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第28話 正体 これを乗り越えないと

 待機組。


「アルの話じゃ、まだ姫さんの姿は確認出来てない、こっそり指を使って教えてきたのによると、向こうの人数は20人つーことだ、後ヒルライトが怪我してるらしいな、こっちはアルがやったらしいから、そう心配いらねえだろう」


キシンの説明に、皆耳を傾けている


「どっちにしろ、姫さんの身柄を確保できない以上、まだ動けないんだ引き続き監視を続行する。

またシカゲに喰い物仕入れに来る可能性があるから、その時は再度接触するチャンスだ、入口見張るやつあすぐに知らせるように、以上だ」


各員持ち場に着く中、キシンはヴァンフィールと話しをしていた。


「20人ってのが確かなら、アルとヒルライトと姫さん抜けば、17人ってことだが元々の『銀狼』の数と比べて、どうだ? 間違いないか?」

「俺たちは。総勢20名だった、その情報が正確ならば一人足らんが問題無いだろう」

「抜けたとかならいいが、別の任務で外にいて、戻る可能性があるとかだと、ちとやっかいだがなんで問題無いんだ?」

「・・一人なんというか掴みどころの無い変わったやつがいる、今回の話し合いの時にも元々参加していなかったから戻らんだろう」

「抜けてるのか? 戻る可能性は?」

「おそらくは無いだろう、元々案件によって参加したりしなかったりで、固定メンバーでは無かったのでな」

「・・よくもそんな胡散臭いやつ仲間にしてたもんだ、そいつからアシがつくとか考えなかったのか?」

「これはそいつと約束しているんで明かせないが、俺だけはそいつの本名と立場を知っている、それが理由でその手の問題は無いし、今回もいないと予想できる」

「・・・・まあいい、アジトの通路ってのは広いのか? 戦うとして問題ないくらいに」

「ああ、一人ならな、二人でギリギリ長物振り回すには難しいくらいだ、但し、中に入りしばらく行った先にはある程度広い場所がある、そこまで行くとまた別だ」

「なら、いざの時には入口から二人一組で、あまり奥まで行かずにその場でやり合うのが、良さそうだな」

「こっちの戦力を把握できてないから何とも言えないが、向こうはトップの二人以外大したことは無いから、それでなんとかなるだろう」

「後はアルの合図待ちか」


待つしかないのはわかっていても、性に合わないらしく、どことなく苛立たしさをにじませるキシンだった。


◇◇◇◇◇◇


 次の日の朝、昨日と同じようにキュラさんと共に水汲みに行って、そのまま朝食の準備にかかる。

朝は軽めに、昨日の残りのスープを温め直して、パンに焼いた肉を挟んだだけの質素なものとした。

これには、少し不満も出た「なんでえ、こんなもんで終いかよ!」とか、「もうちっとこってりしたもの食わせろよ!」などなど。

まあそうなるだろうなと予想していたので、「まあまあ、朝なんで軽めって事で、その分昼は期待してて下さいよ」と言っておいた。


 昨夜から手をかけている鍋を、味見しつつ味の微調整を繰り返す。

他のメンバーは、皆やる事が無く暇なので、交代で入口の見張りに立つ以外は、寝転がっていたり、武器の手入れをしていたり、幹部クラスは奥に引っ込んでいてよくわからないが、酒を飲んでるらしかった。

キュラさんがいいつけられて、こちらに来て「なんか、つまめる様なもん用意しろ!」と言ってきたので、ソーセージを炒めて渡したりしていた。


 そうしている内に昼になり、皆に出したのが『ビーフシチュー』、昨日の昼から色々と手をかけていた一品だ。

自信の品だけあって、これまでで最も評価が高かった、「こりゃあうめえ!」とか「コクがあって店で食うのと変わらねえ!」とか、「金とれるんじゃねえか?」など、文句を言うやつは誰もいなかった。

昨日と同じく、キュラさんがビーフシチューを持って奥へ入っていき、しばらくしたら空の器を持って帰ってくる。

後片付けをしながら、これで段取りはついたとして、僕はエイジに言われた通り、キュラさんに頼みごとをしておいた。


 キュライトは、頭領であるガロイアの前までいって、恐る恐る切り出した。


「あっ、あのガロイアさん、そっその、飯当番が食材が足りないんで、買い出しに行きたいって言ってるんすけど、いいでしょうか?」

「あー? まあ足りねえんじゃしょうがねえな、中々旨いもん作るみてえだし、いいぜ! 許可してやる、但し、夕飯もちゃんと旨いもん作れって言っとけよ! それと酒買ってくるのも忘れずにな!」

「へっへい、ありごとうごぜえやす!」


 人類の進化の過程を見るかのように、ガロイアの所からアルの所へ来るまで、

かがんでいた腰が伸び若干反り返ったようにして、キュライトがアルに言い放つ。


「どうよ! 俺様が言ったおかげで、買い出し行けるようにしてやったぞ!」と、ふんぞり返るキュライトに「ありがとうございます、キュラさん!」と感謝の言葉で持ち上げておいた。

エイジは、アルとこの後の行動を話し合っていた。


【これで村まで行って、キシンと打ち合わせできるな】

【またキュラさん一緒だと思うけど、どうやってキシンさんと話すの?】

【もう動くんだったら正体バラしてもいいだろ、その上で第三王女の居場所や状態を確認して、問題なさそうなら今夜ってとこだな】

【そんなすぐ? もうちょっと慎重にやらないでいいの?】

【遅ければ遅いほど第三王女が消耗する、安全さえ確保できれば、他に用意するものも無いんだし、できるだけ急いだ方がいい】

【そっか、わかったよ】


 買い出しは予想通り、僕とキュラさんの二人で行く事になった。

ここに籠っている限り、楽しみは喰う事と酒飲む事くらいだからと、これまでの料理の甲斐あって、かなりな金額を持たせてもらえた、頑張った成果である。

道中のおしゃべりは、最も気がかりな王女さんの事、口止めされてるってわりには、機嫌がいいのかかなり話してもらえた。


「その女ってのは、どんな感じなんすか?」

「そうだなー、ちっと薄汚れてやつれてる感じすっけど、なんつーか品がいいって感じすんな」

「もしかして、キュラさんその女の裸見たりして楽しんでるんすか?」

「バッカやろー、んなわけあるか! 確かに見た目はそこそこだが、俺様が行くとえれえ目つきでにらんでくるんだぜ! あんなのはごめんだ!

やっぱ女てーのは、素直で胸と尻がこうバーンとしてるのがいいな、うん!」

「そっすねー、そんでその女は何してるんすか?」

「何って、何にもしてねーだろ、長さは結構あるが、手足鎖で繋がれてるんだからよ」


 エイジは、話を聞きながらこの後キシンと、どう打ち合わせするか考えていた。


やっぱ拘束されてるか、鍵なんてどうせその辺にある訳じゃ無く、ガロイアかヤシンミが持ってるだろうから、やり合わない事には第三王女を助け出すのは無理か。

すると、連れて出るってのが出来ない以上、アルが第三王女を守っている内に、他のメンバーをキシンたちが制圧するって位しかやりよう無いか。

ヴァンフィールの話じゃ、『銀狼』の二人と『金龍』の二人は、実力が近いって事だったから、できりゃあヒルライトに一人受け持ってもらいたいとこなんだが。

やり合ってる間に俺とアルで片方無力化して、残りをヒルライトと協力して倒すってのが楽なんだが、肝心のヒルライトがどこにいるのかわからないんで、連絡とれないんだよな。


 そうこうしているうちに村に到着した。

少し歩くと、以前と同じくまたキシンさんが、路上で品物並べてる、なんか楽しんでないか? あの人。

キュラさんが、顔を覚えていたようで(たぶんでっかいからだと思うけど)、「おうっ!」と言って近づいて行った。

僕も付いて行き、キシンさんの前まで行ってから、キュラさんを「ちっとすいません」と言って、道の裏側に腕をつかんで連れて行く。

キシンさんにも、目くばせをして一緒に来てもらい、キュラさんの腕を後ろ手にねじりあげて、正体を明かした。


「なっ、なにすんでえ!」

「すいませんキュラさん、僕は囚われてる女の人を救出する為に、ヒルライトさんと共に潜入した傭兵なんですよ、この人も仲間です。

他にも仲間がいますし、あの女の人は誰かは言えませんが、さる高貴な方で今まで居場所が掴めなくて困ってたんです。

でもあそこに居ると分かれば、軍が出張ってきて大規模な部隊が組まれ、犯人グループを襲撃し全員殺して事件を解決しようとするでしょう。

そうなる前に、僕らに協力してくれれば、キュラさんの命は保障しますし、罪にも問いません。

いかがですか?」


 勿論出まかせだが、このぐらいハッタリ効かせた方がいいだろう。

驚きながらも、キシンさんの迫力ある様や集まってきたメンバーの中に、ヴァンフィールさんがいるのを見て観念したようで、力なく頷いてくれた。


 全員での打ち合わせの結果、仕掛けるのは今夜の夕食後で、これまでのようにキュラさんが奥に食事を運ぶよう指示されたら、囚われている王女に助けが来る事を伝えて、そのまま王女の傍にいてもらう。

僕が、入口付近で火をあげたらそれを合図として、キシンさんたちは入口から突っ込む。

僕は、王女が人質として担ぎ出されて、救出部隊が脅されないように、さきほどキュラさんに聞いた道順を辿り、急いで王女の元まで駆けつけ、キシンさんたちが来るまで守る。

多少おおざっぱな所はあるが、現状でたてられるのはこの位なので、これで全員動くことになった。


 一通り食材と酒を購入して、キュラさんとアジトへと戻る。

帰りは、キュラさんを散々脅しておいた。

なんといっても、キュラさんにバラされれば、間違いなく僕の命は無くなり、作戦は失敗する。


「キュラさん、軍はおそらくは数百人規模で攻めてきますよ、もしここで逃げてもさっき会った僕の仲間たちに面が割れてますから、どこに行っても手配されて捕まるでしょう。

そして捕まったら最後裏切り者として、とんでもない拷問を受ける事になるでしょう、だからくれぐれも寝返るような真似はしないで下さいね」

「とっ当然ですよ、わっわかってます、そっそれよりも、あっしの命は本当に大丈夫なんでしょうかねえ?」

「それは保障します、それよりも、その敬語なんとかして下さい、アジトに戻ったらちゃんとこれまで通りにして下さいよ」


余りにも薬が効きすぎて、僕に対して敬語を使いだした。

こんなとこも、下っ端感出てて勉強になる、今度潜入するような作戦があったら見習って活用しよう。


 アジトに戻り、僕はそのまま入口付近で夕食の準備、キュラさんは中に荷物を運び込む、その際、しっかり目で威嚇しておいた。

買ってきた牛乳を、半分残しておいたポトフのスープに入れて、今日はホワイトシチューを作る。

エイジいわく、小麦粉が無いからとろみがつかないんで、シャバシャバ感がどうも馴染めないとかなんとか、よくわかんない事言ってる。

「これは明日用なんで」といって、油が入った鍋を火にかけておいた、昨日も翌日用の仕込みをしていたんで、見張りの人達も特に不振がってる様子は無い。


 その頃、アジトの奥ではガロイアとヤシンミが、酒を酌み交わしながら話をしていた。


「どうやらあの『羽』のガキも、問題なさそうだな」

「もう信用したのか?」

「まさか、ただヒルはあーなっちまっちゃあ、しばらく使いもんにならんだろう、多少腕が立つっつっても俺とお前がかかりゃあなんてこたあねえ」

「まあな」

「それに、気に入られてえのか、一生懸命料理してこれが意外にいけるときてる、可愛いもんじゃねえか、あのむくれた王女よりかよっぽどましだぜ」

「お前にしては、女に手を出さないなんて珍しいな」

「ああ、せっかくの金づるだ、金さえ払えば無傷で戻るとわかれば、今後他の奴さらっても稼げるだろうからな、ここは我慢しねえとな」

「ふっ、大金貨一万枚もあれば、女なんて腐るほど囲えるか」

「そういうこった、わざわざ娼館で金出して買わなくても、食い詰めた村から人減らしで余った女、いくらでも調達できるぜ」


◇◇◇◇◇◇


 キシンたちは、全員でアジトの入口を望む位置に揃っていた。

突入前の最後の打ち合わせで、キシンからメンバーに段取りと役割を言い渡されている。


「アルの合図があったら、ここにいる全員で突っ込む、まずは入口の見張りを無力化する殺すなよ。

次いで俺とヴァンフィールが前面に出てアジトを奥へ進む、ヴァンフィールはできるだけ投降するように説得してくれ。

キルビスとカーシュナーは俺らの後ろでフォロー、適宜交代するのでそのつもりでいろ。

メライヤは無力化もしくは投降してきた者たちに、封印術をかけて魔力を封じてくれ、余力があれば視力も封じてくれれば尚いい。

ミルケルスは俺らが倒したやつらを片っ端から縛り上げてくれ、以上だなんか質問はあるか?」

「例の隠し通路から逃げ出したりしないように、誰か配しておいた方が良くないですか?」


ミルケルスの質問に、キシンが答えた。


「余力がねえ、人数に余裕があればその方がいいのは間違いねえが、ここで一人でもそっちに回す余裕はねえ、もし逃げられたらもうあきらめるしかねえな」

「わかりました」

「よーし、他にはねえな? ・・・・そんじゃあ各員ロープは一人三本ずつ運んでくれ、入口で下ろしたら後はミルおめえが取りまとめろいいな!」


こうして、後は合図を待つのみという状態で、今や遅しと待機していた。


◇◇◇◇◇◇


 夕食時になり、炊事当番の僕がホワイトシチューをよそって歩く。

珍しいのか、食べたことの無い者もいて、その中には「なんか乳くせえな!」や「甘ったるい臭いしやがるな!」といった苦情めいたものも少なくない。

ただ、口にしてみればそれなりに美味しいので、食べた後に味に関して文句を言う者はいなかった。


 ガロイアは、ホワイトシチューの入った器を持って、奥へ引っ込んでしまう。

いきなり段取りが狂った。

キュラさんが、どうすんだ? みたいな目でこっちを見ている、バレるから止めて欲しい、どうすんだはこっちのセリフだー。

すかさず、エイジに相談する。


【どうしようエイジ?】

【どうにもならん、しばらく様子見だ】

【そんなー】

【あせるな、キシンたちは合図が無きゃ動かないんだから危険は無い、ガロイアもその内戻ってくるだろうから、最悪聞いてた道順辿って無理やり第三王女のとこまで走り抜けるんだ】

【うん、わかった】

【普通にしてろよ、ただでさえキュライトが挙動不審でやばい】


キュラさんは、奥の方と僕とを交互に見て、汗を流している、本当にバレそうだからやめてー。


 しばらくして、ガロイアが戻ってきた。

僕は、後片付けとして食器を回収して歩く。

そこでガロイアにも「えっと、他に食器はありませんか?」と尋ねると、チッと軽く舌打ちしてキュラさんを呼びつけ、「おめえ奥行って、器回収してこい!」と言いつけた。

キュラさんはもの凄いでかい声で「はいっ!」と返事をしてる、だからー。


 これでなんとかなりそうだ。

キュラさんが奥へ行くのを確認してから、僕は鍋の様子を見てくると言って、入口へ向かったが外には出ないで、通路の奥から精霊魔術で油を入れた鍋の中に火をつけた。

火の手が上がったのを見てすぐに奥へと駆けだした、皆僕がいきなり走り出しているので、何事かと思いつつキョトンとしている。

そんな中、入口からキシンさんたちが突入してくる。

僕は事前に聞いていた順路を通り、不安げにしているキュラさんを見つけた。


 僕を見つけたキュラさんは、今にも泣きそうになってる、怖かったんだね。

そこで初めて王女さんを見た、両手両足を鎖に繋がれている、疲労をにじませてはいるが、凛とした佇まいはやはり王族といったところか。

僕は手短に自己紹介した。


「僕はアルベルトといいます、テロンからの依頼であなたを救出しにきました、

今仲間がこちらに向けて突入してきてます、いましばらくの辛抱を」

「私はテロン第三王女ロランヌ=テロンです、危険を顧みずいらしていただきありがとうございます」


 キュラさんに聞いていたらしく、素直に信じてくれたようで、お礼を言われた、自分が大変な時なのにしっかりしてて凄いなーと変に感心してしまった。

「!?」とキュラさんが驚いている、そーいや高貴な方とは言ったけど、王女だとは話して無かった、声も出ないというあたりびっくりの見本みたいで勉強になる。

しばらく間があったが、そのまま何事もなく無事救出できました、とはやっぱりいかずに、この場に来て欲しく無い人たちがやってきてしまった。


「やっぱりおめえは犬だったか! 命がいらねえらしいな!」


吠えるガロイアとその横で槍を構えるヤシンミ、どうやら命のやり取りを経なければ助からないらしい。


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