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第3話 宿主 初めまして

「」内は実際に声が出ていて、【】は頭の中だけで宿主と魂の彼が会話する時の表記になります。

分り辛いですが、そうご理解ください。

 この国の中でも有数の規模の街である城塞都市の北側区画、そこに一際存在感

を放つ建物がある。

外に面した広い部屋は、道行く人から中が見えるように、格子が通ってはいる

ものの一本一本は細く、また間隔も広めにとられているので、視線を妨げない。

中には日によって違いはあるが、約20名ほどの封印術によって魔力を封じられ

た証である、魔封紋まふうもんを額に浮かび上がらせた女性たちが、所狭しとひしめいて

いる。


 中に居る女性たちは、その目つきや言動そして服装に溢れる労働意欲を漲らせ

ている。

労働者たちの年齢は公称では15歳から30歳までとなっているが、幅広い

ニーズにお答えする為追加料金を支払う事により、希望が叶う事があるとか無い

とか。

客は入口から中に入ると、昼間にもかかわらず薄暗く足元の間接照明のみが照ら

している中、受付までの廊下を歩く。


 受付では、先ほどの外に面した部屋が見えるようになっており、そこで客たち

はパートナーを指名するのである。

彼は、小柄な可愛らしい感じのするピンクの衣装の女性を選び、僕にも選ぶよう

に促してきた。

突然の事にどぎまぎするも、どうやら他の客が来たらしい足音がして、

あまり時間をかけられ無いと赤い衣装の女性を選んだ。

僕が選んだ女性は、とても情熱的な瞳をしているそして、体の一部分がとても

その存在を主張している。

後は部屋へ行くだけであったが、彼は受付の男性に僕らの部屋を隣同士にして

くれるように頼んでいる。

そういうサービスはしていないと渋る受付の男性の手に、こういう時にとても

効果的なものを握らせると、途端に上機嫌になり西の7番と8番という横並びの

部屋の鍵を渡してくれた。

部屋の場所は女性たちが知っているという事で、僕達二人はその後について回廊

となっている廊下を歩いて行った。


 部屋の前でじゃあとそれぞれの部屋へ別れようとする女性たちを、まあまあと

宥めながら僕らと一緒に一部屋に入ってもらう。

四人でというのは料金に入っていないので困るという女性たちに、彼がそうじゃ

無いと説明すると、おもむろに僕の肩を抱きながら女性たちに告げた。


「実は俺たちは将来を約束した仲なんだ、だが男同士という事で中々想いを遂げ

られずにいた、ここなら邪魔は入らないと思って来たんだ、頼む俺たちを二人っ

きりにしてくれ」


唖然とする女性二人とそして僕。

尚も彼が続ける。


「俺たちがここを使うから、君たち二人は隣の部屋にいてくれ、時間がきたら

一緒に戻れば問題無いだろう? ちゃんと評定は10に丸するからさ」


評定というのは、訪れた客が従業員の接客態度を帰る際に指定の用紙に記入する

ようになっており、1から10の10段階で評価してこれが高ければ待遇が良く

なり、逆に低いと最悪解雇されてしまう事もある、女性たちにとっては厳しい

システムだった。


「それならまあいいけど、あなたハンサムだったからちょっと期待してたんだけ

ど、そっちだったとはねー」


と彼が選んだピンクさんが言うと、今度は僕が選んだ赤い女性が


「あたしもあんたみたいなの可愛くてタイプだったんだけど、そういう事なら

しょうがないわね、頑張んなさいよ世間になんて負けちゃだめよ」


と励まされてしまった。

こうして女性二人は隣の部屋へ、ここには僕と彼の男二人が残る事となった。

すると彼が僕の方を向いて話しかけてくる。


「やっと二人きりになれたな」

「!? えっ、うっうん、そっそうだね」

「あほ、俺は違うって言っただろ、なにあせってんだよ」

「そっそうだよね、あーびっくりした」


 このように、なんとか場が整いすべてを打ち明ける事になった。

こんな日がくるとは思いもよらなかった、少なくとも初めてその存在を認識した

あの頃には。


◇◇◇◇◇◇


 まいった。

非常に困った。

どうしていいかわからない。


「ほぎゃぁほんぎゃあほぎゃぁ」


 今日も元気に泣いている。

未だに彼だか彼女だかもわからない、俺の宿主が快調に泣き声をあげて仕事して

いる。

赤ん坊の仕事は泣くことだとはよくいうけれど、本当に良く泣くなー。

まあ、半分くらいは俺のせいなんだけど。


 意識が覚醒した時に、静寂と暗闇に包まれた中で、もう誰かの中に居るんだ

ろうか?

これが最初に思ったことだった。

あの爺の説明が真実ならば、俺が居るのは異世界の赤ん坊の脳だという事になる。

居心地も何も感じないから全然わからん。


 とりあえず話しかけてみた。

当然泣かれた。

そりゃもう凄い勢いで、あれが火が点いたように泣くってやつなんだろう。

でも、こっちにも他に選択肢が無いんで再度チャレンジする。

やっぱり泣かれた。

それからも、何度も話しかけたがこれまでのところ全敗だ。

大体、話しかけなくても始終泣いている。

俗にいうかんの虫でもいるんじゃないのか?

まあわからんでもない。

いきなり頭の中で声がしたら、そらぁ怖いってもんだろう。


 しかし、八方ふさがりだ。

こっちの言葉がわかるようにと恩恵を授かったが、まさか先方が言葉を理解して

いないとは。

これはあれか?

もしかして、この彼だか彼女だかが言葉を覚えて、会話できるくらいまで成長

しない事には、いつまで経ってもどうにもならないって事なのか?

体が無いから、いないいないばーで警戒心を解く事も出来ず、がらがらのような

音のするもので気を引くことも出来ず、できるのは唯一話しかける事のみ。

いつまで経ってもまるで進展がない。


 というか、大体今は何年何月何日の何時何分何曜日なんだー!

感覚ってものが無いから、明るいのか暗いのか、寒いのか暑いのかさっぱりだ。

唯一の救いは、おそらくは覚醒している時間が短いせいだろう、

絶望するほどの退屈に襲われることが、無いってとこくらいだ。

毎日毎日覚醒しては話しかけて泣かれて、何度か繰り返して意識を失うの繰り

返しだ。

最初の試練が難関すぎる。

ムリゲじゃねえのこれ。


◇◇◇◇◇◇


「あぇ?」


 !? ・・・・誰って言ってんだよな。

俺か?

もしかして、俺に言ってるのか?

俺だよな?

くぅーーーーーー。

苦節何年、何年だ?

まあいいか。

ようやっとこちらの呼びかけに答えてくれた。

ここんとこ、というか正確にどのくらい前からだかわからんけど、こちらの言葉

でままとか動物の名前やなんかの、単語話すようになってきてはいたんだ。

おっと、いかんいかん。

この期を逃したらまた暗闇が続いちまう。


【きこえるか~い?】


 優しい声をだしているつもりだが、どう届いているのか。

このくらいなら、理解できると思うんだが。


「ん、おこ?」


おこ? ・・・・どこってことか! 姿が見えないからわからないって言って

んのか。

おお、やっぱ俺と話してるって事でよさそうだ。


【あのね~いま~ないないしてるからみえないんだよ~】


通じてるだろうか。

反応が無いのが怖い。


【あのね~】

「ん」


良かった。

まだ通じてた。


【おれはエイジっていうんだ~、おなまえおしえてくれる~?】

「えいじ?」

【そうだよ~】


栄市じゃあ発音難しいかと思って、二度目の人生だし名前をエイジにすること

にした。


【きみのおなまえは~?】

「アル」


 おお!

アルって言うのか、我が宿主は。


【アルはおとこのこ~? それともおんなのこ~?】

「○△◆」


やばい。

何言ってるかわからん。

どどどどどうする?

まさか、どっちでも無いなんてことは・・・・。


「わーん!」


なぜ泣く?

何か今の流れで、心の琴線に触れる事でもあったのか?


【どうしたの~?】

「ままいない」


 ・・・・あーなるほど。

どうもまわりに誰も居なくて不安になって、それで俺の呼びかけに答えてくれた

ってとこか。

今のうちにお願いしなくては。


【あのね~アル~?】

「ん?」

【エイジみてもいいよっていってみて~、あっ、ゆっくりでいいからね~】

「え い じ み て い い よ?」


おお!!!!

これが感覚の同調か。

いつ以来の視覚情報だろうか。

こんなんなってたのか。

どうやら室内で、アルは床に座っているらしい。

確かに、見えてる範囲に人は居ないな。


【あと、きいてもいいよっていってみて~】

【き い て い い よ?】


さっきと同じにしたから、これで聴覚も同調してるはずだが、よくわからんな。


【アルはいくつ~?】


 アルは指を三本出している。

良かった。

視覚情報あって。

三歳か。

しかし、教え込まれたこちらの一般常識だと、年齢は数えでって事らしいから、

満年齢だとまだ二歳くらいって事か?

ん? 待てよ、生まれた時が一歳で次の年が二歳、そしてその次が三歳って事は

もしかしたら、まだ誕生日前だと満年齢で二歳未満って事もあるのか。

其のぐらいだと、少しは歩けるんだろうか。

この際、家の中の探検と行くか。


【ままさがしにいこうか~?】

「・・うん」


 力はないものの、ままに会いたいらしくお返事してくれた。

しかし、動かない。

なぜだ?


「ままぁー」


でかい声で叫んでいる。

探しに行くってのがわからないのか?


【アル~あるこう?】

「うん?」

【えーっとあんよわかる~?】

 

足を指さしている。

間違ってはいない。

大正解だ。

俺が悪かった。

どうすりゃいいんだこういう場合。

子育てや子守なんぞ、した事ないからわからない。

俺に出来る事俺に出来る事俺に出来る事。

おっそうだ、魔術。

確か、物を動かすのが使えたはず。

これまで、周りが見えなかったからどうにもならなかったが、見えてればこっち

のもんだ。

この落ちてるアルの靴下っぽいのを、


【アル~こっちいこ~】


動かして先導してみた。

なんか、犬猫じゃらしてるみたいだけど、今はこんなんでもいいだろう。

アルは一応興味を持ってくれたのか、靴下の向かう方向に歩き出した。


「ままぁー」


 アルがでかい声出しながら、ハイハイと歩きを併用して進んで行くと、

水場っぽいところで女の人が倒れていた。


「ままぁー わーん」


倒れてる女の人にかぶさって、アルが泣いている。

この人がお母さんなのか?

なんだ? この背中のは?

つーか、お腹が大きい。

妊娠してるのか!

それも、破水してんじゃねえのかこれ?

やばいやばいやばいやばい。

救急車なんて無いよな。

どうすんだ異世界では。


【アル!】


俺がこれまでと口調を変えたので、アルがびくっとなった。


【ままたすけないと】

「わーん」

【アル!】

「わーん」


二度目は通用しないらしい。

アルは母親にしがみついて離れない。

数えで三歳の子には助けを呼べっつっても理解できないか。

どうする? どうする? どうする? どうする?

もうこうなったら、無理やりにでも外に出て助けを呼ばないと。

そこにあった、洗濯ものを干す用なのかロープを操作して、洗濯かごみたいなの

に繋いでそこにアルを乗せる事にした。


【アルここ!】


 靴下で洗濯かごをぽんぽんして、なんとか乗らせようとした。


【アル!】

「やー」


母親の元を離れたがらない。

すると、母親が苦しそうにしながらアルに話しかけた。


「・・アル、お外でお隣のロマさん呼んで来て・・お願い」

「ままぁーわーん」

【アル! ままのおねがいしよう】

「・・・・うん」


 やっと乗ってくれた洗濯かごを、ロープでひっぱり動き出す。

玄関どこだ?

勝手口のようなドアを見つけて開けてみる。

ようやっと外に出れた。


【アル おおきいこえだして】

「ままぁー」


少しすると、40代くらいの女性が近づいてきた。


「アル、どうしたの? マージは?」

「ままぁーわーん」


アルを抱きかかえてやさしく聞いてくれてる。

俺が靴下を操作して、ドアを何度も叩いて中に誘導しようとした。


「・・・・あれアルがやってるの?」

「ままぁーわーん」


躊躇しながらも、なんとかアルをかかえたおばさんが、家の中に入ってきてく

れた。


「マージ? 居ないのー?」


尚も靴下で誘導すると、ようやく倒れてるのを見つけてくれた。


「マージ! 大変! 今すぐメルさん呼んでくるからね、もう少しだけ辛抱し

てね!」


 そういって、脱兎のごとく駆けだしたロマさん(たぶん)が、産婆さん

(おそらく)と共にこの家の人達(だと思う)を呼び集めてくれたらしく、

いきなり大人数が現れた。

アルはずっと泣きっぱなし。

俺は、どうやら限界だったらしく、誰が誰だか確認する間もなく意識を失って

しまった。


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