表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/156

第48話 褒美 便利だなー

 ゴナルコに到着し、まずは商品を届けにサルギス軒へ。

お店に入り、給仕の人に商品の引き渡しに来た旨伝える。

裏手に厨房への入口があるという事で、馬車を回して早速商品を運び入れる。

アーセとアリーが馬車の中から商品を僕に渡して、僕が中へ運び込んでいく。

すべて運び入れて、代金の回収となったところで、中から担当の人が出てきた。


 このお店の店主の奥さんでネリィムさんという、30台半ばほどの眼鏡をかけた御堅そうな、それでいてとてもメリハリのきいたスタイルをしている人が話しかけてくる。


「ご苦労さん、頼んでいた品は確かに揃ってた、それで代金なんだけどこれだけ色々注文したんだ、少しはイロを付けてもらってもいいんじゃないかしら?」

「申し訳ないのですが、僕は頼まれただけですので、そこまでは判断しかねます」

「あー、わかってるよ、これはうちと商会の話だからね、ただこれまで長い付き合いをしてきてるんだ、こっちがそう言っていたって報告してくれればいいよ」


 こういう場合どうすればいいんだろう、とりあえず。


【エイジー、どうしたらいい?】

【中々商魂たくましいな、やっぱり商売人はこの位でないとな、まっ、この年代の女で助かったな】

【どういう事?】

【アーセを呼ぶんだ、そうすりゃなんとかなるだろ】


 とりあえず、言われたままにアーセを馬車から呼び寄せる。


「アーセ、ちょっとこっち来て」


馬車から降りて、僕のところまでとことこ歩いて来て横に並ぶアーセ。

その姿を目にしたネリィムさんは「まあ!」と声を上げ驚いている。

どことなく、目の色まで違ってるような。


「・・あの、こちらの御嬢さんは?」

「僕の妹でアーセナルといいます、アーセ、こちらはこのお店のネリィムさん」

「初めまして、アーセナルと申します」


すでにネリィムさんの目がアーセから離れない。

ここでエイジから話しかけられた。


【アーセに代金の件を話してみ?】


「アーセ、実はな頼まれた商品渡したんだけど、代金はまけてくれないかって言われてな」


じっとネリィムさんを見つめるアーセ。

なんかじりじりとアーセに近寄っているので、手を引いてほんの少し遠ざけると。


「うっ、わかりました、約定通りの金額をお支払いします、あの、それで、その」


 言質がとれたので、アーセの背をポンと押してネリィムさんの方へ行かせると、すかさずがばっと手を広げて抱きしめている。

なんか変な事に使っちゃったけど、まあ結果的に依頼が達成されたんだからいいとするか、馬車の中からアリーが凄い形相をしてるのは見て無かった事にしよう。

ひとしきりアーセを堪能したネリィムさんから代金を受け取り、せっかくなんでここで昼食を。


 やっぱりここのお魚料理はおいしい、なんかどれも量が多い気がするのは、アーセのおかげなんだろうか。

アリーはアーセに「あーん」と言って口に料理を運んでいるが、その度に無視されている、それでもめげずに繰り返してるあたり、打たれ強さを感じる。

確かに椅子にちょこんと座って、口が小さいから料理を少量ずつちょこちょこと口に運んでいるさまは、小動物みたいで世話を焼きたくなる。


 こうしておいしい食事を終えた僕らは、次なる依頼へ向かうべく店を出る。

その際、ネリィムさんがわざわざお見送りに出てきてくれて、まあそれが目当てだろうなという感じで、アーセを抱きしめていた。

「息子の嫁に」とか「養女に」とか「うちで働かないか」など、多様な申し出をことごとく退けるアーセに、落胆しながらもなんとかあきらめてくれた。

帰りは気を付けてというネリィムさんに、これから『バンサーギー』を捕獲に行くんですと伝える。

すると船の当てがあるのかと聞かれ、無いと答えると知り合いに自分の名前を出して借りるといいと、場所を教えて貰えた、ナイスアーセ。

 

 目的の場所は、漁師たちが使う船が停泊してる、防波堤が築かれている泊地。

防潮堤などの護岸が築かれていないところからみても、この辺りはそれほどは波は高く無いと思われる。

それもそのはずで、岬にぐるりと囲まれているので波が穏やかで、其の為に遠浅になっているらしい。


 ここで、「ネリィムさんに」と名前を出したらもの凄く丁寧な応対で、料金などは不要という事で船を借りる事が出来た。

あの人どういう人なんだろう、ただ魚の買い手として取引相手だからっていうならともかく、なんかの理由で恐れられてるんじゃないだろうな。

あまり先の方へ行くと、急に水深が深くなるから岬から出ないようにと注意を受ける。


 色んな種類の中から、湾内だからという事で帆船などではなく、手でこぐ小さい船を借りる事に。

馬車から水槽を運んで、いざ出発と漕ぎ出す。

当然漕ぎ手は僕、結構な重労働だ、あまり行きすぎないようにほどほどの所までで漕ぐのを止める。


 船から海面を見ると、結構な透明度で下までギリギリながら見える。

しかし、いくら遠浅とはいっても船から手を伸ばしたところで、底までは届かない。

しょうがないと、海に入ろうとするとエイジに話しかけられた。


【これ、もしかするといけるかもしれん、アル、ちょっと『絆』借りるぞ】

【うん】


 いまいち何のことかわからない僕は、まずは見つけてくれと言うエイジのリクエストにお答えして、小刻みに船を移動させながら海を覗いていた。

すると、黒くて平べったいものが短い手足を動かしながら、動いているのを見つけた。

すかさずエイジに言うと、海面に浮かせていた『絆』を操り海の中の『バンサーギー』の胴体にくるりと巻きつけて、そのまま船の上の水槽の中へ落した。


【やったー、これなら楽勝だね】

【捕まえるのはな、次からはアルが俺が浮かせたら『角』で止めさせよ】

【えっなんで? 全部この水槽の中に入れてけばいいじゃん】

【こいつは動くものなんでも噛みつく習性があるから、中に二匹以上入れるとへたすると共食いするんだ。

水槽一つしか用意しなかったのは、生きてるの一匹だけでよかったからだろう】


 こうして約二時間ほど湾内を移動して、なんとか残りの五匹を仕留めて陸地へと戻った。

船を借りた人にお礼を言って、馬車に水槽を運び込んでじゃあ戻ろうという時に、アリーが「ちょっと」という事で馬車を降りた。

何かと思いアーセに聞いてもらったら、どうもトイレらしい。

しばらくしてから戻ってきたアリーを乗せて、今度こそゴナルコを出発した。


 帰りの道中も、アリーがアーセにあれやこれやと話しかけているが、アーセは特に興味を示さずに小さく頷いたり首を振ったりしている、しかしメンタル強いな。

途中で出くわした『ウルフファグ』は、エイジが『阿』で仕留めて、アーセが精霊魔術で燃やす事で瞬殺&燃滅しょうめつさせていく。

こんな感じで無事に街道を抜けて、夜になってしまったがヨルグに帰り着けた。


 水槽を運ぶのに先にホーエル商会へ。

行く時と同じようにお店番の女性に話をすると、ビンチャーさんがやってきた。

馬車から水槽と、『バンサーギー』を五匹見せると「まさか一日で」と驚いていた、どうも明日になると思っていたらしい。

こうして依頼は滞りなく終了し、依頼書に確認のサインをもらい別れようとしたら、ビンチャーさんに呼び止められた。


「アルベルトさん、もしよろしければお願いしたい依頼があるんですが」

「えーっと、申し訳ないんですが、明日からダンジョンに潜るんでしばらくは何も出来ないんですよ」

「しばらくというと、どのくらいでしょうか?」

「そうですね、今回は10層目指してますんでその分だけで7日間、その後休養するとして二日はとるでしょうから、約10日間ほどは無理だと思います」

「10層・・・・、それはそれは、頑張ってください」

「はい、ありがとうございます、それでは失礼します」


 アル達は、馬車を返すのと代金を渡すのでヘイコルト商会へと去っていった。

ビンチャーはどういう事かと思案している。

あの若者は、ちゃんと色々と計算している、初めての魔物を調べて明日からのダンジョン探索に支障の無いように、依頼を今日中に終わらせた。

そんな思慮深い者が、誰も行った人のいないダンジョンの第10階層目指すとは、やっぱりただの無謀な若者だったのだろうか。

しかしもしも、今回と同じ勝算があるとしたら・・・・、これは念のためにダンジョン入口の職員に鼻薬をかがせておいた方がいいかもしれませんね。


 ヘイコルト商会にはギースノさんが戻っていた。

こちらで依頼を受けてサルギス軒に商品を運び、代金を回収してきたと報告しお金を渡すと、その金額を確認したギースノさんにたいそう驚かれた。

何かと思い聞いてみると。


「あそこのおかみさんはやり手で、いつも代金まけさせられて全額回収できないんですよ、一体どんな方法で満額いただいてきたんですか?」

「まあなんというか、合法的な女性の抗えない弱点をといいますか」

「は?」

「いや、ちゃんと話をして納得していただきました」

「? ・・そうですか、いや、まあ助かりました、今後ともよろしくお願いします」


 行く時に頼んでおいた、明日からの食料を受け取る、五人×19食だから95食分というかなりな量になった。

これをダンジョンで一人で運ぶには厳しすぎるので、各自に自分の分を分担して持ってもらうようにしないとだな。

中身はパンと干した肉に塩漬けの肉、ソーセージや酢漬けの付け合せの野菜もある、前回より長丁場ながら少しは食事にバリエーションできたかも。


 すべてを終えて傭兵ギルドへ行き、依頼書の完了のサインを確認してもらい報酬を受け取る。

アリーは現状のままだったが、僕が5級にそしてアーセが9級にあがった、僕の時は一年近くかかったのを考えるととんでもないスピードだ。

まあ、僕は一年っていってもそんなに依頼ばっかりやってたわけじゃ無いし、なにより6級と8級の依頼だから当たり前っちゃあ当たり前かもしれないけど。


 リンドス亭へ戻ると、セルとシャルが食堂にいた。

すでに食事は終わっていたが、僕らを待っていてくれたらしい。

僕達三人も遅い夕食を、その間セルとシャルを交えて今日の依頼の事の後、五人で明日からのダンジョン探索について話をしていた。

食料は、各自で分担してと欲しいと提案し了承される、後で各自の部屋へ渡しに行く事に。

他に宝箱があった場合の優先権など、前に僕とセルとシャルで決めたことを二人に話して、こちらも同じように了承してもらえた。

これで一通り話せたのでじゃあと解散した。


 各自の部屋へ食料を配って角部屋に戻る。

アーセにも渡してこれで後は寝るだけとなったが、急にアーセが正面から抱きついてくる。


「アーセ?」

「ぎゅってして」

「? とりあえず離れなさいアーセ」

「やっ! ぎゅっとして!」


 なんだかよくわからないけど、どうもそっち方面な感じでは無く心細いとかそんな感じか?

どうにも離れそうにないんで、僕も両手を回して自分の方へ引き寄せ体を密着させる。

触れた時は柔らかくてドキドキするが、一旦ぴったりとくっついてしまうと、特に感触も感じないので、もう胸でも背中でもあまり変わらなくて少しほっとする。

しばらくすると、満足したようで力を抜いたのが分かったので、こちらも手をゆるめて体を離す。


「どうしたんだ? なんか怖い事とか思い出したりしたのか?」

「ううん、今日アーセ頑張ったからご褒美」


 ・・・・・・なるほど、そういうシステムか。

しかし頑張ったって、まあ確かにアーセのおかげでサルギス軒で全額回収できたわけだけど。

とすると、今後何かで頑張るとこうなるのか? 

今日以上に頑張るとどうなるんだろうか? 

時間が長くなるならいいけど、行為がエスカレートすると受け止めきれる自信が無いんだが。


「じゃ、じゃあ今日は疲れたし、明日からダンジョンだからもう寝ようか?」

「ん」


 先行き漠然と不安を抱えながらも、心地よい疲労のおかげでなんとか眠りに落ちた。


◇◇◇◇◇◇


 そこそこな、可も無く不可も無くといった目覚め。

天気もそんな感じで、晴れるでも無く昨日までのように雨が降るでも無く、どんよりと曇った曇り空。

さて今日からだと気合いを入れて、身支度を整えているとアーセも起き出して用意している。

ちょこちょこと動くアーセが可愛くて、つい昔のように頭を撫でてしまった。

アーセは途端に動きを止めて、その場にじっとしてふにゃにゃっとなっている。

そんな事してたら、いつもの様にナルちゃんから声がかかる。


「アルさーん、アーセさーん朝ですよー、ご飯できてるよー」


 これまたいつもの様にドアを開けて応対する。


「おはよう、ナルちゃん、すぐに降りるよ」

「おはようアルさん、アーセさんもおはよう」

「おはようございます」


 アーセは家族や仲間内以外と話をするときは、基本的に敬語で話す、これはどうやら僕の影響というかマネらしい。

僕が敬語を使うのは、エイジに言葉遣いは一つ間違えばかなり印象を悪くする、いらない敵を作らない様に常に敬語を心掛けろと、小さい頃からかなり鍛えられたのが大きい。


「今日からダンジョンだねー」

「うん、しばらく留守にするから」

「元気に戻ってきてね、あっ、お姉ちゃんへの伝言は、

「愛してる、戻ってきたら結婚しよう」でいい?」

「良くないよ! もう、冗談でもそういう事言わないの」

「えー、じゃあ「戻ってきたらご両親に話がある」にしとこうか?」

「絶対にダメ! 言い方変えただけじゃないか」

「もうアルさんは、女がいつまでも待ってると思ったら痛い目見るよ? 

お姉ちゃん学校でかなりモテるみたいなんだから」

「・・・・さっ、ご飯ご飯っと」

「あーもう、逃げるなー」


 朝から頭が痛くなるような、手厳しい忠告をいただいて食堂へ降りる。

なんだか、アーセがこちらを見てるみたいで、下を見れない。

しかしここで何か言い訳をすると、以前の二の舞になってしまう、なんで何にもしてないのにこんなに困らせられるんだろうか。

結婚する気とか全然無いんだけどなー。


 食堂にはすでに三人集まっていて、僕らも同じテーブルにつき朝食を噛みしめながら食べる。

しばらく温かいものが食べられないので、十二分に味わっておこうという皆の気持ちが同じらしく、いつもよりもゆっくりとした食事になった。

食べ終わりしばらく食休みした後、じゃあ行くかと全員で席を立つ。

リンドスさん一家にはすでに伝えてあるので、わざわざ厨房からキアラウさんも出てきてくれて、三人で見送ってくれた。


「「「「「行ってきます」」」」」

「「「行ってらっしゃい」」」


 こうして僕らは元気よく朝のヨルグの街を、西の方面を目指して歩いて行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ