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第38話 前進 こうなったか

 傭兵ギルド一階のロビーで、突然話しかけられてびっくりした。

見たこと無い二人だけど、一体誰だろう? 僕の事知ってるみたいだけど。


【エイジ、誰? この人たち】

【知らん、『二本』に知り合いなんていないだろ】

【うん、そうなんだよね】


 『二本』というのは触角人種を指す呼称で、決して悪口では無い、ちなみに罵倒する場合は触角がある事から『虫ケラ』と呼ばれる。


「あの、どちら様ですか?」


 すると、さきほどと同じく男の方が答えてくる。


「昨日ダンジョン第4階層で、操魔術でこいつの後ろの魔物倒して助けてくれたろ? そのお礼をと思ってさ」


そう言って横にいる女性を指さした。


 エイジは心の中で舌打ちをする。

向こうからは見えないと思ってたのに、よりによって触角人種とは、こりゃ失敗したかな。

アルも思い至り、「ああ、あの時の」なんて普通に認めてしまっているので、もはやごまかしは効かない。

男の、「ちょっと話をしたいんだが」という申し出があり、打ち合わせスペースのテーブルを三人で囲んだ。


 見た目、男の方はアルよりは長身おそらく175㎝前後くらいで痩せ型、しかしひょろっとした感じでは無く引き締まった印象を与える。

女の方は、アルよりは低いが160㎝はある、こちらもスラッとした細い体つきをしている、二人ともにどこか品を感じさせる。

男の方が再度口を開き、「まずは自己紹介を」と言って話し出した。


「俺の名はセルフェスでこっちが妹のシャルフェス、ミガ国出身で旅をしている、最近このヨルグに来たんだ」

「これはご丁寧に、僕はアルベルトと言います。

この国の南の方にあるイセイ村というところの出身で、15歳の時に故郷を離れてこのヨルグに着いて二年になります」

「じゃあ17歳?」

「はい」

「俺も17歳だから敬語じゃ無くていいよ」

「あっ、そうなんだ、えーっと、妹さんはいくつなの?」

「同じ、俺たちは双子なんだ」

「へー、あんまり似て無いね」


 確かに、雰囲気とか居住まいがどことなく似ている気がするまた、顔も双方ともに整ってはいるが、それほど似ているといったほどでも無い。

セルフェスの方は、甘いマスクとでも言う感じのハンサムだが、シャルフェスの方は、どちらかというとキツメの顔立ちで男装したら似合いそうな感じ。

ただこのシャルフェスの方は、元の作りもどちらかというとそっち寄りではあったが、今は表情が険しいことによるのが原因だ。


 それともいうのも、兄があの『羽』を探そうと言った時に反対した、「あんな得体のしれないのにかかわるべきじゃ無い」というのは建前で、本音は恐ろしかった。

出来ればもう二度と会いたく無かったから。

兄が「『羽』の剣士は珍しい、傭兵ギルドへ行けば何か分かるかもしれない」と言ってここに来た時も、内心はびくびくしていて嫌だったのだ。

何の手がかりも無く有耶無耶にでもなればと期待したが、あっさりと会えてしまった、それが予想外に普通どころか害の無さそうな感じ。

おまけに丁寧な言葉遣いと何もかもが漠然と描いていた恐怖の対象としては、あまりにもかけ離れていて、自分はこんなのを恐れていたのかと憤り逆に攻撃的になっていた。

アルは何一つ悪く無い、なのでこれは完全にやり場の無い怒りを押し殺しているしかないと、必死に八つ当たりせずに我慢しているがゆえの表情であり、今の方がどちらかというとのんびり屋な彼女にしては、珍しい顔つきといえる。


「二年って、すっとダンジョンに?」

「うん、まあ、傭兵ギルドの依頼を受けない時は、一日おきに潜ってるよ」

「ずっとソロで?」

「うん」

「・・差支えなければ、理由を教えてもらえるか?」

「えっとね」


 そう言ってアルはこれまでの経緯を語り出した、ファライアード一家の一件からチカラを付けたくて鍛えている事をかいつまんで。

初対面の二人に対して、なぜこんなにも赤裸々にすべてを話しているのか、不思議に思わないでも無かったがなんとなく、直感的にこの二人は善良な気がして心を許せる心境になっていた。

セルフェスの相手を警戒させない話術のせいともいえるが、詐欺師だったら大変な事になってるところである。


「なるほどね、ところで、あの剣を使いながら二つ操ったのは、どういう技術なんだい?」

「んー、昔から出来たんで特別に技術とかは無いんだ、というか意識した事無いから上手く説明できないよ」

「そうなのかい? あんなのは初めて見たよ」

「その、出来れば口外しないでもらえると助かるんだけど」

「! やっぱりなんか秘密が?」

「そんなんじゃ無くて、あまり手の内を知られるってのは、気分のいいもんじゃ無いし、さっきも言った通り聞かれても説明できないから、面倒でさ」

「なるほどね、わかった、言わないよ」


 なんだか変った男だな、これだけの腕があればもっと猛々しい感じなのが普通だけど、妙に謙虚でどこか憎めなくてとても親しみやすい。

セルフェスは、初めて会ったアルに対して意外さと共に、その言動に嘘が感じられない事などから、好印象を受けている。

シャルフェスもまた、まあ悪い奴では無いらしいなという、負け惜しみのような変な感情で、アルの人となりを良い者として認識していた。


 三人は、全員同じ歳でお互いに好印象を受けたことで急速に接近し、互いをアル・セル・シャルと略称で呼び合うようになっていた。


「二人は旅してるって、何か目的地とかあるの?」

「いや、特に無いな」

「あのさ、実はパーティー組んでダンジョン行きたいんだけど、二人はどうかな? 僕と組んでくれない?」

「いいぜ、な? いいだろ?」

「まあ、セルがいいなら、あたしも別にいいよ」

「やったあー、じゃあさ、早速打ち合わせしようよ!」


 意気投合して僕達三人は明日から、とりあえずダンジョン内で行き帰り一泊ずつ、到達したところの計三泊の予定で潜ってみる事に。

ダンジョンの中での連携の為に互いの戦闘スタイルを教え合う、僕が剣と操魔術を使うと告げると二人一緒に「「知ってる」」と言われてしまった。

兄のセルは両手に持つ短剣と操魔術で鉄球を飛ばすスタイル、他に封印術も使えるとの事、多彩でいいなー。

妹のシャルは精霊魔術、主に雷を使うが他に風も得意で操魔術も使えるらしい、こちらも魔術のみとはいえ出来る事は多い。


 野営の準備や食料の調達などを、誰がどうするかなどの分担を決めたりで、いつしか昼の時間になり続きは食事をとりながらと言う事で、傭兵ギルドを後にした。

二人は店を良く知らないという事で、アルが案内する事になったが、実はアルも良く知らない。

朝と夕はリンドス亭だし、休息日にあてている日の昼食はもっぱら屋台や露店で食べており、ヨルグに来て結構経つのにほとんど店で食事をしたことがなかったのだ。

とりあえず、目に着いた食事処へ入ると、空いている席があったのでそこで昼食をとる事に。


 その店の客の中に、一人で食事している若い女性がいた。

すると、セルが素早くその人のテーブルに移動して、なにやら話しかけている。

一方妹のシャルはというと、特に気にした様子も無くメニューをながめている。


「あの人知り合いかなんかなの?」

「あー違うと思うわよ、あれはセルに言わせれば『礼儀』だそうよ」

「?」


 しばらくしたら僕らの席に戻ってきて、何食わぬ顔でメニューを見ている。

何か聞いちゃいけない気がして、僕もそのままでいたが、どうも気になったんでエイジに聞いてみた。


【さっきのセルのなんだったの?】

【口説いてたんだろ、たぶん】

【? 初対面でいきなり?】

【世の中色んなやつがいるってこったな、若い女が一人でいる時には、声を掛けなきゃ失礼だって考えてるんだろうよ】

【失礼? いきなり声かける方が失礼じゃないの?】

【そこは考え方の違いだな、声掛けられたく無きゃ一人で店になんか入らない、ということは一人で店にいる女は皆男の誘いを待っている、そう解釈してるんだろうな】

【えー、信じらんない】

【無理強いしてるならもとかく、声かけてるだけなら相手もそれほど不快ってわけでも無いだろう、中にはそういう考えの女もいるだろうしな】

【そんなもんかな】

【まあ、犯罪ってわけでも無いんだ、引き際弁わきまえてるみたいだし、ほっとけば?】

【そうだね、なんか同い歳とは思えないよ】


 表面上は特に何も無かったように、楽しく食事を終えた。

初回次第だが、一応このパーティーの目標は開かずの宝箱を目指すという事に決定。

最下層が第何階層かわからないんで、ダンジョン踏破は難しいんじゃないか、ここはわかりやすくすでにあるものを目標にしようという事になったのだ。


 宝箱の中身についても、後々揉めないように誰のものにするか、あらかじめ決めておくことにした。

武器の場合は、実際に使用してるのと同じ系統のものが出た場合、その人に所有権がある事にする。

具体的には剣だったらアル、ナイフ等の短いものはセル、そして杖だったらシャルのものとし、それ以外の場合は全員での話し合いで決める事とする。

金銀財宝の場合は、単純に山分け。

問題は、アイテムの場合、これは話し合いといっても決まらない事が多いので、ものが出てからだともめそうだという事で、今回はアルが長くここに挑戦しているので、優先的に手にする権利があるものとする事にした。

 

 諸々決定し今日の所は解散という事で、明日朝8時にダンジョン入口で待ち合わせすると約束して別れた。

明日の用意でまずは道具屋へ、これまで必要無かったので持ってなかった、自分の分の野営用の敷物と毛布を。

店主にダンジョンへ潜る旨伝えてアドバイスをもらうと、かさばるので普通は持って行かないとの事。

その手の荷物は、馬車で移動する場合などの、運搬が人の手に依らない手段がある環境でならともかく、徒歩で移動する時にはまず持ち歩かないらしい。

知らなかった、じゃあどうするのかと尋ねると、厚手のローブやマントなどで寝るらしい。

外と違ってダンジョンは屋根があるし雨風の心配はいらないので、テントなどは通常必要とせず、それくらいで充分だと言われた。

そこで、店主おすすめのフード付のローブを購入、背中の羽も圧迫しないゆったりしたものだ、これで睡眠は問題なし。


 三人の中で、アルは食料の担当になっているので、初日と最後は二食で途中三食を二日分これを人数分で、10食を三人分の計30食分を購入する事になる。

メニューはパンと干し肉のみ、ここは我慢してもらうしかない。

あまりにも変わり映えしないので、味に少しでも変化をつけようと、ジャムを数種類とはちみつを用意し、これでなんとか乗り切ろうという算段である。


 リンドス亭に戻り、「明日の朝からダンジョンへ行って、中で野営するので戻るのは四日後の夜中かその次の朝になります」と、ロナさんに伝える。

ロナさんは、「どうしたんですか? 急に」と少し驚いていたけど、「あまり無理せず、無事のお戻りを」と言ってくれた。

ナルちゃんにも伝えたが、知り合った男女二人組とパーティーを組んで三人でと伝えると、途端に質問攻めにされてしまう。


「その二人組ってどんな人たちなの?」

「同じ歳の『二本』の双子なんだ、昨日初めて見かけたんだけど、今日傭兵ギルドで声かけられてそれで一緒にって話になってね」

「双子? ってことは兄妹、じゃあ女の人と一緒にお泊りって事?」

「まあそうだけど三人だしお泊りったって、休息をとる為に交代で眠るだけだよ」

「その女の人は美人?」

「・・そうだね、たぶん一般的に綺麗って言われるんじゃないかな」

「明日は何時出発? わたしお見送りに行く」

「えっ? いいよそんなの」

「ダメ! 一度見・・じゃなくて心配だから」

「? これまでだって傭兵ギルドの依頼で何日か、下手したら一週間空けたことだってあるじゃない、心配ないよ」


とここでロナさんから、助け舟が。


「ナルール、あんまりアルさんに無理言わないの、ほらっ、こっち手伝ってちょうだい」

「・・はあい」


 渋々引き下がるナルちゃんは、どこか寂しそうに見える。

僕は食事を終えて角部屋のベッドで、明日の荷物の用意を整える。

なんか楽しみだなー、明日は何層までいけるかなー、そんな事を考えてたら眠気に襲われたので、明日に備えてと思い眠ってしまった。


◇◇◇◇◇◇


 あまりに楽しみで、早くに目が覚めてしまった。

呼ばれる前に、すべての準備を整えて食堂でスタンバイ。

珍しく早いので厨房からキアラウさんに、「おっ、気合い入ってんなー」と冷やかされてしまった。

いかんいかん、ここは焦ってへましない様にと思い、落ち着いて朝食をゆっくりと噛みしめながら食べる。

集合時間には少し早いが、気が急いているので早速出発する事に。


 リンドス亭を出ると、なぜか笑顔のナルちゃんが付いてくる。

こんな朝早くにおつかいって事も無いだろうから、これは間違いなく待ち合わせのダンジョン入口まで一緒にくる気だな。

まあ別にやましい事は何も無いので、かまわないんだが一応一言だけ言っておかねば。


「ナルちゃん、付いてくるのはいいけど、二人に変な事言わないでよ」

「えー、変な事なんて言った事ないよー」

「・・わかった、そういう態度なら戻ってロナさんに注意してもらう」

「あー、嘘嘘、大人しくしてるから」


 そんな事言い合いながら、ダンジョン入口に着いた。

待ち合わせの時間まではまだあったが、二人はすでに来ていたので小走りに近づく。

軽く挨拶を交わすと、早速セルが聞いてくる。


「この綺麗な御嬢さんは、アルの特別な人かい?」

「僕が泊まってる宿屋の娘さんでナルールさん、今朝は見送りに来てくれてね」

「リンドス亭のナルールと申します、アルさんがお世話になります」

「こちらこそ、私はセルフェスといいます、セルと呼んでください御嬢さん」

「・・まったく、初めまして、あたしはシャルフェスよ、シャルでいいわ、よろしくね」

「じゃあ行こうか? それじゃあね、ナルちゃん行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ、皆さん気を付けて元気に帰ってきてくださいね」

「うん」

「はい、お嬢さん」

「ええ、ありがとう」


 三人を見送ってナルールは、黙って出てきてしまったので、怒られないように急いでリンドス亭へ戻っていく。

小さく微笑みながら、上機嫌で早足で途中走ったりしながら。

挨拶しただけだが、シャルさんからはアルさんを特に意識してる感じは受けなかったし、アルさんもまた特別視してる様子は無かった。

確かに美人ではあったが、どことなくアルさんのタイプじゃない気がする。

これならばと、一安心しつつもシャルフェスが若干自分と似たタイプな気がして、少し気持ちに影が落ちた気がした。


 ダンジョンへ入ったが、セルはナルちゃんが気になるらしく、僕にどんな子なのかとか聞いてくる。


「アルとナルールさんは、付き合ってるってわけじゃ無いんだな?」

「うん、もう二年も同じ宿屋にいるから、なんというか妹みたいな感じかな」

「よし、ここ出てからの楽しみが出来たな」

「ナルちゃんは三つ下だから、まだ14歳だよ、お手柔らかにね」

「えっ? ・・・・」


なぜか絶句したセル、どういう事なのかとシャルに聞いてみた。


「ぷっ、セルのたった一つのルールなのよ、成人してない女の子には手を出さないってのがね」

「なるほど」


 僕は、もしマルちゃんと鉢合わせたらちゃんとセルに紹介できるだろうかと、まだ起きてもいない事に対して心がざわつきどうなるかと想いをはせていた。


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