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第22話 決闘 断固たる決意

 失敗した事に落胆しつつ、三人はリンドス亭に戻ってきた。


「二人とも、頭は痛くない? 大丈夫?」


エイジの針で砕いたとはいえ、結構な量の破片が当たったので、アルが心配して声をかけた。


「少し痛かったですが、問題無いです、それより捕まえられなかったのがくやしいです!」

「わたしもーちょおーっと痛かったですけどー、平気ですー」


空気が重くなるのを感じつつ、アルが口を開いた。


「あいつらが、犯人で間違いないと思うんだけど、どうする? 現状ではやっぱり証拠が無いから、訴え出てもどうにもならないと思うんだけど」

「でも、なんとかしたいです!」

「わたしもーこのままじゃーなんかいやですぅー」


 ここでアルは、エイジに言われた事を提案してみた。


「・・私は・・いいです! 全部お任せします!」

「リアちゃんがーいいならーわたしもーいいですぅー」


 こうして最後の勝負に出る事になった三人は、日が傾き夜を迎えるヨルグの街へ出て行った。


◇◇◇◇◇◇


「ここだよ、見て」


 アルたち三人は、とある酒場の外にいた、そこから酒場の中を見るように、ディネリアとソニヤに話しかける。

あれから、手分けして酒場を見て回り、奴らの居所を探っていたのだ。

奴らが中で酒をあおっているのを確認して、外で待ってもらう人たちに目くばせをして、三人は店の中に入っていった。


「ちょっと話があるんだが、いいか?」


アルが、リーダー格の男にそう話しかけると、テーブルの三人は怪訝そうにアルたち三人を見回して、


「あーなんだ手前らは、俺らは楽しく飲んでるんだ! 面倒事なら余所へ行け!」


と話しかけたのとは別の男が口を開いた。

とりあえずは、これでいい、次の言葉にどう反応するのか。


「いいのか? なんだったら警ら隊の詰所へ行って、今日有ったことを色々としゃべってきてもいいんだぜ」


 アルたちからすれば、いくら詰所へ訴え出ても、確たる証拠がない以上、罪には問えないだろうから、無駄骨で終わる。

だが、奴らにしてみれば、その場で捕まるようなことは無いにせよ、そう疑われるだけで今後やりづらくなる、そんな事態は避けたいと考えるはず。

特にあの時第3階層で倒れていたディネリアとソニヤに対して、あからさまに不審な態度をとった自覚があるだけに。

となれば、無視できない以上、こちらの話に乗ってくる可能性が高くなる。

案の定、顔色を変えたりはしないものの、明らかに不愉快だという表情を作りながら、今度こそリーダー格の男が返事をした。


「何のことだ? 身に覚えのない事で、とやかく言ってくるのは、失礼じゃないのか?」

「身に覚えが無い? またずいぶんな言いぐさだな、この二人にあんな岩ぶつけておいて」


アルの揺さぶりにも、あまり動じた様子も無く、


「知らんなあ、何のことだ? それともなんか証拠でもあるのか?」


と平然と答えてきた、やっぱりそうきたか、ここでアルは酒場中に響き渡るような大声で、本題を切り出した。


「ここで言い合いしてもしょうがない、どうだ? 

どっちが正しいか勝負して決めようじゃないか、決闘だよ、決闘!」


「おおおお」と、他の客が騒ぐ中、アルが続けて話をした。


「こっちは俺一人、そっちは三人でいい、しかも俺が負けたらこの二人の体を自由にしていいぜ!」

「なめた口叩きやがって、このガキが! カラッゾ! やっちまおうぜ、なあ!」

「そうだ! オンドルの言う通りだぜ! 三人でやりゃあ負けるわけがねえ!」


激高する二人を宥めつつ、カラッゾと呼ばれたリーダー格の男が、二人に言い聞かせた。


「まあ落ち着け、3対1でやり合おうなんざ相当腕に自信があるんだろう、そんなのとやり合う事はねえ、そもそもこんな勝負受ける必要はねえんだからよ」


 やっぱりこいつは、用心深い、場に流されない判断力がある、この力を違う方向へ向ければいいものを、エイジはそんな事を考えていた。

まわりの客たちは、酒が入っているのもあり、「3対1で逃げんのかよ!」とか、「なんだったらここでやれ! どっちが勝つか賭けようぜ!」などと、好き勝手な事を言っている。

 しかし、カラッゾはどこ吹く風とばかりに、涼しい顔でその場を立ち去ろうと、腰を浮かした。


「面白そうな話してるじゃねえかよ、ええカラッゾ?」


そう言って酒場に入ってきたのは、外で待機してもらっていて、タイミングをはかってご登場願った、キシンだった。


「キシンさん・・」


カラッゾは、予想外だったのか、これまでとは違い、あきらかに狼狽した顔で、立ちすくんだ。


「お前らがこそこそなんかしてやがるのは、わかってんだ、もしその勝負受けないようなら、代わりに俺が勝負してやる! どっちか選べ!」


苦虫を噛み潰したような表情でいるカラッゾに、二人が話しかけた。


「キシンさんは不味いぜカラッゾ、あの人に睨まれたらやっかいだ、いいじゃねえかあのガキやっちまおうぜ!」

「ああ俺もその方がいいと思うぜ、なに腕が立つかもしれねえが3対1なら楽勝だぜ、そしたらあっちの女も俺らのもんになるんだしよ!」

「くっ、仕方ねえか」


カラッゾが、忌々しいと言わんばかりに、アルを睨みつけながら言葉を吐いた。


「いいぜ、やってやる、但しお前が言ったんだ約束は守れよ! 3対1でこっちが勝ったらその女どもをもらうからな!」

「よしっ、じゃあ成立だな、ここに許可申請書の紙があるから、チャッチャと書け、今ならまだ役場が閉まる前に間に合う」


そう言ってキシンが一枚の用紙を取り出し、アルが記入し、その後カラッゾ達が不承不承記入した。


 この世界では、決闘は合法として認められている。

当事者同士が、お互いに了承し、勝負する方法や人数その他諸条件を申請書に記入し、役場に提出して許可が下りれば行われる。

役場から、立会人が一人派遣され、その他に双方が認めた立会人を一名配すことが出来る。


 場所は、傭兵ギルドの訓練場、役場の立会人に加えてキシンが立会人を務める。

酒場を出て傭兵ギルドへ着くまで、アル達三人は無言で歩き、カラッゾ達三人は何やらヒソヒソと話し合っていた。

着いてゆっくりと裏手の訓練場へ移動する、しばらくしてから役場から決闘が認められた許可証と共に、立会人が到着し開始の準備が整った。


 勝敗は、負けを認めるか、絶命した時に決着とする。

今回の勝負には、双方全財産を賭け、アルのみ負けたらディネリアとソニヤが体を差し出すことを、二人の了承を得て条件に付け加えている。

見物人は無し、これはカラッゾたちが、見世物になるのは御免だと拒否した為だ、表向きは。

本当は見物人の中で、アル達に加勢するやつがいて、こっそり操魔術でも使ってこられたらたまらないと、用心した為であった。

ディネリアとソニヤは、ある意味当事者でもあるので、その場に居合わせる事は認められたが、これもまたカラッゾたちから、加勢するような真似されたら困るとの申し出により、二人には魔力を封じる封印術を施されることになった。

これにより、二人の額には魔力を封じた証である封印紋の内の魔封紋が浮かんだ、これが解除されない限り、魔力は使えないという証明になる。


 決闘の開始を目前に控えて、アルは静かに闘志を燃やしていた。

そんなアルに、エイジが話しかけた。


【アル、この決着どうつける?】

【どうって、今後こういう事しないように、懲らしめるよ】

【そういう事じゃ無く、最終的にあいつらを、殺すのか?】

【・・そこまでしなくても、痛い目をみれば思い知るんじゃないかな?】

【本当にそう思うか? おそらくは一年前散々人を殺して、女性にもひどいことをして、危なくなったら逃げ出して、こっちに戻ってきてまた同じことして、そんな奴らがもう何もしないと思うか?】

【それは・・・・】

【逃げた先でだって、同じ事してるかもしれない、この後アルに負ければ奴らはヨルグを出て行くだろう。

でもそれはここから居なくなるだけで、アルの知らないところでまた同じことするかもしれない。

アルは自分が知らないところなら、人が死んでもかまわないと思ってるのか?】

【そんな事無いよ!!】

【俺は奴らを生かしておくのは、賛成できない、罪に問えるのならばともかく、それが出来ないのであれば、ここで手を下すのが、弱いものを守る事になる、力のある者の責務だと思う】

【・・僕はもう後悔したくない、わかった、ここで終わらせる!】

【向こうの操魔術は、俺が全部弾き飛ばす! アル『角』借りるぞ、お前は飛んでくるのは気にしないで、一人ずつ仕留めるんだ】

【わかったよ、全力でやる!】


 誰もいない夜の傭兵ギルドの受付、その奥にある訓練場には煌々と明かりに照らされ、立会人を含めた総勢8名が、決闘の開始を前に集まっていた。

カラッゾたちは、この期に及んでまだ何やらヒソヒソと打ち合わせをしている。

アルは、ディネリアとソニヤを前に、決意のほどを伝えた。


「二人ともよく聞いて欲しい、僕は今後不幸な人が生まれないように、ここであの三人の命を刈り取る事にした」

「・・」「・・」

「あまり見ていて気持ちのいいものじゃ無い、無理せず席を外してかまわないよ」


そんなアルに対して、


「いえ、私は当事者の一人として、最後まで見届けます、元はと言えば私が怪我したのが発端です、アルさん一人で背負わないで下さい」

「わたしもー、ちゃーんと最後までー見ますー」


そう二人は気丈に返事をした。

その時、役場から派遣された、立会人の男から声がかかった。


「それでは開始しますので、双方こちらに来て下さい」


それぞれが向かい合い、睨み合った。


「それではこれより、カラッゾ=バクナム及びイラリオ=ロディ並びに

オンドル=バゾーム対アルベルト=ロンドの、3対1の決闘を執り行います。

今回賭けるのは、双方全財産、アルベルト=ロンドのみ負けた場合は、

そちらのディネリア=ファタール並びにソニヤ=ファタールの体を差し出す、

これに相違ありませんね」

「ああ」

「はい、間違いありません」


互いに答えると、立会人は事務的に続きを話し出した。


「勝敗は、負けを認めた場合及び絶命した場合とする、

これで宜しければ沈黙を持って答えてください、・・・・・・よろしい。

それでは、この決闘が正当なものとして成立した事をマッカロ=カシウスと

「キシン=デルマレル」が立会人として認めます、双方下がってください」


 決闘前の口上がすべて終わり、10mほど離れて相対する。

アルの心臓は、早鐘を打つように激しい鼓動を奏でていた。

生まれて初めて人を殺す、自分に出来るだろうか。

アルは自問自答を繰り返していた、そんなアルにエイジが話しかけた。


【アル無理すんなよ、対外的にアルがやった事にはなるが、なんだったら三人とも俺がやってやってもいいんだぞ】

【ううん、僕がやるよ、剣を持たない人を守るっていうのは、困ってる人を助けるっていうのは、自分で決めたことなんだ、だったら最後までちゃんとやる、もう二度と後悔しないために】

【そうか】


 エイジと話したことにより、アルの気持ちが固まった。

そして、互いの運命を決める掛け声が、立会人のマッカロの口から響いた。


「それでは開始!」


 合図がかかるや否や、鎖分銅二つと鉄球一つがアルの頭めがけて、殺到した。


「死ねやクソガキがっ!」

「これで終いだ、馬鹿が!」

「おっ死ね!」


アルは『嵐』を構えたまま微動だにしない、だが瞬く間に三つの硬質な音と一つの斬撃音がまわりの者の耳に届く。


 目を見開いていたにもかかわらず、ディネリアとソニヤは何が起こったのかわからなかった。

ただ、結果だけはわかった、敵の放った鎖分銅と鉄球は、弾かれたのか地面に落ちていて、向こうの一人が首から胸にかけて血を流し、膝をついて前のめりに倒れていた。


「はあ?」「おい? イラリオ? おい!」


エイジが『阿』と『雲海』と『角』の三つで、敵が操魔術で飛ばしてきたものを迎撃し、アルが『縮地』で一瞬にして間合いを詰め、一番左側にいた男を袈裟切りにしたのであった。


「なっ、ななな」「うわぁー」


 驚愕し恐怖しながら、再び飛ばしてきた鎖分銅と鉄球を、同じように弾き、その間にアルが今度は右側にいた男の首をはねた。


「うぁぁぁあー、くるな、くるなー」


 正面で『嵐』を構えるアルに向かって、狂乱したカラッゾが鉄球を飛ばし、手に持った槍を向けて威嚇している。


最期の一人カラッゾが頭から血を流し倒れた、止めを刺したのはエイジだった、『阿』で鉄球を弾き、『雲海』でカラッゾの額を穿ち後頭部を貫通し決着をつけた。


【エイジ・・】

【そう一人で背負いこむな、言い出したのは俺だ、俺にも背負わせろ】

【うん、ありがとう】


 アルが無言で立会人のマッカロを見つめる、口を開けて呆けていたマッカロが、なんとか再起動を果たして宣言した。


「勝負あり! 勝者アルベルト=ロンド、これにて決闘が滞りなく終了した事を宣言します」


立会人のマッカロとキシンが、死体の後片付けをしている。

アルは、ディネリアとソニヤの元へ行き、声をかけた。


「二人とも大丈夫? 気分悪くない?」


二人は、何とか気持ちを立て直して答えた。


「あのアルさん・・その・す凄かったです、お疲れ様でした、あっいや、あの、ありがとうございました」

「びーっくりしましたー、凄いですー、どうもありがとうございましたー」


 アルは念の為に、ここで見たことは他言しないようにと、二人にお願いした。

二人は、ウンウンと頷き了承してくれた、若干心ここに非ずというか、信じられないものを見たといった感じだったが。

役場の立会人は、立場上結果については報告しても、経緯や過程については守秘義務が生じ、他者には話さない事になっているので、問題ない残るは。


「キシンさん、あのさっきの戦闘については、その」

「わかってるよ、誰にも言わねえ、言っても信じねえだろうけどな」

「すいません」

「あやまるこたあねえ、しっかし凄えもんだな、どうすりゃあんな事できんだ?」

「はははは、まあそこは秘密って事で」

「まあいいや、いいもん見せて貰ったぜ、なんかあったら力貸してくれや」

「はい、僕で良ければ」


 ディネリアとソニヤは、マッカロさんに封印術を解いてもらって、僕達は訓練場を後にして歩いて行く。

傭兵ギルドを後にして、僕とディネリアとソニヤの三人でリンドス亭に戻り、もう遅いのでそれぞれの部屋へ別れた。


 その夜、アルは体は疲れているものの、神経が高ぶっているらしく何度も目を覚ましながら、浅い眠りを繰り返す。

そして三度目を覚まし、三度吐いた。


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