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第76話 出番 まあこの辺はな

 満天の星空の下、馬車を走らせ続けなんとか日付が変わる前、ギリで夕食を出してもらえるくらいの時間に王都オューへ戻ってこれた。

馬車屋で馬車を返却し、すっかりここでの定宿となったメイプル館へ。

空きがあったというか、僕らの明日にはと言ったのを覚えていてくれて、部屋をとっておいてくれたらしい。


 今日は時間も遅いのでお風呂は無し、なのでアーセは一旦女子部屋で体を拭いてからこちらの部屋にきた。

先ほど食事の際に、「明日はどうする? 休みにする?」という僕の問いかけに「今日は移動してただけだから問題ない」との答え。

これにより、明日はダンジョンへということになった。


 ここにきてわかってきた。

アーセは僕に盲目的に従いアリーはアーセに無条件でついてくる、つまりはセルとシャルがどうするかによって僕らの行動は決まる。

彼らにとって此処は地元、観光するところも無く行きたいお店も無いだろうから、特にお休みするのに休息が必要以外の理由が無いんだろう。


 それはいいとして、気になるのがアーセの態度だ。

普段から喜怒哀楽が激しい方では無く、大人しくてある種達観しているようにも見える。

問いかければすぐに答えてくれるので、これまで意思の疎通が難しいと思った事は無かったが、初めて見る仕草からは心境を読み取るのは無理だった。


 時間は遅かったが、気になっている事を後回しにしてもあまりいいこと無い気がするという、短いながら家を出て得た教訓に従って話をすることに。

ベッドに腰掛けるアーセに向かって、正面にしゃがんで目線を合わせた。

アーセも、何か話があるんだろうとこちらを見つめている。


「あのさ、なんか気になってる事でもあるのかい?」

「・・・・」

「明日はまたダンジョンに潜る、何かあるなら溜めこまない方がいいよ」

「・・あのね」

「うん」

「にぃに言われた通りできなかった、ごめんなさい」


ぺこっと頭を下げるアーセ、何の事だろう。


「? 僕に言われた事って?」

「追い払うだけでいいって言われてたのに、じゅっとしちゃった」

「・・でもそれはセルとシャルを護るためにやったんだろ? だったらかまわないよ」

「いいの?」

「ああ、よくやった」


 頭をぽんぽんとしてからなでなでする、もう少しでそんな事だったのかと言いそうになるのを堪えた。

律儀というか融通がきかないというか、好き勝手やられるよりは好感持てるけど。

そっか、だから今日はご褒美タイムが無かったのか。


 なにか思いつめてるように見えたから気になってたんだが、ちょっと僕の言葉に縛られ過ぎてるような。

臨機応変に対処してほしいとは思うけど、あんまりいう事と違う事されても困るし。

こういう場合はどう言ったらいいんだろうか、うーん。


「アーセ」

「なに? セルにぃ」

「俺がドジ踏んだせいですまなかったな、ありがとうな」

「ん」

「助けてもらった俺が言うこっちゃないけど、一番大事なのは自分が死なない事であり仲間を死なせない事だ。

あの時アルも言ってたろ? 「命の危険がある場合は」って。

アーセのした事は正しいよ、間違ってたのは陽動だと軽く考えてた俺の方だ。

今度からは気を付けるから、アーセも元気出せ、なっ?」

「・・ん、ありがと」


 なるほど、ああ言えばいいのか。

流石に僕よりも二年長く兄してるだけあるなー。

アーセも納得したみたいだし、良かった良かった。


「セルにぃ、次同じ事するとしたらどうしたらいい?」

「そうだな、・・あの時の失敗はせっかく四人いるのに、全員が同じ行動をとったってとこだと思う。

けん制役を一人にして、残りの三人は敵の素早い動きに対応するのに、最初から自身の得物をスタンバイしておく。

超音波を警戒して十分な間隔で配置、そして出来れば足や胴体に鎖巻きつけて動けなくするってのがベストかな」

「ん、わかった」


 なんか兄としてもパーティーリーダーとしても、全部セルにやってもらった格好だけど、アーセが納得してるんであればとりあえずいいかな。

これで憂いは晴れただろう、じゃあ寝ようかという僕の言葉でそれぞれベッドへ。

明日は久しぶりのダンジョン泊となる予定、しばしお別れの寝床の感触を楽しみつつ眠りについた。


◇◇◇◇◇◇


 翌朝、明るい日差しに僕とアーセとセルはほぼ同時に目を覚ました。

各々で身支度を整えて部屋を出る。

階段を降りてテーブルにつき、しばらくするとシャルとアリーが降りてきた。


「えーっと、今日はダンジョン探索三日目にしてここでは初の泊りになる予定です」

「今日の目標はどこまで?」

「まずは5層から6層、様子を見ていけそうなら7層ってとこかな」


 朝食が運ばれてきて、食べながら話を続けた。


「皆体調はどう? どっか悪いとこあったら無理しないように」

「俺はもう平気だ、たっぷり休んだからな、かえって体動かしたいくらいだ」

「あたしも別に問題ないよ」

「アーセは大丈夫」

「アーセちゃんが大丈夫だから私も大丈夫です」


 一人理由が変なのが居るけど気にしたら負けな気がする。


「まずは昨日の依頼の報告に薬師ギルドへ行って、傭兵ギルドで完了の手続きをしてからダンジョンへ向かいます。

報告は何も全員で行かなくても済むから、なんだったらここで待っててもらってもいいよ、僕が一人で行ってくるから」

「アーセはいっしょ行く」

「アーセちゃんが行くなら私も行きます」

「待ってるのも手持無沙汰だし、後で寄るのも面倒だろ? 皆で行こうや」

「うん、あたしもいいよ」


 それじゃあという事で出発、今回は荷物を置いておくので部屋はそのままで。

まずは薬師ギルドへ卵を届けに。

乗合馬車で街の西側へ移動する。


 今回ジルフィラさんは見かけなかったが、無事に依頼の品である卵を渡し前回の借りを返す事が出来た。

実際は別の依頼だから正確には違うんだが、ほとんど気持ちの問題だし少しスッキリした気がするから良しとしとこう。

気分よく薬師ギルドを後にして、今度は傭兵ギルドへ。


 相変わらず朝の内は混雑している。

受付でサインを貰った依頼書を提出、少し待った後報酬を受け取った。

人数多いからどうかと思ったが、さすがは四級相当のポイント、僕以外の四人の等級が一つずつ上がった。


「アーセ良かったな」

「ん」


 アーセは等級が上がって嬉しいらしく、にまにましている。


【おはよう、アル】

【おはよー、エイジ】


 ここでエイジが、声を実際は出して無いけどかけてきた。


【ここは、・・傭兵ギルドか、って事は昨日の依頼の手続きか?】

【そっ、もう薬師ギルドは終わって、この後ダンジョン行くよ】


 覚醒したのがこの時間っていうのはやっぱり・・。


【あのさ、この時間になったのって、昨日馬車飛ばしたからかな?】

【あーそうかもな、相変わらず自覚ないからよくわからんのだが、他に思いあたること無いしな】

【やっぱりあの移動手段は、気軽に使えるもんじゃなさそうだね】

【昨日は往復で約一時間ってとこだったか? それでこの時間って事は、・・もしかして動かしてた時間の倍の時間覚醒が遅くなるのかもな】

【倍、・・・・って事は二時間移動したら次の日は四時間遅くなる?】

【今回だけ見たらそうなるな、ただまだ検証してみないと一回だけじゃわからんな】

【他にもなんかあるの?】

【単に時間だけなのかどうかだな、重量や速度が関係するのかどうかその辺調べてみないと何とも言えんよ】

【そっかー、あっ今日5層と6層行く予定だから、後でどんなのが出るか教えてよ】

【ああ、あそこじゃどうせしばらく戦闘も無いしな、道すがら話すよ】


 傭兵ギルドを後にして、近場で食料を調達。

今回は一泊予定なので、本日の昼と夜の二食と明日の朝と昼の二食で、合計一人四食持って行く事になる。

こうして、本当の意味で全員揃って準備も整ったので、改めてダンジョンへと出発した。


◇◇◇◇◇◇


 ここオューのダンジョンは、1・2層は魔物が出現せず3層も『ボーン』がたまに出るくらい。

戦闘回数が少ないせいか、ヨルグのダンジョンに比べて楽な気がするが、稼げない為探索する人が少なくてその分情報が少ない。

事前に内情が判明しているのといないのとでは全然違う、そういう意味ではエイジの知識を得られる僕らは反則級のアドバンテージがある。


 現在は3層最奥の階段付近にて、遅めの昼食の後の休憩中。

此処まで一気にきたが、特に皆疲れている様子は無い。

魔術は使いたくても使えないので、当然魔力枯渇も起こしていないから純粋に体力の回復に努めるのみとなる。


「次の4層は、この間と同じ僕とセルとで先頭を交代しながら、後ろにシャルとアーセで最後尾はアリーに頼む」

「応!」

「うん」

「ん」

「わかりました、アーセちゃんはこの私の命に代えても・・(以下略)」


 4層はこの間覗いたので、皆に緊張は無い。

前後から魔物が出現するといっても、同時に沸くのはそうそう無く予め想定しているので対処は難しくなかった。

なので、道中はスムーズに進み二時間弱で踏破、階段の手前まで無事到着した。


 ここで小休止、疲労の為では無く未知の階層である5層への対処についての、エイジ先生直伝の僕の講義の始まりとなる。


「5層で出現する魔物は一種類、『ミース』という名の血を吸う小さい虫のような魔物。

体長はいいとこ5㎝ってとこで、羽が生えていて飛び回る。

蚊みたいな感じ、違うのは蚊に刺されるとかゆくなるけど、『ミース』にさされると麻痺毒を注入される。

これは、全身がしびれてマヒするが通常10分もしないで抜ける。

ただそれは刺されたのが一匹だけの場合、5層ではそれこそ数えきれないほどの数がいるらしい。

一匹二匹ならまだしも、何十匹にも刺されると肺も心臓も動かなくなり死んでしまう。

とにかく小さい上に数が多いから、武器でどうこうはかなり厳しい。

だから、対処は魔術それも精霊魔術でという事になる」


ここまで説明した時に、シャルから疑問の声が上がった。


「精霊魔術ってアル苦手でしょ? あたしもアーセちゃんも『魔散石』あるとこじゃ使えないよ?」

「それが、5層から8層は『魔散石』が壁面に無いんだ、だから次のフロアはシャルとアーセに頼みたいんだけど」


僕の話を聞くや否や、片膝を立て握ったこぶしを突き上げてシャルがポーズをとっている。


「やーっと出番ってわけね! 任せといてよ、ねっアーセちゃん」

「ん、シャルちゃんと頑張る」

「くっ、私もアーセちゃんと頑張りたいんですが、愛の力をもってしても力及ばず」

「いや、アリーは無理しないでいいから、それで火が一番効果的で簡単なんだけど、ここは風で頼みたいんだ」


皆が座っている中、一人中腰でやる気を漲らせているシャルが、再び疑問を唱えた。


「風? 雷もダメ?」

「うん、風でお願い」

「なんで風なの?」

「火や雷だとヒカリダケも燃えちゃうからさ」

「・・まあそうね、でもどうせ魔術浴びせるなら暗くてもいいんじゃなーい?」


このある意味男前な意見は、セルがたしなめた。


「あほ、ここは地図マップ売られてんだから俺ら以外のパーティーがくる可能性が高いだろうが」

「それはそうだけど、その人たちだって魔術で進むんだろうから、別に暗くってもいいじゃないよー」

「あほ、行きに火や雷でヒカリダケ燃やして真っ暗にして、いざこっちの帰りの道中に反対にこっちに進むパーティーがいたらどうすんだ? 

それでも魔術ぶっ放すつもりか? 逆に向こうにぶっ放されたらどうすんだよ?」

「うー、わかったわよー」


とりあえず、シャルは大人しくなったみたいだけど、今度はアリーが痛いところを突いてきた。


「それにしても、お義兄さんはどうしてそんなにここのダンジョンに詳しいんですか? 地図マップ買って無いですよね?」

「こっここに着いてから調べたんだ、出来るだけ信憑性を高めたいから、絶えず色んな人の話聞いてるんだよ」


セルはエイジの知識だってわかってるだろうけど、シャルもアリーもパーティーを抜けてた期間があるから、なんとか誤魔化せそうだ。

こういう時アーセが無口な上、根拠のない絶大な信頼を寄せてくれているのがありがたい。

アーセとはずっと一緒で、僕がそんなの調べて無いってのは知ってるだろうに、何も言わずにちょこんと大人しくしてくれている。


 まあそんなこんなで、何とかまとまって僕らのパーティーにとっての未到達階層である、第5層へ挑む時間となった。


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