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第32話 嘆息 ご愁傷様

 無事に模擬戦を終わらせて、ベイセナー先生に報告に向かう。

教員室へ行くと、すでにミルさんが来ていて報告を済ませているようだ、よくたどり着けたな。

そんな失礼? な事を考えていると、どうも考えを見透かされていたようで、ミルさんに話しかけられた。


「おぉアルも終わったのか、俺は生徒にここまで案内してもらって、さっき来たとこだ」

「お疲れ様でした、僕もなんとか終わりましたよ」


 そう言って、ベイセナー先生に特に問題無かった旨伝える、これにてお役御免となり後は帰るだけとなったわけだけど。

丁度そこに教材運びを手伝っていた生徒が目に入り、向こうも僕を見つけて驚きながらも声を掛けてきた。


「アルさん!? どうしたんですか?」

「マルちゃん久しぶりだね、今日は傭兵ギルドの仕事で模擬戦の相手に呼ばれたんだよ」

「そうなんですか、びっくりしましたよー」

「この間泊りに来たんだって? ナルちゃんから聞いたよ、その前も会えなかったから気になってたんだ」

「えっ、きっ気にってどうしてですか?」

「いや、まあその家族みたいなもんだから、会えないと寂しいかなって思ってさ」

「家族ですか・・、そうですよね」

「じゃあ僕はこれで帰るよ、またね」

「あっ、もう帰っちゃうんですか?」

「うん、もう依頼は終わったしね、また戻ってきた時にでも」

「はい、あの今度のお休みに帰りますから」

「そう、楽しみにしてるよ、それじゃあねバイバイ」

「はい、さようなら」


 久しぶりにマルちゃんにも会えて、休息日にはならなかったけど、いい一日だったなーと、そんな事を思いながら、ミルさんと一緒に夕暮れのヨルグの街を歩いて行く。


 そんなのほほんとした感想なアルとは違って、エイジはある意味危機感を感じ、またある意味やきもきした思いで考えている。


 どう見てもマルールはアルに気があると思うんだが、アルはなぜか手を出そうとしないな。

ナルールにからかわれるのには辟易してるけど、マルールに対してはアルも憎からず思っているというか、はっきり好意を持ってると思うんだが、一体何が引っかかってアクション起こさないんだろうか。

他に気になっている娘がいるとも思えないし、リンドス家に気兼ねでもしてるんだろうか、自然に任せた方がいいと何も口出ししないでいたけど、なんだかじれったいな。

ただ、俺もこの世界の倫理観とか、いまいちよくわかんないんだよな、死別以外で夫婦が別れたの見たこと無いし、お腹が大きくなってから結婚ってのも見たこと無いし。

成人が15歳で早いから、結婚も早いってのはわかってるんだけど、それ以外がどうもよくわかんないんだよなー。

こういうのは、知識っつっても頭に入ってないかんなー、頭無いけど。あんま俺の感覚で言うのもやばいかー。


 そんな風にエイジに思われているとは知らないアルは、傭兵ギルドに報告しに行くというミルケルスと別れ、報酬は明日にでも顔を出して受け取るとして、『嵐』を受け取りに鍛冶師のベルモンドの元へ訪れた。


「ベルモンドさーん、できてますかー」

「ああ、できているぞ」

「ありがとうございます」


『嵐』を手に取りひとしきり眺めて、鯉口の割れた鞘へしまう。

半日さげて無いだけでも、ここまで一心同体とでもいうべき時間過ごしてきた相棒が無いと、心細いとまでは言わないがなにか物足りなさを感じていたので、

まさに元のさやに納まってほっとした気分がする。

代金を支払って帰ろうとするアルにベルモンドが話しかけた。


「アル、その剣はかなり長く使っているんだろう?」

「はい、そうですね僕が9歳の頃からですから、かれこれ七年にもなりますよ」

「そうか、それでだろうが・・刃がそろそろ限界が近い」

「えっ?」

「刀身自体はしっかりしてるが、剣先と刃は研がなければ切れ味が落ち、研げばすり減り薄くなっていく、この剣はそろそろ厳しくなっている」

「・・・・」

「そうそう折れる事は無いと思うが、刃が欠けるのは覚悟しておいた方がいい、これはどんなに手入れしていても、長く使っていればしょうがない事だ」

「・・新しいものに変えないといけないって事ですか?」

「それは、持ち主のアルが決める事だ、武器を振るう場面というのは、命がかかっている状況だろうから、万全の状態のものを使うのが望ましい、まあ俺が言うまでも無くわかってると思うがな」

「・・考えてみます」

「そうするといい」


晴れやかな気分に、暗雲が立ち込めたようなどんよりとした気持ちで、リンドス亭にたどり着いた。

部屋で家族への手紙を書いて、しばしベッドで考え事をしながらまどろむ。

エイジと『嵐』について少し話し合った。


【寿命じゃしょうがないだろ、丁度いいからあの剣使うか? 今日使ってみてどうだった?】

【今日のは実戦じゃないからなんともいえないけど、やっぱり軽すぎるのが気になるかな】

【まあ、片手剣だからな両手で使うのは、ちょっと不具合はでるか】

【・・このままって訳にいかないなら、やっぱり新しく作ってもらうよ】

【うーん、『嵐』を作った時に比べて、アルも体格も良くなってるし力も強くなってるから、形状は今の状態に合わせて再考する必要があるか】

【そうだね、早速明日にでもベルモンドさんのところへ行って、頼んでみるよ】


 夕食時、マルちゃんに会ったなんていうと、またなに言われるかわからないので、今日は散歩してたとだけ言って楽しい夕食を平和に終えた。


◇◇◇◇◇◇


 翌日、朝食を済ませて早速ベルモンドさんのところへ。

ちょっと早すぎたようで、ベルモンドさんも苦笑いしている。

なんだか気持ちが逸っていて、すぐにでも伝えたかったんで、ちょっと焦ってしまった。


「あのベルモンドさん、僕に新しく剣を打ってもらえませんか?」

「ああ、決断したんだな、勿論引き受けさせてもらう、どんなのにするんだ?」

「基本はこの剣と同じで、刀身を少し長くして柄頭を鉄製に変更して欲しいんです」

「・・わかった、形状は散々見てるから大丈夫だ、ただそれなりに日数はかかるぞ?」

「どのくらいでしょうか」

「そうだな、他の仕事もあるんでかかりきりという訳にもいかないが、納得いくものを作りたいんでな・・一月といったところか」

「一カ月・・・・わかりました、結構ですよろしくお願いします!」

「引き受けた、一月後を楽しみにしていてくれ」


固い握手でその場を後にした。


 僕は足取りも軽く、昨日の報酬を受け取りに、傭兵ギルドへ足を向けた。

到着し中に入ると、いきなり大きな声が聞こえる、片方はわからないが、もう片方は間違いなくキシンさんだ。

この状況はまずい、間違いなく面倒な事になる、そう判断しすぐに振り返り出て行こうとしたが、一歩遅く大きな声が響き渡る。


「アル、丁度いいとこに来た、ちょっとこっち来い!」


こうなるともうどうにもならない、無視するわけにもいかず、僕は心の中で盛大にため息をついて、観念した。


「おはようございます、キシンさん」


中に入り良く見ると、キシンさんとおそらくは20代とおぼしき有尾人種の男の人が向き合っている、というか揉めていたのか?

近寄っていき、なんで僕が呼ばれんたんだろうと思っていたら、キシンさんが話を始めた。


「さっきも言った通り、俺はこれから商隊の護衛で出なきゃならねえ、どうしてもってんならここに戻ってきた時に相手してやる、但しそれには条件がある。

そこにいるアルとそっちに貼ってあるヘイコルト商会の依頼を達成する事だ、それができなきゃ相手はしねえ、わかったらどけ!」

「なんだそりゃあ! 適当な事言って逃げようってのか? なんでそんな事しなきゃならねえんだ!」

「うるせえ! こっちはお前の勝手な都合を条件次第で聞いてやるっつってんだ、やらねえなら勝手にしろ! そのかわり話も無しだ! じゃあな!」


 そう言ってキシンさんはずんずん進んで、外に出て行ってしまった。

後に残ったのは、とても機嫌を傾けているさっきの男の人と、何が何だかわからないけど無理やり巻き込まれた僕。

やっぱりだ、やっぱり面倒な事になった、わかってるのになー、どうしてもこうなるんだなー、これはもうついて無いとかいう問題じゃないよなー。

なんて考えてたら、突然話しかけられた。


「おい」

「は?」

「お前キシンの何なんだ?」

「何と言われても、僕はただこのギルドに登録してる者で、キシンさんと何か関係ある訳じゃありません」

「じゃあなんでキシンはお前の名前を出したんだ?」

「僕が知りたいくらいですよ」


今度一度、キシンさんにはキッチリと話しをしよう、通じるかどうかはわからないけど。


「はあー、俺はジンビュームってんだ、ジンでいい、お前は?」

「あっ、僕はアルベルトと申します、僕もアルで結構ですよ」

「お前時間あるか?」

「はあ、まあ」

「悪いんだけどよ、俺と一緒にあそこの依頼やってくんねえか?」

「さっきキシンさんが言ってたやつですか? なんでこれやらないとならないんですか?」

「俺は強いやつと手合せしたくて、ここにキシンって強いやつがいるって聞いたんでな、模擬戦申し込んだらこれから出かけるからダメだってぬかしやがってな」

「はあ」

「それで勝負は自分が戻ってからならしてやる、但しこの依頼をお前とやったらって、さっき聞いた通りって訳だ」

「はー、僕完全に巻き込まれただけじゃないですか」

「すまねえな、お前には迷惑かけるよ、でもこのままじゃ腹の虫がおさまらねえ、なんとかやってもらえねえだろうか」

「とりあえず、依頼の中身を確認してからにしませんか」


 そう言って依頼の張り紙に目を向ける。

ヘイコルト商会からの依頼、ギースノさんの実家だ。

内容は、商品の仕入れで品物は、魔物の部位『リハーブル』の角と『マッドベア』の肝って、聞いたこと無いな。


【ねえ、エイジ】

【ん?】

【『リハーブル』と『マッドベア』って強いの?】

【そうだな、一般的な尺度でいけばかなりな強敵だな】

【しゃくど?】

【ああ、えーっと、物事の評価をする基準みたいな事】

【ふーん、強敵って具体的にどのくらい?】

【どのくらいってのは表現しにくいけど、例えば両方とも『嵐』だけではおそらく倒せない】

【そうなの!? じゃあどうやって倒すの?】

【一般的には操魔術、だから俺の操魔術だったら楽勝】

【えー、じゃあ僕出番無し?】

【後で弱点とか教えてやっから、工夫してなんとかしてみ?】

【ちぇー、でもそんなに強いんじゃ僕受けられないんじゃないかな?】

【かもな、依頼書よく見てみ】


 改めて依頼書を見ると、やっぱり5級からになってる、僕が6級だから受けらんないや、ジンさんにそう話すと、「俺が5級だから大丈夫だ」との事。

キシンさん、わかってふったっぽいな、しかし僕は昨日まで8級だったってのに、なんでこう高い難度の依頼やらせようとするんだろうか。

エイジに聞いたら、あの二種類の魔物の生息地域ってミガ国らしい、隣の国だけど山まで行くとしたら結構かかりそうだな。

というか気になる項目があるんだが。


「あのジンさん」

「なんだ?」

「僕この魔物、二つとも狩った事ないんですけど、ジンさんはありますか?」

「ああ、俺はもっぱら囮やけん制役だったけど、一度討伐のパーティーに参加した事がある」

「この依頼、5級以上が必須になってるのはいいとして、ここの推奨の所に5人パーティー以上ってなってるんですけど、もしかしてこれ二人だけでやる気ですか?」

「・・俺はヨルグに来たのは初めてで、知り合いはいない、お前の方で誰かいるなら3人までは構わねえぜ」

「知り合いが2人いるんで、じゃあその2人と一緒って事でいいですかね?」

「ああ、構わねえ、出発どうする?」

「僕は一旦宿屋でその2人に都合を聞いてきます、大丈夫そうなら連れてきますし、ダメでもまたここに来ますから、出られるように用意しといてもらえますか?」

「わかった、じゃあ揃い次第出発しよう」

「はい、じゃあ後で」


そう言って、僕は傭兵ギルドを出てリンドス亭へ戻った。

ディネリアとソニヤはと・・いた! まだ早いからなんとか二人がダンジョン行く前に間に合ったみたいだ。


「ちょっといいかな」


 僕は傭兵ギルドでの話をして、ジンさんという人と一緒だがこの依頼受けないかと誘ってみた。

二人は、傭兵ギルドの依頼はあんまりやってないんで、等級が上がってないから報酬が低いものしか単独では受けられない。

今回は、ジンさんが5級だから問題無いので、高い報酬の依頼を受ける事が出来るとあって、快く承諾してくれた。

そういう訳で、僕らは三人で連れだって、ジンさんが待つ傭兵ギルドへ、勿論ロナさんには傭兵ギルドの依頼で何日か留守にする旨伝えた上で。


 傭兵ギルドでアルを待つジンビュームは、内心溜息を吐きつつ少し短慮が過ぎたかと、さきほどのやり取りとこれからの事を考えて、憂鬱な気分になっていた。

さっきは勢いで話を進めてしまったが、あのアルという男、あれはダメだな。

剣を使うようだが、鞘が割れていた、別に鞘が割れていても剣がなんともなければ、なんの問題も無いんだが、多くの強者と呼ばれる者たちを見てきた俺に言わせれば、あーいう武器や道具の扱いや手入れのいきとどいて無いやつは、総じて腕の方も大したこと無い。

キシンと勝負するためとはいえ、あんなのと命のかかる現場に行くなんざ、俺もヤキがまわったか、おかしな事にならない内にやめたって事にしておいた方がいいんじゃないだろうか。

そんな事を考えていたら、アルがもう戻ってきてしまった、女を二人連れて。

やっぱりだ、こいつはダメだ、物見遊山でも行くつもりか、魔物を狩るってわかってんのか? 魔物はでかいし固い、特に今回の獲物は女じゃパワー不足だ。

やっぱりやめるって言おう、怪我とかしてもつまらないからな、キシンとの勝負は惜しいけど、命にゃ変えられない。

ところが、こちらに近づいてくるなり、背の高い方の女が話しかけてきた。


「あなたがジンさんですか? アルさんに誘っていただいて今回同行させてもらうディネリアといいます、こちらは「ソニヤでーす」なんとか足を引っ張らないようにしますので、よろしくお願いします「しまーす」」


と言われてしまい、断りづらくなってしまった、なんで三人ともそんなに笑顔なんだ? 遊びに行くんじゃないんだぞ。

・・・・はあ、こうなったらしょうがない、覚悟を決めるしかないか。


「ああ、よろしく頼む」


こうして、不本意な気持ちの男二人と、とても上機嫌な女二人の四人パーティーは、傭兵ギルドを後にした。


◇◇◇◇◇◇


 城塞都市ヨルグの正門と呼ばれる北側の門。

ここに、イァイ国とミガ国との正式な国境を通る為の、三か所の内の一つの検問所がある。

ここの検問所は二つあり、一つは徒歩で渡る人用で、もう一つは馬車が通れる大きな道幅に備えられたもの。

僕達は、徒歩で渡る用の所でカードを見せて、簡単なチェックの後四人とも無事に通過した。


 ミガ国側の国境都市であるドゥノーエルは、ヨルグとほぼ変わらない規模を持つ大きな街だ。

今度時間があれば、散歩の足を伸ばしてこっちに来るのもいいかもしれない。

ただ、今日は目的地もあるので、ここは素通りで一路北側を目指す、人数もいるし少し遠い事もあり、馬車屋で馬車を借りて行く事にした。


 北側の門を抜け、二つ先の村で一泊し今後の予定を確認する為の、ミーティングを行う。

目的の魔物が生息しているのは、ここからさらに二つ村を越した先にある、サイライムス村を麓に持つコーリン山の山中になる。

明日は、このまま馬車でサイライムス村まで一気に行って、その日は一泊して翌日に徒歩で山に入る事になる。


そして今夜のミーティングの議題は、依頼対象の魔物に対する、傾向と対策について。


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