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第46話 結成 素性も目的も不明って

 晴れわたる空の下、5人という少なくない人数で、城塞都市ヨルグの街を練り歩く。

特に目的地があるわけでは無いが、なんとなく道すがらのお店を説明しつつ、街中を散歩していく。

昨日まで潜っていたダンジョンでの疲れもあるにはあったが、昨日は半日で出てきてその後たっぷりと英気を養えた。

そのおかげで、気分が晴れ晴れとしていた事もあり、問題無く軽やかな足取りで歩いていた、まあ多少の二日酔いは残っていたけれど。


 ぶらぶらと街の中を見物していると、お昼になったのでどこかで食事でもという話になった。

お店で食事をするのは、ここに来て二年になるというのに、まだ数える程度しか無い。

だが、これまで不味いとかとんでもなく高いとかいった、はずれの店にあたった事は無かったので、このヨルグの街においてはどこに入ってもそれなりなレベルだという事で、一番近い店に入って昼食をとる事にした。


 まだお昼になったばかりだったので、5人で座れるテーブル席が空いていて全員一緒に座れた。

ほどなくランチのかき入れ時らしく、どかどかと人が入ってきてあっという間に空いてる席が無くなる盛況ぶり。

これだけの人が入るだけあって、全員で違う料理を頼んで少しずつ分け合ったりしたが、そのどれもが美味しくてこの街の中でもかなりな当りな店だという事がわかる。


 食事をしながら今後の事についての話をしていく。


「えっと、僕達は昨日までダンジョンに潜っていたわけだけど、かなり手ごたえがありました。

そこで今度は本格的に第10階層にあるとされる、開かずの宝箱を目指して再度チャレンジしようと思っています」


セルにはちょっと話したけど、シャルにはまだ話して無かったし、アーセとミアリーヌさんに説明する上であえてここで宣言してみた。


「!? えーっ、聞いて無いよー」

「別に嫌だったら来なくてもいいぞ」

「嫌なんて言ってないじゃないよー、行くわよー」


そんな兄妹のやり取りの後、僕ら兄妹もどうするかの意思の確認をする。


「アーセはどうする? 無理に着いてこなくてもリンドス亭で待っててもいいぞ?」

「一緒行く」

「おそらく今度は7日程度の日程になる、その間ずっと寝心地は悪いしご飯はパンと干し肉だけだぞ? 大丈夫か?」

「にぃと一緒だから大丈夫」


・・大丈夫な理由がよくわからないが、まあアーセも成人した事だし、本人が行くといってる以上かまわないかな。

後は残りの一人がどうするかだけど。


「ミアリーヌさんは、待っててもらって「アーセちゃんが行くところならどこにでも行きます!」かまわな・・・・」


食事中に急に立ち上がるのはどうかと思うんだが、どうもこの人はアーセの事となると周りが目に入らないらしい。


「・・そっそうですか、じゃあこの五人で挑戦するとして何時いつにしようか?」

「まだ少し体がだるい感じもあるから、明日一日休養と準備にあてて明後日からでいいんじゃないか?」

「えー、早すぎなーい? もっとのんびりしてからでもさー」

「特にやる事があるならともかく、何も無いなら変に間隔空けずに潜った方が、勘が鈍らないでいい」

「うん、僕もセルの意見に賛成、反対意見のある人いますか?」

「うー、わかったわよー」


こうして再び明後日からダンジョンに潜る事が決まった。

そこで、メンバーも増えたことだしそれぞれの武器などの確認をすることに。

僕が剣と操魔術を、セルが短剣二本と操魔術、シャルが精霊魔術を使うと説明し二人の発表となった。

といっても、アーセの事は知っているので僕から紹介する。


「えーっと、アーセは精霊魔術をつかいます」


すると、すかさずミアリーヌさんが興奮気味に話し出した。


「アーセちゃんの精霊魔術は凄いんですよ、途中で出くわした『ウルフファグ』なんて、街道に姿を現した瞬間頭に焼け焦げた穴を開けて次々と倒れていって、私はもうあまりの素晴らしさに見惚れてしまって、はあー」


なんか思いだして浸ってるらしい。

しかしこの人何やってたんだ? 護衛じゃなかったのか? 魔物出てきてうっとりしてたらダメだろうに。

そういうミアリーヌさんは何を使うのか尋ねると。


「私はこの短槍とこれを操魔術で飛ばします」


そう言って見せたのは結構な長さと太さの針だった。

精霊魔術も使えない事は無いらしいけど、それほど威力が無いのでほとんど使わないらしい。


 それらを踏まえて、ダンジョンでのフォーメーションはセルを先頭にその斜め後方に僕、そしてその後方少し距離をとって女性陣三人が並ぶという事に落ち着いた。

三人並ぶ必要はないんだけど、精霊魔術を使うシャルとアーセを不意の事態に備えて守るミアリーヌさん。

この場合ミアリーヌさんが身軽に動けるように、一人最後方か二人の前というのが普通だが、アーセと並んで歩きたいという事でこうなったらしい、大丈夫か?


 日程は、一応第8階層まで行き帰り二日ずつの四日で行けたので、第9階層を抜け第10階層の目的地までたどり着くのに一日、往復で二日さらに予備に一日みて計7日間という事に決まった。


 とりあえずこれで一通りは決まったとして、他に何かないか聞くとセルから「全員の呼び方を決めておこう」という意見が出た。

後で聞いたらこれは戦闘時にどうこうよりも、急造パーティーだからこそ、雰囲気を良くするうえで親密度を上げておこうという狙いらしい。


そこでまずはアーセからという事になった。

まあ僕とアーセは決まってるからいいとして、セルとシャルはそれぞれリクエストがあるらしかったので聞いてみる。

セルは何故か、僕を呼ぶときのアーセの呼び方が気に入ったらしく、自分の事はセルにぃと呼んで欲しいと言い出した。

自分にも妹いるのに、やっぱり双子だからかあまりお兄ちゃんとか呼ばれないので、ある種あこがれがあるらしかった。

シャルはちゃん付けがいいらしく、お互いにちゃんを付ける事に決まった。


 問題はミアリーヌさんで、そもそも年上っぽかったのでさん付けて呼んでたけど、実際いくつなんだろうかと思い尋ねてみる。


「えーっと、ちょっと聞きづらいんですが、ミアリーヌさんはおいくつなんでしょうか?」

「秘密です」


面倒になってきたので、お手軽な最終手段である、アーセに聞かせるを発動。


「いくつで「19歳です!」すか?」


 わかっていたけど、とんでも無い早さの即答だった。

おそらく間違ってないと思うが、アーセのお願いだったらどんな事でもやってしまいそうで怖い。

本人がかまわないという事で、今後敬語は無しとなり、僕とセルは彼女の愛称であるらしいアリーと呼ぶ事に決まった。

彼女もセルは同じように呼び捨てにする事になったが、僕についてはお兄さんで決まっているらしく拒否権は認められなかった。

なんかそう呼ばれてると、もぞもぞするんだけど何故なんだろうか?


 こちらからは無しになったが、本人が話す際は敬語の方が話しやすいという事で、まあ無理に変えないでもとそのままという事に。

シャルとアーセはアリーからの要望で、アーちゃんと呼ぶ事に。

最初は、アーセにお姉ちゃんと呼ばれたかったようだが、これは残念ながらアーセに却下されていた。

逆にアリーからは、シャルを呼び捨てにして、アーセはこれまでと変わらずにちゃん付けで決まったらしい。


 呼び方を替えたり敬語が無くなるだけでも、かなり近しい関係になったように錯覚する。

そんなところかなと思ったら、再びセルから「今度は正式にアルにリーダーを引き受けて欲しい」という要望を受けた。

シャルは「賛成」と言っているし、アーセとアリーも異存ないようなので、僕がリーダーという事に決定。


 話し合いも一段落したところで、お店を出てまだ持っていないという事で、アーセとアリーの探索者カードを作りに役場へ行く事になった。

てくてくと歩くアーセは、外に出た時の習慣として常に僕と手をつないでいる。

そしてこれもまた僕と一緒の時は、大抵笑顔を絶やさずに、ずっとニコニコしている。

僕ら二人が先頭を歩き、その後ろを三人がついてきているので実際に見たわけでないが、特定の一人にもの凄く熱い視線をそそがれてるのを感じる。

 

 無事に役場でカードを発行してもらい、ついでに傭兵ギルドへ寄ってこちらでも登録を済ませる事に。

中に入ると存在感を放つ巨体が目に入る、そしていつものように大きな声がギルド内に響き渡る。


「おぉアル、ちっとこっち来いや!」

「・・なんですかキシンさん」

「実はな、お前にうってつけの依頼があるんだ」

「あの、キシンさん、申し訳ないですけど」

「なーに、何も心配いらねえ、お前なら出来る、その依頼っていうのがだな」


 アリーとは別の意味で話が通じない。

ここは、まともに組み合っても勝ち目がないのはこれまでで学習している、なんとか矛先をずらさねば。


「キシンさん、紹介します、僕の妹のアーセナルです、アーセ、こちらがキシンさん」

「アーセナルと申します、いつも兄がお世話になっております」

「・・おぉ、これは丁寧な挨拶する嬢ちゃんだな、俺はキシンってもんだ、よろしくな」

「はい、こちらこそよろしくお願い致します、あの、それで登録? をしたいんですけど」

「ん? おぉ、それならこっちの職員にやってもらうといい、おう! 新規の登録だ、ちゃんとやってやれよ!」


 皆はアーセの登録をアシストする為付いて行った、こっちが危険地帯なのを察知し、関わり合いにならないように回避したんだろう。

まあこれでなんとか気がそれただろうから、この機を逃さないように。


「それでキシンさん、僕本格的にダンジョン探索する事になりまして、明後日から第10階層目指して潜るんですよ、ですからしばらく依頼は出来ないんです」

「なに? おめえソロだろう? 一人で10層行くってか?」

「いや、いくらなんでも一人じゃ無理ですよ、パーティー組んだんですよ、妹もメンバーなんです」

「パーティーをねぇ・・、しっかしいくら10層まで行っても、開かねえ宝箱があるって言われてるだけだろうに」

「今度こそ10層まで行ってみせ・・、えっ? 言われてるだけ? 

誰か実際行った人がいるんですよね?」

「なんだ知らねえのか? あのダンジョンの最高到達階層は7層だ。

それより下の階層まで潜ったなんて話は聞いた事ねえな。

当然10層にあるって言われてる宝箱だって、見た奴なんていねえだろう、言い伝えだよ言い伝え、大昔っからのな」

「・・そうなんですか・・、キシンさんは挑戦しないんですか?」

「ああ、俺は興味ないんでな、5層までしか行ったことねえよ」


 そんな会話をしていると、無事に登録を終えたアーセが僕の横にちょこんと戻ってきた。

他のメンバーは皆すでに登録済みなので、ここらが頃合いかと思い退散する事に。


「それじゃキシンさん、そんな訳でしばらくはいませんので」

「あっ、おい待てよアル! 依頼どうすんだ?」

「ちょっとやってる時間無いんで、今回はパスって事でお願いします」

「ちょっと待て! おめえそんな事じゃ等級上がらねえぞ!」

「あははは、また来まーす」


 無理やりながら、なんとか追撃の手を振り切って傭兵ギルドを後にした。


「ごめんごめん、変なとこ見せちゃったね」

「くっくっく、愛されてるなアル」

「やめてよ、あの人は悪い人じゃ無いんだけど、色々強引でさ」

「それだけアルが頼られてるって事じゃないの? 

それとも断るの苦手ってバレてるんじゃなーい?」


兄妹の息の合った攻撃にタジタジになるアルに、少々物騒な援護射撃が入る。


「にぃが言えば、アーセがジュッとする」

「待ってください、アーセちゃんの手を汚させるわけにはいきません。

ここはこのお姉ちゃんに命じてくれればいかようにも」

「ちょっ、ちょっと待ってよ、下手な事しないで、あの人にはお世話になった事もあるし、さっき言った通り悪い人じゃ無いんだから」

「大丈夫です、下手なんてうちませんよ、上手にってやります」

「・・アーセ、止めて」

「アーちゃん、ダメ」

「はい、わかりました」

「アーセも! いいか? アーセが何かされそうな時は別として、それ以外では僕が良いって言わない限り、誰かに対してジュッとしちゃダメ、わかった?」

「ん、わかった」


 そんなやり取りを聴きつつ、エイジはミアリーヌを訝しんでいた。

・・追加メンバーの二人は、即戦力という意味では心強いが、見た目と裏腹に色んな意味で危ないな。

しかしこのミアリーヌってのは何者なんだ? あの操魔術で飛ばすと言っていた針、ありゃあ間違っても護身用なんて可愛げのあるもんじゃ無いだろう。

確かに魔物に対しても有効だろうけど、暗殺用って言われた方がしっくりくる形状してやがるぞ。

王都へ行ったら理由を話すねえ、アーセの護衛だったって事はイセイ村から来たって事か、だとするとアルかアーセを調べにでも来てたのか?

となると・・、アルの出自の問題か? 王都って事はへたしたら王族がらみか? その辺の状況がはっきりわかるまで王都へは近づかない方が良さそうだな。

それにしてもなんだか良くわからないが、どうやらアーセに対して絶対服従に近い精神状態っぽいから、危害を加えられるって事はなさそうだけど。

・・・・それもわからんか、アーセには無害でもアルには、いや、アルの事でつきまとってるとしたら大丈夫か? むしろアーセの操の方が危険か?

いずれにしても、ダンジョンにおいて命を預ける仲間のはずが、また微妙な人材が入ってきたもんだな。

俺がいくら警戒してても、アルが寝てる時は俺も覚醒できんしな。


 エイジがどう対処するかちゃんとした答えの出ないまま、とりあえずアリーを警戒対象としようと考えている間、一行はアーセの買い物に付き合っていた。

アルがアーセに持ってきた荷物を確認したところ、着替え以外は鎖分銅しか持ってないという事で、諸々一式買い揃えようと該当する店を巡っていたのだ。


 しかし武器については、精霊魔術を使うので杖をと思ったが、なんだか本人が持つのを嫌がる、結局鎖分銅二つ持ってるので良いという事に。

防具も、装備しても重さで体力削られる方が深刻という事で見送り、寝る時用に僕と御揃いの厚手のフード付ローブを買うにとどまった。

お金の心配ならしないでいいから、何か欲しいもの無いのか尋ねると、服がもう少し欲しいという。

そっちは僕がいても役に立たないのでお金だけ預けて、買ってくるように言うと、シャルとアリーと一緒に出掛けて行った。


 待っている間、僕とセルは食事処でお茶を飲みながら、今後についてなどのお話を。


「アル、出会った最初に言ってたチカラとやらは、手に入ったのか?」

「うん、おぼろげながらね、ずっと一人でダンジョン潜ってて、それなりに色々鍛えられたとは思うけど、セルとシャルと三人で潜ったのはいい経験になったよ」

「それなら良かった、ところで、そうなるとここも卒業って事になるのか? この後どうすんだい?」

「うーんそうだなー、まだちゃんとは決めて無いんだけど、まだまだ行ったこと無いとこ一杯あるからさ、色々見て回りたいかな」

「俺も見聞を広めるために旅に出たんだ、良かったら一緒にこの大陸を巡らないか?」

「いいねそれ、そうしよっか、大勢の方が楽しそうだもんね、ゆくゆくは他の大陸とかね」

「よし、じゃあダンジョンから戻ったらどこ行くか決めようぜ」

「うん」


 そんな事を話していたら、三人が戻ってきた。

なんかアーセとシャルはニコニコ笑ってるけど、アリーはぶぜんとした感じなのはどうしてなんだろう?

アーセに何買ったのか聞くと、服とこれと言って見せてくれたのは、なんだかわからない布地で出来たものだった。

服では無いし袋状にもなっていないので物入れでも無い、帯状に伸びた長い部分が何本もあって、なんだこれ?

僕が不思議に思っていると、隣ではアーセに対してアリーが何かを主張している。


「やっぱり私にやらせて下さい」

「やっ!」

「ですが!」

「にぃがいいの!」


・・どうも何についての会話だかがまるでわからない、シャルに聞いても「ダンジョンでのお楽しみよ」と言って教えてくれないし。

とりあえず買い物も済んだので、僕達は一旦みんなでリンドス亭へ戻る事にした。


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