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第69話 統一 サポートはちゃんとやるって

「はぁー、ダメだ、戻ろう」


 ぼんやりと周りは見渡せる、その程度の必要最低限度といった明るさが保たれている。

初めての場所なのに、どこか懐かしいようなゴツゴツした岩肌。

王都オューの東側の門を出て歩く事30分ほどのところにある、ここはミガ国にあるダンジョンその第2階層。


 まずは偵察という事で、今日は2層を突破し3層を軽く覗いて戻る予定にしている。

第2階層は、ほぼ第1階層と変わらない迷路構造。

天井はそれほど高く無い2mと少し位、二人が並んで歩いて丁度位の道幅で分岐に次ぐ分岐、ある意味オーソドックスな迷宮といえる。


 正確な道順が解らず、またそれを見分ける手がかりも無いまま、僕らは効率が悪いと解っていながら、他に方法が無いという情けない理由で、すべての道をチェックしている。

よーするに、手あたりしだいの行き当たりばったりである。

すでに、2層だけでも10回を数えるほどの突き当りに阻まれ、今まさに手前の分岐まで戻ろうとしていた。


「これ本当に下まで道続いてるのー?」

「シャルちゃん、頑張って」

「励ますアーセちゃん、素敵すぎます」


 こんな調子で、不満は出るもののお気楽な調子でただただ歩いている。

すでにダンジョンに入ってから1層を抜けるのに2時間強、2層に入ってからも2時間が経過していた。

しゃべれる元気があるうちは大丈夫とは言っても、帰りもある事を考えるとそろそろ下への階段が見つからないと不味いか。


 そんな事を考えながら、皆揃ってダンジョンに挑戦する事になったのを、微笑ましく感じていた。

話がまとまってよかった、そう感じる程に傭兵ギルドではダンジョン探索はあきらめる方向に傾いていたのだ。


◇◇◇◇◇◇


「確かに、それが一番安全ですし定石なんでしょうけど問題があります」


 僕の地図マップを買ってダンジョンへ行こうという提案を聞いて、再びアリーから意見が飛び出した。


 王都オューの傭兵ギルドにある、一階の打ち合わせスペース。

本来ここは、ここでの依頼人との折衝や請け負う傭兵同士が話をする為に作られている。

だから、関係の無いダンジョンの話をしているのはちょっとアレなんだけど、他に場所を使いたくて待ってる人もいないので、引き続き僕らは話し込んでいた。


 しかし、アリーはここに着いたのは一番後なのに詳しいんだな。

もしかして、所属しているところに様々な情報が蓄積されていて、それを閲覧できるとかなのかな。

だとしたら、今後とても頼りになるんだが。

そんな考えを抱きつつ、「問題って?」と聞いてみた。


「値段です、地図マップは1層のものが金貨一枚で2層が金貨二枚と、階層が下るごとに一枚ずつ高くなって9層になると金貨九枚、全部購入すれば金貨45枚という大金が必要になります」

「・・・・それはちょっと、厳しいかな・・アレッ? 9層の地図が売ってるの? じゃあ10層までもう到達してるって事?」

「わかりません、私も実際に見たことは無いので」


 ちょっとひっかかるけど、まあ命には代えられないとはいえ、いくらなんでもかかり過ぎる。

これで買って見たら、入口から階段まで脇道も無くワンフロアだったなんて事だったなら、いくらなんでも悲しすぎる。

どうにかならないかエイジに聞いてみた。


【エイジはダンジョンの中わからない?】

【ヨルグと同じだな、フロアごとの大まかな構造はわかるが道順ルートや仕掛けなんかはわからない】

【そっかー、どうしようかなー】


 僕が考え込む中、セルが「ちょっといいか」と話し始めた。


「俺は以前に3層まで潜った事がある、道順を正確には覚えて無いけど1・2層は問題ないと思うぜ」

「本当? ねっどんな感じ? やっぱりヨルグのとは違うの?」

「ああ、全部はわからんけどな」

「へー、ちなみに1層から3層までってどんななの?」

「迷路構造だ、分かれ道が沢山あって分岐だらけ」

「ふーん、ヨルグの7層や8層みたいな感じ?」

「あれはあれで、分岐の後小ホールの繰り返しである意味規則正しかったけどこっちはランダム、ヨルグでいうと2層が一番近いかな」

「へー、なるほどねー」

「それと、1・2層は魔物が全くでない、3層は出たからそこから下は出るんだと思うけどな」

「違うもんだねー」


 その後も色々と話し合ったが、やっぱり地図は高すぎるという事で、感触を得るためにも自分達で偵察してみる事にした。


「それにしても、9層まで踏破されてるってのは気になるね、アリーはどんな人たちがとかその辺知らない?」

「私の知ってる限りでは、どうも頻繁に潜っていたチームがあったようですが、つまってしまい情報を公開して地図マップを売りだしたと聞いています」

「・・そりゃあ妙だな、自分達が無理そうだから他のに後を託したってのか? 

普通だったら情報を秘匿して、今は無理でも後々自分達で攻略しようとするんじゃないのか?」

「うん、僕もそう思う、これじゃあ自分達かどうかは関係無く、とにかく誰でもいいから最下層まで行かせようとしてるみたいだ」


 ここまでの話を総合すると、どうにも裏に国家が関係しているように思える。

それは、セルも思いあたっているようで「そうだとすると」と話しを続けた。


「おそらくは、国が何からしらの理由で最下層まで踏破させようとしているって訳だ」

「理由って、やっぱアレ?」

「つまり、ミガの王家は最下層に何があるのか知ってるって事だ」

「自国のダンジョンが未踏破にもかかわらず、それを知ってるって事は他国から情報を得たって事?」

「だろうな、国が動くって事はその情報の確度が高いんだろう、裏がとれないのにここまでするというのは、ただの傭兵からもたらされたものとは思えない」

「国同士でって事? だとすると・・、王家を守る為だろうから友好国からもたらされた情報なのかな」

「ああ、その可能性が高い、ミガの王家が懇意にしているといえば、縁戚関係があるテロンか隣国で王同士の仲の良いイァイだな」


 この情報がイァイ国からだとすると、かなりな高確率でアリーが僕らがヨルグのダンジョンを踏破した事実を報告したからだと思われる。

しかし、テロンからだとすると、すでにテロンのダンジョンが踏破され、征龍の武器と何らかのアイテムが回収されているという事になる。

実際、僕の手に片手剣の征龍剣と盾があるんだから、最低でも一つどこかのダンジョンがってのは間違いないところだ。

一体どちらなのか、そんな事を考えていたらシャルが口を開いた。


「あのさ、二人盛り上がってるとこ悪いんだけど、まだ問題解決して無いよ」

「問題って?」

「だ・か・ら、またあの9層みたいなとこだったら、今度こそ危ないんじゃないって話よ」


 まあ確かにそうだ。

あの時は一歩間違えば、全員逝ってたかもしれない。

繰り返さないための対処としては、こちらの戦力を上げるのと、事前に状況を想定して方策をたてておくってところか。

どちらにしろ、内部がわからなければ難しい。


「とにかく、偵察ということで潜ってみようよ、決して無理しない範囲でさ」

「なんだかんだ言って、無茶するんじゃ無いのー?」

「ヨルグでだって、一度8層まで行って引き返したじゃ無い、大体あの時もっと先まで行こうって言ったのシャルじゃんか」

「そっ、・・それはそうだったかもしれないけど・・」


 シャルが不安がるのもわかる。

僕だって死ぬのはごめんだ、だからこそ今回は念入りに計画を立てないと。

前回の失敗は、最初に潜ったときに少しでも9層覗いておけばよかったってとこかな。

まあそうしたら、二度と行こうとは思わなかったかもしれないけど。


「とにかくさ、今回は一度で無理だったら何度でも、中の状況を掴めるまで偵察して出来る限り生存確率を上げよう」

「そうだな、正しい道順ルートの確認、出現する魔物の対処の仕方、ダンジョンの罠への対応、その辺をしっかりさせればなんとかなるだろう」


 やる気勢の僕とセルとは真逆に、シャルは深くため息をついてつぶやいた。


「はぁー、どっちみち行かないって選択肢は無いしなー。

しゃあない覚悟決めるかな、ねぇアーセちゃんとアーちゃんはいいの?」

「にぃが行くなら行く」

「アーセちゃんが向かう先が、たとえどこであってもお供しますよ」


 そのまま、実行に際しての具体的な打ち合わせに突入するかと思われたが、まだまだメンバー全員の意思は統一されていないようで。


「まだ時間早いから、この後早めにお昼食べて早速潜ろうよ」

「そうだな、まずは1・2層の道順ルートの確定だな、其のくらいなら半日あればいけるだろ」

「待って、もう行くの? 準備も何にもして無いよ」

「準備ったって、今日のは偵察で夜には帰ってくるんだから何にもいらんだろう」

「まあそうだけど、・・あのさ確認しときたいんだけど、もし本当に王家が動いてるとしたらさ、あたし達がやらないでもいいって気がするんだけど」

「私もそれは思いますね、あの時の話では武器を回収したりはしないって事でしたよね? でしたらシャルの言う通りわざわざ危ない橋を渡る事も無い気はしますね」

「ねっ、アーちゃんもそう思うよね」


 言われてみれば、と思ってしまった。

目的は征龍の武器がダンジョンに隠されているとしたら、それが有るのか無いのか探る事。

それは言うなれば、よからぬ輩に悪用されるのを防ぐためではあるが、必ずしも僕らがやらなきゃならないって事は無い。。

ダンジョンに潜るのは、あくまでも其のための手段というか、目的達成のために必須だと思っていたけど、すでに王家が乗り出しているなら任せて問題無い話だ。


 僕ら五人パーティーで、行動方針をすべて多数決でと決めてる訳では無いが、シャルとアリーの二人も反対っていうのは大きい。

一応は僕とセルが賛成で、アーセもこっちだろうから数の上では多数派になるけど、命の危険のある場所に意に沿わない形で連れていかれるというのはよろしく無いだろう。

それに、シャルの言う事は筋が通っており納得できるものでもある。

ここは見送っても、そう思い始めた矢先セルが声を発した。


「二人の言う事はもっともだし、俺も余所だったら賛同するが、ここだけは自分の目で確認したい」

「何故ですか? パーティーを抜けたり入ったりと勝手してる私が言うのは何ですが、一人の我がままでメンバーの命を危険にさらすのは承服しかねます」

「それは・・・・」


 セルはなんで他は良くてもここはダメなんだろう。

自分の故郷だから? それとも別の目的でもあるんだろうか?

・・わかんないなー、こういう時はっと。


【エイジ、なんでセルはこだわってるのかな?】

【国が王家が関与しているというのは憶測に過ぎないが、仮にそうだとしたら安心させてやりたいんだろう】

【安心? って王様を?】

【セルは王家を守護する龍の存在を知っていた、つまりそれを教える事が出来る存在と近しい間柄にあるんだろう。

今現在ダンジョンは9層まで踏破されている、逆に言えばまだ最下層にたどり着けずにいるか、着いた先に問題があって目的が達成されて無いって事だ。

実際どうなのかをまだ確認出来ない事に対して、不安を覚えている知り合いを安堵させてやりたい、其のために自分がと思っているんじゃないかと思うぞ】

【そっかー、どうすればいいかな?】

【自分で考えるんだ、まずは自分がどうしたいか、シャルとアリーに賛成するのかセルに賛成するのか。

此処でだけの話じゃないぞ、これから先も二つ以上の選択肢がある場合、判断はアルお前自身がするんだ】

【それ前から言ってるね、でもさ僕とエイジは運命共同体な訳じゃ無い? 

だったら、どっちが判断しても同じじゃないかな?】

【共同体とは言っても、あくまでもアルの人生であり俺はただの付け足しに過ぎない。

俺は自分の人生を思い通りに生きたつもりだ、そして一度終わってもいる、だからこれはアルの人生として自身ですべて決断していくんだ。

アル自身の指針が決まれば、それを実現するのに必要な情報は教えるし、方法や手段を一緒に考えもする、そういう協力はこれまでどおりにやるさ。

でも、それはすべてアルが決断した後の話だ、俺に頼らず流されずにしっかりと考えるんだ】


 それはそうだけど、そうするとまた今朝みたいに失敗しそうなんだよなー。


【じゃあさヒントは? どっちのが後々有利だとかさー】

【アル、真面目に考えろ、何のためにヨルグのダンジョンであんなに研鑽をつんだんだ? もう二度と後悔しない為じゃ無かったのか?】

【!】


 ・・そうだ、そうだった、なんで忘れてたんだ、あんなに強く想ったのに。

もうあんなのはごめんだ、二度と味わいたくない。


【アル、お前が決めた事に因って命が脅かされるかもしれない、大切な仲間を失う可能性もあるかもしれない。

それでも選んだ先に何が有ろうとも後悔しないために、自分自身で納得するまで考えて決めるんだ。

いつか命が尽きる時にも、面白い人生だったって笑ってられるようにな】

【・・・・・・うん、僕はセルに賛成する、ダンジョンに潜ってみるよ】

【そうか、何でそう思った?】

【やっぱり気になるしね、それにメンバーの希望は出来る限り叶えてあげたいし、協力もしてあげたいからかな】

【じゃあいっちょうその方向で皆をまとめるんだな】

【まとめるったって、どう言えば納得してくれるのかなー、ねえエイジー】

【そうだな、こんな感じで言えばいいんじゃないか】


「・・お義兄さん、また止まってしまいましたね」

「目開いたまま動かずに、これってアルどうなってるの? アーセちゃん」

「にぃは、昔から時々こうなる、でも少し経てば大丈夫」


 僕はエイジにレクチャーを受け話を切り出した。


「ごめんごめん、あのさ僕はセルの意見に賛成、ダンジョンに行こうと思う。

ただ、シャルとアリーの話も分かる、だから安全を確保するためにも偵察しよう。

命を危険にさらすのは僕だっていやだ、だからそれを取り除きながら進んだらどうだろう。

勿論、無理はせずに危なくなったらあきらめる事も視野に入れてさ。

大丈夫、このメンバーならいけるさ」


 僕の話を聞いて改めてシャルが先ほどの不安を口にする。


「でも、またあの9層みたいな目にあったら、今度こそ死んじゃうかもしれないよ?」

「あれはさ、結局調査不足だったんだよ。

実際、帰りは魔物が沸かないのが判明して、問題無く通過できたじゃない。

ちゃんと偵察してれば、予め数を減らしておいてから突入する事も出来たはず。

そうやって、事前に策を講じて危機的状況を回避する、それが無理なら引き返す、それでどうかな?」

「うー、でもあたしらじゃ無くてもさー」

「それはそうだけど、ここまで関わったらやっぱり気になるじゃ無い。

出来る限りの事はやろうよ、それで無理ならシャルの言う通り義務ってわけじゃないんだから、あきらめればいいんだしさ、ね」


 少しの間をおいて、シャルが返事をしてくれた。


「わかったわ、あたしも行く、はっきりさせたいってのはわかるしね」

「私も納得しました、まあアーセちゃんが行くんならどっちみち付いて行こうと思ってましたから」

「よしっ、じゃあ決まり」


 これで一応はメンバー全員の意思が統一され、オューのダンジョンを探索する事が決定した。


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