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第70話 辛勝 最初はこんなもんかな

 すでに傭兵達の多くはここを出てしまい、今では数えるほどしか残っていない。

秘密の話という訳では無いが、喧騒にまぎれていたこれまでと違い話し声が響いているような気がして、僕らは若干声を落しながら話していた。


「それじゃ、今日はまだ早いとは言っても中途半端な時間だから、2層を抜けて3層まで行くのを目標にしようか?」

「いいな、じゃあ明日は4層まで行くのを目標にするとして、その後の事はまた話し合って決めるか」

「そだね、えーっと女性陣はどうかな?」


 ついついセルとのやり取りばかりになってしまう。

具体的な話になると特にそうで、やっぱり根本的に挑戦したい僕とセルに対して、出来れば行きたくないシャルって構図が出来てる気がする。

ちなみに、アーセは僕に付いてくるし、アリーもたとえ断っても付いてくるのが決まってるようで、特に何も言ってこない。


「わかった、行くって決めたんだから大丈夫よ」

「アーセも大丈夫」

「アーセちゃんが大丈夫なら私は問題ありません」


 ・・まあ無理強いになってなければいいんだけど。

なんかこうノリが悪いというか、暗いわけじゃ無いんだがいまいち後ろ向きなような。


「そういえばさ、もし国が関与してるとしたら勝手に持ち出されちゃ困る訳でしょ? 見張りの人とか配置されたりしてるのかな?」


 誰が聞いてるかわからないので、何がの部分は伏せておいた。


「受付の職員に言い含めてあるんじゃないのか? 潜った日数や荷物の感じからも、隠してても怪しければ検閲するかして確かめるってとこだろ」

「検閲って・・、もしかしてダンジョンの中で入手した物は、国に所有権があるとかは無いよね?」

「無いだろ、その方が確実とはいえそれをやると潜る奴が居なくなる、そうなったら本末転倒だからな」

「じゃあどうやって召し上げるの? 基本ダンジョンで入手した物は探索者のものでしょ?」

「そこは交渉だろうな、価値を知らなければある程度金を積まれれば手放すだろう」


 なるほど、その辺は国といえどもそう無茶な事は出来ないって事か。

しかし・・・・。


「でもさ、それで売らない人だっているかもしれないじゃ無い」

「その時は、監視をつけて常時行動やアレの行方を把握しておくってところじゃないか?」

「それだけかな」

「・・力ずくで取り上げるなんて事は無いと思いたいが、可能性はあるか・・・・、どうだろうな俺にもわからんよ」

「まっまあ、僕らは確認するだけで、回収する気は無いもんね」

「ああ、ものは無くとも実際に確認して有益な情報を持ち帰りそれを伝えれば、何か褒美くらいはもらえるかもしれんな」


 じゃあ、その時は王様に会えたりするのかな。

ご褒美ってどんなのだろう? 

王族・・、テロンの王女さん以来か、優しい人だといいけど。


「ふーん、そうすると王様に感謝されたりするのかな」

「? 心情はともかくとして、直接どうこうってのは無いだろうよ」

「そうなの? なんかよくやったな的な言葉を賜るとか、信頼されて部下にとりたてられるとかさ、あっもしかして友達みたいになって色々相談されるとか」

「はっはっはっ、面白い事言うなー」

「本当、変わってるわねアル」

「まったくお義兄さんは」


 なぜか三人に笑われるというか、あきれられてしまった。

アーセはきょとんとして、何の事だろうって感じだけど。

それは僕も同じで、何で皆そんなリアクションなのかよくわからない。


「あんまりここで話し込んでも時間がもったいない、そろそろ動かないか?」


 セルのこの一言で僕らは全員席を立った。

僕はなんか腑に落ちない、不思議な感情を持て余しながらだけど。


 傭兵ギルドを後にして、軽めの食事をしてから一旦メイプル館へ。

セルとシャルの宿泊の手続きをしに、ちなみに部屋割りは僕とセルで一部屋、女性陣で一部屋と決まった。

これは単純にお金の問題で、僕とアーセが同部屋になると必然的にセルが一部屋シャルとアリーが一部屋と、パーティーで一晩につき三部屋借りる事になる。

これを男女で分ければ二部屋で済むという訳だ、僕もその方が僕とセルとエイジの三人で打ち合わせ出来るので都合がいい。

流石にアリーも、シャルも一緒となればアーセに不埒なマネは出来ないだろう、とそう信じたいが大丈夫だよな。


 宿を確保して改めてダンジョンへ。

メンバー全員揃っての行動は、どこか心が浮き立つものがある。

はやる心を押さえつつまずは偵察、あくまでも命を第一に考えて行動するのを心掛ける。


 こうして、オューのダンジョン探索一日目がスタートした。


◇◇◇◇◇◇


 どこか湿った空気がまとわりつくような、風を感じない薄暗い洞窟。

まだ二つ目ではあるが、ダンジョン内というのは皆こんな感じなのだろうか。

岩肌をくりぬいた、地下に造られているという共通な特徴からか、あまり違いを感じられない。


「ねえ、触角で下への階段から流れてくる気流とか感じたりしないの?」

「そこまで便利でも無い、進んでる道の真っ直ぐ先がってんならともかく、こう曲がりくねってる中じゃな。

空気がほとんど流れて無い中、これでわかるようじゃ敏感すぎて逆に日常生活に支障がでるよ」


 なるほどそういうもんなのか、未だに他種族の種族特性って良くわからない。

まあ、僕ら『羽』みたいに何の役にも立たないのよりは全然いいんだろうけど。

3層へ続く階段を探して、2層を彷徨いながらそんな事を考えていた。


「なんか閉塞感あるわねー、皆と一緒だからいいけど一人だったら結構めいってるかも」

「シャルちゃん、こういうとこ苦手なの?」

「うーん、あんまり得意じゃ無い、アーセちゃんは?」

「アーセも一人は怖いけど、皆が居るから平気」

「言ってくれれば、いつでもこのお姉ちゃんが何でもしてさし上げますよ。

手をつなぎますか? 抱きしめましょうか? それともおんぶしましょうか?」


 先頭を行く僕とセルもだけど、後ろからついてくる女性陣も魔物が出ないとあって、気の緩んだ会話を楽しみながら歩いている。

こんな所に王家の命運を握るようなものが眠ってるなんて、知ってるけど信じられない思いだ。

・・そういえば、なんであんな反応だったんだろう? 王様にだって友達くらいいるだろうに。


【ねえエイジ、ちょっと聞きたいんだけど】

【なんだ?】

【傭兵ギルドで話してた時、なんで皆王様の友達にってとこで笑ったのかな?】

【そらまあ、ありえないからだろ】

【ありえないってどういうこと?】

【王が側近以外と話すのは、外交で同格の相手国の王族相手に世間話をするくらいで、その他の奴と話す事は無いからな】

【じゃあ、お城勤めでも無ければ王様とはお話出来ないって事?】

【ああ、必要最小限の人達としか話ししないだろう】

【なんで? もっとさ国民の意見を聞くとか、一般庶民にかかわって民の暮らしを知って政治に生かすとか無いの?】

【メリットとデメリットを比べると、色々不都合が多いからって判断だろうな】


 国を良くするのにデメリットって、・・あっ、命を狙われるとかか。


【それって、危害を加えられたり命が危ないって事?】

【まあそれも無い事も無いけど、一番大きいのは余計な言質取られない様にって事だと思うぞ】

【? どういう意味?】

【国王っていうのは、選挙や試験で決めてるんじゃ無く王族から選ばれる世襲制だ。

はっきりいえば、中には能力的にもう一つなのもいたりする。

そんなのが、迂闊な事言わない様に外部との接触を断ってるんだろう】

【えー、そんなの後で間違えたって訂正すればいいじゃない】

【国王ってのは国のトップだ、それが簡単に意見を訂正したり撤回したりは出来ない。

一番上に立つ者がそんな有様じゃ、国王としての威信が保てないし国が侮られる原因にもなる。

軍事にしても貿易にしても、国が舐められれば国益を損なう事になりかねない。

そのリスクを負わない様に、はなから危ない橋は渡らないって事だ】


 言ってる事はわからないじゃないけど。


【だったらさ、民間からでも能力の有る人を王様にすればいいんじゃないの?】

【それは難しいな、国を王家を守護する龍を制御するドラゴンリングは、王の血筋の者にしか使えない。

いざって時の最強の盾を手放す位なら、現状の方がメリットがあるって判断なんだろう】

【だとすると、一般庶民は最高でも宰相の人としか話が出来ないって事?】

【いや、宰相も同じ理由でダメ、通常宰相には五人前後文官がついてるはずだから、その人たちとなら可能性あるかな】

【宰相もダメなの?】

【名目上は国王がトップだが、実質的には宰相がトップだ。

いくら宰相が頭が切れるとはいっても、口が滑るという事もありうる。

もしそうなったら、どんな事でも実現させなければ恰好がつかなくなる。

それに、宰相がミスしたりすればその上である国王が繕わなければならない。

そんな事をさせて、ボロが出たら目も当てられない。

しかし、文官だったらもし間違えても上司である宰相が「部下が失礼しました」とか「その件は私の方で対処させていただきます」とかって、フォローできるからな。

宰相は、ちゃんと実力がある人がその地位についてるから、時間さえかければ後を任せても問題無い】

【ふえー、面倒なもんなんだねー】


 全然知らなかった、まあどうしても王様と話しがしたいわけじゃ無いからいいんだけど。


【でも、王様がそんなダメっぽい人だったなんて、なんかショックだなー】

【いや別にダメってわけじゃ、さっき言ったのは最悪こうだったらっていう仮定の話で、世襲とはいっても中には優秀な王もいるだろうよ】

【そうなの?】

【一般の訓練学校には通えないけど、城には各教科を教える講師がいて、小さい頃から勉強してるだろうからな】

【ふーん、テロンの王女さんもそうだったのかな?】

【小さい頃はおそらくな、ただ女性は色々微妙なところもあるからな】

【どういう事?】

【王位継承権がよっぽど高く無ければ、ある程度の年齢になると降嫁されるのを考慮して、庶民と交流を持つって事もあるだろう。

いざって時に、あまりにも世間知らずじゃ通らないだろうしな】

【王族ってのも大変なんだねー、普通の家で良かったよ】

【・・そうだな】


 僕だったら間違いなく息が詰まって逃げ出してるなー。


【勝手に外出できないって事は、ずっとお城の中なんでしょ?】

【そうだな】

【よく抜け出したりしないもんだねー、子供の時とかこっそりお城を抜け出したりとかないのかな】

【たぶんな、城の警備は小さい子供にはそう簡単に突破できん、それにある程度体が育ってくれば、それに伴って理解力も高く教育もされてる事だろう。

そうなれば、自分が勝手な行動をして王家に不利益な事が起きたら、どれだけ迷惑をかけるか自覚するだろうから自然と無くなるはずだ】

【なんか閉じ込められてるみたいだね】

【そうかもな、だが子供の頃は不自由を感じて不満も多いだろうが、色々な事を学んでいく中で衣食住に何の心配もしないでいいという事が、魔物がいるこの世界で常に守られているという事が、どれだけ幸せな事か成長に伴って自ずと自覚していく事だろう】

【でも、お城の外を見なければ自分がどんなに恵まれているかなんて、わかりようがないんじゃないの?】

【何も生涯城から一歩も出れないって訳じゃ無い、確かに王族専用の保養所とか無いから一般的な旅行は出来ないけど。

ある程度の年齢になれば名代として式典に出席したり、視察の名目で外遊したりすることもあるだろう】

【ああ、その時が『雪華』の皆さんの活躍の場ってわけか】

【だろうな】


 結構な長話だった事もあり、それなりな時間が経過しその間、いくつかの分岐をクリアするとようやく下への階段を発見した。

まずは階段近くで、軽く小休止。

息を整えて、気構えをして階段を下りた。


◇◇◇◇◇◇


 第3階層、第1そして第2階層と周りを見渡した限りそう違わないように見える。

これまでとの違いとしては、高さは変わらないが横幅が、二人並んで歩くにはきつい位狭い事。

なので、進むには自然と一列渋滞になる。


 そして、ここには魔物が出現する。

出るのは一種類のみで『ボーン』という名称の魔物。

二足歩行で、人の体格を骨だけにした骸骨の兵士、身長は130㎝から180㎝前後。


 『ボーン』は武器を携帯しているが、個体によってその種類が異なる。

確認できているのは、剣・槍・斧・棍棒の四種類。

それぞれの武器によってバリエーションも豊富であり、剣は両手剣のもいれば片手剣と盾持ちがいたり、槍も柄の長いものも短いものもいる。

斧は片手に一つずつの二丁持ちから、長柄のバルディッシュからハルバードと色々。


 以前にこの階層に来たことのあるセルと、エイジの知識を併せてこのようにメンバーに説明した。

実際の強さを確認する為に、アルを先頭にして進んでみる。


 これらに対して戦うには道幅が狭い事から、一対一で対処しなければならない。

援護は期待できない、というよりも実際に物理的に出来ない。

なぜならば、この階層には魔力を霧散させる『魔散石まさんせき』が、岩肌のところどころに見受けられる。

其の為、この魔物に相対した者は己の武器による攻撃のみで、打倒さなければならない、普通は。


 試しにエイジがやってみたら、問題無く『阿』も『雲海』も操れた。

しかし、エイジは手を出さない。

いまさらだが、そもそもダンジョンにはアルを鍛えるために潜っていたのだ。


 ヨルグのダンジョンでは第5階層へソロで到達するため、しょうがなく戦闘してたに過ぎない。

その後も、アルの指示で手は貸したが、パーティーとして参加したのはメンバーが行き詰った8層から。

なので、ここでもよっぽど困った場面でも無い限り、エイジは口出しも参加もするつもりがなかったのだ。


 まず少し歩いて行くとすぐに『ボーン』に遭遇した。

身長はアルと変わらない位、手に持つのは柄の長い槍。

『嵐』の間合いの外から、連続して突きを繰り出している。


 最初にアルが感じたのは「やりにくい」だった。

小柄な『羽』の中では大きい部類とはいっても、アルは身長170㎝に満たない。

そんなアルでさえ、この狭さの中では剣を上段から振り下ろすことも出来ない。

横幅もそう無い事から、横薙ぎも満足に出来ない。

唯一地形に左右されないのが突きだが、相手の得物の方が柄が長く射程もそれに比例している。


 苦肉の策として、右斜めに振りかぶる八相の構えを、持ち手を胸と腹の中間位の位置まで下げて刀身の背を肩にかける。

この状態で待ちに徹し、相手が突きを繰り出してきたところを、『嵐』で横にはじきながらその柄に刀身を滑らせながら、『縮地』で一気に懐に潜り込む。

『滑り後手』の応用で、そのまま相手が槍を引き戻す間を与えずに、袈裟に斬って落とす。


 なんとか倒せはしたものの、最初の一体でこれほど苦戦するとは。

根本的に、この地形に適応する戦闘方法を考えないと厳しい。

懸念事項を抱えつつ、時間的に最初の偵察を終えることになった。


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