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第30話 帰路 なんでここにこんなもんが

 王女一行と別れた後、キシンさんたちはここにいる理由も無いからと、船ですぐゴナルコへ渡りヨルグへ戻るとの事。

僕は、「少し考える事があるので」とここで皆さんと別れた。

なにがどうと、言葉にするのは難しいが、なんだかもやもやしてスッキリしないのを、なんとか解消できないかと思って、初めて来たこの街を少し、散策などして気持ちを整理しようと思ったのだ。

 

 港町というのが初めてで、なんだか見るものすべて新鮮に映る。

ここが、生まれ育ったイァイ国ではなく、ラシー国という自分にとっての異国であるというのも、大きな要因かもしれない。

それが証拠に、道行く人たちの其の多くは、攻殻人種であった。

そうはいっても、向かいのゴナルコとの行き来が盛んなので、僕のような『羽』もそう珍しい存在という訳じゃないので、特に目立つようなことは無い。


 ぶらぶらと、通りを歩く、ここに来た時はすぐに裏道へ行ってしまい、ちゃんと歩いて無いので店を覗いて見たり。

ただ、やっぱり入り易くてついつい武器屋へ寄ってしまう、表の看板によると月に一度大安売りをしているらしい、が残念ながらそれは昨日だったようだ。

ここは、かなり大きな店舗で武器屋といっても防具も売っていて、品ぞろえも豊富だ、ラシー国だからか剣もそれなりにあって、興味をそそる。


 そういえばと、鞘を見る、動きの妨げにならないようにと、重さを考慮して鉄ごしらえでは無く木製だったので、あの時の戦闘で槍頭が直撃して、鯉口が割れてしまっていた。

さすがに、剣の長さや形状が違えば合うものがあるはずも無く、何の気無しに色々な剣を手に取り眺めていた。


 それは変わった剣だった、柄の形状と模様がなぜかふと目に留まり、鞘から引き抜いてみると見事な刀身をしている、なぜこんな安物の箱に入っているのか。

すると、それを見たエイジが急に話しかけてきた。


【アル、それ今すぐ買え!】

【どうしたの? エイジ】

【いいから、後これは盾と対になってるはずだから、店のやつに盾無いか聞いて、あったらそれも買うんだ】

【う、うんわかったよ】


僕はエイジの剣幕に押されて、その剣を持ってお店の人の所へ行き話しかけた。


「あの、これください」

「はい、ありがとうございます、・・これはあの箱から?」

「はい」

「? そうですか、では銀貨五枚になります」

「はい、それでこれ盾もあると思うんで、できれば一緒に買いたいんですが」

「少々お待ちください、えーっと盾があるとはどういう意味でしょうか?」


【エイジ?】

【剣の柄と同じ模様が、盾の取っ手についてるはずだ】


「あの、盾の取っ手に、この剣の柄と同じ模様があると思うんですが」

「えー、あっありました、こちらですかね、ご確認お願いします」


【どう?】

【間違いない! これで大丈夫だ】


「じゃあすいません、これもください」

「はい、これも銀貨五枚ですので、合計金貨一枚になります」


懐から金貨を一枚取り出し、店の人に渡した。


「じゃあこれで」

「はい確かに、毎度ありがとうございます、叉のご利用をお待ちしております」


 剣と盾を持って店を出た、なにがなんだかわからない、とりあえず開けた場所まで出て、盾を傍らに置いてエイジに話しかける。


【どういう事? 金貨一枚って結構な金額だよ、いきなりどうしたのさ】

【こんなもんが、あんな安値で売られてるなんておかしいけど、見つけたからには買わなきゃな】

【? これなんなの?】

【これは、征龍剣だ】

【せいりゅう剣って?】

【魔術も効かず、どんな物理攻撃をも通さないといわれる、龍の鱗を斬る事ができる数少ない武器の一つだ】

【そんな凄いの? なんで銀貨五枚で売ってんの?】

【俺にもわからん、店主が価値を知ってればこんな値段のはず無いし、仮に知らなくてもこの刀身を見れば、一目で安物じゃないって事ぐらい、武器屋やってればわかりそうなもんだが、なんでなんだかさっぱりだ】

【うん、それはわかる、僕も見た時見事だなーと思ったもん】


アルは、改めて買ったばかりの征龍剣を鞘から抜いてみた

刀身は約70㎝ほどで、『嵐』とほぼ同じくらい、片刃で鞘も若干長く形状は似通っているが、刃が薄く軽いそれに柄がまっすぐでは無く、なんだかごつごつとした形状で、鱗のような模様がある。


【やっぱり綺麗だけど、薄くて軽いよ】

【ああ、これは盾と併用するように作られた、片手剣だからな】

【これを片手? うーん、片手にしちゃちょっと重いなー】

【そうだな、これは種族としては『羽』にはあんまり適していない、『角』か『尻尾』あたりでないと扱いづらいだろうな】

【そっかー、せっかく買ったけど使い道無いかー】

【いや、そんな勿体無い、早速ベルト改造しようぜ】

【えっ? ちょっと待って、まさかこの剣と盾も装備させる気?】

【当然だろう、こんないいもん装備しないでどうすんだよ】

【いやいやいや、無理! これ以上重くしたら厳しすぎるよ、嵩張るしさー動きづらいよ】

【大丈夫だって! 普段盾は背中に回して、剣は・・・・剣も背中でいいか】

【だから無理だって! 背中は『角』あるからもう一杯だよ、それに羽が邪魔でうまく背負えないよ】

【うーん、どうすっかなー】

【もうあきらめようよー】

【うーん、でもなー、うーん】


 エイジは、装備というとなぜかいつも、謎のこだわりで一杯揃えようとする。

この特製ベルトも、それをなんとか形にしたらこうなったみたいなもんだ。

でも、いくらなんでもこれ以上は過剰だ、いくら強力な武器でも普段使わないんじゃ、かえって動きの妨げになって、逆に戦力ダウンだと思うんだけど。


 そんな事考えてたら、スッキリしたわけじゃないけど、無理やりながら気分転換はできたみたいで、頭の中がクリアになってきた気がする。

こうなると、特にここで何かするわけでもないので、そろそろ戻ろうかと船に乗るのに、港に向かって歩く。

すると、どうにも目立つので盾をしまう為に、大きな布の袋買ってその中にしまい、肩にかけて担いで運んだ、するとエイジに話しかけられた。


【そうだ! この盾で防具つくろう、で剣は『嵐』と交換ってことでどうだ?】

【やだよ、重いって、防具っていったってどうせ背中だったのが、前っ側になるだけでしょう? それに『嵐』の方が使いやすいよ】

【そうはいっても、これだけのもの使わないってのも】

【いいものなのはわかったけどさー、大体龍なんてこれまで見たこと無いけど、本当にいるの?】

【ああ、野良じゃいないからな、普通は一生見ないだろうな】

【? どういう意味?】

【龍とは王家を守る最強の盾であり鉾なんだ、この世に六体のみで各国の王家を守護している】

【なにそれ? 聞いたこと無いよ】


こんな重要な話、歩きながらする事かなーと思いつつ、誰にも聞かれないのでまあいいかと、勝手に納得して歩を進めていく。


【まあ極秘事項だからな、普通は王族の一部と王の側近くらいしか知らないよ】

【その龍を倒せるって事は、王家を滅ぼせるって事?】

【その可能性があるってだけだ、実際この剣は通常の武器じゃ歯が立たない龍の鱗を斬る事が出来る。

でもだからって、龍ってのはちっと斬られた位でくたばるほどやわじゃ無い、でかいし動くし攻撃も当然ごっつい、そんな中仕留めるには、相当な身ごなしと剣技が求められる、持ってるだけじゃどうしようもないよ】

【そんなの絶対勝てないんじゃ、あれ? でも盾は? これあれば攻撃防げるんじゃないの?】

【確かにその盾は龍の攻撃を防げる、具体的には龍のブレスを無効化し、龍の物理攻撃をシャットアウトする。

でもだからって龍の攻撃がこちらに通らないってわけじゃないんだ。

ブレスについては無効化できるけど、物理攻撃については微妙で仕組みとしては、龍の鱗に反応する斥力を発生させて、物理的にこちらに触れられないようにするって訳なんだが、これは攻撃の衝撃や重さまではどうにもならない。

仮に龍の尾で殴られたとして、直接尾が盾に触れる事は無いけど、その衝撃でこちらは吹き飛ばされるし、もし踏みつけられたら、同じようにして足が当たらなくても、その重さでぺしゃんこってわけだ】

【意味ないじゃんよー】

【意味はあるよ、ブレスは無効化できるって言ったろ? それに直接触れないってことは、少なくとも盾を貫通されることは無いんだ。

それこそキシンみたいな怪力の巨漢が持てばかなり使える代物だよ】

【やっぱ僕には使えないって事じゃんかー】

【うーむ】

【そんな遭遇しない龍相手のなんて、装備しないでいいよ、もう買っちゃったからしょうがないけどさー】

【まあじゃあ今後どうするか考えていこう】


こんなやり取りをして、今夜中にリンドス亭に着けるかなと思いながら、港でゴナルコ行きの船を待っていた。


◇◇◇◇◇◇


 港町ゴナルコ着。

来た時は夜で、翌朝直ぐに船に乗ってしまったので、あまり印象に無かったが、国が違うというのに近いからか、ネナと良く似ている。


 お腹が減ってきたので、街を巡って食事処を探す、初めて来たのと変わらないんで、どこに何があるのか全然わからない。

とりあえず、一番大きいであろう通りを歩いていると、魚料理のランチのお店を見つけたんで早速入店。

出てきたのは、おそらくは大きな魚を蒸して味付けしたであろうもので、身の部分だけ取り分けられているので原型がわからない。

おそるおそる口に運んでみたが、旨い! 身がふっくらとしていて味付けも色んなうま味がしてて、複雑で何のエキスとかなのかは全然わからなかったが、付け合せの野菜も含めて、楽しくおいしい食事を満喫できた。

今度来た時の為に、ちゃんとお店覚えておかないと、えーっと『サルギス軒』っていうのか。


 とっても満足して店を出たが、お値段もそれなりだったのは厳しかった。

歩きながらアレっと考える、馬車を借りれば夜までにはヨルグに着くけどお金がかかる、歩けば安上がりだけどかなり遅い時間になりそうだ。

ヨルグの傭兵ギルドへ行けば、今回の報酬が入るから多少お金かかっても大丈夫だけど、実際問題今手持ちが無い、この剣と盾買っちゃったからだ。

いつの間にか選択肢が無くなってたとは、仕方ない歩くかと覚悟を決めて、道中お腹が減った時用に、食糧を買っていざ出発とあいなった。


 歩いたことの無い街道といっても、一時間も歩けば風景もそれほど変わり映えせず、ひたすら進む以外やることがない。

そうなると、常としてエイジと魂話をすることになる、話題は今朝がた別れた王女さんの今後について。


【王女さんはこれから大丈夫かなー】

【道中はまあ問題ないだろ、いくらなんでもな】

【どういう意味?】

【アルは、あの護衛の男を変に思わなかったか?】

【変? うーん、特に何にも感じなかったけど】

【考えてみろよ、あの男は第三王女の護衛なのにもかかわらず、その護衛対象がさらわれたんだぜ、あいつの失態ってこったろ? 

それなのにいくら依頼人だからって、救出するメンバーに自分も入るって言い出さないのは不自然だよ、護衛に選ばれるくらいだから腕に覚えがあるんだろうしな】

【言われて見れば確かに・・】

【それが実際はただ待ってるだけ、ここから導き出される答えはさてなんだ?】

【・・・・もしかして、グルだったってこと?】

【だと思う、おそらくは王女の情報を流した勢力の手の者だろうな】

【じゃあ王女さんが危ないじゃない!】

【それはないだろう、あの男本人が手をくだす位ならこんな手の込んだ真似はしないだろう、だから帰りの道中に襲われるって事は無いと思う】


 なんだか、またやり切れない気持ちになってきた。


【なんで王女さんが、そんな目にあうんだろう】

【それはここにいる俺たちにはわからんよ】

【テロンに行けばわかるって事?】

【もしかしたらな、王家のお家騒動ってんならわからんけど、民衆が国家転覆を狙ってるっていうなら、少なくともその兆しというか理由位は、王都に行けばわかるかもな】

【それ王女さんは直接関係あるのかな、政治とかって王様がやってんでしょ?】

【だろうと思うけど、反対勢力からみれば、王族ってだけで敵って事だろう、実際今回だって王のというか国の意向で動いてたんだろうからさ】

【なんかなー、本人が悪く無いのにひどい目にあうってのがなー、どうもなー】

【そうくさるな、今回は無事に助けられたんだし、今後なんかあったら力になるって言ったんだろ? これ以上はどうにもならないよ】

【わかってるけどさー】

【あんま考え過ぎんなよ、人一人の手はそんなに大きく出来てない、出来る事を精いっぱいやるしかないんだからさ】

【うー】


こんな感じで魂話を重ね、夜遅くに約一週間ぶりに城塞都市ヨルグに戻ってきた。


◇◇◇◇◇◇


 リンドス亭に着き、アルは疲れた体をいつもの角部屋のベッドに横たえ、安らかな眠りについた。


 時は遡り、その日の昼前ラシー国ネナ港にある武器屋にて。


「あの剣と盾は、なんであそこの銀貨五枚均一の箱に入ってたんだい?」

「私にもよくわかりません」

「あの拵えといい刀身といい、実に見事なものだった、あんな値段なわけは無いんだが、そもそも初めて見たが本当にまとめて仕入れた中に入ってたんだろうか? お前の方で仕入れたわけでも無いのかい?」

「はい、私ではありません、あれだけの品でしたら、間違いなく旦那様に報告しております」

「そうすると、なんだったのか・・」


先ほどアルに売った剣と盾について、店主と従業員がどうも腑に落ちないといった様子で、話をしていた。

 

 そして、それからしばらく経った午後の事、同武器屋にて。


「ごめん」

「これはこれは、警ら隊の隊士様、どのようなご用件でしょうか?」

「あー、実はこのような形状の、剣と盾を捜している、ちょっとこれを見てもらえるか」


そういって、警ら隊の隊士が武器屋の店主に見せたのは、剣と盾の絵が描かれた紙、そしてそこに描かれているのは、アルに売った剣と盾だった。


「これは・・、確かにうちにありましたが、昼前に売れてしまいました」

「なんと! して買っていったのはどんなやつだったのだ」

「はい、まだ若いおそらくは10代と思われる『羽』の男性でした」

「『羽』か、するとゴナルコの者だろうか? 店主、その者について何か知らぬか?」

「あいすいません、容姿以外は特に何も知っている事はございません」

「そうか、いやすまなかった、もし見かけたら詰所に一報を頼む」

「はい、かしこまりました」


其の後しばらく、その品物について詳しく聞き取りが行われ、店主が解放されたのは一時間ほどしてからであった。


 警ら隊詰所、取り調べをする部屋では無く、かといって訴えて出てきたものの話を聞く部屋でも無く、お客様をもてなすための、隊長の部屋にある応接セットとでも呼ぶべきソファーで、その男は報告を聞きながら苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。


「申し訳ございません、例の武器屋へ行ってまいりましたが、すでに剣と盾は誰とも知れない客に、売れてしまったそうでございます」

「! 店の品でも無いものを売ってしまったというのですか、その武器屋は」

「はい、ただ店に売り物として出している品を、客が買うと言っている以上売らないわけにはいかないと、仕入れに関しても店主一人だけでやっているわけでは無いので、一概に自分の所の商品ではないとも言えず・・」

「もう結構です、それでその買っていった客というのは、誰だかわかっているのですか?」

「それが、一見の客だったようで若い『羽』の男性という以外は、何一つわかっておりません」

「とにかく、引き続き探してください、なんとしても盗まれた品を取り戻したいのです、見つかり次第すぐに連絡するように、わかりましたね!」

「はい、かしこまりました!」


再度、念を押した後男は、王都方面へ馬車を走らせ去っていった。


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