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第4話 信頼 色々わかってきた

 アルが6歳になった。


 あの時から順調にコミュニケーションを重ねて、今では毎日覚醒すると話し

かけ、すぐに何も言わなくても感覚同調してくれるくらいの仲になっている。

母親のピンチを救ったのが効いたらしく、アルはとても俺に対して協力的に

なっている。

といっても、アルはほとんどというか、全然まったく覚えていない。

まあまだ3歳だったしね。

 でも、まわりの大人たちがあの時のアルはえらかった、アルのおかげで

お母さんが助かった、まだ3歳なのにそう魔術使って知らせようとしてえらかった

などと、事あるごとに褒めるもんだから、アルも褒められてうれしいらしく、

こうだったんだよという俺の説明により、俺の事をお母さんの命の恩人みたいに

思ってくれて、とてもいい感じの信頼関係を築けている。


 アルとの頭の中での会話は、魂の話で魂話かいわと呼ぶ事にした。

今は俺と話す時は、声を出さずに頭の中だけで魂話するようにしている。

アルもずいぶん話せるようになって、色々な事がわかってきた。

アルはアルベルト=ロンドという名前の男の子だった。

上にお兄さんが二人居る。

つまり、アルはロンドさん家の三男って事だ。

ロンド家は農家だ。

家族構成は、祖父母に父と母に兄二人。

それに、妹が一人。

そう、あの時になんとか間に合って無事生まれたのが、今アルの隣に引っ付いて

いる妹のアーセナルだ。


 アーセはなぜかアルにべったりだ。

2歳を過ぎたくらいから、なぜかアルを目で追うようになって、視界にアルが

いないと泣きアルが顔を出すと泣き止むといった具合だった。

歩けるようになると、常にアルの行くところへ付いてくる。

刷り込みでもしたかのような懐きっぷりだ。

いつもアルの隣でにこにこしている。

アルがやる事無くてヒマじゃ無いか聞いてみると、精霊さんとお話してるから

大丈夫との事。

じゃあ僕がいなくても平気だね。

そう言ってアルが離れようとすると追いかけてきて、アルの姿が見えなくなると

泣いてしまう。

その次からは学習したのか、アルが出かける時にはアーセが隣に来てすかさず

手を握って離さない、こうしていつでも手をつないでる仲良し兄妹として、

村中に認知されることになった。


 今日は、母親から操魔術を教えてもらう事になっている。

3歳の時に俺が使った操魔術は、アルが使ったことになっているが、夢中だった

のでやり方を覚えてないって事にしている。

あれ以来非常事態もないんで、俺が操魔術を使ったことはアル以外(アーセは別)

の前では無い。

これは俺という存在を家族も含めて、決して誰にも言わないようにと約束した

からだ。

なぜならば、面倒だから。


 俺の存在を証明するのはえらく困難だ。

アルとの魂話以外で、俺が外部に干渉できる唯一の手段が操魔術になるわけだが、

これを使っているのがアルだか俺だかが判別できない。

すでに3歳の時のがアルが使ったという認識に皆がなっているので、今更あれは

違うと言っても、一度認識されたものを覆すだけの証拠が用意できない。

じゃあ、アルの知らない知識を披露すればいいようなもんだが、それだって簡単

な事ならどこかで覚えたんだろうと思われ、難しいことは逆にここの家族では

正解かどうかが判断できないだろう。

 そんな事をしている間に、アルがあれな子だと思われてしまうかもしれない。

頭の中にもう一人いるなんていいだせば、普通の親なら心配になる。

時間と手間をかけてそんなリスクしょい込むくらいなら、はなから何もせずに

いたほうがいい。

アルもわかってんだかわかってないんだかわからないが、俺たちだけの秘密だぜ

っていう言葉で男の子的な何かが働いたらしく、快く了承してくれた。


 この国の名前は、イァイ国。

ロンド家が住んでいるここは、イセイ村という。

村には3,500人ほどが住んでいるらしい。

 回りには、害獣対策として柵がぐるりと村を覆っている。

なので、通常危険は無いのだが絶対とは言い切れない。

柵が老朽化していたり、または体当たりなどで壊されて、村の中に侵入してきて

しまう場合もない事は無いからだ。

まあ、畑の穀物や厩舎の家畜が狙われるのが常だが、人的被害もまれにあるら

しい。

 そこで、大体6歳くらいの時に身を守る為に、操魔術を教えるのが慣例と

なっているそうだ。

武器を振るっても、体格も小さく力も無い子供の内は、間合いが短くて危険だし、

大してダメージを与えられないだろうという事で、まずは魔術を教える。

魔術の中でも、精霊魔術は大気に居るとされる精霊を感じ対話することが求め

られ、その力を借り受け発動するというもので、その力のコントロールが難しく、

また威力も子供の内は触れ合っている時間も短くあまり上がらないので、実用的

ではないとされている。

封印術は、そもそも相手の能力を封ずる魔術なので、攻撃力自体が無い。

その為、誰にでも使えてかつ得物次第では、子供でもそれなりに威力を持たせる

ことが可能な、操魔術を使わせるのが一般的だ。


 ロンド家の裏手にて。


「いーい? アル、まず、お母さんがやるの見ててね?」

「うん」


そういって、母親のマージナルが鎖分銅を操っている。

操魔術で扱う武器の中で、もっともオーソドックスな武器だ。

鎖が付いている方が、力を入れる方向がわかりやすく、また引き戻す時も楽な

ため最も多く用いられる。


 マージナルは、明るく笑顔がまぶしい人当たりの良さそうな、見た目20代

後半くらいな女性だ。

歳がわからないので、アルに「おかあさんは、いくつなの?」と質問させてみた

ところ、「おかあさんはねー、もうすぐ16かなー」などとふざけた事ぬかす、

もといそうとしか答えてくれないので、少し間をおいたり別の日に聞かせたりも

したんだが、その都度「16よ」とか「16歳よ」とか「16なの」などの

ふざけた戯言たわごと、もとい正確で無い情報しか与えられないので、未だに年齢不詳だ。

まあ、隠すくらいだから30超えてそうだけど、こういうのは追及しても不幸な

結末しか見えないので、放置する事に決定した。


「こんな感じ、アルは忘れちゃったみたいだけど、動くとこ見て一度動かしさえ

すれば、思い出すんじゃないかしら?」


 マージは倒れてた時のこと、どのくらい覚えているんだろうか?

確かにあの時靴下動かしたり、ロープ操って籠に結んでさらに籠にアルが入った

状態で、ロープを引いて動かすなんてことまでやってたけど、全部見られてたん

だろうか?

だとしたら、このやり方一切教えずに、見せただけでやらせようとするのもわか

るけど。


【アルどうだ? いけそうか?】

【たぶん大丈夫、ずっとエイジと練習してたからね】


 操魔術は、体内の魔力を感じながら、それを手や指先のような先端部分から

物体に伸ばして、魔力でつながった状態にして操作するってのが基本になる。

俺の場合は、体内っていっても体が無いからどうにもならないと思いきや、

なぜか魔力を感じる事ができる。

この辺、俺にも何がどうなってるのかわからない謎仕様なんだが、あの爺が俺の

魂になんか細工したのかもしれない。

そして俺が居るのが脳だからなのか、アルの頭の先から物体に伸ばすようにして

使っていた。

今はもっと慣れてきて、それ以外の箇所を使ったりもしている。

 アルとは、いつかアル自身が操魔術使うようになるだろうから、早いうちに

練習しておこうという事で誰も居ない(アーセは別)時に、その辺の石を使って

練習を重ねていたのだ。


「えーい」


 アルが気合いを入れて分銅を操りだした。

左手で鎖分銅の端を持ち、右手を開いた状態で腕を伸ばし、反対の端について

いる分銅にまっすぐ伸ばして集中している。

分銅は空中を飛び回り、まっすぐ勢いよく動いたと思ったら、弧を描いて戻って

アルの頭の上の方で、ぐるぐる何度か旋回してアルの手元に落ちてきた。

さっきのマージに比べると、動きがぎこちないしスピードも物足りないが、

まだ6歳だからこんなもんで充分だろう。


「うんいいよアル、これだけ出来れば問題無いね。

お疲れ様よく出来ました、はいっぎゅーうっ」


 マージからお墨付きが出て終了となった。

ご褒美とばかりに、アルの目の前でしゃがんでアルを抱きしめている。


「お母さん、僕もう赤ちゃんじゃないよ、離れて」


 アルは恥ずかしいのか、真っ赤になって抱きついているマージから離れようと

している。

あんなに「まま」「まま」言ってる甘えん坊だったのに、ずいぶん母離れ早いな

まだ6歳だってのに。

ああ、これはあれか、アーセがじっと見てるから、兄として妹の前でかっこつけ

たいお年頃なのかもな。


「もう、恥ずかしがっちゃって。

最近アルあんまりお母さんにかまってくれないんだもん、さみしいよ」


マージは残念そうにアルを開放しつぶやいている。

どうやらマージの方がまだ子離れ出来てないらしい。


「いい? 良く聞いて?」


 と一転して真面目な表情でアルに話しかけた。


「あくまでもこれは自衛のための最終手段。

一番いいのは、魔物に近づかない事。

二番目は、逃げる事。

三番目は、助けを呼ぶ事。

そして、そのどれもが効果無かったり間に合わなかった場合のみ、この鎖分銅を

使うのよ。

わかった?」


アルは「うん わかった」と元気よく頷いている。


「じゃあ、明日からお外へ行くときは、念のためにこれを持って行きなさい」


といってアルに鎖分銅を手渡した。


「さっき言った通りどうしてもって時しか使っちゃだめよ。

わかってると思うけど、人に向けて使っちゃだめだからね」


そう言うとマージはふとアーセを目に留めて


「そうだ、まだ早いけどアーセもちょっとやってみる?」


邪魔にならないように、ちょっと離れたところで、ぼーっとしてるようにしか

見えないアーセに話しかけた。


「うーんと」


そういうと、アーセはちょっと思案顔をしてから答えた。


「これ、できる」


おもむろに手をかざし、ジュッと音がしたと思ったら、その先にある葉っぱの

真ん中に、縁が焼け焦げた穴が穿たれた。


「・・・・あれ、アルが教えたの?」

「・・ううん、だって僕、精霊魔術使えないもん」


そう アーセは精霊魔術を使って見せたのだ。


「・・・・・・びっくりした、私もフィンもそれほど魔術得意ってわけじゃない

のに、一体誰に似たのかしら?」


 とことこ近づいてきたアーセをマージが「すごかったね、はいっぎゅーっ」と

言って抱きしめている。

アーセも普通にうれしいらしく、マージに抱きついている。

やがて、解放されたアーセがアルの前でじっとしてる。

褒めて欲しそうだ。

アルも察して「すごかったぞアーセ」と言って頭を撫でてあげてる。

アーセは、撫でられながらふにゃっとした顔をしてる。

大丈夫かこの娘?

尻尾なんて無いけど、ぶんぶんと千切れんばかりに振っているのが、幻視できる。

そのうち、うれションとかするんじゃないのか?

しかし、さっきつかったのは、・・・・まさかな。

そんな仲睦まじい兄妹の様子をマージが眺めて微笑んでいる。


「アーセはさっきの、いつから出来るようになったの?」


 そうマージに聞かれると、アルに褒められて上機嫌なアーセが話し出した。


「うんと、いつもきれいな精霊さんとお話してて、もしお願いしたらジュッと

してくれるって言ってたからお願いしたの」


精霊魔術に関しては、俺も門外漢で自分で使ったことが無いので、これが普通

なのかどうかがよくわからない。


「ふーん、アーセはよっぽど精霊さんと仲良しなのね~」


このマージの話からすると、結構レアな事っぽい。

この歳でなのか、この威力がなのか、この経緯がなのかがわからんけど。


「アーセも人に使っちゃだめよ、いいわね」

「あい!」


アーセが元気に返事をして、アルに操魔術を教える授業は当初の予定を大きく

変えて、精霊魔術お披露目会となって終了した。


◇◇◇◇◇◇


 今日の仕事を終えて畑から戻ってきた、一家の大黒柱にしてアルとアーセの

父親であるフィンブルトをマージが捕まえて、先ほどの場所へ連れて行った。


「・・これをアーセが?」

「そう! もう、ビックリしちゃったわよ、いきなり精霊魔術使うんだもの。

それも、誰にも教わってないらしいのよ、それによく見て!

火の精霊に力を借りたと思うんだけど、普通葉っぱ自体が燃えちゃうのにこう

なるって事は、よっぽど高温で一点に集中したって事だと思うの。

こんな威力と精度で火の精霊使うのなんて、大人の中でも見たことないわ!」


 子どもたちの前では落ち着いてる風を装っていたが、あの時マージは初めて

見た光景にかなり動揺していた。

状況を理解していない子供たちの前では、表情や態度に出さなかったが、夫を

目の前にようやっと本音をぶちまける事が出来て興奮している。


「どうしよう? ねえ、どうしたらいい?」

「落ち着け」


フィンはマージの両肩を掴んで宥めるように言う。


「でも、あんな威力の魔術もし人にでも使ったら、取り返しのつかない事に

なるわ。

間違いが起こらないうちに、封印術で魔力を封じた方がいいのかしら?」

「それは最終手段だな、とりあえずは、そこまでしなくてもいいだろう。

俺がちゃんと言い聞かせておくから任せておけ!」


フィンはマージの目を見つめて落ち着かせ、ゆっくりと話し始める。


「アーセは自分でいうのもなんだが、俺の子にしてはとてもかしこい子だ。

素直だし聞き分けはいいし、まだ4つなのにアルが見つからない時以外で癇癪かんしゃく

起した事も無い。

なーに、ちゃんと話をすれば、むやみに力を使うようなことは無いだろう。

念の為に、アルにも言っておく、始終一緒にいるし、なによりアルの言う事なら

アーセは絶対に逆らわないだろうからな」


 マージはフィンの話を聞いているうちに、落ち着きを取り戻す。

フィンはマージをそっと抱きしめてささやいた。


「俺たちが娘を信じなくてどうする、大丈夫だ!

なんといっても、俺たち二人のたった一人の娘なんだから」


二人は連れ立って家の中へ入っていった。


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