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第31話 休息 これでいいのかね

「アルさーん、朝でーすよー」


 ナルちゃんの声で目が覚めた、ちょっと歩き疲れかな、寝るのが遅かったからかも。

ドアを開けて朝の挨拶。


「おはよう、ナルちゃん、ちょっと寝過ごしちゃったよ」

「おはよう、お疲れみたいだね、朝ごはんできてるよ」

「ありがとう」


装備を整えて下に降りた、ディネリアとソニヤに軽く挨拶して、二人と一緒に今朝は空いてるのでナルちゃんも一緒のテーブルで朝食をとった。

もう一年もいるからか、ナルちゃんも接し方が家族みたいで、こういうのも懐かしくていいななんて考えてしまう。


「でね、一昨日は久しぶりにお姉ちゃんが、

昨日が休みだからってお泊りにきたんだよ」

「へー、僕も久しぶりに会いたかったな」

「うん、お姉ちゃんも残念がってたよ、それでね、

お母さんとお姉ちゃんと三人でお風呂に行ったの」

「ふーん」

「お姉ちゃんねー、まーた胸おっきくなってたよ」

「! ・・・・へー」


食べてるもの吹き出すかと思った、無言なのも変だしかといって、良かったねってのもなんだかよくわからないし、そんな事言われても返答に困る。

ディネリアとソニヤは二人ともニヤニヤしている、僕を助ける気はないようだ、覚えてろよ、良かったここにマルちゃんいなくて。


「ねえ、お姉ちゃんといつ結婚するの?」

「なんでそんな話になってるの? お付き合いもして無いし、

結婚する予定なんて無いよ」

「えー、じゃあさーお姉ちゃんが誰かのお嫁さんになっちゃってもいいの?」

「それはだって、幸せならいいんじゃないかな」

「お姉ちゃん可哀そー、アルさんって冷たいなー」

「そんなにいじめないでよ」

「じゃあさ、私がおっきくなったらお嫁さんにしてね、

頑張っておっきくするからね」

「(いいよともダメとも言えないし、ましてやどこが? なんて絶対に聞けないし)えーっとそろそろ出かけないと」

「あー、ずるーい」


逃げるようにリンドス亭を後にして、傭兵ギルドへ急いだ。


 傭兵ギルドには、いつものようにあの人の声が響いていた。


「おうっ! 来たか」

「おはようございます、キシンさん」

「どうだ? ちったあスッキリしたかよ?」

「はい、まあなんとか」

「よし、じゃあ二階へ行くか」


この間と同じ二階の打ち合わせスペースで、今回の報酬を渡された。


「ほれ、約束通り大金貨10枚だ!」

「確かに」

「帰りに受付でカード更新しておけよ」

「えっ? なんでですか?」

「今回の依頼で等級上がってるからな」

「・・僕まだ7級までは結構足りなかったと思うんですが」

「今日からお前は6級だ!」

「!? なっなんでいきなり二つも上がったんですか?」

「お前の腕で8級ってのが低すぎなんだよ、そんなんじゃ上の方の依頼受けらんねえじゃねえか!」

「受けらんねえって、そんなこと言われても」

「早いとこ俺様くらいになって、楽させろや!」

「そんな無茶な」


 一階に降りて、受付の人にカードを渡して手続きしてもらったら、本当に6級に上がっている。

休みの日にちょこちょこやるには、等級上がると日数かかる依頼多くて、受けづらいんだよなー。

でもまあ、下げてくれともいえないし、五年も猶予があればなんとかなるかな。


 城塞都市ヨルグの西側に立ち並ぶ、武器屋や防具屋などを見ながら、鍛冶師の元へ訪れた。

ここは、普段は自分で手入れしている『嵐』を、定期的に整備してもらっているところだ。

いつものように、工房を覗いて声を掛ける。


「ベルモンドさーん、いらっしゃいますかー」

「ん? アルか、ちょっと待ってろ」

「はい」


鍛冶仕事は、ついつい見入ってしまう、やりたいわけでも、目指しているわけでも無いけど、見ていると引き込まれて最後まで見てしまう事が多い。

熱した鉄を己の技量で形にしていく、なにかを生み出すってところに、心をひかれる。

汗をぬぐいながら、一段落したベルモンドさんがこちらに話しかけてきた。


「剣の整備か?」

「はい、お願いできますか」


そう言って、僕は『嵐』を差し出した、寡黙でいかにも職人って感じのベルモンドさんとも、もう一年ほどの付き合いになる。

手に取ってしばらく眺めた後、「なんか固いものでも相手にしたか?」と聞かれたので、「斧と槍を」と答えるとだからかと言って、作業場に腰を下ろして「少し歪みがでてる」ということで、夕方まで預ける事になった。

ついでといってはなんだが、割れてしまった鞘もお願いしたが、こちらは日数かかるという事で、とりあえずは今のを革ひもで縛って間に合わせる事に。


丸腰では不安なので一旦リンドス亭に戻り、征龍剣を代剣としてさげるがどうも慣れない。


 特にやることも無く、いつも覗く定番コースも一通り見てしまい、あてどもなく歩いて行く。

ふと、これまであまり足を踏み入れて無かった、東側へ足が向いた。

こちら側は一般的にいうところの、お堅いエリアで立ち並ぶのは、警ら隊の詰所、兵士の宿舎、裁定所、役場等といったもので、役場だけは馴染みがあり、人の出入りもそれなりに多いが、それだけに東側でも一番中央寄りに建っている。


 つまり、そこよりも奥へはそこが仕事場で無い限り、立ちいる者はあまり喜ばしい状況ではありえないという事になる、ただ一か所を除いては。

其の唯一の建物が、訓練学校である。

訓練学校は、一般的なコースは兵士コースと文官コースの二種類あり、13歳で入学し共通のカリキュラムを二年間学んでそれぞれの道に進む。

その後に、二年間の専門コースが設けられており、15歳から学ぶことができる、13歳で入学して四年間学ぶ者もいれば、15歳から入学し二年間だけ、専門的な勉強をする者がいる。

マルちゃんは、今年15歳になった時に入学試験を受けて、この二年間のコースで学んでいるのである。

ここに足が向いたのは、今朝ナルちゃんから話をされたからかもしれない、決して間違いなく本当の絶対に、どのくらいかを確かめに来たわけでは無いのである。


 まあただ、ここに来たからといって会えるわけでは無い。

確か、学生に対する面会は身内の者のみで、しかも事前に申し込んだうえでないと認められないと聞いたことがある。

なので、初めて来たので珍しかったが、敷地の周りを一回りしたら帰ろうと、何の気無しに歩いていると後ろから声を掛けられた。


「もし、突然すいません、あなたは学校関係者ですか?」


振り向いて見るとその男の人は、僕よりも年上で槍を装備していて、どことなく傭兵のようなと思ったら、昨日まで一緒だったミルケルスさんだった。


「ミルケルスさん、えっと昨日振りですね、アルベルトです」

「おぉ、お前か、どうしたんだこんなとこで?」

「今日は休息日にあてようと思いまして、来たこと無いんでこの辺散歩してたんですよ、ミルケルスさんはどうしたんですか?」

「ミルでいい、俺は依頼でこの学校の兵士コースの模擬戦の相手にきたんだ」

「そうなんですか、あっ僕の事もアルで結構です、それでなんで裏手へ?」

「いや、俺もこの辺来たこと無くてな、入口探してたんだ」

「ああ、さっき見ましたよ、なんなら一緒に行きましょうか?」

「そうしてくれると助かる、どうも苦手でな」


 ミルさんは、方向音痴らしく玄関がわからずに困ってたらしい、なんでももう一人とくるはずが、体調不良で一人になってしまったそうだ。

そんな事を話しながら、一緒に歩いて学校のおそらくは玄関だろう、校門のところに着いた、なぜか馬車が停まっている。


「じゃあミルさん、僕はこれで」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、そうだ! アルも一緒に行かないか? 元々二人で行く予定だったんだし」

「・・・・もしかして、校内で迷いそうだからとかじゃないですよね?」

「・・どうもこの、自然の地形とかは得意なんだが、区画整理された地域とか、広い建物の内部とかはあまり自信無くて」

「まあ特にやることも無いんで、僕で良ければおつきあいしますよ」

「そうか! いやぁありがたい、勿論報酬はちゃんと折半するから」

「そういえば、模擬戦の相手ってやった事無いんですけど?」


 今回の依頼は、兵士コースの中でも15歳からの専門コースの模擬戦の相手で、生徒は30名×5クラス分合計150名いるらしい。

と言っても、何も二人で全員相手にするわけでは無い。

どうやらいつも頼んでいるOBの兵士たちが、野外訓練で不在の為足りない分の補充という事なので、一人一クラスずつを担当するらしく、30名との模擬戦となる。

とりあえずは、生徒の攻撃を受けてその上で圧倒し、その後注意点を指導して終了という流れだそうだ。

年齢同じくらいだな、生徒の中でも強い子もいるんじゃなかろうか、其の辺りを聞いてみると、それほどのはいないだろうから問題無いとの事。


 来客用の入口から建物の中に入り、事務室にいた事務員さんに傭兵ギルドから来た旨伝えると、すぐに学長室に案内され通された。

ミルさんが、中にいた二人に挨拶をする。


「傭兵ギルドから参りましたミルケルスと申します、こちらはアルベルトです、本日はよろしくお願いいたします」

「初めまして、私はが学長を務めますテクジルと申します、本日はありがとうございます、詳しい事はベイセナー先生からお聞きください」


それだけ言うと、学長は外出しなければならないようで、後を残された先生に任せて席を立ち部屋を出ていった。

あっけにとられていると、苦笑しながら先生が挨拶してくれた。


「すいません、慌ただしくて、なんでも学校関係者の集まりに遅れそうで、馬車を待たせているようでして、私が兵士コースの主任教師を務めておりますベイセナーと申します、今日は急な依頼にもかかわらず足を運んでいただきありがとうございます」

「よろしくお願いします、それで詳しい授業内容を聞きたいのですが」

「はい、この後御一人一クラスずつ受け持っていただき、90分間で30名の生徒と模擬戦をしていただきます。

実際に攻撃を当てなければ武器は何を使っていただいても構いません、一人ずつ個別に問題点を指摘し指導していただきたいのです。

ミルケルスさんが1組、アルベルトさんが2組を担当してください。

私が最初は一緒に行って紹介しますので、その後はおまかせします。以上ですがなにかご不明な点等ございますか?」


僕は特に無かったんだけど、急にエイジが話しかけてきて、


【アル、もし操魔術の的になってる鎧があったら、壊しても大丈夫か聞いといて?】


と言ってきたので、ベイセナー先生に聞いてみたら、


「はあ、まあ結構へこんだりしてますんで、問題無いですが」


とちょっとあきれられてしまったようだ、というかエイジ何する気だろう。

ベイセナー先生に連れられて、まずは1組へ、中でミルケルスさんが紹介されてる間、僕は廊下で待っていた。

1組は室内の訓練場を使うという事で、皆で移動してた、ミルケルスさんは講師ながら生徒の後ろから付いて行ってる、頑張れ。

そして、2組で僕が紹介された、やっぱり同年代なので、懐疑的なまなざしもちらほらと見受けられる。

僕達は、外の訓練場でということで、移動開始、ベイセナー先生はここまでという事で、ここからは僕が生徒を預かる。


 訓練場は結構な広さがあり、兵士コースというだけあって集団戦ができるぐらいはありそうだ。

操魔術の的用に、武器屋と同じく杭が打たれていて、それに金属鎧がかぶせられているのが、五つほどん並んでいる。

反対側にもやはり五つほど同じものがあり、こちらは焼け焦げなどが見られることから、精霊魔術の練習台になっていると思われる。

僕は外に出て、改めて自己紹介をし授業を開始した。


「さきほども言いましたけど、僕は今回君たちの相手をするアルベルトといいます、早速ですがこれより模擬戦をはじめます、では学籍番号の早い順番にかかってきてください」


 代剣にしてる、征龍剣を抜き放ち構える。

『嵐』と比べると、刃が広く薄いのでどうにも違和感を覚える。


 生徒はほとんどが槍使いで、操魔術を併用してくる、ある意味教科書通りというか、面白味が無いというか。

剣を使う者も、斧を使う者も一人もいない、これが30名しかいないからたまたまなのか、他もそうなのかまではわからないけど。

たまに、精霊魔術を使う子がいて、おっと思うけれどそのぐらいで、誰もかれもが同じに思えて個性が無いように見える。

それはエイジも感じているようで、


【なんだか張り合いねーなー】

【うん、やる気が無い訳じゃないと思うけど、なんていうかな覇気が無いって感じするよ】

【大体こういう時は、生意気なのが突っかかってくるって、相場が決まってるんだけどな、其の為にガツンと見せてやろうと思ったけど、やる気無くすぜ】

【ちょっと待って、もしかしてさっき聞いたのって、デモンストレーションでまた鎧ぶち抜くつもりだったの?】

【そうでもしないと、大人しくならないくらいの奴がいるかと思ったんだが、まるで拍子抜けだったな】


 そうはいっても、これは僕が楽しいかじゃ無く生徒の訓練なので、とりあえず一人ずつ問題と思われるところを指導していく。


「君は、一撃の突きの威力はありそうだけど、敵が必ず初撃で打ち取れるとは限らない、連撃を覚えた方がいい」

「はい」

「君は、せっかく長柄の武器をもっているんだから、できるだけ相手との距離をとるように、あまり柄の前の方を持つばかりじゃ無く、後ろの方を持った方がいいよ」

「はい」

「君の操魔術は鋭いけど、槍を構えているだけで動かさないんじゃ、相手がすぐに懐に入ってきてしまう、けん制でいいからもっと小刻みに突きを繰り出した方がいい」

「はい」

「君は精霊魔術が得意みたいだけど、操魔術は使えないの?」

「使えない事はありませんけど、威力が低いので」

「威力は二の次として、攻撃が単調にならないように、けん制としてでいいから操魔術を併用した方がいい、相手も警戒する対象が二つになる事で、集中力を乱す事があるからね」

「はい」

「君は、・・・・」


とこんな調子で30名と模擬戦をして、注意点を上げて指導していった、結構な重労働だこんな大変とは思わなかったよ。

何の問題も無く模擬戦は終了となった、突然の代役をこなせて僕はほっとしたが、エイジはなんか物足りないようで機嫌が悪い。


【こいつらが、ここ卒業したら国を守る兵士になるんだろ? こんなんじゃ有事の際に役に立つとは思えないんだけどな】

【どうなんだろうね、僕もこの年代がどのくらいできるのかが普通なのか、わかんないんだよね】

【国同士の戦いになれば、集団戦だろうから個の力はそれほどいらないかもしれんが、これでいいのかね】

【うーん、兵士といっても公務員だから、安定って意味で目指してる子が多いのかもね】


 これが平均的な兵士のスペックだとしたら、どうも不満よりも不安の方が大きくなるばかりである、アルとエイジは二人で同じ感想を抱いていた。


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