第2話 驚愕 呪いかなんかなの?
「異世界というのは、お主の今までいたところと大きく違い、魔物がいて魔術が
あるところじゃ」
・・・・このマイペース爺め。
死にたてほやほやで何もわからない状況で、何もかもがとっちらかってる俺の
疑問すべて棚上げで、自分の話したい事だけ話し始めやがった。
もうこの爺に対して敬う気持ちはまるで無くなったが、これからの生殺与奪と
いうか行く末を握られているので、表だって反抗するのはリスクが高すぎる。
これがもっと若い頃なら、怖いもの知らずに突っかかっていったところだろう
けど、さすがにもうそんな無鉄砲なことが出来る歳じゃない。
「お主もいきなり知らない世界で暮らしていくのは不安じゃろう。
そこで、特別にあらかじめいくつか能力を授けるとしよう」
おっ、中々いい展開。
よかった、失礼な事言わないで。
たまにはいい仕事するじゃないか、この爺さん。
◇◇◇◇◇◇
「まずは、魔物がおるので皆身を守る為に、武器を携帯しておる。
その武器を扱うのに有利な加護をやろう、なんの武器がよいかの?」
選ばせてもらえるのか、でも選ぶっつっても、
「たとえば、どんな武器があるんですか?」
どんなんがあるかわからないと、選びようが無いんだが。
「おお、すまんすまん、そうさな一般的には、剣・槍・斧・棍・槌そんなとこ
かの」
? 弓とか無いのか? つか棍とか槌って一般的か? よーわからんけどここは
王道の、
「それじゃ、その、剣でお願いできますか?」
これなら、間違いないだろう。
「あいわかった、それでは剣の加護を授けよう。
その中でも最も恩恵がある、剣聖という称号を授けようぞ。
これは、手にした剣の能力を十全に引き出し、様々な技がつかえるという、
滅多に持つ者がいない凄いものなのじゃぞ」
おお、なんか凄いのきた。
剣なんて持ったことも無いのに、いきなり達人クラスってことか。
「それと、魔術じゃな、これからいく世界に魔術は三種類ある。
元素を司る精霊魔術、物体を操る操魔術、能力を縛る封印術じゃ。
その中で、精霊魔術と封印術はお主とは相性が悪い。
それについては、後程説明するとしよう。
なので、操魔術を授ける。
そこそこ強力にしといたから、かなり使えるはずじゃ」
どんなんかよくわからんけど、強力だってんならまあいいか。
でも、なんで二つは相性悪いんだろうか?
さらに、爺の説明が続いていた。
「但し、使うに当たって注意が必要なのは、魔力で直接魔力には干渉できない
ということじゃ。
その世界では、人も魔物も生きている間は体に魔力をまとっている。
じゃから、直接人や魔物を操ろうとしてもできない、相手の魔力にはじかれて
しまうのじゃ。
さらに人の場合は、直接肌に触れている武器や防具や服などにも、微弱ながら
魔力が流れておる。
こちらの肉体と相手の肉体が接触すれば別じゃが、そうでなければ操作できない
からの。
使う場合は、其の辺りに気を付けてな」
・・よーわからん、実際に使ってみない事には、使い勝手が掴めないなこりゃ。
「最後に知識じゃ。
これから行く世界は、お主にわかりやすく説明すると、そうさな文化レベルは
それなりじゃが文明レベルは室町時代くらいといったところかの。
しかし、いくら文明レベルが低いとはいえ、常識や風習もこれまでとは異なる
中で、とまどいも多いじゃろう。
そこで、言語は勿論さまざまな固有名詞や一般常識などを、予め与えておこう。
これだけあればそう困る事は無いじゃろう」
なんか、至れり尽くせりで怖いくらいだ。
何か対価を要求されるんだろうか?
とはいっても、金は持って無いし命ももう無いしで、盗られるもの何も無いん
だけど。
◇◇◇◇◇◇
「最後に注意事項を話しておこうかの」
怒涛の展開に、口をさしはさむタイミングがつかめない。
どうせ何言ってもスルーなんだろうけど。
「これから行く世界にとって、お主はイレギュラーな存在じゃ。
そもそも、生まれいづる肉体と魂はちゃんと同数で決まっておる。
神とはいえ、因果を捻じ曲げるわけにはいかないのじゃ。
よって、お主は魂のみがこちらから送られることになるが、向こうで専用の
肉体は存在しないのじゃ」
・・・・待て。
なんだと?
「つまりは、これから生まれる赤ん坊の体に同居させてもらうという事じゃ。
当然、その子にもちゃんと魂は宿っておるから、一つの体に二つの魂が住まう事
になるの」
は!?
なんだそれ?
「あくまでもお主は付け足された存在じゃから、宿主の体を動かす命令権は
持たないんじゃ。
そして、専用の肉体が無いということは、これまでのような普通の活動は
出来ないということになる。
どういう事かというと、活動するにあたって時間制限が設けられるということ
なんじゃ。
魂の状態で宿るといっても実際には、宿主の脳に住まう事になる。
これにより、宿主は普通よりも多大な栄養を消費することになるのじゃ。
酵素とかグルコースとかそのへんじゃな。
なんせ二人分じゃからの。
宿主の体が成長し成人した時で、大体半日12時間ほどは無理すれば活動できる
ようになるであろう。
だが、子供の内はお主にまわす栄養分までは足りないじゃろうから、かなり短い
時間しか活動というか覚醒していられないであろうな。
それ以外の時間は、休眠している状態になる。
まあ眠っているようなもんじゃな」
・・・・これまでの事が吹っ飛ぶくらいの衝撃だ。
自分で言うのは嫌だが、これじゃまるで寄生虫じゃないか。
なんか悲しくなってきた。
「安心するがよい。
さっき授けた剣聖の称号は、ちゃんとその子の肉体で恩恵を得る事ができる」
んなこたあ考えてもいなかった。
心配してくれてんのかもだけど、このかゆいところに手が届かない感ぱねえ。
つーか、体が無いの知っててなんで武器の能力なんか授けたんだ?
「次に宿主との意思疎通についてじゃが」
まだあんのか。
いくつあんだよこのペナルティ。
「双方に会話するという意思を持った言葉だけが伝わる。
つまり、考えていることがダイレクトに、相手に伝わるわけでは無いという
ことじゃ。
相手の思考は読み取れないし、お主の考えも向こうにはわからない。
これまでのように、誰かと会話する感覚で言葉にしたことだけが宿主に伝わる
ようになるのじゃ。
むろん、お主には発声器官が無いから念じるのみだがな。
当然、頭の中での会話が出来るのは宿主とだけだぞよ。
但し、宿主の発した声はお主は聞くことができる。
たとえお主宛でなくても、声を出すという事は相手に伝える手段を用いている
ということになるので、それを聞くのは可能じゃ。
勿論、お主と同じく宿主も頭の中だけで会話することも可能である」
・・・・まあこれは本当に注意事項だったみたいだな。
直接考えが読み取れないのは不便な気がするが、逆にわかったところで俺がどう
する事も出来ないケースばっかりな気がする。
「最後に肉体の感覚についてじゃ」
最期か。
死ぬの初心者なんで、心の準備はずいぶん前からまるで出来てないが、
覚悟が出来てきた気がする、たぶん、おそらく、自信無いけど。
なんかもうマグロになった気分だ。
あきらめともいうけど。
「お主は肉体を持たないので、当然各種感覚器官もその制御下に無く、感じる
事はできない。
だが、宿主が了承すればそれが可能となるのじゃ。
これを、感覚の同調という。
先ほど説明した、宿主の声は聞こえるというのは聴覚で聞いている訳では無く、
発声という自分以外に伝える手段を用いているから、お主の魂が感じる事が
出来るということなのじゃ。
じゃが、感覚の同調がなされれば、周りの音を聞くことが出来るし、
他の視覚や嗅覚なども感じる事ができる。
後程説明すると言った魔術じゃが、精霊魔術は五感で大気に宿る精霊を感じ対話
する事で、その力を借り受ける事ができようになるのじゃ。
封印術は通常かける相手の額に手を置き、相手の感覚器官や魔力の波動を感じ
それを封ずるのが必要になる。
いずれも肉体を持たないお主では難しく、たとえ感覚の同調がなされた状態でも
常に感じている事が、術の精度や威力を向上させるので相性が悪いと言ったの
じゃ」
・・・・終わったか?
ようやく終わりか。
もうどうにでもしてくれ。
・・・・いやいや、自暴自棄になっちゃいかん。
ようやっとこっちのターンだ!!
聞きたいことはてんこ盛り、どのくらい時間かかるかわからんけど、
これからの事がかかってるんだ。
ヘタに妥協しないで納得できるまで根掘り葉掘り聞きまくってやる!
「さて、時間も無い事じゃしこれでお別れじゃ」
ちょっおおおっと待てーーーい!
いくらなんでもそりゃあねえだろう!!
そんな投げっぱなしジャーマンあるかー!!!
「ちょっと待って下さい。
確か、善行に報いるご褒美って話でしたよね?
それがなんでこんなに制限が多いんですか?
肉体が無いってどういうことですか?
そもそも、異世界に行きたいなんて一言も言ってないですよ。
せめて、元いた世界でお願いできませんか?」
もうなりふり構ってられない。
これまで生きてきて、一番の早口でまくしたてた。
もう死んでるけど。
爺はにこやかに手を振り
「じゃあ元気での」
とまたしても神スルーを炸裂させた。
そして、俺は憤る気持ちをなに一つ消化できずに意識を失った。
◇◇◇◇◇◇
静かになった空間で、数人が会話をはじめた。
「いっ○■の」
「☆て、▼手く◆□かど●か」
「一◇★険はか△ておい□●じゃがの」
「せ▲○、会★が□かれて無ければ、ちゃんと◆▽してやれたんじゃが」