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第42話 難所 ここってやっぱり

 ダンジョン第8階層、行き止まりかと錯覚させる通路を通り、再び分岐が待ち受ける広間に到着した。

今度の分岐も、最初と同じ五つ。

そして、地面も同じく石畳がびっしりと、各坑道入口まで敷き詰められている。


 前と同じように、岩や石で一つ一つの石畳を確認していく。

同じなのが、やはり映像でカモフラージュされた落とし穴がある事。

先ほどと違っているのが、今度は二つ若しくは三つ並んでというか続けて穴が開いているところ。


 エイジはどうにも腑に落ちない違和感を感じており、このまま進んでいいものか危機感を感じていた。

これだけ高度な技術を擁する者が、なんでこんな単純な落とし穴しか設置して無いんだろうか。

もっと複数の複雑な心理を逆手に取るような、狡猾な罠を仕掛けられるはずなのに、なぜこう単調な落とし穴を続けるのか。

確かに、初めて見ればビックリするし、気づかずに穴に落ちる事もあるだろう。

だが、そもそも罠っていうのは侵入者を排除する若しくは、それ以上進ませないように妨害するためのものなのに、どうもそういう意思が感じられない。

まさか下の階層へ行くのにこの穴通った方が近道なんてことは・・・・、それはいくらなんでも無いか。

深さも下に何があるかもわからんのに、こっちが正規ルートなんてことは無いはず、だったらなんなんだろうか。

それにこの仕様も謎だ、これはつまりメンテナンスフリーにしてるって事じゃないだろうか。

矢が飛び出してくるとか、毒ガスが噴出するとかっていうのは、一度作動したらどうしたって補充が必要になる。

という事は、ここを造った者はすくなくとも今はこの場には居ない、無人で長い期間機能するのに問題無いようにしてあるって事か。


 そんなエイジの不安とは裏腹に、アル達は前回と同じ作業を繰り返し、今度は一番左の道を選択し進むことに決めていた。

道中は操魔術を駆使しているので、さすがにエイジでも物事を深く考える事は出来ない。

三人は駆逐されていく魔物を気にも留めずに進んでいく。

そんな中セルは感心を通り越して、あきれ気味につぶやいていた。


「しっかしアルの操魔術は凄まじいな、俺も自信が無い訳じゃ無かったがまるで歯が立ちそうにないよ」

「まっまあ、あたしの雷といい勝負ってくらいには認めてあげるわ」

「・・お前は何対抗してんだ、しかもなんでそんな上からなんだか」

「僕には二人みたいに気配を探るとか出来ないし、精霊魔術も全然ダメだから逆にうらやましいよ」


 そんな会話を交わしつつ、今回は偽の行き止まりも無く順調かと思われたが、本当の壁が目の前に現れた。

こづいてみても、今回は本物の手ごたえがあり、正真正銘の行き止まりだ。

これまでの実績から見ても、この道が正解だと思われる、という事は・・。

最初にエイジが、次にセルがこの事態に対して思い至った。


「もしかすると、途中に分岐があったんじゃないか?」

「無かったわよ、そんな道」

「だから、これまでと同じく映像とやらでカモフラージュされて、壁としか認識して無かったけど道だったとこがあったんじゃないかって事」

「そっか、そうだね、その可能性が高そうだ」

「だろ?」


 来た道を戻る三人、今度は前方に障害は無いと分かっている。

そこで、セルがアルから借りている『嵐』の鞘を右側の壁に、シャルが左側の壁に自分の杖を擦りながら歩いて行く。

暫く進むと不意にシャルの杖から手ごたえが消えて、通路とおぼしき道がある事が判明した。


「やっぱりな、こっちが正解なんだろう」

「手が込んでるわねー」


 新たに出現した分かれ道を進む一行。

ひとしきり歩くと三度みたび分岐の間に到着した、今度もまた五つに分かれた道が口を広げて待ち構えている。

これまでと違うのは、地面が普通に戻っているというか、石畳が無くこれまで通ってきた坑道と同じ、ゴツゴツとした岩肌になっているところ。


「今度はまともそうねー」


 広間への入口で様子を窺っているセルとアルを追い越して、シャルが呑気そうに足を踏み入れようとしていた。

瞬間、エイジはアルに指示している間もないと判断し、『阿』と『雲海』をシャルの目の前の中空に浮かし鼻先にピタリとくっつける。

驚いて後ずさるシャル。


「なっなにすんのよー、アル! ビックリするじゃない!」

「ちょっちょっと待ってよ」

「お前なー、まだ何があるかわからんのだから、迂闊に動くなよ」


アルは急いでエイジに詳細を聞いてみた。


【どうしたのさ、エイジ】

【悪い、言ってる時間無さそうだったから仕方なくな、急にここだけ何も無いとは思えない、へたしたら・・・・】

【したら何?】

【ほら、見て見な】

【わっ】


 エイジが操魔術で確かめると、地面に見えてるのはすべて映像で足の踏み場はまるで無い。

まるまる大きな穴が開いてる状態だった。


「なっ? 何よーこれー」

「地面が無い・・・・、なんだこれ、こんなもんどうやって進むんだ?」

「うわー、これは凄いねー、本物にしか見えないよ」


 念の為向こうに見えている坑道を確かめてみたが、それらはどれも本物でちゃんと先に続いているようだった。

なんとかして向こう側に行かなければ、ここで探索終了となる。

緊急会議の話し合いがもたれた。


「これはどうにもならんな、事前にわかっていれば用意もできただろうが」

「そうだ! いっそのことこの穴降りて直接9層へ行くってのはどう?」

「あほ」

「何よー、ここ通れないんだからしょうがないじゃないよー」

「お前な、この穴が9層に行けるってなんでわかるんだよ」

「だってここ8層じゃない、この下なんだから9層に決まってるでしょ」

「だから、この穴がなんで一つの階層分しか無いって決まってんだよ、二フロア下手したら三フロア分以上あるかもしれんだろうが。

もしそうなったら無事には降りられんし、なんとか無事に降りられたとしても、帰り着く前に食料も無くなるし間違いなく生きて戻れんぞ」

「・・・・うー、じゃあどうするのよー」

「だからそれを考えてるんじゃないか」


 兄妹がそんなやり取りをしている間、アルはエイジと魂話していた。


【ねえエイジ、どうしたらいいかな?】

【そうだな、確実にこれならって方法は思いつかないな、試してみたいのはいくつかあるけど】

【どんなの?】

【秘密、自分で考えて答えを出すんだ、手伝いや応援ならしてやるからさ】

【えー、どうしたらいいんだろー、わかんないよー】

【こういう打つ手がないような場面こそ、鍛えられるってもんだろう? 頑張ってみるんだな】

【うーんと・・・・、!? そっか、突破した人たちがいるんだもんね、方法はあるって事か】

【? 誰の事だ?】


しかしアルは自分の思考の中に没入して、エイジのセリフを聞き取れなかった。


【うーん、そうすると、うーん】


 アルが考えあぐねている間、エイジはなぜこの順番なのかを不審に思っていた。

第8階層に入った最初の広間でこれをやってれば、かなりな高確率でパーティーは全滅に近い打撃を受ける。

それをわざわざ、いかにも何かありますよって感じの石畳で警戒させて、途中の行き止まりや通路を塞ぐなどの小細工で、映像でのフェイクを印象付けておくなんて。

いかにも何も無いようできっと何かあると思わせて、本当にこうなってるってのは親切すぎる。

これは、ふるい落とすための罠じゃ無く、警戒心や状況を打破するための思考を鍛える為に作られている。

やっぱりここは、何者かが造った訓練施設、・・・・いや、まだ結論を出すには早いか、もう少し見極めてからにしておこう。


 ずっと押し黙っているアル(実際はエイジと魂話した後どうするか考え中)がどうしたのかと、セルが声をかける。


「おいアル、どうかしたのか」

「・・えっ、あっごめんごめん、どうすればいいか考えてたんだ」

「ならいいけど、なんか急に黙ったから調子でも悪いのかと思ったぞ」

「大丈夫大丈夫、でもどうしたらいいかな?」

「こんなところがあるなんて知らなかったからな、ここはあきらめて引き返すってのも手だぜ、何の道具も無しに渡るには坑道までは遠すぎる」

「あのさ、第10階層に開かずの宝箱があるってわかってるって事は、ここを切り抜けた人たちがいるって事でしょ? その人たちはどうやったんだと思う?」

「そうだな、・・いくらなんでもこの距離を渡す棒なんて運びこめないだろう。

普通でいけばロープを何本も渡して強度を増しておいて、身軽な奴がそれを渡って向こう側で固定して、残りのメンバーがそれを渡るってとこか」

「なるほど、って事はロープが無い僕達には出来ないって事か」

「じゃあさ、横の壁つたって行くってのはどう? アルとか行けない?」

「あほ、行けるわけないだろ、いくらアルが身軽そうだからって、あんな凹凸の少ない壁どこ掴まれっていうんだよ」

「だって、床が無いんだから後壁と天井しか無いじゃないよ」

「山登りそれも断崖絶壁を行く装備でもあれば別だが、打ち込む楔もロープも何も無しでいけるとは思えんよ」


 アルは現状の道具とメンバーで、出来る事は無いかと考え精霊魔術はどうかと考えついた。


「ねえ、シャルの精霊魔術で氷の橋とか作れない?」

「うーん、向こうまで渡すのは出来るけど強度は補償出来ないから、下手したら渡ってる最中に割れて真っ逆さまってなるかも」

「そっかー」

「・・ちょっと考えたんだが、この中でアルの操魔術は飛びぬけている、それを使って向こうまで人一人運ぶってのはどうだ?」

「えっ、どういう事?」

「つまり、アルが操魔術でいつも使ってる鉄球を二つ浮かせる、それを腕を上にあげて一つずつ握った状態で、アルが鉄球を動かして宙を渡るって方法だ」

「なるほど」

「試しに俺を浮かせられるかやってみてくれないか?」

「うん」


【エイジ、お願い】

【了解】


 そうして、セルの肩の上方へ『阿』と『雲海』を浮かせる。

それをセルが掴んだ状態で膝を曲げて、足を地面から浮かせたままで問題無いか確かめてみる。

びくともせずに、セルの体を浮かせたまま「今度は動かすよ」とアルが声をかけると、スーッと横に移動した。


「なっ、これなら行けそうだろ?」

「本当だ、凄いね!」

「いや、凄いのはお前だよアル」

「あっ、あはははは」


 話がまとまったところで、順番を決める。

言い出しっぺのセルが最初に行くと主張したが、ここはちゃんと行けるかどうか自分で行ってみるとアルが最初という事になった。

『阿』と『雲海』に掴まりそのまま横移動で、穴の上を飛ぶというよりはゆっくり滑るように進んでいく。

無事に坑道側に降り立ち笑顔で手を振る、そして次に行くセルの為に『阿』と『雲海』をアルの時と同じようにエイジが操作する。

渡っている最中、セルは初めての感覚を楽しんでいた、着地すると同時に自然と声が出る。


「凄いなこれは、これならどんな広い川だろうと谷だろうと、橋が無くとも簡単に渡る事ができそうだ」


 セルも無事に着いて最後はシャルの番となった。

同じようにシャルの上に『阿』と『雲海』を浮かせるエイジ。

だが、なぜかシャルが掴まろうとしない。

それを訝しんだセルが対岸から声をかける。


「何やってんだー、早く掴まってこっち来いよー」

「・・・・」


なんだかシャルがもじもじしてる。

はっと何かに気づいたセルが、安心させようと再び声をかけた。


「大丈夫、下は見えないだろうー? 平気だからこっち来いよー」


事情がわからないアルは、セルに聞いてみた。


「どうかしたの?」

「あいつ高いとこ苦手なんだよ、忘れてた」


いくら声をかけても、首を横に振るばかりでシャルは全然動こうとしない。

らちが明かないとセルが、じゃあ俺たち二人で先に行くからそこで待ってろと言っても、さらに大きく早く首を振って拒否してる、一人は怖いらしい。

どうしたもんかと考えてもいい案が浮かばずに、アルはエイジに相談してみた。


【エイジー、どうしたらいいと思う?】

【まあ気持ちはわからんでも無いけどな、こんな落ちるかもしれない小さいのに掴まってすべてゆだねるなんて、逆にアルはともかくセルは良く信じてやったよ】

【でもこのままじゃさー】

【あれはいくら言っても無理だろうな、出来るかどうかわからんが一度どっちがどっちでもいいから、アルとセル同時に支えて動かせるか試してみようか?

いけそうなら、一旦セルを戻してその後シャルをおぶってこっち来させればいいだろ】


 アルが提案するも、さすがに今度は恐る恐るアルにおぶさるセル。

二人分の体重がかかるも、『阿』と『雲海』はさきほどの一人の時と同じように、スムーズに横移動していく。

これならと、セルが元の広間入口まで戻ってシャルを説得している。


「だから俺に掴まってれば大丈夫だって」

「怖いよー、落ちたら死んじゃうよー」

「お前さっきこの穴降りて下行こうとか言ってたじゃねーか、怖かったら目つぶってていいから、ほら行くぞ!」

「うー、手握っててよー」

「あほ、俺がアルの鉄球から手離したら二人とも落ちるだろうが、我慢しろ!」


 シャルがセルの首に手を回しさらに、足で胴回りを挟み込むようにして目をつぶってしがみついている。

苦しそうなセルが可哀そうだったが、なんとか無事に二人とも対岸に到着した。


 こうして難所を抜けた三人は次なる試練に向かって歩を進めていく。


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