルとアーセの精霊魔術頼みであり何にもすることが無い。

動いていればまだ気もまぎれるんだけど、こうなると意味も無く不安ばかりがよぎってくる。


 だからか、ついエイジに色々聞いてしまう。


【ねえエイジ、なんか簡単すぎてかえって何かありそうな気するんだけど】

【簡単って、あの二人の精霊魔術があるからこそで、普通こんだけの数の魔物いたらかなり大変だぞ】

【そうかもしれないけどさ、仮に僕らでなくてもここ抜けるとしたら、やっぱり精霊魔術でって事になるんじゃないの?】

【まあほとんどはな】

【でしょ? だったらやっぱり簡単って言ったらあれだけど、そんなに難しいわけじゃ・・、ほとんど?】

【ああ】

【えっ? 他に方法あるの?】

【そりゃああるさ】

【どんなの?】

【自分で考えてみるんだな、答えあわせならしてやるからさ】


 えーっ、精霊魔術じゃないとしたら操魔術? いやいやあんな数無理でしょそれに速いから当てるのも難しいし。

じゃあ武器? どんな? 剣でも槍でも斧でも無理だし他なんかあるかなー。

うーん、うーん、えーわかんないなー。


【降参、わかんないよ】

【だーめ、もっと考えてみろ】

【えー、だって精霊魔術以外って言っても、それ以外で倒す手段思いつかないよー】

【ヒント、さっき自分でなんて言った? ここ抜けるとしたらって言ったろ?】

【うん】

【そういうことだよ】

【? なにがそういうことなんだか全然わかんないんだけど】

【だから、倒す手段じゃ無く抜ける手段を考えろよ】


抜ける手段・・、倒すんじゃなく・・、・・・・倒さずに抜ける?

どうやって? 避ける・・は無理だなあの数じゃ、だったら・・守る?

刺され無いようにするには・・・・、そっか。


【全身刺され無いように鎧で固めて通り抜ける、どう?】

【正解、魔物は邪魔だから倒すだけで、倒さなきゃ先に進めないってきまりは無いからな】

【はー、でもさそんなの着てたら暑いし重いし、結構体力削られそうだよね】

【ああ、まあ階層ごとにこまめに休憩してれば、なんとか下までたどり着けるんじゃないのか】

【もしかして、地図マップ売ってる人達ってそうやって進んだのかな?】

【どうかな、面子知らんからそいつらがどんな戦力なのかわからん、そうかもしれんしそうじゃないかもしれん】

【そだね】


◇◇◇◇◇◇


 アルの不安は、エイジとの魂話で安心した事に因り減少しつつあった。

だが、エイジはアルとは違う意味での不安を覚えている。

それは、このダンジョンの事でもありもっと根源的な事でもあった。


 俺のこの頭? に植え付けられた知識は一体どうなってるんだ?

これまで、あの爺からもらった知識が間違っていたことは無い、その点は信用出来そうだ。

ただ、なんだか肝心なところが抜け落ちてるような、もっといえば意図的に伏せられている気がする。


 特にダンジョン関連。

出現する魔物については各フロアごとに細かく判明してるのに、罠はあるってことだけでどんな種類なのかはわからない。

全部で何階層あるのかもわからないし、10層にあんな仕掛けがあるとも征龍の武器やアイテムがあるという事も知識に無い。


 そして何故かわからないが、無性にダンジョンに行きたいという欲求。

サーロン村のファライアード一家との事で、アルの鍛えたいというリクエストにヨルグのダンジョンと答えたのは、一番適してるという以外の理由もあった。

それがこの焦燥感。


 理由は不明ながら、ダンジョンへ行かないと何かが引っかかっているような、なのにそれが何なのかわからない感覚。

そして、ダンジョンの中に入ると妙に落ち着く。

これはどう考えても何かされたとしか思えない。


 じゃあ一体自分の体を持たない俺に、何をさせたいんだろうか。

征龍の武器やアイテムを渡したいのなら、それらがダンジョンにあるという事を知らされていないとおかしい。

・・いや違うか、別に知らされていたからといって、それを取りに行くかは別問題か。


 単にダンジョン攻略をさせたかった?

・・それに何の意味があるんだ? 目的が読めない。

そもそも、ダンジョンを攻略し征龍の武器やアイテムを手に入れても、それで何かしたいかと言われても特に何もする気は無い。


 動機づけとヒントだけ出しておいて、肝心の目的を設定して無いとかか?

・・それを考えてもどっちみち答えは出ない、爺本人のみぞ知る事柄だ。

あの爺自分を神様だって言ってたな、・・それにしちゃ出来る事に制約ありすぎやしないか?


 死んだ俺に第二の人生を授けるなんて、確かにそこだけ聞くと神様っぽい。

でも、何で魂だけなんだ? この世界の因果を曲げるわけにはいかないとかなんとか言ってたが・・。

神様って何でも出来るんじゃないのか? 大体、人生も何も肉体を持たない俺の存在はヒトって定義でいいのか?


 このまま乗せられているのはどうなんだろう? 逆に攻略しないでいるとどうなるんだろう?

思い通りに動かされるのは気に食わないが、現状これ以上いくら推理してみても真実にたどり着くには判断材料が少なすぎる。

もうしばらくはこのまま続けて見よう、答えにつながる何かが掴めるまでは。


◇◇◇◇◇◇


 ミガ国の王都であるオューでは、忙しそうに人が行きかう中央通りの北側、王城に近い位置に中央省が置かれ本日も行政が行われている。

その中の防衛省に属している諜報活動を主とする部署の一室で、ある検討会がはじまっていた。

前回に引き続きダンジョン最下層への到達、その具体的な方法についての。


「お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。

・・まあ堅苦しい挨拶は抜きにして今日もあまり時間が無い事ですし、早速ですが忌憚の無い意見をお願いします」


議事進行する男の声を聞き思案する顔が五つ。

防衛省に属し実際に軍を指揮する将校が三名、それに王室府より近衛隊の隊長及び宮廷魔術師の筆頭が顔を揃えて苦い表情をうかべていた。

それと言うのも、この検討会も三回目を数えるつまりは、一回目も二回目も優れた手段・方法は出ずに、今回もまた同じになるのを感じている為である。


「このメンバーでの意見は出尽くした、入れ替えが必要ではないかね?」

「然り、そも我らは集団戦を専門としお二方も護衛がその主たる任務、我らで打開策が出ないのはこれまででわかっているのでは?」

「そうはいうても他に適任がおらんでしょう、まさか農業省や文部省の者に出席させる訳にもいきますまい」

「実際に探索に行くのは傭兵だろうに、その者らで検討させては如何か」

「・・あのー、魔術が使えない場面で私に何を提案せよというんでしょうか」


 うんざり気味な後ろ向きな意見しか出ない、前回とほぼ変わらない内容に議長は頭を痛めていた。


「そもそもなんでここまでこだわるんだね、あそこに何があると?」

「我らにも明かせぬことか?」

「到達もしていないのに、何かがあると判明しているのですかな?」

「手を引くという選択肢は?」

「そんなに大事な事なら、もっと大人数で話し合いした方がいいんじゃないでしょうかね」


 皆苛立ちこそしていないものの、それぞれが部下を預かる身であり忙しい中集められながら、本当の目的が秘されている事に不満を感じていた。

この件は、実際に調べた者を除けばその上司と宰相以外は、王しかその内容を知る者はいない。

漏れない為広く知られない為には、情報は知る者が少なければ少ないほど良いという宰相の指示により、他の誰にも明かす事は許されていなかった。


「申し訳ありませんが、これは王命にてございますればご容赦くださいませ」


 この世界の王政に於いて、王とは絶対君主であり独裁的にすべての事を成す、という存在では無い。

やる事成す事その全てが間違いなく、その事で国や民が潤い幸せに過ごせるというなら何の問題も無い。

しかし、一度ひとたび国民が不利益を被ればその不満が爆発し、とうの昔に王は倒され王政は廃止されている。


 いかな国王といえども独りでは立ち行かぬ、其のために議会があり文官がおりそれにより政務が成り立っている。

王とは、その血脈により龍を制御する事で国を守る事が出来る、守り神として敬われているのである。

その為、あくまでも有事の際の保険という意味合いで、普段は象徴として存在しているのであった。


 あくまでも、政務における実質的なトップは宰相であり、王は宰相が上申したものを承認するというのだけが日常の業務であった。

王命とは、一度発せられれば否は認められず、達成するか王が取り下げる以外に終わる事の無い、王唯一の特権として国に公式に認められている権利である。

これまで、有名無実として使われることは無かったが、それだけにこれが発せられたというのは余程の事態だと思われた。


 しかし、それは断固として事を成すというものであり、その内容が秘密にされるという決まりはない。

皆王の命に従うについては是としても、その目的や理由が告げられない事には大いに不満を抱いている。

そして、それが本当に王の意思によるものなのか、それともこの諜報を司る長が隠しているのかがわからないのがモチベーションが上がらない原因であった。


「王命が下ってはや半年、王も御心を痛めておられる模様、何か策はありませんでしょうか」


 そう言われてほいほいと出るくらいなら、これほど苦労はしていない。

ここまで状況は変化無く、王にも取り下げる意思は無い。

そこで出たのは、報酬や付与するポイントを上げて傭兵ギルドに依頼を出すという、他力本願で消極的な意見のみであった。


 こうして、最後の最後は軍に所属している者か近衛隊の者でという宰相の目論みは外され、傭兵ギルドに競合依頼が出される事となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ