第52話 動揺 ついに
箱の中には剣の他に巾着袋があって、中に金貨や大金貨数枚が入っていたがそれだけだった。
金銀財宝がざっくざくとまでは期待していなかったが、正直もう少しなんかあると思っていたので拍子抜けだ。
まあエイジにいわせれば、この剣だけで価値は値段が付けられないほどだって事だけど。
事前の取り決めのとおりに、各自の使っている得物と同系統のものだった場合、その人の元にという事でこの剣は僕が所有する事になった。
見せて欲しいという事で、セルに渡すとひとしきり眺めてから返してくれる。
「立派な剣だな、俺は剣には詳しくないが、見ただけで相当なものだとわかるよ」
「まあ龍を斬れるってくらいだからねー」
「!? ちょっと待ったアル、今なんて言った?」
「えっ? あーっと、これは征龍剣っていって龍を斬る事ができる剣なんだ」
アーセは一人きょとんとしているが、セルは押し黙って剣を見つめ、シャルは目を見開いて驚き、アリーは表情を変えていないが逆に驚いていないところが、その意味を知っているといっているようなものだった。
「龍を斬れるって、アル、その意味わかってるのか?」
「・・つまり、王家を倒すことが出来るって事でしょ?」
「そこまで知ってるのか・・・・、しかし、なんでその剣が龍を斬れるって知ってるんだ?」
「実はさ、これは両手剣だけど同じ形状の片手剣を持ってるんだ」
「!? 他にもあるのか?」
「うん、たまたまお店で見つけてね、安かったから買ったんだ」
「安かったって・・・・、それ本当に龍を斬る事が出来るのか?」
「いやー、流石に試したことは無いからねー、でも一応そう言われてるらしいよ」
なんかちょっと苦しくなってきた、エイジに話していいか聞いてみよう。
【ねえエイジ、もうセルにエイジの事話ちゃっていい?】
【ダメだ】
【なんで? セルは仲間だし信用できるよ】
【俺もセルはいいやつだと思っているし、信用できるとも思ってるよ】
【だったら】
【セルはいい、シャルもいいしアーセは全然問題無い、だけどな】
【アリーがダメって事?】
【まだなんで付きまとっているのか、その理由も聞いて無いし、一体どこの誰なのかもわかってないんだ、そんな奴には打ち明けられないだろう】
【でもさー、あっ、じゃあアーセに黙ってるように言わせるってのは?】
【だーめ、さっきのリアクションでわかっただろ、あれで驚かないって事は龍が王家を守護してるって知ってるって事だ。
って事は、おそらくは中央の直轄の諜報員かなんかだろう、胡散臭いことこの上ない】
【じゃあ、セルとシャルもそうって事なの?】
【あの二人はそっちじゃなさそうだな、王家に近い文官とか侍従長とかその辺の家の生まれって感じだ】
急激に重苦しい雰囲気になってしまい、アーセを降ろすとすぐに僕の横に来て、手をつなぎぴったりとくっついている。
何事か考え込んでいるセル、心細いのかアーセのようにシャルはセルの近くにいる、そしてアリーは無表情で得物の手入れをしていた。
そんな中、エイジが何事か気づいたらしく話しかけてくる。
【アル、この箱の中に入ってみろ】
【なんで?】
【これだけの高さがあって剣が置いてあったのがあそこってのは位置が高すぎる、もしかすると二重底になってるかもしれん】
アーセの手を離して箱の中に入ってみる。
叩いてみると、確かに空洞のような軽い音が返って来る。
征龍剣でどんっと床を突き刺し、ささった板を上げてみると、其処には折りたたまれた紙と、小さな丸い蓋の付いたものがあった。
それを見たエイジがすかさず魂話してきた。
【おおー、それがあるとはな、アル、それは大事にしまっておけよ】
【これなんなの?】
【これは『コールミラー』っていう鏡になってるアイテムだ】
【? どんなアイテムなの?】
【その蓋を開いて鏡に向かって、一度でも会った事のある人の名前を呼ぶと、どんなに離れていてもその人と話が出来るっていう不思議アイテムだ】
【へー、凄いねー、どんな仕組みなの?】
【知らん、性能は知ってるけど原理はわからない、俺の知識の中には無いんだ】
【ふーん】
またしても、僕が突然箱の中に入り何かやり始めたと、皆が集まってくる。
箱の中から出て、皆にアイテムを見せるが、見た目普通のコンパクトなので、ピンと来てない感じだ。
最初の取り決めで、アイテムがあった場合は僕に優先権があるって事にしてあるので、問題無く所有権を主張できる。
一緒にあった紙を開くと、そこにはこう書かれていた、
「この箱を開けた者、汝に龍の鱗を斬り命を絶つ事が出来る剣、征龍剣を授けるものとする」と。
先ほどは僕の話だけだったが、こうして書かれたものが出てきたことで、皆もようやっと信じてくれたようだ。
後々必要になる時があるかもしれないとエイジに言われて、この紙は大事に蜂蜜や香辛料などを入れてるポケットに入れておいた。
だが、アイテムについての書きつけなどは見当たらない。
そうなると、なんでこのアイテムの能力知ってるのかとか言われそうだなー、やっぱりこれ以上秘密にしておくのは無理がある。
【ねえ、エイジ、セルにだけならエイジの事言ってもいいでしょ?】
【・・しょうがないか、ただここじゃダメだぞ、どうしたって聞かれちまう、ここ出て二人きりだったらって条件クリアするんならいいよ】
【わかった】
【あと、ここでの事は他言無用って事で、全員に口止めするんだ、そうだな・・、
今回は第8階層までしか行けなかったって事で、口裏合わせておくんだ】
【なんで?】
【ちょっと気になる事があってな、ダンジョン出てから説明するよ】
【うん、わかったよ】
そろそろ食事にしようと集まっているところを、セルに9層覗いてみようと声をかけてみる。
いまいち良くわかっていないような感じで、まあいいかと付いてきてくれる事に。
部屋を出て階段を上がり、9層近くになったところで話してみた。
「あのさ、セル、その、今ここじゃ言えないんだけど、ダンジョン出たら時間もらえるかな、二人だけで話したい事あるんだ」
「・・アル、気持ちは嬉しいが俺は男はダメなんだ」
「僕だってだよ! そんなんじゃ無いって」
「ごめんごめん、あんまり深刻そうに話すからさ、冗談だよ、勿論いいぜ、俺も色々聞きたい事あるしな」
「それと、皆にも話すけどこの10層での事は秘密にしたいんだ、対外的には今回は第8階層までしか到達できませんでしたって事にしてさ」
「理由を聞いても?」
「ごめん、これもその時って事で、今はまだ待ってほしいんだ」
「ふー、わかったよ」
こうして、何一つとして解決してはいないが、なんとなく肩の荷が下りたような気持ちになれた。
二人で部屋に戻り、楽しく食事をした後、全員起きたらダンジョンを出ると皆に予定を伝える。
そしていつものように、交代で睡眠をとっていく。
◇◇◇◇◇◇
ダンジョンの中とは思えないまぶしい光で、まどろんでいた意識が覚醒していく。
眠る順番が最後だった僕が目覚めたことにより、全員が睡眠を終えたことになる。
朝の食事を済ませて、各自出発の用意に余念がない。
準備を終わらせて、念の為に調べ忘れているところが無いか、手分けしてこの第10階層の壁や床などをチェックしていく。
特に調査し忘れているところが無い事を確認し、いざ出発という段になって僕が皆を押しとめる。
ここを出る前に言っておくことがありますと宣言し、不思議そうな顔をしている皆に向けて話し出した。
「実は、ここでの一切の事は秘密にしてもらいたい、具体的には今回は第10階層にはたどり着けなかった、頑張ったけど第8階層までで引き返してきたって事にして下さい、お願いします」
「? なんで? どうして内緒にしとかなきゃいけないの?」
「そうですよ、第10階層に到達したなんて名誉な事ですよ、隠す理由なんて無いじゃないですか」
「アーセはにぃの言う通りする」
女性陣の三者三様の反応を聞きながら、次の言葉を発する。
「ここから征龍剣が発見されたなんて広まれば、心無い輩や王家に対して怨みを持つものなどが狙ってくる可能性もある。
今後どうするかちゃんと考えるにも時間がかかる、だからとりあえずは何も無かったって事にしておきたいんだ」
「・・・・そっか、そうだね、その方がいいかもね」
「・・・・お義兄さんがそう言うのであれば」
「ん、わかった」
「さて、話がまとまったところで、遅くならない内にそろそろ出発しようや」
セルの助け舟により、とりあえずは了承されたって事になったんだろう、セルの方がよっぽどリーダーに向いているな。
全員で階段を上がり10層を後にする、さてここからは気合いを入れてっと。
来る時にえらい思いをした目の前に広がる第9階層、それがその時とは比べ物にならないほど、魔物がその数を減らしている。
「おっ、かなり減ってるな、これならなんとかなりそうだ」
「へっへっへっへー、少しずつ数減らしてた甲斐があるってものよ」
「ん、アーセも頑張った」
「さすがは私のアーセちゃんです、お礼に私のすべてを受け取ってください」
「・・重すぎるよ、アーセ無理しないようにな」
進んでいくにつれそれほどの数がいないのが見てとれる、その事により体力がというよりも精神的に非常に楽になっている。
行きの時は、あまりの魔物の数に気持ちが焦りを覚えて、必要以上に魔力を放ちすぎたことも、早々に魔力枯渇を起こした一因でもあった。
其の為、今回はシャルとアーセも前方に魔物が多くなったタイミングで、交互にペース配分をして魔術を放っていた。
そうなると、アルとセルとアリーの三人も余裕が出たことにより、視野が広くとれてまたいい間隔で魔物が一掃されていく事で、自分のスタミナと相談する事が出来ていた。
こうなると、すべてが良い循環を繰り返し、効率よく危なげなく快調な歩みを見せていく。
さすがに来る時の半分とまではいかないものの、かなりな時間の短縮をして、最難関と目される第9階層を抜ける事が出来た。
こうなると後は、休息をとるタイミングさえ間違えなければ、このメンバーであれば道中の問題は無いに等しい。
第8階層の罠も、前回と今回の行き帰りを合わせると四回目という事で、手慣れた感じでサクサクと、何の問題も支障もなく踏破できてしまう。
続く第7階層もすでに道順を覚えているし、第6階層以降はほぼ戦闘のみといっても過言では無いので、なおさら問題なく次々と進んでいった。
勿論、それはあくまでも進めるといった話で、当然不眠不休という訳にはいかず、途中で食事休憩や長い睡眠をとりながらなのはいうまでもないが。
第4階層最奥の階段付近で、休息をしながら話し合いをして、時間が中途半端ではあったが、出来るだけ早くに出たいという事で、そこから一気に地上まで踏破。
六日目の深夜0時という時間であったが、全員無事に地上へと生還を果たすことが出来た。
ダンジョン入口では、丁度0時でオムロルさんからガーナビットさんに交代するところだったので、二人が引き継ぎをかねて談笑している。
「ただ今戻りました、オムロルさん、ガーナビットさん」
「おお、おかえりアル」
パーティーを代表してリーダーの僕が、職員さんに帰還の挨拶をする、まあただ単に顔見知りなのが僕だけって事なんだけど。
「確か、七日の予定だったよな? 一日早かったな」
「はい、色々ありまして結局第8階層までしか、行けませんでした」
「そうか、残念だったな、でも8層ってのも凄い事だよ」
「ありがとうございます、また機会があれば挑戦しますよ」
「ああ、アルならいつか第10階層までたどり着けるだろう、大変だったなお疲れ様」
「どうもです、それじゃまた」
前回は食べて飲んで大騒ぎしたけど、今回は時間も時間だし何よりも全員眠かったので、まっすぐリンドス亭に戻ってすぐに各自の部屋に入り眠ってしまった。
◇◇◇◇◇◇
お腹が減った、六日ぶりのベッドでの快適な睡眠をやぶったのは、そんな切実な体の訴えからだった。
昨夜遅く深夜に戻って着た僕達は、かなり疲れてる事もあり出来るだけ体を休ませたいと、ロナさんに僕達の部屋には朝の声掛けをせずに、しばらく寝かせてくださいと夜のうちにお願いしておいたのだ。
其の為、いつものナルちゃんの朝ごはんのお知らせも無く、睡眠時間を長くとった事によって、そちらは満たされたが後回しにされた、食欲の方が今度は主張してきたというわけだった。
隣では、アーセがまだ寝息をたてている、可愛い。
アリーが見惚れるのもわかる、まるで赤ん坊のような無垢な寝顔をしている。
ちょんちょんと、頬っぺたを指先でつついてみる、少ししもぶくれ気味なのもあって、ぷくぷくしている。
そういえば、いつもは僕が目覚めるとアーセもすぐに起きるから、こうして寝顔を見るのはこれまであまり無かったなー。
そんな事を考えていたら、いつの間にか目を覚ましたアーセが、僕をじっと見つめていた。
「おっ、おはようアーセ」
「おはよ」
「いや、ちょっと、なんていうか、その、なんか可愛かったから、つい、起こしちゃったか?」
「ん」
「ごめん」
「いい、にぃなら何されても大丈夫」
起き上がると、アーセが抱きついてくる。
これは、この間と同じご褒美システムか、そう思ってぎゅっとしてあげる。
今回はとても短い時間で終了した、どうしたのか聞いてみると、一杯迷惑をかけたからこんなもんだとの事。
まあ確かに色々あったけど、いまいち採点基準がわからんな。
身支度を整えて下に降りると、すでに僕ら以外の三人は食堂のテーブルを囲んで待っている。
時間はおよそ8時をまわったくらい、いつものリンドス亭の朝ごはんは6時半なので、すでに終了している時間だ。
しかし今日は、僕らが昨日までダンジョンに潜っていたのを知っているキアラウさんとロナさん夫妻が、好意で朝ごはんをとっておいてくれたおかげで、ぺこぺこに減っているお腹を満たす事ができるようになっていた。
「ありがとうございます、ロナさん、お手数かけます」
「皆さんお疲れ様でした、無事でのご帰還なによりです、さっお腹一杯食べてください」
こうした実際の行為は勿論、気遣ってくれる気持ちがうれしい、朝からとても幸せな気分に浸る事ができる。
ロナさんもまたアーセを抱きしめて幸せを感じてるようではあったけど。
お腹を満たした僕らは、当然今日明日は休息に当てるという事で、今後の事は明日の夜にでも皆で話し合おうという事にしてこの場は解散となった。
僕は約束通りセルと二人で話をするのに一緒に出掛けようとすると、僕にはアーセが付いてきてアーセにはアリーが付いてきて、さらにシャルはなんだかセルを怪しむような目つきで見ているといった、厳しい状況に陥っていた。
アーセは一緒でも全然かまわないんだが、アリーを遠ざける意味でここは別行動をとらなければならない。
どうしたもんかと思案していると、セルが気にせず出かけようというので、とりあえずそのままリンドス亭を後にした。
僕とセルの後ろを、間隔をあけて尾行というにはあまりにも堂々と三人が付いてくる。
いよいよ困ったなと思っていると、セルはどんどん歩を進め北側区画に足を踏み入れる。
一体どこへ行くんだろうと思い聞いてみると、「女が入って来れないところ」と言われ益々不思議に思っていると、なにやら怪しげな香りがしてくる。
ここはもしかして、足早に前を通り過ぎた事しか無い、そう思っているとセルが建物の中に入るので、慌てて僕も付いて行く。
こうして僕は、生まれて初めて娼館に足を踏み入れた。




