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第67話 失敗 いい経験だと思って

 僕らの宿泊するメイプル館の二人部屋、ここに僕とアーセに加えて先ほど再会したアリーの三人で入り、話し合いの場を設ける事にした。

手狭な上テーブルも無く、正直話し合いには適して無いんだが、他の人の目はともかく耳のあるところで話す内容では無いので致し方ない。

アーセとアリーがベッドに腰掛け、僕がその正面に椅子を持って来て座った。


「あの時、考えさせてくれって言ってたけど、ここに来たって事はなんらかの答えが出た、でいいかな?」


僕の探りを入れた問いかけに対して、アリーは瞳に強い色を籠めてこう答えた。


「はい、改めてパーティーに参加させて下さい、どこまでもお供したいと思っています」

「それ、心境の変化じゃないよね? これまでと変わらずにってのは、何一つ明かす気は無いと?」

「何の事だかわかりません、という事にしておいていただけませんか、こちらにも事情がありまして」


 どうするべきか、心情的には一緒に死線をくぐった仲でもあるから、以前と変わらずにという気持ちはある。

しかし、どういう指示を受けたのかわからないが、武器を持ち去られたりましてや、もしもメンバーに害を及ぼすとなると非常に困る。

後腐れないのは疑わしきはって事で断るのが一番簡単だけど、そんな風に考えていたらアーセがアリーに話しかけるという珍しい光景を見ることになった。


「アーちゃん」

「なんですか? ・・わかりました、アーセちゃんが望むのなら添い寝でも抱き枕にでも」

「いらない、アーちゃんはにぃが困る事するの? もしそうなら・・一緒居るのはダメ」

「絶対に困らせるような事はしない、とは言い切れませんね。

ただ、パーティーの活動の邪魔をするつもりはありませんし、ましてや危害を加えたり騙したりという事も一切致しません。

そして、アーセちゃんに降りかかるすべての危難を退ける事を誓います」


 ここだけ聞いてると何の問題も無いように聞こえるんだけど、実際どうなんだろうか。

こういう重要な話し合いは、陽が落ちてから夜に行われることが多い。

そして、夜は今日を含めて大概の場合エイジが休眠してしまっているので、僕が判断し答えを出さざるを得ない。


「わかった、とりあえずは今まで通りって事で」

「ありがとうございま、・・とりあえず?」

「そう、あくまでも仮にだから」

「仮・・てすか?」

「パーティーメンバー全員に関わる事だからね、セルとシャルが合流したら改めて話し合いをして決めるから」

「そういえば、二人は一緒じゃないんですか?」

「今はちょっと別行動、近いうちに合流するからその時にね」

「そこでもしも不可となったら」

「残念だけどって事になるね、それでもいいなら」

「・・はい、結構です、勝手な行動したんですから当然です」


 別の僕らのパーティーは、規律がある訳でも行動を縛っているわけでも無い。

実際、セルとシャルも今は自分たちの都合で離れているし、アリーにも自由に行動する権利がある。

ただ、こういう考え方が自然と身についてるのは、長年厳しい規則のある組織に属しているからだろうか。


 僕は「ちょっと」と言って席をはずし、ここまでの事をトイレでセルに報告。


「わかった、まあ俺は賛成なんで良かったよ」

「そうなの? なんで?」

「腕はたつしアーセの事は別として、そう口やかましい方じゃないし滅多な事に動じないしな、中々優秀なメンバーだと思ってるからさ」

「まあ・・そうかな」


 セルは、初めて会った時からアリーには寛容だ、まあ実害ないもんな。


「それより進展があった、親父になんとか認めさせたんで明日から合流できる」

「ホント? 良かった、ご両親もわかってくれたんだね」

「お袋は渋々だし親父はどうにも忙しいらしくて、それどこじゃないって感じだったのを無理やりだったがな」

「明日は、朝に薬師ギルドに依頼の報告に行くからその後になるけど、どこがいいかな」

「傭兵ギルドでいいんじゃないか?」

「そうだね、じゃあ打ち合わせスペース借りて話し合おう」

「ああ、じゃあ明日」

「うん、おやすみ」


 こうして部屋に戻ると、なんかアリーが憮然としている。

アーセにどうしたのか聞くと、抜けてた間の事を説明していたらしい。

ははーん、『雪華』の話に何かを嗅ぎ取ったか、さすがは同好の士ってとこだな。


「明日は朝から薬師ギルドへ行くけど、アリーはどうする?」

「アーセちゃん一緒なんですよね? だったら当然付いて行きますとも」

「じゃあ、8時半にはここ出るからそのつもりで、今夜はもう遅いからこれでお開きって事で」

「わかりました、じゃあ明日、アーセちゃんお休みなさい」

「おやすみ、アーちゃん」


 アリーが部屋を出て二人になり、今日は朝早くから動いていてすでに遅い時間なのもあり、力尽きるようにベッドで横になった。


◇◇◇◇◇◇


 アル達の部屋を出たアリーは、そのまま自分の部屋に戻る事は無く、「お散歩」と従業員に告げてメイプル館を出て行った。

すでに夜の社交場と化したとある食事処、ここで二人の『羽』の男性が杯を交わしている。


「ふぇー、強行軍だったなー、お疲れっと」

「ああ、お疲れ」

「こう動き回られると厄介だな、この間みたいに薬師ギルドとか風呂とかオューの中ならともかく、他の村へ行って遅い時間に戻ってってのを繰り返されたら、俺たちの方が持たないぞ」

「まあ傭兵なんだから、依頼で飛び回るのは仕方ないだろう」

「っつってもよー」


 そんな事を言い合っていると、一人の女性が店に入ってきて周りを見回し、男たちを目に留めるとそのまま同じテーブルについた。

突然、見知らぬ女性が同じテーブルに、普通なら驚くところだが二人はまじまじと見るだけで、そのまま相手の出方を待つ。

すると、その女性が話しかけてきた。


「こんばんは、お日様はもう沈んでしまいましたね」

「! こんばんは、今夜は月も出ていませんね」

「ええ、星も隠れているようですね」


合言葉で双方の身分の確認を済ませる。


「改めて、俺がドー、そっちがソーだ、よろしく」

「私はこの任務ではミアリーヌを名乗っています、向こうではアリーと呼ばれています、よろしくお願いします」

「それで、あんたが交代要員って事でいいのか?」

「はい、以降は私が張り付きますので、お二人は本来の任務に戻って下さい」

「助かったぜ、俺たちは荒事専門なんでな、尾行や監視は慣れて無いんだ」


 互いに情報交換を行い、今後の連絡や連携についての話し合いを重ねる。


「じゃあ、俺たちは基本的に『対象』と同じ街で待機って事でいいのか?」

「はい、報告にも上げていますが、『対象』の戦闘能力は高いです、そこらの傭兵相手であれば三人までは問題なく無効化できると思われます」

「・・それ、俺たちいらないんじゃねーの?」

「加えて、『対象』が今後一人で行動する事はほとんどありません、誰かしらパーティーメンバーが一緒でしょうから、5~6人くらいは大丈夫でしょう」

「益々俺らいらないんじゃ・・」

「お二人の力を必要とするのは、相手が大人数の場合や闘技大会上位者のような、手練れが複数名いた場合だと思われます。

『対象』には、襲われたりして切り抜けるのが難しい場合は、大声を出すとか大きな音を出すとかして目立つようにしてもらうように言い含めます。

私が一緒の場合は、騒ぎを起こす為に周りに火をかけたりしますので、それを目印にして下さい」


 女性は目的の為なら手段を選ぶ気は無く、それを聞いている二人もまた普通の事であるように頷いていた。


「明日からの予定については、朝に薬師ギルドへ行く事は決まっていますが、それ以降はまだ未定です。

ただ、ここにはダンジョンへ潜る予定で来ていますので、遠からずそうなると思われます」

「ダンジョンか・・、そこまでは付いてはいけないが大丈夫なのか?」

「はい、多分ですが大丈夫だと思われます。

ヨルグと違ってここのダンジョンは、すでに9階層までは踏破されていて地図マップも売っていますし、出現する魔物も判明していますので問題ないかと」

「くれぐれも、無茶しないようにな」

「はい、わかっています、それで今後の連絡についてなんですが、メンバーには『二本』もいますので手紙でお願いします」

「手紙か・・、それだと即時性に欠けるが」

「しばらくは問題ないかと、方法については他の手も考えてみます」

「俺たちは、基本的に二人一組で一週間交代となる、今回は後三日したら別の人員になるので覚えておいてくれ」

「わかりました」


 その後二言三言話した後、女性が席を立ち店を出て行った。


◇◇◇◇◇◇


 翌朝、少し体が痛いのは、普段使わない筋肉を使ったからか。

睡眠時間は十分で、スッキリとしたいい目覚め。

アーセも、もぞもぞと動き目を開いた。


 支度を済ませて階下へ、するとすでにアリーがテーブルについていた。


「おはようございます、アーセちゃん、お義兄さん」

「おはよう」

「おはよ、アーちゃん」

「清々しいとてもいい朝ですね、そこにアーセちゃんが居るだけですべてが輝いて見えますよ」


 どうやらアリーも通常営業らしい。

セル達が今日合流するって伝えたいとこだけど、そうするとなんでそんな事わかるんだって話になるからまだ内緒にしとかないと。

三人で楽しく食事をしていると、エイジが覚醒してきた。


【おはよう、アル】

【おはよー、エイジ】

【? アリーが居るって事は昨夜会ったのか?】

【うん、彼女もここに宿とってたらしくてばったり】

【なんか事情はわかったか?】

【全然、また一緒に居たいってだけで、身分とか目的とかは一切明かさず】

【まあ基本だな、んで、一緒に居るって事は受け入れたって事でいいのか?】

【仮って事で了承してる、セルとシャルが揃ったら改めて話し合いして、正式に決めるからって言ってあるんだ】

【ふーん、何かアリーからの要望とか言ってきた事とかは?】

【別に何も、パーティーの邪魔はしないし危害を加えるとかもしないってだけ】

【なるほどなるほど】

【ね、どう思う? やっぱ断った方がいいかな?】

【どっちでもアルが判断した方でいいと思うぞ、まあ断ったとしても隠れて見張られるだろうから同じだと思うけどな】

【そっかー、あっ、セル達と今日合流するから】

【おー、良かったな】

【うん、ご飯食べたらまずは薬師ギルド行ってその後になるけどね】


◇◇◇◇◇◇


 エイジはアルとの魂話から、アリーの狙いを考察していた。

彼女が元の鞘に納まったって事は、やっぱりアルを泳がせる事に決まったのか。

とすると、またずいぶん危ないまねさせるんだな、アルの身を危険にさらすとは。

アリーだけじゃあ、アルの護衛たりえないって事はわかってるはずだろうに。

・・逆にそれだけの強さを認めるからこそって訳か?

それとも、すでに他に護衛が配置済みって事なのか?

真実は知りたいさりとて外交問題にはしたくないってのはわかるけど、其の為に天秤に乗せるのがアルってのは、どうでもいいのか大事なのかよくわからんな。


 とにかく、これでしばらくは自由が保障されたってわけだな。

よっぽどの緊急事態が起こらない限りだろうけど。

それより、もし対処できない問題が起きても、国に対して要請できるかもしれないってのは大きいな。

情報が渡るのと引き換えに、いいカードが手に入ったと喜ぶべきかな。

・・まてよ、これ上手くすれば支援受けられるんじゃないか?

いや、軽々に使うのは首絞めることになりかねない、ここは慎重にいざの時用にとっておくべきか。


◇◇◇◇◇◇


 ほどなく食事を終えて、僕達三人はメイプル館を後にした。

前回同様に辻馬車に乗って薬師ギルドへ。

受付でゲイカンの依頼の件で来た旨を伝え、打ち合わせスペースで待つことしばし。

今朝は特に約束していたわけでもなかったが、いつもこの時間には来ているようでジルフィラさんがやってきた。


「おはようございます、ジルフィラさん、あっ彼女は僕らの仲間でミアリーヌといいます」

「おはようございます、アルベルトさん、アーセナルさん、そして初めましてミアリーヌさん」

「はじめまして、ミアリーヌと申します」

「おはようございます」


 前回は開口一番ジルフィラさんに謝られたが、今日はこちらがする番となった。


「すいませんジルフィラさん、実は・・・・」


 『マッドベア』に襲われたのを倒せはしたものの、その際にゲイカンをいくつもダメにしてしまった事。

そして、先々の事を考えて数を減らすのは不味いと判断し、折れた方のゲイカンを採取してきた事。

簡単ではあるが、描いておいた図をみせながら事のあらましを説明し、茎が折れ葉が落ち細い根がちぎれてしまっているゲイカンを差し出した。


「丁寧な仕事を期待されながら、このような結果になってしまい申し訳ありませんでした」


 ジルフィラは、アルが差し出したゲイカンを手に取りじっくりとみてから、深い息を吐いて伏せていた目をあげる。


「事情はわかりました、ただこの状態では満足いく薬効は得られませんので、申し訳ありませんが成功報酬をお支払いするわけにまいりません」

「わかりました、それで、これなんかの役に立てばと思い持ってきました、どうでしょう要りますか?」


 そう言って持ってきた『マッドベア』の肝を取り出す。

一つはまずまずのサイズだが、もう一つはかなりな大きさのもの。

これにはジルフィラも目を見張り、ひとしきり眺めた後「少しお待ちください」と言って席をはずした。


 しばらくして戻ってきたジルフィラは、笑顔で話しかけてくる。


「とてもいいものをありがとうございます、それで折れたゲイカンと合わせて金貨三枚で引き取りたいんですが、いかがでしょうか?」

「はい、それで結構です」


 もとより、持っていてもどうにもならないんで、引き取ってもらえるならそれにこしたことは無い、其の為に持ってきたんだし。

それに、金貨三枚なら今回の依頼の報酬と変わらない、結果的に収支はプラスになるんだから文句は無い。

ただ、最後に確認だけはしておきたくて尋ねてみた。


「あの伺いたいんですが、今後の事を考えて今回こうしたんですが、普通に摘んできた方が良かったですか?」

「そうですね、お心遣いには感謝しますが今回急ぎで必要になったという事は、それを必要としている患者さんがいるという事です。

希少なゲイカンから必要とされる薬効を取り出す最低限の数だったので、それに満たないという事はその患者さんが治らない事を意味します。

申し上げにくいのですが、今後はこのような場合は、まずは数を揃えていただくのがよろしいかと思われます」

「わかりました、勉強になりました、今回はすいませんでした」

「いえ、仕方ありません、今後とも当ギルドから依頼をお願いする事もあるかと思われます、どうぞよろしくお願いします」


 挨拶をしてジルフィラさんと別れ、受付で報酬を受け取る。

今回は、依頼を達成できず持ち込んだものを買い取ってもらうという事だったので、傭兵ギルドへ報告して報酬を得るのとは違いここで終了となる。

薬師ギルドを出て、何か口の中に苦いものを感じながら街の中央へ戻る。


 こうして、競合という事で正式に依頼を受けたわけでは無かったが、今回はアルにとって初めての依頼を失敗するという結果に終わった。


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