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第74話 秘密 板についてきたな

 朝8時という早さにもかかわらず、すでに通りは人で溢れ活気を感じさせる。

雲は所々にあるものの、本日は晴れ渡ったいいお天気で気温もほどよく過ごしやすい。

絶好の行楽日和ではあるが、残念ながらこれから向かうのは行楽地では無く傭兵ギルド。


 まあそれでも、ダンジョンに籠るよりは陽の光を感じられるだけましだけど。

というわけで、五人全員ですでに通い慣れた感がある乗合の馬車乗り場へ。

ほどなく到着すると、馬車に乗っていたほぼ全員が同じ扉に吸い込まれていく。


 そんなわけで、傭兵ギルド内は傭兵のごった煮状態。

すでに打ち合わせテーブルはすべて使用中で、依頼書の前も人だかりができている。

何故ここまで混雑しているかというと、どうやら今日が月末日なのが理由らしい。


 これまであまり意識する事は無かったが、ツケがきくところは押しなべて月末支払いと相場が決まっているとの事。

それで、月の中では最も混むのがこの日らしい。

加えて、今日は天気もいいしで傭兵の皆さんは大層やる気を漲らせているというのが、目の前の光景につながっている。


 まずは依頼の選定、なんとか少しでも割のいいのを受注したい。

あまり人だかりをかき分けていくと喧嘩になりそうなので、遠間からだがなんとか見えるという位置から吟味をする。

このパーティーでは一応僕が一番等級が高いので、僕に合わせて5級までの中から出来るだけ高いものを。


 なるべく日帰りで済む魔物の討伐系のがいいんだが、どうも手ごろなのが無い。

・・・・、よく見ると討伐系そのものがほとんど無い、なんでだろう?

これだけの人ってことは、もうすでに取られちゃったのかな?


【エイジ、どんなのがいいかな?】

【どんなのって、あるやつから選ぶしかないだろう】

【そうなんだけどさ、討伐系が全然無くって】

【まあ王都だしな】

【? 王都だとそうなの?】

【そりゃあ王家が住む場所なんだ、討伐せにゃならんようなのはとっくに駆除されてんだろう。

おそらくは、軍が見回りしててこまめに間引いてるから、討伐の依頼がくるようなのはここらにゃもういないんだろうよ】

【それでかー、全然無いと思ったんだよなー】

【でかい街だけあって商取引は盛んな様だから、商隊の護衛は沢山あると思うけどな】

【うーん、ちょっと日数かかるからなー】


 商隊の護衛は往復が基本、目的地がどこかで違うが大体が四日位以上、長いのになると二十日近いのもある。

基本はダンジョンなので、あまりこっちに時間とられ過ぎてもなー。

こうなると、残るのは魔物の部位収集やこの間みたいな植物の採集、つまりは薬師ギルドや商人ギルドの依頼関係となる。


「ねえ、セルとアリーはいいの見つかった?」

「どうも今日一日で済みそうなのが見当たらんな」

「私の見た範囲では、商隊の護衛と薬草の採取と卵を採ってくるのくらいですかね」


 アーセは背が低いのでシャルと共に後ろで待っててもらい、アリーは一緒に待たせるとアレなんで、僕とセルと一緒に依頼を探す係りとした。

そうこうしている内に、人が少なくなってくる。

傭兵達は目当ての依頼書を受付に提出し、気合いを入れた顔つきで次々とここを出て行く。


 あまりグズグズしていると、時間だけが経っていき勿体無い。

空いてきたこともあって、掲示板の真ん前最前列まで進んで、より一層目を皿にして依頼書を見てまわる。

すると、ふと目に留まったのが一枚の依頼書。


 詳しい事はわからないが、依頼は誰かが何かを必要とした時に発生する。

当然、それには時期や期限があるので、依頼書は貼りだされてからそれほど間をおかず受注されて消えていく。

そんな中にあって、古びたという程では無いが真新しさの無い紙に目を引かれたのだ。


「んーと、『ヌージー』? の卵の採取?」

「あっ、それ私も先ほど見ましたが、用紙が少しやけてて古い感じがしたんで、かなりな期間残ってるようでしたよ」

「大体ここに長い間残るって事は、割に合わないかおそろしく難しいかのどっちかじゃないのか?」

「うーん、なんかちょっとひっかかったんだよね」


 全体的に古そうなのもそうなんだけど、この受注指定等級の所が6級以上って書いてある横に、要相談になってるんだけど。


【エイジー、これどういう意味かな?】

【うーん、こういうのはケースバイケースだから、職員に聞かないとこれだけじゃわからんよ】

【そっかー、あっねえ『ヌージー』ってどんなの?】

【鳥型の魔物、結構大型で翼を広げれば両翼で3m前後ってとこだな、そうだな鷲みたいなのって思っときゃ間違いないかな】


 セルとアリーには、そのままいいのが無いか探してもらって、僕は二人にことわって受付にこの依頼書について聞きに行く事に。


「あの、すいません、この依頼書について聞きたいんですが」

「はい、えーっと・・、あーこれですね、これは最近受注者が現れずかなりな期間が経過してしまったんですよねー」

「はあ、それでこの要相談っていうのは?」

「これはですね、相談というより補足説明といった事なんです、少々お時間いただいてよろしいですか?」

「はい」

「まずは現況から、これは薬師ギルドからの依頼で『ヌージー』の卵ならば、あるだけ買い取るということで、継続的に貼りだされているんです。

なんでも、少量でとても栄養価が高く病人食にいいらしくて。

これまでは、何度か採取された方がいらしたんですが、どうも状況が変わったらしく入手が難しくなったそうなんです」


 僕が説明に頷くと、理解したと確認したようで続きを話してくれた。


「元々『ヌージー』は断崖に巣造りするタイプなんですが、どうやら巣をつくる場所が変わったみたいで。

これまで採取出来ていたのは庇の無い岩棚の巣だったのですが、岩穴がある場所に移動してしまったらしいのです。

これにより、これまでは巣の場所を確認して上からロープで降りて行っていたのが、穴の中が視認できなくなり危険なためやる者がいなくなってしまいました」

「なるほど」

「薬師ギルドは、あれば助かるが無ければ無いで他の食品で代用するので、報酬としてはこれ以上出せないということなんです」

「はあ」

「ご存知の通り、高い等級が指定される場合はそれに伴って、報酬もそれに準じた額になります。

本来、難易度が上がればそれに見合うように、受注可能な等級もそして報酬も共に上げるのが普通です。

しかし、継続的に発生し続ける依頼であり、いつまた採取が容易な場所に巣を移すまたはそのような場所の巣が見つかるという可能性もあります。

ですから、この依頼に関しては例外的に等級を変えないで貼りだされているのです。

其の為、報酬もそのままになります。

しかし、現状このままでは受注される傭兵の皆さんにメリットが少ないという事で、特別措置がなされています。

それは、しばらくの間達成した際にこちらは6級指定の依頼ですが、特別に4級指定相当のポイントを付与するというものです」

「はー、なるほど」

「どうされます? 受注されますか?」

「ちょっと仲間と相談してきます」


 掲示板の前にいるセルとアリーに声をかけ、空いてきたこともあり待っている間アーセとシャルが確保しておいてくれた、打ち合わせスペースの一角に集まった。

まずは、さきほど受付の職員に聞いた話をかいつまんで説明する。

そして、全員が理解したのを受けて、この依頼を受注したい旨を伝えた。


「6級の依頼にしては難易度高めだけど、勝算はある、これをやらせてくれないかな?」

「一番等級が高いのがアルなんだから決めてかまわんが、何か理由があるのか?」

「うん、一昨日話したでしょ依頼失敗した話、あの借りを返したいんだ依頼主同じ薬師ギルドだしね」

「勝算って? 断崖絶壁の穴の中に巣があるんでしょ? そんな中どうやって行くの?」

「飛んでさ、ようするにヨルグの8層の時みたいにね」

「なるほど、でも行くのは問題無いとしても、親への対処はどうするのですか?」

「動きを封じて、その間にってとこかな」

「? にぃ、危なくない?」

「まあなんとかするよ、場所柄急いでも移動も含めて完了するのに今日明日の二日はかかるけど、他に今日一日で済みそうなの無いしどうかな?」


 まだ疑問はありそうだったけど、僕の口ぶりからいけそうだと思って貰えたらしく、これでいく事に決定した。


「じゃあ、食糧調達して馬車屋へ行こうか」

「にぃ、これこの前行ったとこ?」

「そう、この間と同じヒョウルの村、だから移動に一日近くかかるよ」

「この依頼にある『ヌージー』ってのは、そこの村の近くに生息してるのか?」

「みたいだね、まあその辺は馬車で話すよ、道中長いしね」


 そんな訳で、この依頼を受注し一旦全員でメイプル館へ戻る。

一日とはいえ勿体無いので、明日には戻ると伝えつつも一旦宿を引き払い、各自荷物を持って馬車屋へ。

ここで馬車を借りて、一路ヒョウルの村へと向かった。


◇◇◇◇◇◇


「ここヒョウル村は、規模は大きめだけど街道の行き止まりな為、訪れるのは僕らのように依頼の為村の周辺に用がある傭兵ぐらいしかいない。

だからか、宿屋はこの一軒しかないんだ。

目指す『ヌージー』が生息しているのは、村の西から北にかけて連なるシーノア連峰の一角で、村から一番近いキオア山。

これまでは、ここにある巣で採取されてたらしい。

おそらく、連峰の他の山々にも生息していると思われるけど、もしそっちをとなるとかなり険しい山が多いので往復で結構な日数がかかる。

だからか、キオア山以外は調査されていない。

山は遭難する可能性もあり危険度とかかる日数とを、依頼の報酬とで天秤にかけると割に合わないからみたいだ。

それは僕らにも同じことが言えるので、これまで通りキオア山の巣を狙う事にします」


 ここまで話して喉が渇いたので、ひと息ついて水を飲んだ。

現在夕食兼ミーティングとして、先ほど着いたヒョウルの村の宿屋の一階にて、明日の予定の前にその前段を一通り説明しているところだ。

馬車で話そうと思っていたが、御者役に伝えるのに二度手間になるという事で、全員揃ったこの場での講義の開催ということになった。


「『ヌージー』は鳥型の大きな魔物で、足の爪は硬度が高く刺す力も強いが、何より握力が凄くて人の頭くらいは簡単に握りつぶせる。

他にも嘴からの突撃といった直接攻撃の方法もあるけど、一番怖いのは口から発する超音波。

人の耳には聴こえないながら、その振動で敵の体内の血液を偏らせるので、最悪貧血に陥り意識を失う。

これを避けるには、とにかく『ヌージー』が口を開いたらその射線上からそれる事。

弱点は火、他は風なんかも効く、今回は卵が目的だから『ヌージー』本体は仕留める必要は無いけど、丸焼きにしても切り刻んでも部位収集と違って問題は無い。

ただ、今後も継続して卵を採取するにあたって、出来るだけ個体数を減らさない方が望ましい。

したがって、こちらの命に危険がある場合はともかく、なるべく殺さずに撃退させるのを心掛けてほしい」


 本日はまだ休眠していないエイジは、アルの堂に入った講師っぷりに感心していた。

まあこのあたりは、事前に馬車の中でたっぷりレクチャーをしたから、立て板に水のごとくすらすら出てくるな。

しかし、俺の存在を知ってるセルと、アルを過大に評価してるアーセはまあいい。

不思議なのは、シャルとアリーは良くアルがこれだけ魔物の知識があるのを何とも思わないもんだな。


「撃退って、具体的にはどうやるんだ?」

「操魔術での体への打撃がいいかな、そもそも外で飛んでたらそれしか手が無いしね。

でも、巣の中で遭遇して武器の射程内だとしても、やっぱり操魔術の方が安全かな。

巣の中の広さは良くわからないけど、どうしたって正面から向き合うようになるだろうから、さっき言った超音波を受ける可能性が高い。

そうなったらかなりまずいんで、見つけたら即攻撃して引き倒さないとね」

「エサ取りに行ってるとかで遭遇しないで済むのが一番いいわね、襲われて反撃するんならともかくただでさえ卵盗むんだしね」

「まあね、魔物相手とはいえちょっと後ろめたい気持ちはあるかな」


 ここに座って結構な時間経ったのもあって、テーブルに夕食が運ばれてくる。

なぜか頼んでいない料理まで、給仕の人に聞くとカウンターの中から「サービスだよ、どうぞ召し上がれ」と声を掛けられた。

この間来てからまだ一週間も経っていないので、厨房の人は僕とアーセの事を覚えてくれていたみたいだ。


 あの時は、『マッドベア』を倒し肝を除いてすべてを提供したのもあって、とても良い印象を持たれているらしい。

ありがたく頂戴して、しばしの間楽しくおいしい食事に舌鼓を打つ。

ひとしきり堪能した後、改めて話の続きを。


「卵は平均3個から5個くらい産むのが多いみたい、今は抱卵期だからたぶん巣に卵があって雄が外で警戒、雌は中で温めていると思われる」

「具体的な方法は?」

「巣の外で雄を巣から引き離す役と、岩穴に入り卵を巣から持ち帰る役で二手に分かれる。

岩穴の中には僕が行くから、皆は外で雄の相手をお願い」

「一人で? 怖くなーい?」

「アーセがいっしょ行く」

「アーセちゃんが行くなら私も」

「無理言うなよアリー、アルに二人もおぶって行けっていうのか?」

「やってやれない事も無いけど、岩穴の中はそう広くも無いだろうから、一人の方がやりやすいかな」

「それで、現地までの大体の到着時間や距離、それと遭遇する可能性の高い魔物はわかるか?」

「その辺は、あんまり気にしないでいいよ」

「? 気にするなって言っても、こっちの都合関係無しに襲ってくるんじゃなーい?」

「まあまあ、明日を楽しみにしててよ」


 最後のシャルの疑問に答えをにごしたことで、セルやアリーからも問い詰められたけど、なんとか追及の手をかわした。

まあ、別に秘密にする必要は全然無いんだけど、ちょっと驚かそうと思って。

ちなみにアーセはいつものように、全く心配してないって感じでなんか頼もしい。


 本日も昨日と同じ部屋割り、僕とセルとアーセで一部屋、シャルとアリーで一部屋。

夕食後皆でお風呂へ、宿に備えてあるわけでは無く、ここヒョウル村には温泉が湧いていて、誰でも入れるような施設が村の中央にある。

設備と環境を整えれば、それなりな温泉地として人気が出そうなものだが、現状食べるのに困らないからか特に開発はされていない。


 村の人達が楽しめればといった風で、男女に分けられ簡易な脱衣所があるのみである。

日中は馬車に揺られていただけで、特別体を動かしたわけでは無かったが、それでもこうして汗を流せるのはありがたい。

昨日の今日なので、さすがにアリーも自重したとみえて問題なかったらしい。


 宿に戻ると、部屋が別になってしまい別れなければならないアリーが、躊躇しながらもここまではと思ったのかアーセの手を握り締め、せつせつと寂しい心情を打ち明けている。

いつものようにアーセはさっぱりとしたもので、「おやすみ、シャルちゃん、アーちゃん」と言って、てててと僕の元までかけてくる。

宿泊客は僕らしかいないけど、あんまり廊下で立ち話もなんだからと、付いてきそうなアリーを振り切って部屋に入った。


 今日は流石にご褒美は無し、依頼受けて移動しただけだもんな。

そういえば昨夜はセルに、「なんでベッドが余ってるのに同じベッドで寝るんだ?」とか「俺ら双子でも子供の頃から別々だったぞ」などと驚かれた。

まあ小さい頃から同じ布団で寝てたからと説明すると、納得はしてないけど理解はしたといった感じだったな。


 明日は朝食後、朝早くに出発する。

前回の借りを返すべく、明日は頑張ろうと思いつつほどなく眠りについた。


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