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第27話 潜入 ちょっと楽しい

 苦しそうに喉を押さえて、咳き込むヒルライトさんを見下ろし、僕はエイジと話していた。


【突きは禁止って言ったろ?】

【だって、体が動いちゃったんだもん、流れでどうしてもあーなっちゃうよー】

【まあ、柄の方だったからまだ良かったけど、おっ、どうやらこっち来そうだ、下っ端口調忘れるなよ】


 そこに、ガロイアが話しかけてきた。


「どうした? おめえの勝ちだ、何で殺さねえ?」

「いや、でもこの人も仲間になりたいって事だし、むやみに戦力減らしちゃまずいかと思いまして」

「ふーん、まあいい、おいっ! 一応ヒルは手当してやれ、そんでおめえはこっち来い、おめえ名前は?」

「はい、アルベルトといいます、アルと呼んでくだせえ」

「俺はガロイアここの頭領だ、アルか、まあ腕はそこそこだが、ここじゃ新入りだ、まずは雑用からだそれでいいな!」

「はい、あのこれで俺も『銀狼』に入れて貰えるんすか?」

「仲間にはしてやる、だが間違えるな『銀狼』じゃねえ俺たちは『金龍きんりゅう』って名前に変わったんだ、覚えとけ」

「『金龍』・・カックイイっすね! 俺頑張りますよ!」


 エイジは、とりあえず勝負が無事に済み、向こうにも取り入れたようで安堵していた。


アル、あれ本心だな、アルのアレなところにヒットしたっぽいな、しかし『金龍』ってダサッ。

ヒルライトは、なんとか大丈夫そうか? アルも最後ギリギリ力抜いたから、相当痛かっただろうけど、致命傷にはなってないと思うんだが。

これでなんとか入り込めたっと、後は第三王女とやらがどこに居るのかと、どんな扱いを受けてるのかだ、それによってはアルがブチ切れ無いとも限らんしな。


 ガロイアは、近くにいた者にアルの教育を言いつけて去っていく。

そのいかにも下っ端といった男が、アルに向かって話しかけてきた。


「おうっ、おめえちっとばっかし腕が立つからって、調子乗ってんじゃねえぞ、ここじゃ新入りなんだからこの俺様のいう事を聞くんだ、わかったな!」

「へいっ、わかりやした、あの俺はアルっていうんすけど、なんてお名前なんすか?」

「俺か? 俺はキュライトってんだ、おめえは特別に『キュラさん』って呼んでもいいぜ!」


すると、横合いから男たちが口々にからかい始めた。


「キュラ、てめえ下ができたからって、いきなり先輩風吹かせてんじゃねえぞ!」

「そんだけの腕なら、すぐおめえの上にいっちまうんじゃねえのか? 今のうちに恩売っといた方がいいんじゃねえ?」

「しっかり教えて、立派な下っ端にすんだぞ! ギャハハハハ」


そんな皆さんに、キュラさんは「勘弁して下さいよー」とか言って、困ったような照れてるようなリアクションをしている。

うーん、勉強になるな、ザ下っ端って感じだ、僕も見習ってぼろがでないようにしなきゃな。


 今日はもう遅いという事で、寝床に案内される。

ゴツゴツの床にゴザ敷いただけの、かなり厳しい寝心地だったが、隣でキュラさんがすやーっと眠ってたので、これも下っ端の嗜みと思って頑張って眠った。


◇◇◇◇◇◇


 一方その頃待機組は。


「こりゃ間違いなくなんかあったな」


そうキシンが言うまでも無く、あまりにも時間がかかり過ぎている事から、すぐの救出は無い、とりあえず向こうに潜入したと皆が考えていた。

勿論、最悪の事態を考えないでは無かったが、それならそれで、二人だけという事は無いと、隠し通路入口のここまで誰かが確認に来るだろう、それが無いならバレてはいないし、少なくとも無事ではある、色々希望も込めてそう考える事にする。

そうなると、ここに留まっていてもしょうがないので、見張りに見つからないように、遠間からアジトの入口を交代で見張る事に。

二人一組で、キシンはヴァンフィールと組んで、残りの者はこれまでと同じ組み合わせで、見張り以外の者はシカゲの村に待機して、何かあれば動くという事になった。


◇◇◇◇◇◇


 翌朝。

アルは、寝心地の悪さから眠りが浅くなっていたせいで、となりのキュライトが起きるのがわかり、遅れないようにと起き上がった。


「おっ? 起こされる前に起きるたあ感心じゃねえか、まっ、今度からは俺より早く起きて俺を起こすくれえになれよ!」

「はい、わっかりましたー」


身支度を整えて、アルが聞いてみた。


「これから、何するんすか?」

「まずあ、水汲みだ、付いて来い!」


置いてあった、天秤棒に桶がついたものを担いで付いて行く。

しばらく歩くと、地底湖らしき水がたまった場所に出た。


「ここから水汲んで向こうのカメに移すんだ」

「これ、今までキュラさん一人でやってたんすか? さすがっすね!」


と下っ端口調で、アルがおべっかをつかっておいた。

気を良くしたキュライトは、饒舌になっていく。


「まあな! 俺様にかかりゃあなんてこたあねえ! おめえも俺様を見習ってしっかりやれよ!」

「へい! あの、なんかピリピリしてやすが、でかいヤマでもふんでんすか?」

「おお、俺様も詳しい事は知らねえんだがな、俺様が置いてかれ、じゃねえ留守を任されてた時に、連れて帰ってきた女がいるんだが、どうやらそいつが金づるらしくて、しばらくしたら大金が手に入るって話だ」

「そりゃあ豪気なこってすねえ、そんでその女つーのはどこにいるんすか?」

「俺様も知らねえんだ、このアジトには頭領とヤシンミさんしか入っちゃならねえところがあるから、そこじゃねえかとは思うんだがな」


困ったな、どこにいるかわからないんじゃ、無事の確認もできないや。

話題を替えてみるか。


「頭領とヤシンミさんってな、強いんすか?」

「おめえも腕が立つようだが、あのお二人には敵うめえ、ガロイアさんは斧がすげえし、ヤシンミさんは槍がすげえんだ」


 全然役立つ情報が無い、この人王女さんの誘拐にも置いていかれるくらいだから、もしかして戦うとこ見たこと無いんじゃないのか。

そうこう話している内に、水運びが終わって食事の用意となった。

こんな洞窟の中で火を使うのかと思ったら、料理する訳じゃ無く干し肉とパンを配るだけだった、毎回こんな食事なんだろうか。


 すると、キュライトさんがいいつけられて、食糧の買い出しに行くというので付いて行く事になった。

なんでも、パンはまだ残りがあるけど、いいかげん干し肉は飽きたって事で、何か作るのに食材を調達してこいって事らしい、当然酒も。

荷車を引きながら、道中他にやることも無いので、やっぱりキュライトさんと会話する事になる。


「いつも、その村ってのから調達するんすか?」

「まあな、一番近えからな」

「そんな毎回じゃアシつくんじゃねえんですか?」

「馬鹿だなおめえは、ちゃんと金出して買うんだよ! 下手なことして目付けられねーようにしとくんだ」

「へー、さすがっすね」

「まあな! だからおめーもあんまり目立つ真似すんじゃねーぞ!」


 そんな、とりとめの無い話をしていたら、目的地であるシカゲ村に到着した。

どうやら、サーロン村くらいの規模らしく、店はチラホラはある、しかし進行方向に敷物に肉や野菜を並べた人を見て、思わず足が止まってしまった。


【あんなでっかい農夫いないよー、なに考えてんだよキシンさんはー】

【そういうなよ、あんなんでも一応アルの事心配して、自分の目で無事を確かめようとしたんだろうよ】


キシンさんが、額の角を手拭いを巻いて隠し、いかにもここの農夫でございといった風で、敷物にあるものを売り込んできた。


「そこのカッコいい兄さん方、新鮮な野菜や肉ならご覧のとおりです、どうか買ってもらえませんか」

「あー、まあしょうがねえなー、よしっ、ちっと見てやっか」

「あっ、キュラさん、喰いもんは何人分買ってけばいいんすか?」


そこは、さすがに小声で僕にだけ聞こえるように、「20人分つーとこだろ」と答えてくれた。

そこの『羽』の若いのは、兄さんの手下ですかとキシンさんに言われ、キュラさんは「まあな!」と上機嫌に返事している。


「そーいや、まだ見たこと無いっすけど、女ってーのも同じもん食わすんでいいんすか?」

「まあな、特別他のもんとは言われてねーよ」

「あの、俺が喉打ったヒルっつーのも飯食えるんすかね」

「おめー、あんまぺらぺらしゃべんじゃねーよ、いいからそれくれ!」


 たしなめられてしまった、キシンさんに大仰に言いつけると、買ったものを運んで行った荷車にのせて、他のものを調達しに出発。

その後、店を覗いてソーセージを買ったり、塩を買ったり、酒を買ったりして目的のものが揃ったので帰る事に。

できればとエイジに言われて、肉を売ってる所から、牛の骨を貰って来たりして、キュラさんに「んなもんどーすんだ?」とあきれられてしまった。

そして、余り余計な事を言うと、俺が怒られるじゃねえかと改めて言われてしまう。

しかし、いつもこんな大量の食材を買っていたら、大人数が潜んでるってばれそうなもんだと思って聞いてみたら、普段は大きな街の宿屋とかにいて、仕事の時だけこのアジトに集合するんだそうだ。

今回は、特殊なケースで、アシがつかないように、念の為全員ここに籠ってるって事らしい。

アジトに戻る途中、エイジの指示で香草として料理に使える草を摘んでいった。


 アジトに帰り着き、早速食事の用意を開始する。

洞窟の中では調理出来ないので、アジトの入口付近で鍋に火をかける用に、石でかまどっぽく組む。

「時間さえもらえれば、なんとかしてみせますよ」と言って料理を請け負った、当然僕はまるで出来ないので、エイジの知識頼りだ。

キュラさんも、「おうっ! じゃあ頼んだぜ!」と言って、買ってきたものを中に運び込みに行ってしまった。


【エイジー、僕料理なんて全然やった事ないけど、本当に大丈夫なのー?】

【この人数で、こんな場所なんだから、どうせ凝ったもんなんて作れない、誰がやっても変わらんだろう、それなら引き受けて役に立つとこ見せておいた方がいいよ】

【本当ー?】

【とりあえず、野菜の皮むきして、肉適当に切って、味付けして焼けば一品出来上がりだ】

【そんなんでいいの?】

【続いて、その野菜と肉とソーセージを、一緒に水はった鍋に入れて煮込むぞ、これは夕飯用だ】

【結構量あるよー?】

【泣き言いわない! もらってきた牛の骨焼き色つくまで炒めて、もう一つの鍋でワインぶち込んで煮込むんだ、これは明日用】

【そんないっぺんに言われてもー】

【あー、ちゃんと都度都度で指示すっから、摘んできた香草と塩と、後持ってる香辛料出しとけよ】

【うー、面倒くさいぃー】


 皆さん、久しぶりの温かい食事という事で、概ね好評だった「よしっ、お前飯当番で決まりな!」と、任命された位に。

煮込んでるものの火加減を調整するのに、ちょこちょこ鍋の位置変えたり、燃料になる薪拾ってくべたりと、とりあえず与えられたお仕事に集中した。

たまに、アクをとったりかきまぜたりと、面倒だがこれをやるとやらないとじゃ味が違うと、エイジに言われて仕方なく。

合間に、中で食器洗ったりしながら、辺りを窺ったり、しかしどうもエリアが完全に分かれてて、ガロイア達のいる方は全然わからない。

なんとか侵入しようと、「掃除とかしないでいいんすか?」と聞いてみたりしたんだが、「あんまちょろちょろすんな!」と怒られてしまった。

うーむ、なんかいい方法は無いものか。


 エイジは、肝心の第三王女が見つからない以上、今後の予定が立てられないと嘆いていた。


ここまでは順調だったが、ここからなんの手も無いんだが、どうするべきだ?

大体、こっちは出来る限りやってるのに、ヒルライトは全然見ないが一体何やってんだ?

下っ端仕事とはいえ、水汲みや食事の支度任されてんだ、完全にとはいかなくても、ある程度信用されてるっぽいんだが、へたに動きゃ台無しだしな。

無理やり探しに行って、たとえ見つけても、アジトの奥の方だったら、キシンたちに知らせる術がない、いくらアルの腕と俺の操魔術があっても、多勢に無勢だ囲まれて殺されちまう。

八方ふさがりかー、くそ!


 そのヒルライトは、実はアルとの勝負の後、ずっと寝込んでいた。

アルが、ギリギリで手加減したのは間違いないが、本来あの技は相手の喉仏をつぶして絶命させる技である。

そこで、当てる時に少しずらして、喉仏を直撃させないようにしたのだったが、それでもかなりな衝撃で水を飲むだけで激痛を伴う。

当然、食事は喉を通らず、まだ二食しか抜いていないとはいえ、今後もしばらく食事できないとあって、戦力としては数えられない状態であった。

逆に、ヒルライトに対してそれだけの攻撃をした事で、ガロイアはアルをある程度信用したので、これは差引としてはややプラスではあるが、敵地といえども二人いるという計算は、アルとエイジが知らないうちに狂ってしまっていた。


 王女救出については、何一つ進展の無いまま夕食の時間となり、昼間に仕込んでおいた鍋の中身を配って歩く。

すっかり、料理係&給仕担当になってしまってるのは、あくまでも仮の姿なんだが、ちょっと楽しくなってきた。

なんとなく、キュラさんが面白くなさそうにしてるようで、後が怖い。


 それなりに時間はかかったが、出来上がった料理はエイジいわく『ポトフ』というらしい、煮込み料理でなんかやさしい味がした。

「こりゃあ、中々旨いじゃねえか!」や、「そこそこいける味だな」などとお褒めの言葉をいただいた。

仲間内では、「お前より、あの『羽』の方が役に立つんじゃねえのか」とか、「あいつがいりゃあ、もうお前いらねえんじゃねえの?」とか言われて、キュラさんが、「またまたー」と言って、ちょっと危機感を募らせてるっぽい。


 すると、ガロイアがキュラさん呼びつけて何事か命令している。

キュラさんは、器を持って来て「これによそえや!」と、高圧的に言ってきた、機嫌悪そう、後でフォローしとこう。

それを持って、奥の方へ消えていくキュラさん、これはもしや王女さんの世話が面倒になって、キュラさんにまかせた的な事か?

戻ってきたら、なんとかして機嫌とって聴きださねば。


 食器を片づけて、明日の仕込みを少々、今日のポトフの残ったというか残したスープを、牛の骨炒めて煮詰めた鍋に入れて、これをベースにシチューを作る。

塩や香草や香辛料など、エイジの言った通りに加えて、これで明日どうなるか、半分はその次用にとっておかなきゃ。

そんなこんなで、キュラさんが器を下げて戻ってきた。


「キュラさん、お疲れ様っす」

「あー、なんだ飯当番、なんか用か?」

「器運んでたのって、例の女っすか? 美人っすか?」

「おめーのしったこっちゃねえ! ガロイアさんに口止めされてんだ、いくら聞かれても話せねえな!」


 ある意味白状したも同様だって事は、気づいて無いみたいだからいいとして、やっぱへそ曲げてるっぽい。

ここは、初めて下が出来たって事だから、頼りにしてますよでいくか。


「んな冷たい事言わんで下さいよー、キュラさんに見捨てられたんじゃ、俺どうにもならないっすよー」

「おめーは飯つくってりゃいいじゃねえか! なんか評判いいみたいだしよ!」

「そんなー、それもキュラさんが村に仕入れに行った時に、あの農夫から色々買ってくれたからじゃないっすかー」

「おっおうっ、まあな!」

「俺一人じゃどうにもなんないっすよー」

「ったくしゃーねーなー、まっ、おめーも俺がいねーとどうしょーもねーだろーな!」


やっぱちょろいなこの人。


 この後話を聞いたら、やっぱり奥にいる女性に、食事を運んだと話してくれた。

これでやっと、動く算段がついた、なんとかキシンさんと連絡とって、決行は明日か明後日ってとこか。


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