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第47話 真性 どうやら本物だなこりゃあ 

 リンドス亭へ戻ったものの、まだ夕食には早い時間帯でどうするかとなり、意見を出し合う。

ダンジョンから戻った僕達と何日も歩いてきた二人はともにさっぱりしたいという事で、公衆浴場へ行く事に。

昨夜は遅かったので、入り損ねたのだ。

部屋から着替えを持って集合し、皆で北側区画へと歩く。


 現地にて僕とセル、アーセとシャルとアリーの男女に分かれて浴場へ。

どうせ女性陣は時間がかかるだろうという事で、事前に僕達は上がったら先にリンドス亭へ戻っているからと伝えてある。

その時に一応アーセには、もしもアリーに何かされそうになったら、ジュッとしても良しと言ってあるので大丈夫だろう、たぶん。


 こうして僕達男性陣に遅れる事小一時間、女性陣がリンドス亭へと戻ってきた。

よっぽど温まったのか、シャルもアリーも顔を真っ赤に上気させて、アレ? アーセはそうでもなさそうな、なぜかボーっとしてる二人はどうでもいいとして。

ちょいっとアーセを手招きして「大丈夫だったか?」と聞くと、執拗にアーセの体を洗いたがってはきたが、それ以外は特に問題なかったとの事。


 そんな二人はボソボソと小声で話をしていて、聞き耳を立てると「至宝」とか「人類の」とか「共に守り抜こう」などという、ちょっとあれなやり取りが。

これは、今後もアーセとは僕が同室の方が良さそう、というかそうでないと安心できないなこりゃ。

しかし、なんでセルは大丈夫なのに、女性二人が大問題なんだまったく。


 皆で夕食をとった後、部屋割りで一悶着あったものの結局これまでと同じに落ち着き、それぞれの部屋へ。

するとアーセが「お母さんにお手紙書きたい」というので、一式渡してついでに今後家にはアーセに手紙を書いてもらう事にする。

何書くのか聞いてみると、無事に僕と会えたのを知らせておくって事らしい。

心配するといけないから、ダンジョンに潜るってのはまだ書かないで、無事に戻ってきてから次の手紙で書いた方がいいと言っておく。


 手紙を書き終えたアーセにそういえばと聞いてみた。


「アーセは僕が家を出てから、寝る時は一人で寝てたのか?」


僕と一緒に寝てる以外の所を見たことが無かったので、単純に疑問だったのだ。


「ううん、アメリアとハルタと三人で、元のにぃと寝てた部屋で」


なるほど、アーセも姪と甥の二人は気に入ってたからな、でもそうすると。


「でもそれじゃあ子供たちと離れて、ソル兄たちが寂しがったろう?」


なんかちょっとアーセの頬が赤みをおびているような。


「うんと、今義姉さんはお腹がおっきいから、その、もうすぐにぎやかになる」

「・・・・、あっ、そう、そっか」


・・聞かなきゃ良かった、いや、まあおめでたい事ではあるな、うん。

自分で気まずくしてどうすんだ、僕。

この流れで、さあ寝ようかとは言えない。


「あっアーセはどこか行きたいとことかあるのか?」

「? どして?」

「アーセが服買いに行ってる時にセルと話したんだけどさ、明後日からのダンジョンから戻ってきたら一緒にこの大陸巡ろうって、でどこ行くのか決めようってね」

「にぃと一緒ならどこでも行く!」


 セルが行くって事はシャルが付いてくるだろうし、アーセが行くって事は残念ながらアリーがもれなく付いてくるだろう。

そうすると、徒歩って訳に行かないだろうから馬車借りるようか、五人っていうと一頭引きもあるだろうけど、距離を稼ぐなら二頭引きじゃないときついかな?

ベッドに腰掛けてそんな事をつらつらと考えていたら、いつの間にかアーセが隣に座っていた。

うーん、一人だからこの部屋で良かったけど、こうして二人になるといかにも狭いな、まあダンジョンから戻ったらここ引き上げる事になるだろうから、今日と明日の辛抱か。


「明日は一日空いてるけど、アーセは何かしたい事とかある?」

「にぃは疲れてる? 休んで無くて平気?」

「うん、昨夜ぐっすり眠れたし、今日は散歩してただけだから大丈夫だよ」

「だったら、にぃと一緒に傭兵ギルドの依頼する」

「・・いいけど、何でまたそんな事やりたいんだ?」

「お金が足りない時とか、にぃが疲れてる時にアーセ一人で稼げるように、等級上げたいの」


・・ずいぶん経済観念しっかりしてるな、女の子って皆こうなのかな? 

そういえば、マルちゃんも公務員の方がお嫁さん来てくれるとか、ナルちゃんも稼ぎが良かったらとか言ってたもんな。

確かに、10級単独で受ける依頼だとかなり数こなさなきゃだけど、僕と一緒なら6級までのを受けられるから上がりやすいもんな、良く考えてるもんだ。

しかし、キシンさんにしばらく依頼は出来ないって言った手前、顔出しづらいな・・・・ま、なるようになるか。


「わかった、明日は一緒に傭兵ギルドに行こう、じゃあもう遅いし寝ようか」

「ん」


 こうしてなんとか普通な感じで横になり、静かに眠りにつくことが出来た。


◇◇◇◇◇◇


 休養日に当てている本日はあいにくの雨模様で、強くは無いもののやみそうに無い。

朝食の席で、僕とアーセは今日は一日で終わる傭兵ギルドの依頼を受けに行くと皆に伝えると、セルとシャルは、のんびりと過ごすとの事。

そして、残るアリーはというと「どんな依頼でもアーセちゃんは守って見せますよ!」と付いてくることがすでに決定していたらしい、まあわかってたけどね。


 そういった訳で、三人で傭兵ギルドへ。

が、僕は一人表で待機、なぜならば、もしキシンさんがいたら昨日しばらく依頼は出来ないって言ったのに、今日依頼受けに来てるとか見つかったら、絶対に変な依頼を押し付けられること請け合いだから。

傭兵ギルドの玄関から隠れるように、横の路地に潜んでいると、中からアーセが出てきて「居なかった」と伝えてくれる。

たったそれだけなのに、アリーまで一緒に出て来なくても、そんなにアーセと離れたくないのか?


 何事も無かったように、さも普通に立ち寄ったって感じで三人で中へ。

しかし、小っちゃいアーセとそれにくっ付いている、見た目美人なアリーが出たり入ったりしてるおかげで、入った途端皆の注目を浴びてしまう。

目立つのは避けたかったんだけど、まあしょうがないので依頼書を眺める。


 なになに、商隊の護衛に指定された魔物の特定部位の引き取り、戦闘指南に決闘の助っ人募集に借金の取り立てなんてのもある。

ちなみに、僕が6級でアーセが10級そしてアリーは8級なので、出来るだけ二人の等級を上げるために上の方の依頼を見繕ってと。

そんな風に考えながら依頼書を見ていたら、アリーが話しかけてくる。


「これなんてどうですかお義兄さん、ゴナルコ近海に生息する『バンサーギー』捕獲、アーセちゃんと一緒に海! くぅー」

「・・最後に本音が出ちゃってるけど、海の魔物なんてどうやって探し当てるのか知らないよ、なんか方法あるの?」

「三人いればなんとかなるんじゃないですかね、行くだけでも楽しいでしょうし」

「行くだけじゃあ・・、おっ、こっちにゴナルコのお店へ商品を届けて代金回収ってのがあるから、これをやれば最低限無駄には終わらないで済みそう」

「いいじゃないですか、それ受けてこっちも受けて両方出来ればかなりですよ、やりましょうよ、ねっアーセちゃんもいいですよね?」

「にぃ、決めて」

「じゃあやってみるか、これもし両方出来たら一気にアーセ9級に上がれるかもしれないし」


 『バンサーギー』捕獲が6級で、商品のお届けは8級が受注に該当する等級に指定されてるから、受けるのには問題なさそう。

両方の依頼書を持って受付へ、どうやら別々の商会の依頼らしい。

商品のお届の方はギースノさんのとこのヘイコルト商会で、「バンサーギー』捕獲はホーエル商会から。


 それぞれの商会へ依頼の受注の挨拶へ、まずはヘイコルト商会へ行く道すがらアルはエイジと魂話していた。


【ねえエイジ、『バンサーギー』ってどんなの?】

【体長は1m前後で体の表面は粘膜に覆われている、手足はあるが短くて海底を這って移動している、特に陸上には上がらないから危害を加えてくるような事は無い】

【そんなの捕獲してどうすんだろう?】

【食用にもなるし薬としても使われるから、結構使い道はあるらしいぞ】

【へー、でも海底ってどうやって見つけるの?】

【通常は潜るしかないな、ゴナルコは遠浅になってるから、それほど深く潜らないでもいるのはいると思う】

【海の中かー、『水かき』の人達なら楽だろうけどなー】

【海の中だと操魔術は相当に威力落ちるから、ほとんど使い物にならない、もしもやるんなら当てにするなよ】

【面倒そうだね、『嵐』でやるしかないのかー】

【水の抵抗があるから、『角』で刺した方がいいと思うぞ】

【そっかー、わかった】


 ヘイコルト商会ではギースノさんは不在だったが、担当の人から商品を摘んだ馬車を委託される。

届け先はなんとサルギス軒、商品は香辛料・香草・食用油・ワインなどなど。

知ってる先なので気持ちが楽になった、これらを届けて代金を回収して馬車と一緒に渡せば依頼完了となる。

ついでに、帰りに受け取るという事で、明日からのダンジョンでの食料を頼んでおいた。


 今度はその馬車でホーエル商会へ。

ちなみに、馬車の御者台には僕そして隣にアーセが座っていて、アリーは荷物と共に後ろにいる。

これは、御者台は二人でやっとでありかといって、アリーが御者台に座ると僕が後ろにいる事になり必然的にアーセも後ろに来る。

どうしてもアーセと一緒にはなれない事で、アリーも納得はしていないものの渋々ながらこの布陣を了承している。


 依頼の受注に際し、商会が経営しているお店へ顔を出すのに、表側では無くその裏手にある柵に馬車を停めて馬をつなぐ。

預かっている荷物があるので誰か番を残すことになり、先ほどと同じ理由でアリーが残る事になった、なんか目が怖い。

表側に回り、お店で声をかける。


「ごめんくださーい」

「はーい、なんでしょうか?」

「こちらで傭兵ギルドに出している、『バンサーギー』の捕獲依頼を請け負った者で、その件で伺ったんですが」

「はい、担当者を呼んでまいりますので少々お待ちください」


 お店番だと思われる若い娘さんが、奥にいる男の人に言伝をしている。

しばらくお店の品々を眺めていると、先ほどの男の人がもう一人の男の人を連れて戻ってきた。

20代だと思われる男の人は、僕を見つけて近づき話しかけてくる。


「あなたが依頼を受けてくれる方ですか? 私はこの商会で仕入れを担当している一人でビンチャーと申します」

「初めまして、傭兵ギルドから参りましたアルベルトと申します、依頼書を拝見しまして伺いました」

「失礼ですが、これまで『バンサーギー』を捕獲した事はありますか?」

「ありません、ゴナルコへ行ったことはありますが、まだ見たことは無いです」

「そうですか、いや、べつに経験が無いとダメという訳ではありません、それでえっと、『バンサーギー』についてどの辺まで知ってらっしゃいますか?」

「体長は1m前後で手足があり表面は粘膜に覆われている、海底を這って移動する、こんなところでしょうか」

「素晴らしいです、良くご存知ですね、それで今回の捕獲に関してなんですが、1匹は生きたままで他に5匹、こちらは死んでいてかまわないのでお願いしたいのです」

「生きたままでですか?」

「はい、水槽を貸しますので、そちらに入れてきていただければ、あの、徒歩って事は無いですよね?」

「ええ、丁度他の依頼で商品を届けるのに馬車を借りてますので、そちらに一緒に積ませてもらおうと思います」


 こうして、水槽を受け取りヨルグを出発する事に。

馬車を見送りながら、ビンチャーはふむと何事か考え込んでいる。

若いながら物腰は柔らかく言葉遣いは丁寧、これまで出会った事の無い魔物について良く調べている、昨夜遅くに出した依頼をこのような朝方に持ってきたにもかかわらず。

初めての魔物に対処する事についても、こちらに捕獲方法も仕留めるやり方も質問しないという事は、すでに調べがついているという事。

いくら若いとはいえ、あれだけ事前に魔物の生態を調べているのに、実際の方法を聞かないなんて考え無しなんて事はないはず。

これは思わぬ拾いものかもしれません、少し評判など調べておいた方がいいかもしれませんね。


 ところがアルは、魔物の対処なんて後でエイジに聞けばいいやと思っているだけの、まったくの考え無しなのであった。

だが、この辺は他人の目から見るのと内情を知っているのとでは、大きく見方が変わるところでもある。


 降りしきる雨の中、雨に濡れる御者台よりも後ろの幌の中の方がいいと、アーセに再三言うも「やっ!」と言って頑として僕の隣を離れない。

一緒の馬車で移動しているんだから、はぐれるわけでも無いのに何が問題なんだかよくわからないな。

後ろからは、しきりにアリーがアーセの気を引こうと話しかけている。

そんな中、僕はエイジに『バンサーギー』についての話を聞いていた。


【生きたまま捕獲って、どうやればいいのかな?】

【そうだな、胴体を両脇から手を入れて捕まえれば、体の構造上攻撃される事は無いと思う】

【そういえば、攻撃方法ってどんなのがあるの?】

【噛みつき、主食が貝だから殻ごと食うその歯と顎は強力、噛みつかれたらかるく骨まで砕かれるぞ】

【結構おっかないね】

【後はまれに口から消化液を吐く事がある、これも貝の殻を溶かすほどなのでかなりやばい、ただどちらも口さえ避ければ他に攻撃方法は無い】

【ふーん、あっ、そういえば仕留めるにはどこ狙えばいいのかな?】

【頭を上から突き刺すんだな、胴体は刺しても切っても中々死なないし、食用にしても薬用にしても必要になるだろうから、傷つけない方がいいと思うぞ】

【そーすると後は、どうやって見つけるかと、実際海に入らないとならないって事かー】

【まあこれはアルがやるしかないだろう、まさか女二人に海に入れってのはいくらなんでもな】

【やっぱそうなるよなー、まあしょうがないかー】


 エイジとのそんなやり取りの最中、アーセが話しかけてくる。


「にぃ?」

「ん? どうした?」

「なんか黙ったままだから、どうしたのかと思って」

「ああ大丈夫、『バンサーギー』をどうやって捕まえるのかとか考えてたんだ」


突然アリーが話に入ってきた。


「ここはやはり、アーセちゃんが私と一緒に海に入るというのはどうですか? 

なーに、当然誰も近寄らないように、このお姉ちゃんが見張ってますから!」

「にぃが言えば入る」

「さあ、お義兄さんここは一言お願いします」

「いや、僕が入るよ、ってかなんでアーセに入らせようとするの?」

「それは当然アーセちゃんのその美しい肢体を存分に堪能した・・、

いえ、やっぱり小柄なアーセちゃんの方が何かといいかと思いまして」


もう全部言っちゃってるけど、この人は本当に何の為に一緒にいるんだろうか?

とりあえず、ここはちゃんと兄として言っておかないとな。


「そういう事を言うなら、ここからでも一人で帰らせるよ?」

「そんな、愛する二人にそんな仕打ち、酷すぎるじゃないですか」

「ちょっと何言ってるかわかんないんだけど、アーセ?」

「ばいばい、アーちゃん」

「ごめんなさい、何でもしますから許してくださいお願いします」

「・・まったく、今後変な事言わないように!」

「はい、わかりました」


 こんなどーしょーもない話をしていたら、目的地ゴナルコに到着した。


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