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第68話 集合 何が待ってることやら

 王都オューの中央から、西に折れたところにある傭兵ギルド。

薬師ギルドを後にしたアル達三人は、乗合の辻馬車に乗り朝通り過ぎたここまで戻ってきた。

アルだけが多少ではあるが、暗い気持ちを引きずって。


 建物の前まで来た時にアーセに話しかけられた。


「にぃ、また依頼するの?」

「実際やるかどうかは別にして、依頼書をチェックしてみようかと思ってね」


 時刻はまだ朝と言って差し支えないくらい、依頼を受けて近場であれば終わらせるのには十分時間はある。

リセットしたい気持ちはある、出来れば本当に一つこなしておきたいところだ。

ただ、昨夜連絡取ってセル達とここで待ち合わせしているので、そうするわけにもいかない。


「いいですね、ゴナルコの時みたいに海辺のような絶好のロケーションがあれば、アーセちゃんのまぶしい笑顔を十二分に堪能できるんですが。

あっ、勿論どんな場所でもそこにアーセちゃんが居るだけで、私にとっては楽園パラダイスなのは間違いありませんよ」


 依頼と全然関係ないとこで大いに乗り気なのが約一名、確かに危害を加えているわけじゃ無いから文句も言えないけど。

中に入ると、依頼書を貼ってある掲示板の所は多くの人でごった返している。

何とか打ち合わせスペースの一つを確保し、アーセとアリーを場所取りに残し僕は一人で掲示板のところへ。


 別にそのまま三人で、のんびりとお話でもしていればいいところなんだが、どうもそんな気分でも無い。

一応ここには依頼書をチェックするからといって来ているので、そのアリバイ作りみたいなものだ。

依頼書を眺めながら、ふと気になってエイジに話しかけてみた。


【ねえエイジ、もしかしてあの時ユライ森で折れたゲイカンじゃダメだって気づいてた?】

【・・じゃないかなーとはな】

【言ってよー、依頼失敗しちゃったじゃんかー】

【あの時は、自分でそう判断したんだろ?】

【だってさー、数少ないっていうし結構な数ダメにしちゃったしさー】

【まあ俯瞰で見たらな、そういう考え方も間違いって訳じゃ無いと思うけど、他はともかく薬師ギルドの依頼はもっと親身になるべきだろうな】

【えー、僕だってちゃんと真剣に考えたけどなー】

【真剣にもそうだけど親身にだ、あの依頼を机上で長期的に考えればアルのした行動は正しいと思うよ】

【でしょー】

【でもな、それはアルが数値しか見て無かったって事だと思うぞ】


 確かにあの時実際に現地では、それを必要としている患者さんがいるなんて、まるで考えていなかった。


【つまり、自分自身の行動の成否によって、人が助かるかどうかって自覚は無かったんじゃないかってこった】

【まあ、そりゃあね・・】

【それはとりもなおさず、アルが他人事だと思っていたってことだ】

【・・うん、そうかも】

【依頼であろうとなんであろうと、一番大事なのは相手の立場になって考えるって事だ。

例えば、アーセが一週間の間にゲイカンから抽出した成分を摂取しなければ命を落すとしたら、どうしてた?

数を減らしたらまずいと思って、今回は普通のは摘まないで折れたのを持ってきましたって言えたか?

【・・・・】

【今回は競合依頼だからアルが失敗してても、他がおそらくは『風雅』の連中が成功するだろうから、大事には至らないだろう。

薬師ギルドの依頼は、人の命に関わる案件も少なくない、今回は依頼を受けるに際してその辺の確認を怠ったって事でもある】

【うん、ちょっと、いやかなり軽く考えていたかも】

【間違っていないから正しいからといって、それが正解とは限らないって事だ、今後はケースバイケースでその都度良く考えるんだな】


 そんな風には考えて無かった。

自分で出来ないから貴重なお金を使って依頼を出す、それは達成するには腕っぷしが求められるからだとばかり思っていたのだ。

でもそれよりも何よりも、どうしてもそれが必要だから依頼を出すんであり、ましてやその理由まではまったく考慮していなかったと思い知った。


◇◇◇◇◇◇


 アルとひとしきり魂話を交わした後、エイジはいつものように抱えた迷いに翻弄されていた。


 本当にこれで良かったんだろうか。

自分なりにアルに説明というか説教をしたが、こうして全部を俺が言ってしまう事は、結局アルが考えるという行為を妨げているんじゃないだろうか。

アルの人生を邪魔したくないし、まっとうに育ってほしいと願っているが、本当にこのやり方で大丈夫かがわからない。


 おそらくは、俺自身がまるで成長していないのが一番の問題なんじゃないかと思う。

普段アルを通じて見聞きしてはいるが、何一つとして自分で経験している事が無いからか、地力が上がってる気がしない。

俺に出来る事といったら、操魔術で戦闘する事くらいしか無いもんな。


 もういっそ、聞かれたことにだけ答えるデータベースとしての存在でいた方がいいのかも。

出来るだけ判断する場面ではアルにまかせているつもりだが、どうしても口出してしまうことがある。

覚醒して無いふりしてだんまりを決め込んでも、アルには俺が覚醒してるか休眠してるかわかるらしいしな。


 はぁー、どこぞに大人への階段はこう登らせる的な、子供の成長の方法まるわかり手引書とか落っこちて無いもんか。


◇◇◇◇◇◇


 時が経つにつれて、段々と人が少なくなってきた掲示板の前。

僕は後から思えば、顔を前に向けてはいるものの焦点の合わない目で、依頼書を読むでも無く只眺めていたようだ。

エイジもまた自らの考えに沈んでいたらしい、だから僕ら二人とも近づく気配にまるで気づけなかったのだ。


 不意に後ろから肩を叩かれ、弾けるように反応し『嵐』に手をかけながらその場で体を翻し、背後の者に向き合った。


「待った待った、俺だよアル」

「・・セル、あーえっとごめん」

「どうしたの? アル」


 セルが僕を押しとめるように、肘を曲げ両手を上げている横で、シャルは疑問を口にして目を丸くしている。


「なんかボーっとしてるなと思ったんだが、なんかあったのか?」

「・・実は、依頼を失敗しちゃってね、それでそのなんというかもやもやしてたというか、中々切り替えられなくてね」

「へー、アルがそんなに気にしいだったなんてねー」

「どんな依頼だったんだ?」

「競合依頼だったんだけど、まあその辺は席とってあるからこっちで」


 二人を打ち合わせスペースの方へ案内し連れていくと。


「もうアーセちゃんに会えない日々のやるせなさっていったら、まるで世界中から光が失われたような」

「ん、わかったから手離して」

「どんなことがあっても決して離れはしません、どんな困難にも二人で手を取り合って乗り越えましょう」

「ん、困ったことあったら力になるから手離して、それと顔近い」

「本当ですね? 本当に力になってもらえるんですね? じゃあその証として誓いのキスを」

「約束はしてもいいけど、誓いのは無しで・・にぃ! セルにぃにシャルちゃん!」

「えっ? 誰? お義兄さんですか? 何するんですか!」


 どうにもエキサイトしてたので、とりあえずアリーに背後からこっそり近づき、フルネルソンをかまして動きを拘束する。

妙齢の女性に対してする事ではないが、あれ以上は許容できない。

どうにか解こうとじたばたするアリーを尻目に、アーセとシャルが再会を喜んでいた。


「シャルちゃん」

「アーセちゃん、それにアーちゃんも」


 ひしと抱き合う二人、アーセはシャルに再会したのもそうだけど、アリーから解放された嬉しさもあるのかな。

セルには鏡で報告してあったけど、シャルはアリーがいるとは知らなかったんでちょっと驚いているみたいだ。

それはそうと、今後の事も含めてくぎを刺しておかないと。


「先ほどのアーセにしてた事は、僕の認識では危害を加えると同じなんだけど?」

「想い合う二人の仲睦まじい様子を、穿った目で見るのはやめていただけますか」

「ほー、そうでるわけね、わかったよ、それじゃあ再会してあっという間だったけどこれまでって事で・・」

「すいません、調子にのりました、許してください」


 外に出てれば周りの警戒があるんでまだいいんだけど、こういう室内とか馬車などのある程度安全な場所にいると、すべての力の向かう先がアーセに集中してしまうらしい。


「アリー、ご無沙汰」

「おかえり、アーちゃん」

「セル、シャルもお久しぶりですね、今後ともよろしくお願いします」


 互いの再会の挨拶を済ませて、全員が着席する。

アーセとの時とはかなり温度差があるけど、不仲なわけじゃ無くおそらくはそこに煩悩がのってるかどうかの違いだろう。

全員揃ったら、改めてアリーのパーティーへの復帰について決めると言ってあったけど、なんかなし崩し的にOKみたいだ。


「で、席を囲んで早々だけど、依頼を失敗したってのは?」

「えーっとね、薬師ギルドからの依頼だったんだけど・・・・・・」


 セルには既知の事でも、シャルは何も知らないだろうから依頼を受けるところから説明した。

アリーは今朝同行したから、その時の依頼人への報告によって大体の経緯と結果は知ってても、詳しい途中経過などは知らないだろうと思い、最初っからにしたのだ。

上手くいった事ならともかく、失敗した話ってのはどうしても言い訳がましくなってしまう。

それでも、出来るだけ反省の意味を込めて詳細に語った。


「・・・・という訳なんだ」

「なるほどな、そりゃあまあアルには悪いけど、依頼人の言う事はもっともだな」

「確かに言われてみればその通りだと思うけど、それをその状況でちゃんと判断できるかっていうと、あたしは自信無いなー」

「アーセちゃん、『マッドベア』に襲われたってどこも怪我してないんですか? 

なんなら、私が体の隅々までチェックしてさしあげ・・・・、すいません」


 僕の視線を感じて、アリーはすぐさま降参した。


「ふう、僕も話せて少しスッキリしたよ」

「切り替えていこうぜ、ちゃんと反省したんだからもういいだろう」

「うん、それでそっちはどうだったの? まあここに居るって事は無事にお許しを得たって事だと思うけど」


 これまたセルに聞いてはいたけど、尋ねないと不自然かもと思い質問してみたのだ。


「ああ、なんとかな、親父は多忙で仕事場に寝泊まりしたりしてて中々会えなかったんだが、それが功を奏したらしくてな」

「どういう意味?」

「とても家族がどうのって問題にかかずらってはいられないって状況らしくて、なんとか捕まえて話したら勝手にしろってな感じでな」

「・・なんか喧嘩別れみたいだけど、大丈夫なの?」

「いいのよ、実際じっくり向き合われたらどうなってたか、きっとひとしきり怒られてからねちねち小言言われたあげくに、家から出してはもらえなかったと思うもの」

「お袋にも色々言われたけど、こっちはまあなんとかこちらの意を酌んでくれて、了承してもらえたしな」

「そっか、二人がいいならいいけど」


 親御さんの心情まではわからないけど、やっぱり息子と違って娘ってのは心配なもんなのかな。

うちも父さんや母さんはアーセの事心配してるんだろうか。

出来れば鏡使って無事な姿を定期的に見せてあげたいんだけど、どっから漏れるかわからないからなー。


「よしっ、じゃあこの話はここまでって事で、これからの話ししようぜ」

「そうね、ってこれからってやっぱりダンジョン行くの?」

「そりゃそのために来たんだからな、お前だってあんだけ嫌がってたのを連れてこられたんだ、それで行かないなんて納得できないだろう?」

「あたしはダンジョン好きじゃないから、行かないなら行かないで全然いいわよ」


 こんな兄妹のやりとりもなんか懐かしい。


「そうだね、目的はダンジョンだからね、まずはどういう段取りで行こうか?」

「前と同じなら、一度試しに潜って見て感触掴んでから本番って感じか?」

「ちょっと待って、またあの9層みたいな中へ行くの? この間はなんとかなったけど今度も大丈夫って保障は無いでしょう?」


 僕とセルの話に不安を覚えたシャルが発言する。

アーセは我関せずって感じだ、たぶん尋ねればいつもの答えが返ってくるだろう。

そんな中、「あのですね」とアリーが話に入ってきた。


「ここのダンジョンは、先人たちの努力によって9層まで踏破されており、1層から9層までの地図マップも売っていると聞きます」

「えっ、そうなの?」


 知らなかったので思わず声が出てしまった。

てっきり、ヨルグと同じように自分達でルートを探さないとならないとばっかり思っていた。

本当なのかどうか、エイジに聞いてみる。


【ねえエイジ、今の本当?】

【知らん】

【? 知らんって、わからないって事? エイジが?】

【そう、少なくとも俺の知識には無いよ】

【えー、じゃあ嘘って事なのかな?】

【そうじゃない、自分自身でもよくわからないけど、俺の知識は何でもかんでも知ってるって訳じゃ無いんだろうよ】

【そうかな、これまでエイジが知らないなんて聞いた事ないけど】

【あるさ、何回か知らないって言った事もあるぞ。

何を知ってて何を知らないのか、それこそ全てが解っていなければ判断しようもないけど、一つだけはっきりと知らないといえる事がある】

【どんな事?】

【最近の事だ】

【最近?】

【詳しく言うとここ17年の事だな、俺が知識を授かったのは17年前、その後はアルと同じ事を見聞きしているに過ぎない。

俺の中の情報はそこから一切新しくなってないんだ、だから普遍的な名称とかならともかく、その手のはアルが知らないって事は俺もわからんよ】

【あー】

【俺の知識の中にオューのダンジョンが9層まで踏破されたとか、地図マップが売ってるっていう事柄は無いけど、この17年の間の出来事だとしたら俺には知る術が無いって事さ】

【なるほどねー】


「あの、お義兄さん?」

「ねえアーセちゃん、アルどうしたの?」

「・・・・ごめん、ちょっと考え事してたんだ」


 僕の状態を見て、セルはエイジと話していると理解しアーセはいつもの事とスルーしている。

だが、アリーとシャルは話の途中で急に黙った僕を心配してくれてるらしい。

今後は会話の最中にあまりエイジと長話をするのは避けよう。

ちょっとバツが悪いのもあり、大きな声で提案してみた。


「じゃあさ、皆が良ければ地図マップ買って早速ダンジョン行こうよ!」


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